遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~   作:久本誠一

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前回のあらすじ:清明と夢想の2人は、童実野町が修学旅行先だとうれしくないワケがあるようです。

今回の話を書いてる最中、右手の骨を2本へし折って手術するかどうかの瀬戸際まで追い込まれ真っ最中の作者です。左だけでキーボード使うのがまあしんどいことしんどいこと。なので今回は感想をいただいたとしても返信が少し遅れるかもしれませんのであしからず。


ターン53 冥府の姫と純白の龍

 窓から見える港が徐々に近づいてきて、ガコン、と船体に軽く衝撃が走る。特にこれといった小競り合いや事故もなく、僕らを乗せた船が童実野埠頭に到着したのだ。

 

「着いちゃったかぁー……」

「童実野町、入学試験以来だぜ!」

 

 僕が死んで生き返ることになった地でもあるけど、それだけじゃない。少なくとも卒業までは来ることはないと思ってたんだけど、人生そううまくはいかないもんだ。

 

『マスター、一体何があったんだ?行先が決まってからずっとそんな調子で、そろそろ私にぐらい教えてもらってもいいだろう』

「あれ、何回か言わなかったっけ?僕の記憶でもなんでも好きに漁っていいよってば」

 

 よくわかんないけど、神様ならそれくらいのことはできるだろう。いくらチャクチャルさん相手でもあんまり歓迎はしないけど、このことについてはあまり思い出したい話じゃないから、自分で話すぐらいならむしろ勝手に探ってくれる方が個人的にはありがたい。

 

『マスターが言う気になるまで待つさ。例え邪神と呼ばれようと、モラルぐらいは備えている』

「………なんか、ホントに変わったよね。初対面の時はもっと威厳たっぷりだったのに」

『いまさらキャラ作る必要はあるまい』

 

 冗談だか本気だか判別のつきにくいことを呟き、そのまま頭の中のチャクチャルさんが引いていく感覚がする。気を使ってくれてるんだろう、多分。

 

「え~、それでは皆さん、本日の予定ですが……」

「ああ、失礼。私たちはこの町に少し用事があるので、ここから先は別行動としてもよろしいでしょうか?」

「え?ま、まあ、そういうことなら仕方ないでアール。御機嫌よう」

「ありがとうございます。では」

 

 ぼーっと見てたらそんな会話の後、ぞろぞろと白い集団がどこかへ一斉に歩き去っていった。後に残ったのは僕と十代、翔に剣山と夢想、そしてエドだ。

 

「あれ意外。いいの?斎王のとこ行かなくて」

「フン。僕は斎王の友人であって、光の結社に入っているわけではないからな。彼がどこに行くかは僕も知らん。とはいえ、僕も個人的な理由からこの場からは去らせてもらいますよ」

 

 相変わらずのデカい態度でそれだけ言うと、斎王たちとは反対の方角に歩き去って行ったエド。おかしいな、全校、どころかなぜか当然のような顔でついてきたノース校含めて学校二つ分の人数で来たはずなのになんで到着3分で10人以下になるんだろう。

 そのあまりと言えばあまりの様子に、行先がイタリアでもイギリスでもなかったために元からやる気のなさそうだった引率の2人が完全にやる気をなくしたらしい。

 

「えー、それではこれ以降は自由行動でアール。帰りの船に乗り遅れたものは置いていくので、各自そのつもりで。じゃ、そゆことで」

「皆さん、くれぐれも気を付けるノーネ」

 

 ………多分何を言っても無駄なんだろう、今のこの人たちには。どんだけ外国行きたかったんだ。

 

「さて、と。じゃ、僕もちょっと自由にさせてもらうわ」

「あれ、お前も俺たちと来いよ!あの武藤遊戯さんのお爺さんが住んでるんだ、もしかしたら遊戯さんがいるかもしれないし会いに行こうぜ!」

「清明君も行こうよー」

「そうだドン、先輩も来るザウルス」

 

 なんか色々声を掛けられたけど、そんな気分ではないので軽く手をふって皆と別れる。と思ったら、なぜか夢想だけが同じ方向に向かって歩いてきた。ちょっと見つめていると、気にしないで、と言わんばかりに手を振ってくる。

 

「私は駅に行きたいから。ここからだとこっちが一番近いよね、って」

「う、うん……」

 

