遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~   作:久本誠一

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予想外に人気だった稲石VSアムナエル、あれカイザー戦終わった後のおまけで書きます。
新規ゴーストリック連中の妨害能力が凄まじくて全然架空デュエルとして映える気がしないけど、まあそういうのもたまにはいいよね。


ターン31 決戦!三幻魔~幻魔皇、ラビエル~

「ウリアが倒れ、ハモンもまた眠りにつかされた………どうやら我々が封印されている間に、人間の力は大きく進化したようだな。いや、ただの人間が我らの封印を解いた時点でそれは察するべきだったか」

 

 そう言って苦笑のような表情を浮かべる、青いマントを羽織った殉教者。なんだろう、セリフのそこかしこに何かを感じるような気がする。

 

「だがこの我、幻魔皇たるラビエルが今あやつらの仇をとろう。ウリア、そしてハモン。地獄の底か煉獄の果てかは知らぬが、せめて我がこの地上を制覇するところを見ていてくれい」

 

 今度は上を向き、まるで涙をこらえるようなポーズをとる。………うーん、この感じ。

 

「さあ、すべてをこの一戦で終わらせようではないか!」

「え、あ、えっと……ハイ」

 

 いかん、急に話を振られたせいで思わず間抜けな返事になってしまった。反省反省。

 

「「デュエル!!」」

 

「先行のドローは我が手の中にあり。来たれ、ジャイアントウイルス!」

 

 デュエルディスクによる決定を待たずに勝手にターンを始めやがったラビエルが、小さな岩ほどのサイズのでっかいウイルスを呼び出した。

 

『む、リクルーターか。まあ定番だわな』

 

 ジャイアントウイルス

効果モンスター

星2/闇属性/悪魔族/攻1000/守 100

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、

相手ライフに500ポイントダメージを与える。

さらに自分のデッキから「ジャイアントウィルス」を任意の数だけ

表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

 

「さらにカードを伏せ、我のターンはこれで終了としよう。さあ、呪われし運命の人間よ。カードを引くがよい」

「の、呪われしてやっぱこの人……人?まあいいや、調子くるうなー。ドロー!頼むよ、オイスターマイスター!」

 

 オイスターマイスター 攻1600

 

「オイスターマイスターで攻撃!オイスターショット!」

『え、攻撃すんの!?やっちまったもんはしょうがねーけど』

 

 オイスターマイスターの投げた牡蠣は、狙いたがわずジャイアントウイルスのど真ん中の核をぶち抜いて体に風穴を開けた。だが、そこからぶるぶるとジャイアントウイルスがその体を震わし、なんとそのまま体が二つに分裂した。サイズは半分になったものの、さっき致命傷を与えたことなんて嘘みたいにぴんぴんしている。

 

 オイスターマイスター 攻1600→ジャイアントウイルス 攻1000(破壊)

 殉教者―ラビエル― LP4000→3400

 清明 LP4000→3500

 ジャイアントウイルス×2 攻1000

 

「ジャイアントウイルスは不死身。一度その身が滅びようとも、輪廻の輪より蘇る」

「くっ」

 

 だ、だめだ、この中二臭い雰囲気に耐えきれる自信がない!でも、ここはこらえてまずはデュエル!

 

「僕はこれで、ターンエンド」

 

 殉教者―ラビエル― LP3400 手札:4

         モンスター:ジャイアントウイルス×2(攻)

         魔法・罠:1(伏せ)

 

 清明 LP3500 手札:5

    モンスター:オイスターマイスター(攻)

    魔法・罠:なし

 

「我のターン。手札の悪魔族カード、ダーク・リゾネーターを墓地に送ることでマリスボラス・フォークを特殊召喚する。ああ憐れなるダーク・リゾネーターよ、その身の犠牲を我は決して無駄にしないからな」

 

 マリスボラス・フォーク 攻400

 

 殉教者の手札にあったダーク・リゾネーターのカードを自分の体より大きなフォークで串刺しにして、いかにも小悪魔といった見た目の黒いモンスターがジャイアントウイルスと並び立った。うーん、特殊召喚なら使いどころはここかな?………いや、もう少しだ。もう少しだけ待とう。

 

「そして、場に存在する3体の悪魔族モンスターをリリースする」

『来るぞ!』

「出でよ、幻魔皇ラビエル!!」

 

