遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~   作:久本誠一

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前回のあらすじ。三沢、実質的勝利ながらも斎王に敗北。チャクチャルさんに何か考えがあった模様。

……いかん、前書きと後書き書いてたら28日の内に投稿できなかった。


ターン49 鉄砲水と負の遺産

「うー、眠れな………い………?」

 

 ベッドに倒れこんでからしばらくして。体はだいぶ疲れてるのに、どうも眠ることができない。なんとはなしに目を開けてみて、次の瞬間跳ね起きた。

 目の前にあったのは見慣れた天井ではなく、どこかもわからない真っ黒な空間。目に見える範囲全てがひとかけらの明かりもなく、どこまで行ってもひたすら何もない。その中にただ一つ、僕が寝ているベッドがぽつんと置かれている。

 

「よう。お目覚めかい、旦那」

「!?」

 

 上半身だけ起き上って辺りを見回していると、目の前にぱっと人の姿が現れた。間違いなくさっきまで誰もいなかったのに、まるでワープでもしてきたかのように。その人物が男なことは体格や声の調子から分かったけど、なぜかその顔が見えない。首から上の部分だけ影がかかったようになっていて、その輪郭しか見ることができないのだ。ただ、かすかに見えるその口がニヤニヤと笑っている。

 

「まあ起きなよ、旦那。俺が喋ってるのにいつまでも寝てるなんて、随分と礼儀がなっちゃいないじゃないか」

 

 そう言い、ぱちんと指を鳴らす。すると、突然体を支える物がなくなった感覚がした。もっとはっきり言うと、今の今まで寝ていたベッドがふっと掻き消えた。すると当然、支えを失った僕の体は地面に変な体制のまま激突する。

 

「いてっ」

「おう、そりゃすまなかったね旦那。さてと、少し積もる話でもしようじゃないか」

「話?」

 

 いきなりわけのわからないところに連れてこられて、わけのわからない奴がわけのわからないことを言いだした。いろいろとわけがわからないので、それとなく探りを入れてみる。

 

「えっと………どちら様?」

「おう、こりゃ失礼。でもまあさっきの旦那もなかなか失礼だったし、ここはひとつあいこってことでお互いに水に流しておくれよ。それで俺のことだけど、残念ながら名乗ることはできないんだ。なにももったいぶってるわけじゃない、遠い昔、かれこれ5000年近く前に名前なんてもんは捨てちまったのさ」

 

 5000年前?名前は捨てた?何を言っているのかちょっとよくわからないけどとりあえずわかることがある。この男は危険だ。穏やかな口調と身振りではあるけれど、一皮むけばその外面の中にはどんな本性があるか分かったものではない。もっともこれは特に明確な理由があるわけじゃない、ただの勘だ。もう少し、もう少しだけ様子を見てみよう。

 

「いやまったく、旦那には感謝してるんだよ?ああ、訳が分からないって顔だね。じゃあもう少し具体的に話そうか。ここまでに何があったかはだいたい把握したけど、少し前にあのいつまで経っても役立たずな地縛神が受け切れなかった光の波動がほんの少し、ほんの少しだけ旦那の中に入り込んだろう?あの衝撃が俺を、永い永い眠りから解き放ってくれたのさ。礼代わりにと思って少しばかり殺意を高めてやったけど、気に入ってくれたかい?」

 

 今の話はどう考えてもノース校対抗試合で僕がワンキルされた時のことだろう。でも、そこで起きた?今の話とはどんな因果関係が?それにあの口ぶり、おそらくチャクチャルさんのことも知っている。この男、ホントに何者なんだろうか一体。正直、すごく関わり合いにはなりたくないけども。

 でも、ここ最近悩みの種だった異様な敵意の原因はわかった。

 

「あれお前の仕業か!正直ね、すんごい迷惑なんだけどアレ。今すぐ元に戻してよ」

「へ?おいおい、そりゃないだろ旦那。ああそうか、これがいわゆるアメリカンジョークってやつね。いや失礼、俺としたことがうまくネタに反応できなかった」

「…………」

 

 どうしよう、まるで会話がつながってる気がしない。脳ミソちゃんとついてんだろうかコイツ。

 

「ま、なんだっていいさ。今日呼び出したのはな、旦那。お前の生温いやり方にいい加減嫌気がさしてきたんだよ。だってそうだろ?はっきり言ってお前の心の闇は明らかにお前の温い人生からは不釣り合いなぐらいにデカい。だから結構期待してたのに、なんだかずいぶんしょうもないことばっかりやりやがって。お前みたいなのを宝の持ち腐れってんだよ、旦那」