 確かに、ここからちょっと行った先のとあるケーキ屋を右に曲がってのルートなら10分も歩けば電車に乗れる。だけど、なんでそんな地元民しか知らないようなルートを知ってるんだろう。

 まあ、ここまでくればなんとなく予想つくけどね。

 

「清明はどこまで行くの?だってさ」

 

 一瞬迷ったけど、その道で駅まで行く気なら隠す意味もないだろうと観念する。そこまで隠し通したい話でもない。

 

「そこのケーキ屋」

「ふーん」

 

 何か聞かれたらどこまで話そうかとも思ってたけど、幸いなことにそれ以上は何も言ってこなかった。

 

「じゃ、僕はここで」

「………うん、だってさ」

 

 別段変わったこともなく、そのケーキ屋の前にたどり着く。夢想と別れの言葉を交わしてから軽くチェックをしてみると、こじんまりとした店の周りにはごみ一つ落ちてなく、毎朝きちんと掃き掃除していることがよくわかる。ただ、そこで店のガラスがちょっと汚れてるのを放置する神経が僕にはわからない。情けない。

 

「コホン。………オイコラ生きてっか馬鹿親父ぃ!」

 

 これが僕がここに行きたくなかった理由。わざわざ修学旅行で自分の出身地に行くとか、バカバカしいにもほどがある。もっとも、他のメンバーを呼ばなかった理由はもう一つあるんだけど。なるべく大声を張り上げながらドアを蹴破るぐらいの勢いで開け放って中に入ると案の定、すぐに反応が返ってきた。

 

「あー?なんだ金食い虫のドラ息子、お前こそまーだ生きてたのかよ?」

「見てのとーり、1年前から死んでるよっと。まあせっかく来たんだし、お茶の一杯でも用意しといてよ。僕は線香上げてるからさ」

「勝手にしてろ、奥の部屋な」

「はいよ。場所は変わってないね」

 

 誰もいない店の中を突っ切って居住スペースに入り、その奥にある仏間に向かう。これが、他の皆を誘わなかった理由だ。この人の墓参りを欠かすつもりはないけど、そんなもの十代たちに見せたら変に気を使われる可能性がある。今はみんないろんなことがあるのに、こんな僕一人の個人的な理由で貴重な旅行の時間を無駄にさせたくない。決して豪華とは言えないまでも大切に扱われてることがよくわかる仏壇の前に正座で座り込み、線香を1本取り出して半分の長さに折ってからマッチで火をつける。軽く手であおいで白い煙が薄く出るようにすると、それをすっと差し込んだ。そのまま静かに手を合わせる。

 

 

 

 

 

「ふー……なんで起こしてくんないのさ」

『起こせるわけないだろう』

 

 気づかないうちに、仏壇の前で眠りこけていたらしい。気づかないうちに疲れてたのか、それとも中の人に天国から呼ばれてたのか。個人的には後者の方が好きだな、そのほうがロマンチックじゃないの。

 

「ほーう、今あの馬鹿たれはそんなことやってんのか。ったく、お前はまだ商売するほどの腕じゃねぇだろってのは釘刺しといたはずなんだけどな」

「で、でも清明も頑張ってるんですよ、って」

「邪魔したねー………って。なんでいるの夢想!?」

 

 店に戻ると、なぜかうちの親父と夢想が紅茶とケーキで優雅なティータイムを送ってた。どうなってんのこれ、と思う間もなく親父のどら声が狭い店内に響き渡る。

 

「ちょっと店の前に戻ってきたらこの人に話しかけられて………」

「おう、こっちの嬢ちゃんから全部聞かせてもらったぜ。こんの親不孝もんが、なぁに親にも黙って勝手に支店出してやがる!『YOU KNOW』はうちの店名だろうがこのアホ!」

「うっ!?そこなんでばらしちゃうのさ、夢想」

「あー、まずかったみたいだね………ごめんね清明、だってさ」

 

 そう、実は僕の店の店名はうちの実家、親父のケーキ屋のものをまるっと拝借したものだったのだ。他の名前を付けたほうがいいのは重々承知だったけど、それでもこの名前以外はどうしてもつける気になれなかったのだ。

 

「ハー………悪かったよ、親父」

「ったく、それで?」

「え?」

「ちったぁマトモなもん作れるようにはなってんだろうな。冷蔵庫にスポンジの余りがあるから、今すぐ一品作ってみろ」

 