 まあ当然というかなんというか、予想はついてたけど案の定オベリスクの巨神兵っぽい見た目の幻魔。さっき十代のエリクシーラーに一刀両断必殺神剣ー!ってやられてたあのモンスターだ。

 

『清明、あの召喚は特殊召喚だからな!』

「そうだとは思ったよ、手札からドラゴン・アイスの効果発動!同じく手札のハリマンボウを捨てて、このカードを特殊召喚!さらに捨てたハリマンボウの効果で、ラビエルの攻撃力は永続的に500ポイントダウンする!」

 

 宙に浮かんだ墓地へとつながる魔方陣から無数の針が飛び出してきて、はるか高くにあるラビエルの顔、その左目に何本も突き刺さる。不意を突かれて一瞬よろめいたラビエルが、右目に憎々しげな光をたたえてドラゴン・アイスをにらみつけた。

 

 幻魔皇ラビエル 攻4000→3500

 ドラゴン・アイス 守2200

 

「どうだ、参ったか!」

「ふ、なるほど。これこそがこの幻魔のあまりに強大な力を抑えるために天が与えたもうた受難!いいだろう、今はこの痛みに甘んじようぞ。だが見ていろ、このデュエルを我の勝利により終わらせたのちにこのような枷など打ち破ってくれる!」

「……………あんま効いてないね、ユーノ」

『どっちかっつーと聞いてないんじゃねーか?完全一人で盛り上がってるし』

「さあ、我のメインフェイズはまだ終わらない!トラップ発動、リバイバル・ギフト!このカードは、我の墓地に眠るチューナーモンスターを1体、再び現世へと解き放つ。だが我だけがモンスターを呼び出すのは不公平というものだろう。なので、お前の場にもトークンを2体ほどプレゼントしよう。遠慮せずに受け取るがいい」

 

 ダーク・リゾネーター 攻1300

 ギフト・デモン・トークン×2 攻1500

 

 殉教者の場には音叉を手にした赤い目の悪魔が、僕の場には2体の茶色いおたまじゃくしのできそこないみたいなトークンが攻撃表示で特殊召喚される。こ、攻撃表示!?しかもこの子オイスターマイスターより攻撃力低いし!

 

「さらに、ここで我の効果を使う。我はモンスターを1体リリースすることで、そのモンスター分の攻撃力をエンドフェイズまで得る!ダーク・リゾネーターよ、ふたたびその命燃やし尽くせ!」

 

 ダーク・リゾネーターが音叉を鳴らして緑色に光る3つの光の輪になり、その輪がラビエルの体を包み込んで吸い込まれていった。なんだあの演出。

 

『シンクロ召喚だな。そうかそうか、あの演出こんなところでも使い道あったのか』

「………?」

『あ、気にすんな』

 

 幻魔皇ラビエル 攻3500→4800

 

「バトル、我が唸る拳は神をも砕く!トークンに攻撃、天界蹂躙拳!」

 

 天界蹂躙拳、とはよく言ったものだ。その名のごとくあたりの空気すらも震わせながら、圧倒的な質量をもって迫る拳が棒立ちのトークンを一撃で粉砕する。そして一瞬後、これまで闇のゲームで受けてきたダメージとは比べ物にならないほどの衝撃を受けてそのまま勢いで体が後ろに吹っ飛ばされた。ぐっ、なんだこれ!?痛い、なんてもんじゃない!痛すぎてむしろ気を失う心配すらない!

 

 幻魔皇ラビエル 攻4800→ギフト・デモン・トークン 攻1500(破壊)

 清明 LP3500→200

 

『あらー………生きてるかー、清明ー』

「くっ、もうちょい心配してくれてもいいんじゃないの?」

『いやだって今のでダメになるほどやわな奴がデュエリストなわけないだろ』

 

 なんか納得してしまった悔しい。まあ、まだ、ね。まだいける、体だって動くし頭もはっきりしてる。………よし、頑張ろう。しかし今のは危なかった。ドラゴン・アイスの効果コストにハリマンボウを使ってなかったら一撃でデュエルが終わってたぐらいだし。

 

 幻魔皇ラビエル 攻4800→3500

 