「最終的に何が言いたいのかがさっぱり分かんないね。せっかくの長話悪いけど、僕にとっちゃあこの世に存在するあらゆる難しい話は専門外なのさ」

「そうかそうか、まだとぼけるか。別にそんならそれでいいさ。構えな、そこまで言うならお前にもう用はない、地縛神の力ごとまとめて俺が有効利用してやるよ。本来ならこんなゲームでわざわざ勝負する必要なんてないんだけどな。知ってるか?地縛神の、つまりダークシグナーの力はその時代において定められた決闘の形式に合わせない限りうまく引きはがせないんだよ」

 

 そう言って右腕を構えると、ついさっきまで何もなかったはずの腕にはいつの間にかデュエルディスクが装着されていた。このパターンはもしやと思って僕の腕を見ると、案の定こっちにもつけた覚えのないデュエルディスクが1つ。さすが夢の中、なんでもありだ。たとえそれが、半分も会話がつながらない言葉のデッドボールする気満々な相手でも。

 

「お前の温いデッキなんぞ、俺が作ったデッキで焼き切ってやるよ。いつまでも仲良しごっこじゃ勝てないってのはもう学んだんじゃなかったのかね、旦那」

「はいはい、まさか夢の中でまでデュエルとはね。でもまあ、どこでやろうと変わらない、か………それじゃあ、デュエルと洒落込もうか!」

 

「「デュエル!」」

 

「先行は僕がもらう!オイスターマイスターを召喚し、さらに水属性モンスターのマイスターをリリース。シャークラーケン、オイスタートークンをダブルで特殊召喚!」

 

 さっきから、なんか妙に愛想がいいというか友好的な態度ばかり取ってくる男。だけど、こうして目の前にいる僕にはわかる。これは、とにかく危険だ。下手をすると三幻魔以上に。だからといってこっちだって一応はダークシグナー、態度を改める気は特にないけど。それはそれとして、このデュエルも十中八九闇のゲームと見て間違いないだろう。なら、ますます負けるわけにはいかない。命どころか魂まで取られる、あるいはもっとまずいことが起きる可能性もある。

 

 シャークラーケン 攻2400

 オイスタートークン 守0

 

「………あれ?」

 

 いつも通りに飛び出してくる僕のモンスターたち。その、何もおかしいところがないはずの風景にどこか違和感を感じた。だけど、それがなんだろうか、と思いを巡らす暇はない。

 

「俺のターン!クク、永続魔法発動、波動キャノン!」

 

 男の場に出現したのは、いかにも危険そうな大きな砲台。発動からのターン数につき1000ものライフダメージを与える恐るべきカードだ。今はまだそこにエネルギーは溜まっていないけど、早めに終わらせないとまずいことになるのは間違いない。

 …………と言うとでも思ったか。実は、僕の手札にはすでに速攻魔法、サイクロンが存在しているのだ。このターンは放っておくとして、次の僕のターンになったらさっさと破壊してやろうっと。

 

「そして悪魔族モンスター、カードガードを召喚。このカードは召喚時に自身にガードカウンターを1つ乗せ、そのカウンターを1ターンに1回別のカードに移し替えることができる。俺は早速この移し替え効果を使い、波動キャノンにガードカウンターを装着!甘いんだよ旦那ぁ、そんな程度の浅い考え、とっくの昔にお見通しだ!」

 

 カードガード 守500

 

 派手な紅白の、どこかエイのようなデザインの悪魔が波動キャノンの上にぺたりと両手両足を使ってへばりつく。わざわざ守備力500程度のモンスターを出してくるなんて、他にいいモンスターがいなかったのか、それとも今のガードカウンターとやらがそんなに大切なんだろうか。

 

「カードを2枚伏せてぇ、フィールド魔法発動、ブラック・ガーデン~!これでぇぇ、ターンエンドォォ」

 

 おどけたしぐさの一つ一つが何だか妙に癇に障る。だけど喧嘩は先に熱くなりすぎたほうの負けだ。

 

 清明 LP4000 手札:3

モンスター:シャークラーケン(攻)

      オイスタートークン(守)

魔法・罠:なし

 

 ??? LP4000 手札:1

モンスター:カードガード(守)

魔法・罠:2(伏せ)