 もっと雷を落としてくるかと思ったけど、意外にも静かな親父の声。当然、受けて立つ以外の選択肢はない。

 

「少々お待ちを。去年の僕と一緒にしてもらっちゃ困るね」

 

 

 

 

 

 清明が厨房の方に引っ込んでから、彼の父親………遊野堂(ゆうのどう)は自身の目の前のティーカップを取り、中身の紅茶を一息で飲み干した。先ほどとはうってかわって穏やかな調子で、やや緊張気味の夢想に話しかける。

 

「さて、と。見苦しいとこ見せちまってすまんね、お嬢ちゃん」

「いえいえとんでもない、だって。むしろ私こそ久しぶりに親子が会うのに邪魔しちゃって申し訳ありません、って」

 

 恐縮しながら謝る夢想を手で押しとめる仕草はどことなく清明と似ており、確かにあの二人が親子であることがよくわかるように彼女には見えた。もっとも、本人たちは否定するだろうから心の中にとどめるだけにしておくが。

 だが、それが表情に少し出ていたらしい。やや訝しげな顔をする堂に対してなんでもない、という風に笑いかけ、彼女もティーカップの液体を口に運ぶ。これまで清明の淹れる紅茶を幾度も飲んできてそれなりに舌の肥えてきた彼女ですら味わったことのない芳醇な味が口の中に広がり、思わず目を丸くした。これまで飲んできた紅茶と何も変わらない種類なのに、淹れ方が違うとここまで味に差が出るものだろうか。聞いているかもしれない清明に気を使って口にはしないが、少なくとも紅茶に関しては清明はまだまだ父親を抜くことはできないだろうとひそかに確信する。

 

「あの、この紅茶って」

「ああ、これか?ふふふ、コイツは妻に教わった秘伝の技だからな、アイツ(清明)が知らなくても無理はねえだろう」

「え?どうしてですか、だって。清明のお母さんって………」

 

 引っかかる言い方に疑問をぶつけてみると、堂はなんだあの息子彼女に向かってそんなことも言ってないのか、と若干顔を歪ませる。

 

「アイツが物心ついてすぐにいなくなっちまったよ。交通事故でな、いい女だったよ」

「あ………ごめんなさい、なんだって」

「おいおい、嬢ちゃんが謝ることはないだろ?悪いのは親の話を高校でまるっきりしなかったあの親不孝もんのほうだってーの。どうせあの馬鹿息子のことだ、黙ってりゃばれないとでも」

「でも、それは違うと思います、だって」

 

 彼女にしては珍しく、人が喋ってる間に割り込んでまで声を上げる。その懸命な様子に思うところがあったのか、堂はそれ以上何も言わずに夢想の次の言葉を待つ。

 

「多分清明は、私たちに同情してほしくなかったんだと思います、って。私が清明と初めて会ってからまだ1年しか経ってませんけど、清明がそんな正確なのは十分以上に知ってます。いつだって誰かに同情されないように、誰にも気を使わせないように自分が一番気を使って、苦しいことだって最後の最後まで一人で抱え込んで解決のめどがつくまで私たちには何も言わないし、それに、それに」

「わかったわかった。それぐらいにしときな、嬢ちゃん。でないとアイツにも聞こえっちまう」

「でも」

「それにな、俺だってそんなことは気づいてるさ。なにせアイツの親を一人で10年以上やってきてんだからな。絶っっ対アイツの前では言わんけど、アイツは俺みたいなやつから生まれたとは思えないぐらいいい息子さ。どれ、そろそろ味見にでも行ってやるかね。すまないが嬢ちゃん、少しの間店番頼まれてくれ。紅茶の代金がわりってことで、な」

「………はい!」

 

 

 

 

 

 それからしばらくの間、誰ひとりやってこない店内で大人しくしている夢想。なんでこんなに美味しい店なのにお客がいないんだろう、と大きなお世話だと知りつつも訝しんでいると、彼女のデュエリストとしての感覚に何か訴えかけるものを感じた。それと同時に店のドアが開き、一人の男が入ってくる。

 

「いらっしゃいませ、だってさ…………貴方は!」

「よう、久しぶり。ドラゴネクロは使いこなしてるみたいだな」

 