「我の攻撃力はエンドフェイズに元に戻る。ターン終了だ」

「そんなわけで僕のターン!さっきのはむちゃくちゃ痛かったからね、お礼はたっぷり利子つけて返してあげるよ!フィールド魔法、アトランティス発動してギフト・デモン・トークンとオイスターマイスターをリリース、地縛神のチャクチャルさんを召喚!さらにオイスターマイスターが戦闘以外の方法で墓地に送られたから、オイスタートークンも特殊召喚ね」

 

 召喚に合わせて僕の全身にダークシグナーの証である紫のあざが走り、それと同時に地面からいくつもの古びた柱や建物跡のようなものが生えてきて辺りがみるみるうちに水に包まれていく。そしてその建物の中でもひときわ大きい神殿跡から、シャチをモチーフにしたイメージカラー紫の地縛神が悠々と泳いでやってきた。

 

 伝説の都 アトランティス

フィールド魔法

このカードのカード名は「海」として扱う。

このカードがフィールド上に存在する限り、

フィールド上の水属性モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントアップする。

また、お互いの手札・フィールド上の水属性モンスターのレベルは1つ下がる。

 

 地縛神 Chacu(チャク) Challhua(チャルア) 攻2900

 オイスタートークン 守0→200 攻0→200

 

「そのカード、かなりの力を感じるぞ。だが、どれほどの力があろうと我の攻撃力が上である以上、我を倒すことは不可能!そしてここで我の効果を使う。相手がモンスターを通常召喚したことで、場に幻魔トークンを特殊召喚だ。さあ深き闇より歩み寄れ、我が眷属の一員よ!」

 

 幻魔トークン 守1000 

 

「甘い甘い!魔法発動、アクア・ジェット!魚族モンスターのチャクチャルさんは、このカードの効果で攻撃力が1000ポイントアップする!さらに地縛神の特殊効果で、ラビエルを無視して直接攻撃!ミッドナイト・ジェットフラッド!」

『攻撃力3900のダイレクト………えげつねえマジックコンボだがむしろあっちに逆転フラグ立てさせてる気がするのは俺の気のせいか』

『確かに、今回はいつもより気合が入っているな。まあ、デュエルに関しては私は貴方を全面的に信頼しているから文句は一切ないが』

 

 地縛神 Chacu Challhua 攻2900→3900→殉教者―ラビエル―(直接攻撃)

 殉教者―ラビエル― LP3400→1400

 

 この一撃で決めるはずだったんだけど。まああっちだってだてに三幻魔のトップやってるわけじゃないからね、まだ耐える手が残っててもあんまり驚きはしない。だけど、ダメージ半減じゃなくて2000だけライフが減ってるってのはちょっと珍しいかも。何したんだろ。

 

「我は手札から闇に輝く黒き光、クリフォトンの効果を発動した。このカードを墓地に送り2000ライフを払うことで、このターンに我が受けるダメージは0になる」

「一応確認したいんだけど………要するにクリフォトンだよね?」

「うむ」

 

 一瞬の沈黙。だったら最初からそれだけ言えや。だけどそのままだとデュエルが進まないので、気を取り直してメインフェイズ2に移行する。

 

「とはいえ、することといえば………カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 殉教者―ラビエル― LP1400 手札:0

         モンスター:幻魔皇ラビエル(攻)

              幻魔トークン(守)

         魔法・罠:なし

 

 清明 LP200 手札:0

    モンスター:オイスタートークン(守)

         ドラゴン・アイス(守)

         地縛神 Chacu Challhua(攻)

    魔法・罠:1(伏せ)

 

「我のターン。再び時は満ちた、今こそ幻魔の動く時!その地縛神に攻撃せよ、天界蹂躙拳!」

「させないよ!このカードは自身の効果により、相手の攻撃対象にならない!」

「ならば、ドラゴン・アイスに狙いを定めるのみ!幻魔の深き闇の力の前に、そのように貧弱な龍など壁にすらならぬ!」

 

 巨大な拳が氷のドラゴンを一瞬で打ち砕き、その衝撃がこっちにまで伝わってくる。ダメージがないからさっきみたいに吹っ飛ぶようなことはなかったけど、それでも空気がびりびり振動するのが肌で感じられた。

 

 幻魔皇ラビエル 攻3500→ドラゴン・アイス 守2400(破壊)

 