場:ブラック・ガーデン

 

「僕のターン………ん?」

 

 カードを引く。ここでようやく、さっきの違和感の正体に気が付いた。精霊たちの声が、さっきから全く聞こえないのだ。ここ数日は意図的にその気配や声から目をそらしてたけど、今はどれだけ意識を集中させても何一つ聞こえてこないし感じられない。

 何を考えていたのか察したらしく、かすかに見える口元にいやらしい笑みを浮かべる男。

 

「おいおい旦那、ここは夢の中、インザドリームなんだぜ?精霊がいちいち入ってこれるわけないだろっての」

「………まあ、筋は通ってるか。改めて僕のターン、水属性のオイスタートークンをリリースして、ジョーズマンをアドバンス召喚!この子の攻撃力は、自分フィールドの水属性1体につき300ポイントアップするよ」

「ブラック・ガーデンの効果!召喚及び特殊召喚されたモンスターの攻撃力の半分をフィールドが吸い取り、その命を養分に花が咲く。一発では殺してやらねえ、じわじわ痛めつけてやる。それが昔からの俺の流儀なんでな」

 

 ジョーズマンの体に、牙に、背びれに絡みついてその棘で容赦なく締め付ける無数の茨。生命エネルギーを吸い取ったそれの力により、血のように赤いバラが一輪ぽっと咲く。

 

 ジョーズマン 攻2600→2900→1450

 ローズ・トークン 攻800

 

「ぐっ………だけど、それ以外には何の制約もかからないはず!シャークラーケンでトークンに攻撃!」

 

 シャークラーケン 攻2400→ローズ・トークン 攻800(破壊)

 ??? LP4000→2400

 

「そのままジョーズマンで、カードガードに攻撃!」

「まんまとかかったねえ、旦那!俺の発動するトラップカード、アルケミー・サイクルの効果により、カードガードの攻撃力は0になる!」

 

 カードガード 攻1600→0

 ジョーズマン 攻1450→カードガード 守500(破壊)

 

 アルケミー・サイクルは発動ターンのみ自分フィールドのモンスターの攻撃力を0にする代わり、自分のモンスターが戦闘破壊されるたびにカードをドローする効果を持つ。でも、わざわざ1枚のドローのためにそこまでするだろうか。

 

 カードガード 守500 攻1600→800→1100

 カードガード 守500 攻1600→800→1100

 ローズ・トークン 攻800

 

「んなっ………!」

 

 そこにいたのは、確かに今ジョーズマンの牙によって引き裂かれたはずのカードガード。しかも、それが2体に増えている。

 

「はっはぁ!悪いな旦那、俺の方が1枚上手だったな!カードガードが戦闘破壊された瞬間に俺はトラップカード、ブロークン・ブロッカーを発動していたんだよ!このカードは守備力の方が攻撃力よりデカい数値のモンスターが守備表示で戦闘破壊された時、同名モンスターを2体まで守備表示で特殊召喚できるのさ。そしてブラック・ガーデンによる攻撃力半減、お前の場へのトークン生成処置が終わってからガードカウンターを乗せる効果が適用され、さらにカードガードのもう一つの効果によって自身に乗ったガードカウンター1つにつき300の攻撃力がアップだ」

「長い長い長い!」

 

 長いうえにとんでもない早口だったから半分ぐらいしか聞いてなかったけど、とりあえず攻撃しない方がよかったのは理解できた。どうしよう、サイクロンをここで使うべきだろうか。さっきまでは使う気だったけど、この男思ったよりもカードの使い方がうまい。となると正直、あの波動キャノンは他のカードの囮のような気がする。こっちがサイクロンを握ってることは向こうも知らないはずだし、もう1ターンだけ様子を見よう。それでもまだ仕掛けてこないなら、さすがに波動キャノンが見過ごせない。その場合はやむを得ないということで、下手にダメージ食らう前にさっさと発動することにしよう。

 

「ローズ・トークンを守備表示にして、これでターンエンド」

「俺のターン、ドロー!………これで波動キャノンはフィールドに1ターン残ったことになるな、旦那」

「くっ」

 

 まだだ。あんな挑発には乗らない乗らない。もっとも、サイクロンは手札にあるから今は何かしたくてもできないんだけど。

 

「それじゃ、カードガード2体の効果発動。自身に乗ってるガードカウンターを取り除いて、波動キャノンに計2つのガードカウンターを上乗せする」

 