 その声を聞きながら、そう言えば前にこの男と会った時もこんな感じだった、とぼんやり思い返していた。誰かがいてもおかしくないのに、彼が出てきたときは近くに鳥すら飛んでいない。去年の彼女に冥界龍のカードを手渡し、最後まで謎めいたことを呟きながら世界に4枚しかないはずの青眼の白龍を使いこなしていた男。自分の名前すら名乗らずにどこかから来てどこかへと去っていった、得体のしれない男。

 

「おいおい、そう警戒するなよ。今回はちょっと忠告に来ただけさ」

「忠告?」

 

 この男の話に耳を傾けるのは危険だ。そう思いながらも、彼女は自分を止めることができない。まるで、ずっと昔から知っている、信用している相手の話を聞こうとしているように。

 

「ああ。もうじきこの町はかなりヤバいことになる。俺らが知ってる世界よりも数段な。つっても、お前は覚えてないんだったな。えいくそ、なんて言ったもんだか………もうなんだっていい、今すぐこの町から離れるんだ!頭数増えた帝使いが揃いも揃って暴走中の上位種精霊引き連れてこの町ごと結界に入れようとしてるんだよ!」

「………え?」

 

 一体この男は何を言っているのか。まるで漫画かアニメのような、常識からはるかにかけ離れた発言にさすがの彼女も若干引き気味になる。そんな目で見られていることに気づいた男は舌打ちし、最善の策が駄目なら次善の策だといわんばかりにデュエルディスクを構える。

 

「まぁ、こーなることは薄々わかってたけどな。説明してる時間が惜しい、力づくにでも引っ張り出してやるよ。下手に干渉するのはまずいってドラゴネクロの時もさんざん大目玉喰らったんだけどな、これも昔のよしみだ。ほら、さっさと構えろよ。今回はマジでヤバいんだ、改変なんて騒ぎじゃないことになる」

 

 何を言ってるのかは1ミリも理解できなかったが、とにかく勝てばいい。ならば何も問題はない、いつも通りにカードを使えば必ず勝つ。面倒事は全て決闘(デュエル)で片が付く、それが常識というものだ。

 だがその前に周りを見渡してそこが店内であったことを思い出し、無言でドアの向こうの外を指さす。当然のようにそこも、人っ子ひとり歩いていないゴーストタウン状態だ。

 

「いいぜ、こんな狭い店じゃ俺のかわいい青眼(ブルーアイズ)も見栄えしないしな」

 

 そう言い、半ば飛び出るように外に出る男。なにを言ってるのかはいまださっぱりだが、少なくとも彼が急いでいるのは間違いなさそうだと結論付ける。巻き込まれまいと気を付けはするものの、ついついそのペースにつられて彼女も早足で外に出てデュエルディスクを構える。

 

「あと何分ある?早いとこ終わらせねえと俺まで巻き込まれちまう。よし、さっさと終わらせてやるよ」

 

「「デュエル!」」

 

「先行は俺、か。魔法カード、トレード・インを発動。手札に来たレベル8モンスター、青眼を捨てて2枚をドロー。カードを2枚セットして、ターンエンドだ」

「私のターン!」

 

 モンスターはなく、場には2枚の伏せカードのみ。今なら楽に攻撃が通るとは思うものの、そんな簡単に事が運ぶわけがないと警戒する。

 

「魂を削る死霊を攻撃表示で召喚、バトル!」

 

 魂を削る死霊 攻300

 

 警戒するが、したからといって手札が変わるわけでもない。この手札なら返しの攻撃も十分防げると考え、いちかばちかの死霊の効果………戦闘ダメージを与えた時のハンデス能力を使ってみることにする。大鎌を掲げた死神がふわりと宙を舞い、力任せに振り下ろす。

 

「おっと、そんなのに構ってる暇はないもんでな。速攻魔法発動、銀龍の轟咆(ごうほう)!このカードは墓地のドラゴン族通常モンスターを蘇生させる能力がある!甦れ、青眼(ブルーアイズ)!」

 

 死霊の一撃に待ったをかけるように、青い体の巨体が地の底から現れる。その爪で鎌を払いのけようとして、

 

「手札からD.D.クロウの効果を発動!このカードを墓地に送って、貴方の墓地から轟咆よりも早く青眼を除外するみたいだよ」

 