 2体のカードガードがまたもや波動キャノンにシールか何かの用にぺたりと引っ付く。ただし、先ほどと違い波動キャノンはその奥の方がぼんやりと薄く光っており、少しずつパワーがたまってきているのがよくわかる。

 

 カードガード 攻1100→800

 カードガード 攻1100→800

 

「そしてゴゴゴゴーレムを守備表示で召喚」

 

 ゴゴゴゴーレム 守1500 攻1800→900

 ローズ・トークン 攻800

 

「準備は整った、ブラック・ガーデン第二の効果を発動!このカードとフィールド上の植物族、つまり旦那のフィールドにいるローズ・トークン2体を破壊することで、墓地からその攻撃力合計と同じ攻撃力のモンスターを1体特殊召喚する!来いよ、カードガード!」

 

 カードガード 攻1600→1900

 

「よくもまあそんなにクルクルと回るもんだ………!」

 

 というか、これは割とシャレにならない。今はまだ攻撃力2400のシャークラーケンが抑止力になってくれているけど、それがいなくなれば男のフィールドの攻撃力合計はすでに4000をオーバーしている。そうでなくともあの波動キャノンもあるし。

 こんな時にユーノがいたらいつも通りの調子で上等上等って笑いながら突破してくれるんだろうけど、今はそのユーノもいない。…………もうよそう、このことについて考えるのは。

 

「来い!」

「言われなくとも、ってな。行くぜ旦那、ジョーズマンに攻撃力1900のカードガードで攻撃!」

 

 音もなく宙を飛んで近づくカードガードの角による一撃。普段ならば楽々対処できたそんな攻撃も、茨に全身を蝕まれている今のジョーズマンにとっては致命傷だ。

 

 カードガード 攻1900→ジョーズマン 攻1450(破壊)

 清明 LP4000→3650

 

「ぐっ!?や、やっぱり………」

 

 そして案の定襲い掛かる、闇のゲームの衝撃。もう最近はあれなんだろうか、このダメージ現実化がデフォなんだろうか。

 

「はっはぁ!ご想像通りの闇のゲームだぜ、気分はどうだ?カードを2枚セットして、これでターン終了だ」

 

 清明 LP3650 手札:3

モンスター:シャークラーケン(攻)

魔法・罠:なし

 

 ??? LP2400 手札:0

モンスター:カードガード(守)

      カードガード(守)

      カードガード(攻)

      ゴゴゴゴーレム(守)

魔法・罠:2(伏せ)

 

「まだまだ!僕のターン、ドロー!」

 

 守備力の低いカードガードを2体まとめて撃破できるツーヘッド・シャークあたりが欲しかったけど、残念ながらそう都合よくカードは引けない。伏せカードさえなければ迷わず初志貫徹のサイクロン一直線コースだったけど、あの意味ありげに伏せてあるカードが気になる。ただの波動キャノンを守るためのブラフなのか、それともそう思わせておいての切り札なのか、あるいは何の関係もない汎用カードなのか。んー………よし、決めた。

 

「サイクロンを発動、対象は波動キャノンで」

 

 どこからともなく風が吹き、波動キャノンを空の果てまで吹き飛ばしにかかる。まさかこれだけ展開しておいて激流葬はないだろうし、ここはダメージ元をさっさとなくして安心してデュエルしていたい。というか、ソリッドビジョンだと波動キャノンの威圧感がかなり大きくて集中できないです。パワーチャージがとても怖い。

 

「はっはぁ!旦那、そんな程度は織り込み済みなんだよぉ?ガードカウンターの能力発動!カードに乗せられたガードカウンターは、そのカードが破壊されるときの身代わりになることができる!」

 

 ガードカウンターなんて言うからなんとなく嫌な予感はしてたけど、本当に名前そのまんまの能力だったか………仕方ない、このままやるしかない。

 

「ダブルフィン・シャークを守備表示で召喚、そして効果!このカードの召喚成功時、墓地からレベル3または4の水属性魚族を効果無効の守備表示にして特殊召喚できる!オイスターマイスター、蘇生!」

 

 ダブルフィン・シャーク 攻1000

 オイスターマイスター 守200

 

「これで、攻撃反応でなければ……シャークラーケン、攻撃表示のカードガードに攻撃!」

「自前のガードカウンターは身代わり効果を使えないからねえ。そのまま戦闘破壊だ」

 

 背中に水をジェット噴射する装置をくくりつけてスピードが倍になったシャークラーケンの突撃が、カードガードの平べったい体を見事に突き破る。体のど真ん中に風穴をあけられた紅白の体が、ダメージに耐えきれず爆発した。

 

 シャークラーケン 攻2400→カードガード 攻1900(破壊)

 ??? LP2400→1900

 

「やった!」

 

 ここでこの攻撃が通ったのは大きい。もう相手ライフも半分まで削ったし、この調子で落ち着いて対処すればどうにかなる………と思った瞬間、またもや男の口がにやりと邪悪な笑いの形に歪む。

 

「さすがだね、旦那ぁ………こんなにも見事に罠にかかってくれるなんてよぅ!いくらジョーズマンを破壊するためとはいえ、なんで返しのターンに破壊されることが確定してるモンスターを攻撃表示で出したのか考えもしなかったのかい?トラップ発動、自由開放!」

 

 男の発動したトラップ………そこから2つのビームが放たれ、それを浴びたダブルフィン・シャークとシャークラーケンの姿が忽然と消えた。

 

「自由開放は俺のモンスターが戦闘で破壊された瞬間にのみ発動することができて、フィールド上からモンスター2体を選択してそいつらを持主のデッキに戻す!デッキバウンスを防げるようなカードは旦那のデッキには入ってないだろ?」

 

 そもそもそんなピンポイントなもの防ぐカードなんてあったっけ。などとのんびり突っ込んでる暇はない!

 

「おっと、忘れるところだった。トラップ発動、時の機械-タイム・マシーン!モンスターが戦闘破壊された時、そのモンスターをコントローラーの場に復活させる………もう一度働け、カードガード!」

 

 カードガード 攻1600→1900

 

「だったらカードを2枚セット、これでターンエンドっ!」

「はっはぁ!随分と寂しいフィールドだな、オイ?スタンバイフェイズが来たことで、波動キャノンにさらにパワーがたまる!」

 

 これで2ターン目、もし今発動するならばダメージは2000。単体火力としてはだいぶまずい数値になってきた。

 

「カードガード2体とゴゴゴゴーレムを攻撃表示、そしてバトルだ!攻撃力800のカードガードで、旦那のオイスターマイスターを攻撃!」

「1度目は防ぐ!トラップ発動、ポセイドン・ウェーブ!その攻撃を無効にして、効果ダメージ800を食らえっ!」

 

 ??? LP1700→900

 

「はっはぁ!なけなしの抵抗かい、旦那?だったら次だ、もう1度カードガードによる攻撃!」

「なんの!トラップ発動、ドレインシールド!その攻撃を無効にして、攻撃力ぶんのライフを回復!」

 

 清明 LP3650→4450

 

「だが、ここからは防げないだろ?ゴゴゴゴーレムによる攻撃、ゴゴゴブロー!」

 

 ずしりと重量感のある岩の拳が、いまだ残っていた茨にまとわりつかれながらもオイスターマイスターを撃ちぬく。オイスターマイスターは攻撃力こそレベル3の中ではそこそこ高いが、守備力は低いのだ。

 

 ゴゴゴゴーレム 攻900→オイスターマイスター 守200(破壊)

 

「そのままカードガードによるダイレクトアタック!こいつはどうやったって防げないのさ!」

 

 カードガード 攻1900→清明(直接攻撃)

 清明 LP4450→2550

 

「し、しまった………っ!」

 

 特大のダメージに吹き飛ばされて背中をしたたかに地面に打ち付けながら、今の致命的なミスに気づいて舌打ちする。ポセイドン・ウェーブを最初の攻撃に使ったのはいい。そうしなければ効果ダメージが通らなかった。だが、その次のドレインシールドは悪手でしかない。あそこは1発耐えておき、攻撃力が最も高い今の攻撃まで温存しておくべきだった。

 

「なんで………なんでこんな…………!」

「なんだ、無意識だったのかい?もっともおおかた、オイスターマイスターがやられるところが見たくなかったとかそんな理由だろうよ!それに、どんな理由にせよ後悔は今更遅いねえ、旦那。ねえ、今どんな気持ちだい?フィールドも手札もカードは0、ライフは既に残り半分。もし次のドローでブラック・ホールなんかを引いたとしても波動キャノンが処理できない限り勝つことは不可能。神禽王アレクトール………今は入ってないんだよねええ?さてと、俺はカードをセットさせてもらうさ」

「うっ……」

 