 どこからともなく飛んできた異次元のカラスがその体に特攻を仕掛け、ブルーアイズの体がぐにゃりと歪んで徐々に異次元に吸い込まれていく。轟咆が不発に終わったことで再び死霊の攻撃が繰り出される、かに思えたのだが。

 

「いいや、カウンタートラップ、天罰を発動!手札を1枚捨てて相手の効果の発動、つまりそのカラスを無効にして破壊する!」

「っ!!」

 

 モンスターを出さなかったにもかかわらずの余裕っぷりから伏せを何かしらの蘇生カードと予想したところまではよかったのだが、もう1枚が天罰とはさすがに見抜けなかった夢想。再び空間を捻じ曲げて戻ってきた白い龍が、今度こそ死神の鎌を防いだ。

 

 青眼の白龍 攻3000

 

「さ、することないならさっさとエンド宣言しな。何度も言ってる通り、時間は全然ないんだ」

「………カードを3枚セットして、ターンエンドするって」

 

 男 LP4000 手札:2

モンスター:青眼の白龍(攻)

魔法・罠:なし

 

 夢想 LP4000 手札:2

モンスター:魂を削る死霊(攻)

魔法・罠:2(伏せ)

 

「ほんじゃま、俺のターンですよっと。青き眼の乙女、召喚とくらぁ」

「そのカードは………」

 

 青き眼の乙女 攻0

 

 前回のデュエルでも彼女を苦しめた、攻撃力3000を誇る青眼を何度でも場に出すことが可能な恐ろしい効果を持った女性モンスター。力押しが軸の彼女にとっては、こういった搦め手が得意なカードは苦手だったりする。

 

「嫌だから、退場してもらおうかな。トラップ発動、激流葬!だって」

 

 召喚反応系カードの中では、奈落の落とし穴と並んで最もポピュラーな1枚。対象を取る効果からなら身を守るドラゴンを呼び出す乙女も、対象を取らない全体除去の前にはなすすべない。死霊が一緒に流れて言った気もするが、そんなことは些細な犠牲である。

 

「あー、俺の主力!しょーがねえなあ、ったくもう!自分フィールドにモンスターが存在しない時、フォトン・スラッシャーは手札から特殊召喚できる!特殊召喚したコイツでそのままダイレクトだ!」

 

 フォトン・スラッシャー 攻2100→夢想(直接攻撃)

 夢想 LP4000→1900

 

「はっ、どうだ!」

「まだまだ………ってさ!トラップ発動、無抵抗の真相!ダイレクトアタックを受けた時、手札とデッキから同名レベル1モンスターを特殊召喚できる!来て、ワイト」

 

 ワイト 攻300

 ワイト 攻300

 

「一発入れたことには変わりねえんだ、どっからでもかかってこいや」

「おっしゃる通りに、だってさ。私のターンに魔法カード発動、トライアングルパワー!このカードの効果を受けられるのはレベル1の通常モンスターだけだけど、効果はその分強いんだってさ。エンドフェイズに自壊する代わりに、攻守2000ポイントアップするみたい」

 

 みすぼらしい恰好の骸骨2体のかつて目があった箇所に再び一時的な炎が宿り、それぞれ個性的なポーズで有り余る力をアピールしだす。

 

 ワイト 攻300→2300

 ワイト 攻300→2300

 

「それから、ワイトのうち片方をリリース。アドバンス召喚、龍骨鬼、って」

 

 龍骨鬼 攻2400

 

 ワイトを並べたのちに龍骨鬼のアドバンス召喚、夢想おなじみの陣形である。だが今回は、ワイト自身が戦いに出るといういつもとの大きな違いがある。

 

「バトル、だってさ。龍骨鬼でフォトン・スラッシャーに攻撃!」

 

 骨の鬼が口から火の玉を吹き出し、光子の刃がそれを切り裂こうとして迎え撃つ。2つの力が拮抗………するようなことは特になく、スラッシャーの体が炎の中に崩れ落ちる。

 

 龍骨鬼 攻2400→フォトン・スラッシャー 攻2100(破壊)

 男 LP4000→3700

 

「そのままワイトで攻撃!」

 

 ワイト 攻2300→男(直接攻撃)

 男 LP3700→1400

 

「どうかしら?だってさ。エンドフェイズにワイトが自壊、ターンエンドみたい」

 