 なんでそんなことまで知ってんだ、昔僕のデッキにアレクトールが入ってたことなんて知ってる人はほとんどいないってのに。いや、これは夢だ。忘れがちだけどあくまで夢の中、細かいところにいちいち突っ込んでたらきりがない。

 

「さあ、早く最後のドローしようや旦那。それで終わればいいよ」

「ふざけるなっ!」

 

 反射的に言い返す。だけど、確かに今の僕のデッキであの布陣をどうにかできるカードは存在しない。ここでどんなカードをドローしようとも、もう何も………。

 

『その勝負、待った!』

「えっ!?」

「この声…………ようやくお出ましかい、この駄神!」

 

 大地を震わすほどの大音声が鳴り響き、足元から暗い紫色の焔が一定の形を作るように吹き出す。その姿はさながら、縦横無尽に荒海を駆けるシャチのような。僕は、この形を知っている。この炎の色を知っている。そしてなにより、この声を知っている。

 

『すまないな、遅くなって』

「チャクチャルさん!」

 

 地面からゆっくりと、僕に力をくれた地縛神が浮上する。その巨体は小学校のグラウンドをすっぽり覆い尽くすほど大きく、そして威厳に満ちている。一度聞いてみたことがあるのだが、チャクチャルさんは本来はもっと大きいらしい。あまり大きすぎるのも不便なので、基本的に若干縮めているのだそうだ。

 そのチャクチャルさんが、キッと男を睨みつける。もっともチャクチャルさんの顔に目のようなものは見えないのでそちらの方へ向き直っただけなのだが、それでもすさまじいまでの威圧感である。

 

『………まさか貴様の顔をまた見ることになろうとはな、     』

「えっ?」

 

 直前の文脈から考えるに、最後に言ったのは男の名前なんだろう。でも、なぜかそれが聞き取れなかった。何か言ったことだけは理解できたけど、何をどうやっていったのか、何文字の名前なのか、それすらもわからない。それに気づいたチャクチャルさんが、軽く舌打ちをする。

 

『ふん。名前を捨ててまで力を欲したか?昔から何一つ成長していないな、強欲にして傲慢な人間だ』

「はっはあ!なんとでも言いなよ、神さんよお。俺はお前が力をくれる、復讐させてくれるっていうからホイホイ誘いに乗ってやったんだ。なのにどうだ?シグナーとかいうふざけた奴に受けた屈辱、俺は二度と忘れねえ。俺は強くなったんじゃねえのかよ!」

「チャクチャルさん、知り合いなの?」

 

 男の剣幕に一瞬黙ったチャクチャルさん。今の会話からだいたい予想はついたけど、本人の口から確かめたかった。

 

『………あの男は、5000年前私がダークシグナーとして契約をした、いわゆる先代だ」

「ふむ。やっぱりね」

『む、驚かないのか?いや、話を聞いていればすぐにわかることか』

「うんうん。僕が聞きたいのはその後だよ。なんでそんなのが今、現代にいるわけ?チャクチャルさんまで出てくるってことは、これはただの夢じゃないんでしょ?」

『まあ、な。詳しいことは後々話すから、まずは黙って私の言うことをよく聞いてほしい』

 

 何を言い出すのかはわからないけど、なんだか妙に真剣な様子のチャクチャルさんを見て何か言うのはやめておいた。この神様がここまで真剣なんだ、こちらも真剣に聞くのが筋というものだろう。

 

「おいおい、1人と1尾で仲良く作戦タイムかい?強い奴ならまだしもそんな甘い奴に入れ込むなんて随分と人を見る目が曇ったもんだな、地縛神サンよお」

「………チャクチャルさん、昔はどんなキャラだったの?」

 

 僕にしてみれば、ややシリアスさが増してるものの割といつも通りのお方です。常にどこかすっとぼけてる食えない性格の、でもいつだってとても頼りになる神様。

 

『      、いや、その名すら捨てた先代。今の発言は聞き捨てならないな、取り消してもらおうか』

「あー?」

『ここにいる遊野清明は、私を扱うだけの力があると私が判断した………私のマスターだ。マスターへの侮辱は私への侮辱として受け取ろう』

 