 罠の張りあいとでもいうべき最初の攻防に対し、単純な殴り合いとなった今のターン。状況はやや夢想有利だが、彼女はまだ気を抜かない。

 

 男 LP1400 手札:1

モンスター:なし

魔法・罠:なし

 

 夢想 LP1900 手札:0

モンスター:龍骨鬼(攻)

魔法・罠:なし

 

「時間ないんだがなあ、俺のターン!ちっ、時間稼ぎしても意味ないってのに………青き眼の乙女、召喚。ターンエンドだターンエンド!」

 

 青き眼の乙女 攻0

 

「私のターン。さーてどうしようかな、だって。ドロー、攻撃、は………しないかな」

「ま、そうなるだろうな」

「もちろん、って。カードをセットして、ターンエンド」

 

 男 LP1400 手札:1

モンスター:青き眼の乙女(攻)

魔法・罠:なし

 

 夢想 LP1900 手札:0

モンスター:龍骨鬼(攻)

魔法・罠:1(伏せ)

 

 自身の伏せカードに絶対の自信があるのか、伝説に最も近い位置にあると言えるドラゴンを前に余裕の表情で迎える夢想。一体どんな戦略を考えているのかは、その表情からはうかがい知れない。

 

「俺のターン。除去が来るまで待ってる暇はねえ、速攻で決めてやらぁ!装備魔法、ワンダー・ワンドを乙女に装備してっと。こいつは装備モンスターと一緒にリリースすると2枚ドローする効果があるが、俺が狙ってるのはそこだけじゃないんだな、これが。装備魔法は装備されるときに当然そのモンスターを対象にとる、つまり乙女の効果が発動する!デッキより出でよ、青眼!」

 

 青眼の白龍 攻3000

 

「2体目の………青眼!」

「さあ、バトルだ!青眼で龍骨鬼を攻撃、滅びのバースト・ストリーム!」

 

 青眼の白龍 攻3000→龍骨鬼 攻2400(破壊)

 夢想 LP1900→1300

 

 龍骨鬼が一瞬で跡形もなく粉砕され、夢想を守る壁が存在しなくなる。だが、まだ夢想の表情から笑みは消えない。

 

「これで終わるか!?速攻魔法、銀龍の轟咆!墓地より蘇れ、青眼……」

「リバーストラップ、発動!横取りボーン!相手がモンスターを特殊召喚したターンのみ発動できて、相手の墓地のモンスターを守備表示で特殊召喚するんだって。こっちにおいで、青眼!」

 

 彼女が呼び出したのは、最初に激流葬を受けた青眼。どちらも対象を取る蘇生カードであるゆえ、チェーンを組んで同じモンスターを呼びだそうとすれば後出しした方が勝ち、先に使った方は不発となる。これは夢想自身も知らないことであったが銀龍の轟咆は1ターンに1度しか使えないため、さらなるカウンターを受ける心配もない。ん

 

 青眼の白龍 守2500

 

「くそっ!カードを伏せて、ターン………終了だ」

「私のターン。あなたが何を考えてるのかは私にはわからない。だけど、ここはお帰り願おうかな、だってさ。ドロー!ワイトキングを召喚、さらに青眼を攻撃表示に変更!青眼2体で相打ちに、バースト・ストリーム!」

 

 ワイトキング 攻2000

 青眼の白龍 攻3000(破壊)→青眼の白龍 攻3000(破壊)

 

 無論、夢想の行動は戦術としては何も間違っていない。相手の場を空にしてダイレクトアタックを叩き込む、基本中の基本の動きである。ただ単に彼女の運がなかった、それだけだ。

 

「そのままワイトキングで………」

「いいや、リバースカード発動!リビングデッドの呼び声で、もう一度青眼を呼び戻す!」

「そんな!」

 

 青眼の白龍 攻3000

 

「………攻撃はやめ。ターンエンド、って言ってるみたい」

 

 男 LP1400 手札:1

モンスター:青眼の白龍(攻・リビデ)

魔法・罠:リビングデッドの呼び声(青眼)

 

 夢想 LP1900 手札:0

モンスター:ワイトキング(攻)

魔法・罠:なし

 

「俺のターンだ。ここでワイトキングを潰す!出て来い、阿修羅(アスラ)!」

 