 一瞬ぽかんとする。それは男、いや先代も同じだったようだ。だけど、なんだか今の言葉を聞いて視界がぼやけてきた。慌てて、チャクチャルさんに気づかれる前に涙をぬぐう。ああ、そうだ。ユーノたちは光の結社に入った。十代は行方不明。なぜか夢想も最近見かけなくなった。みんなみんな僕の前からいなくなっちゃったけど、それでもまだ僕は一人じゃなかったんだ。なにせ、こんなに心強い味方がすぐそば、具体的にはデッキの中にいたんだから。

 

『まあ、なんだ。別に私だけがそう感じているわけではない。霧の王をはじめとして、マスターのデッキの全員は1度たりとも愛想を尽かしたことなどない。マスターが耳をふさいで、私たちの声を聞かないようにしていただけだ』

 

 その補足がまた、僕に響く。みんな、ありがとう。胸の奥でそう呟くと、なんだか力が湧いてくる気がした。

 だが、それが先代にとっては気に食わないらしい。

 

「けっ、しばらく見ないうちに、随分つまんねえこと言う奴になったもんだねえ。ご立派な友情は結構だがね、旦那。アンタはもう詰んでるってことをいい加減思いだしなよ。当然、旦那が負けたら生かして返す気なんて俺にはないからね?」

「あう。ちゃ、チャクチャルさ~ん」

『そこでなぜ私を見る、マスター。よく考えてみてほしいが、ここで私をドローしたとしてもそれはどう考えても手札事故だ』

 

 あ、自分でそれ言っちゃうんだ。いやまあ確かにそうなんだけど。この局面では絶対引きたくないカードではあるけれど。

 

「じゃ、じゃあ………」

「思い出してくれ、私が初めてマスターの前に現れた日のことを。あの時のように、もう一度』

「もう一度?」

 

 初めてチャクチャルさんにあった日というと、あのカミューラとデュエルした日のことだろう。あの時は確か、本気で願ったんだ。デュエルの神様お願いします、何か逆転の一手を授けてくださいって。闇のゲームによる痛みで死にかかってて、とても本気だった。そうしたら本当に神様が来て、あとでそのことに気づいて思わず笑っちゃったっけ。

 

『すでに………すでに、仕込みはできている。あとはマスターの思いが、奴に届くかどうかに全てがかかっている』

 

 奴、とは一体誰なんだろう。それにしても、今のセリフの初めで一瞬チャクチャルさんがためらったような気がしたのが少し気になる。気のせいかもしれないけど、まるでなにかを悔やんでるような。

 でも、それも後で覚えてたら聞くとしよう。目を閉じて神経を集中し、デッキトップに手をかける。そのままカードに触れた指先に思いを乗せていると、頭の中に声が聞こえてきた。いや、声ではない。明確な言葉ではないけど、何か意志の塊のようなもの。その気配が僕に近づいてきて、そのまま僕の様子をうかがっているのがわかる。きっと、僕の思いとやらを確かめているんだろう。

 

「大丈夫。僕ならきっと、君の力を使うことができる。だから、僕に力を貸してください。僕の大切な人たちを取り返すために、僕に力をください」

 

 以前、稲石さんに言われたことを思い出す。明確な理由もないのに漠然と強くなりたいなんて言ったって、それで強くなることはできないとかなんとか。今なら、あの質問にも答えることができる。僕が強くなりたいのは、自分のためじゃない。リターンマッチ、特に喧嘩のは好きだけど復讐なんてドロドロしたのは苦手だし、そもそもこれといって憎い奴なんていない。勝ちにこだわったときに使ったあのデッキでは、三沢をはじめとしてたくさんの人を傷つけてしまった。それもまた、僕には似合わない。

 

「僕は、強くなりたい。大切な人を、今ここにいる大切な時間を守るために。僕は未来を見たい。皆が帰ってきて、また笑いあえる未来を。そんな感じの未来を手に入れるために、力を貸してください」

 

 素直な気持ちで、心に浮かんだままのことを言う。すると、それを聞いていた意志が、何か決心したかのような感情を見せる。そして、デッキトップがしだいに光りだした。最初はピンク色に近い色だったけど、どんどん赤色になっていく。いや、赤という言葉は微妙にふさわしくない。例えるならば、炎の色………それも、神々しさのある聖なる炎の色だ。

 チャクチャルさんの方を見る。コクリと、満足げに頷いた。

 

「いくよ、ドローッ!!」

 

 引いたカードは、僕の見たことのないカード。なかなか長い効果だったけど、読もうとする前にその効果の内容が頭の中になだれ込んできた。なるほど、この能力なら!

 

「僕のフィールドにはモンスターカードが存在しない」

「ああ、それがどうした!今更新しいカードを手に入れたところで、どうにかなるわけないね!」

「いいや、嬉しいのさ。僕のフィールドにモンスターが存在しないなら、このモンスターの能力が使える」

「何?場にモンスターがいないなら使える能力だって?」

 

 ここで初めて訝しげな顔、正確には訝しげな表情の口元を見せる先代。その顔に向けてにやりと笑い、手札をばっと見せつけてやる。もっとも、これだけ距離があるとよく見えないだろうけど。

 

「そうさ。僕のフィールドにモンスターが存在しない時、このカードはリリースなしで通常召喚できる!これが僕の、もう1つの神!天をも焦がす神秘の炎よ、七つの海に栄光を!時械神メタイオン、降臨!」

 

 金属の腕、金属の胴。その巨体は、チャクチャルさんに勝るとも及ばないサイズを誇る。打が何よりも印象的なのはそのサイズではなく、特徴的な顔である。全体的に鎧のような形状をしているメタイオンには首から上のパーツがなく、顔はその胴体にでっかく映し出されているような格好になっている。

 

 時械神メタイオン 攻0

 

「攻撃力0、だって?」

「その通り。だけど、このメタイオンさんはただの攻撃力0じゃない!メタイオンでカードガードに攻撃!」

 

 金属の腕をゆっくりと伸ばし、その指の先から計4本の炎の柱が噴き上がり、先代のフィールドにいた4体のモンスターを残さず清らかな炎に包む。

 

 時械神メタイオン 攻0→カードガード 攻1900

 

「させるかよっ!トラップ発動、ミラーフォー………」

「この瞬間にメタイオンの効果発動!このカードは破壊されず、バトルダメージも受け付けないよ!」

「はっはあ!なるほど、確かに壁としてはなかなかじゃないか。だけど忘れてないかい旦那、こっちにはまだ波動キャノンが残ってるんだよ!」

「確かに僕はバカだけど、そこまでどうしようもなくはないつもりだよ。メタイオンのさらなる効果発動、ケテルの大火(たいか)!戦闘後にこのカード以外のあらゆるモンスターをバウンスして、さらにその数1体につき300ポイントのダメージを与える!戻したモンスターは計4体、そしてお前のライフはもう残り900!」

「な、何!?」

 

 そして炎がおさまったとき、そこにはもう誰もいなかった。4体のモンスターは、天の炎に焼かれたのだ。

 

 ??? LP900→0

 

 

 

 

 

「勝った………ありがとうチャクチャルさん、それにメタイオン先生」

『先生?』

「うん。メタイオンさん、この効果って切り札っていうより一発逆転の奥の手って感じでしょ?ほら、時代劇とかでもよくいるじゃん。悪代官とかが『先生、お願いします』って言うと『どうれ』とか言って酒飲むのやめてゆらりと立ち上がる凄腕の人。何となくそんなイメージだから、用心棒のメタイオン先生」

『そ、そうか。まあ本人がいいならいいんじゃないか、マスター』

「うん!」

 

 そんなことを言っていると、さっきまで倒れていた先代がむくりと起き上った。

 

「おい、おま」

「ヘイヘイ、旦那。まあ今回はちょいとばかし疲れちまったし、ここはいったん退散しようかね。だがな、旦那。俺はまだ、復讐を諦めたわけじゃねえ。俺はそのためだけに力を求めたんだ。それは今でも変わってねえ、そのダークシグナーの力はまた俺に返してもらうぜ。あばよ」

 

 言いたいだけ言って、出てきたときと同じく忽然と消えた先代。僕がこの力を持っているうちは、また会うことがあるんだろうか。できれば会いたく……ない………な………あ…………。

 

「ごめんチャクチャルさん、もう寝るから話はまた明日ね………ふわぁ」

『ああ、お休み。せめて今ぐらいはゆっくり休んでくれ、マスター』

 

 それじゃあ、お言葉に甘えて。おやすみなさい。




メタイオンは清明の口にした『未来』という単語が力を貸そうとする最後のきっかけとなりました。
ZONEさんに従ってたなら、多分反応するのはこのワードかなあと。本当は『絆』も入れたかった。
どーでもいいけど用心棒のメタイオン先生、あれ私はマジでそう呼んでます。さすがに心の中でだけですが。
なお、次回からは投稿ペースがガクッと下がります。こんなんでも一応高3の受験生ですので、多少は勘弁してください。

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