 三つの顔と六本の黄金の腕を持つ戦い好きの鬼の神をモチーフとした、全体攻撃の能力を持つモンスター。ワイトキングは例え戦闘破壊されても墓地のワイトを除外することで蘇る能力があるが、今のワイトの数ではその能力も2度までしか使うことができない。ただ彼女にとって唯一の救いは、阿修羅とワイトキングの攻撃力の都合上最初の一撃を青眼が決めざるを得ない、逆に言えば青眼のダイレクトアタックを受ける心配はないということである。

 無論、そのことにはどちらのプレイヤーも気づいている。だからこそ夢想の目には戦闘ダメージによる衝撃を受ける覚悟とともに勝負を諦めない希望の色が見え、男の顔にはダメージこそ与えられるもののとどめを刺せないことに対する苛立ちの色が見える。2人の顔は皮肉なことに、盤面の優位性とはまるで逆の表情を浮かべていた。

 

「バトルだ、バトル!バースト・ストリーム!」

 

 青眼の白龍 攻3000→ワイトキング 攻2000(破壊)

 夢想 LP1900→900

 

「きゃあっ!ワイトキングは戦闘破壊された時、墓地に眠るワイトの魂を成仏させることで蘇るよ、ってさ」

 

 ワイトキング 守1000

 

「阿修羅で攻撃!」

 

 阿修羅 攻1700→ワイトキング 守1000(破壊)

 

「まだ何かしてくるかもしれないし、最後の一回も使っちゃおうかな、だってさ。ワイトキング、蘇生するみたい」

 

 ワイトキング 守0

 

「深読みするのは勝手だが、俺にこれ以上の罠は張れないぜ?だが、的が増えたなら当然そいつもだ!」

 

 阿修羅 攻1700→ワイトキング 守0(破壊)

 

 六本の腕に全身の骨をへし折られ、今度こそ物言わぬ死体に成り果てた骸骨の王の体が、ちょうど吹いてきた風を受けて静かに砂となってどこかへ飛んでいく。その様子を悲しげに見送り、改めて彼女は男に向き直る。

 

「スピリットモンスターの阿修羅はエンドフェイズに持ち主の手札に戻る………それじゃあ、あとは私のターンでいいよね?だってさ。このターンのドローでどっちが勝つかが決まるからね、この空気は嫌いじゃないよ。ドローッ!」

 

 手札もなく、伏せの1枚もない夢想のラストドロー。いつもそうであるように、負ける気はまるでしなかった。だが、デッキに手を乗せてカードを引こうとした、まさにその瞬間。

 

 ピーピーピー。

 

 場の雰囲気に不釣り合いなアラーム音が静かな町に鳴り響くと、それを聞いた男がいっぺんに顔色を変える。

 

「クソッ、時間切れかよ!おい、この勝負は俺の負けだ。サレンダーだ。ぐずぐずしてると俺まで巻き込まれちまうからな、外に出られるうちにさっさと行かせてもらうぜ。ただ、こいつはマジの忠告だ。明らかにヤバいことが起こりつつあるから、なんとかこの町の外に出ろよ!じゃなっ!」

 

 大慌てで言いたいことだけ喋ると、くるりと背を向けてどこかへ走り去っていく。とっさに追いかけようとするも、まるで狙っていたかのようなタイミングの良さで後ろの店内から清明たちが出てきたので断念する。

 

「夢想、こんな所にいたの?一体何やって………あー、なんか急に曇ってきてるね。ったくもう、予報じゃ1日中晴れだったってのに。ほら、降ってきそうだしいったん中入ろ?」

 

 清明の声をぼんやりと聞きながら、デュエルが強制解除させられたデュエルディスクから次に引くはずだったカードを取りだしてみる。

 それはトラップカード、運命の分かれ道。お互いにコイントスをして、2000ポイントのダメージか回復を受けるカード。つまりあのデュエルは、まだどうなるかわからなかった。どちらかが裏を出せば、お互いにライフが2000を切っていたあの状況ではそれが引導火力になる。

 

「むーそうー!」

「嬢ちゃん、早いとこ入ってきな」

「………はい、だってさ」

 

 いつまでも引きずっていても仕方がない。そう結論付け、カードを元の位置に戻す。そのまま店に入る寸前ふと何かの気配を感じた気がして上を見るが、そこには重苦しい空が広がっているだけだった。

 

 

 

 今のところは。


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