「僕のターン、ここで決める!チャクチャルさんの効果を使い、直接攻撃を」

「待てい。たとえ光の力であろうと、闇はそれを飲み込みさらにその先へ向かう。エフェクト・ヴェーラーの効果発動、このカードを手札から捨て、相手モンスターの効果をエンドフェイズまで無効にする」

「だったらどうしようもないから、何もしないでターン終了!…………あと一撃、一撃さえ通ればこの幻魔との戦いも全部終わるってのにー」

 

 殉教者―ラビエル― LP1400 手札:0

         モンスター:幻魔皇ラビエル(攻)

              幻魔トークン(守)

         魔法・罠:なし

 

 清明 LP200 手札:1

    モンスター:オイスタートークン(守)

         地縛神 Chacu Challhua(攻)

    魔法・罠:1(伏せ)

 

「我のターン、見える、また一歩破滅への時が近づいているのが見える!貪欲な壺を発動、墓地のジャイアントウイルス3体、マリスボラス・フォーク、ダーク・リゾネーターをデッキに戻し、カードを2枚引く!そして今引いた中から、終末の騎士を召喚する。己が味方さえも闇の底に引きずり落とす呪われし剣士よ、今こそその力解き放て!デッキからトリック・デーモンを墓地に送る!」

 

 終末の騎士

効果モンスター

星4/闇属性/戦士族/攻1400/守1200

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、

デッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

 

 全体的にまっくろな服装の戦士が腰の剣を抜き、おもむろに殉教者の方を振り返ってそのデュエルディスクに剣を突き刺す。そしてその剣を引っこ抜くと先端に刺さっていたトリック・デーモンのカードを手で引きちぎるように取り出してそこらへんに捨ててしまった。やってることはただの墓地肥やしなのに、なんでこんなえぐい演出なんだろう。

 

「さらにトリック・デーモンの効果がこの時発動する。このカードが墓地に送られた時、デーモンカードをデッキから手札にサーチ………死を呼ぶ悪魔の行進に乗り、マッド・デーモンが手札に加わる」

『ここでマッドか……ちょいとめんどくさいな、油断するなよ清明』

「りょーかい。まあ、今のところ見てるだけなんだけどね」

「そして、死のマジック・ボックスを発動。地縛神とやら、この死の運命からはたとえ貴様であっても逃れきれん!Chacu Challhuaを破壊し、幻魔トークンを送り込む!」

 

 二つの細長い箱にチャクチャルさんとずっと放置されていた幻魔トークンがそれぞれ入り込むと、チャクチャルさんの入っている方の箱がどこからともなく飛んできた無数のナイフで串刺しにされた。思わず目を覆いたくなるようなむごい光景、だけど………。

 

『幻魔とやら、一つ聞かせてもらおう。仮にも邪神と呼ばれたこの地縛神が、このような児戯にも等しい仕掛けごときに屈するとでも本気で思っているのか?』

 

 串刺しになった箱のふたが開き、無傷のチャクチャルさんがその巨体を再び水中に舞わせる。ふー、危なかった……。だけどチャクチャルさん、今助けたの僕ですよね。この伏せカード、安全地帯を発動してさ。もっともここでチャクチャルさんがやられたらこっちの戦線は一瞬で崩壊するんだから、守らないなんて選択肢はあり得ないわけだけどさ。多分本人もそれがわかってて言ってるんだからずるいなぁ。

 

 安全地帯

永続罠

フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターは相手のカードの効果の対象にならず、

戦闘及び相手のカードの効果では破壊されない。

また、そのモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃できない。

このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。

そのモンスターがフィールド上から離れた時、このカードを破壊する。

 

「………マジック・ボックスの効果でモンスターが破壊できなかった場合、送りつけも行われない。攻撃表示の終末の騎士を贄とし、我の攻撃力を上げる。が、これだけでターンエンドだ」

 

 幻魔皇ラビエル 攻3500→4900→3500

 

「僕のターン!安全地帯のデメリット効果で、チャクチャルさんのダイレクトアタック効果はもう使えない、か」

 

 さて、どうしようかな。このままラビエルを攻撃すれば、今の攻撃力3900のチャクチャルさんならギリギリ力押しで倒すこともできる。だけど、ここはあえて攻撃しないで効果を使うのも一つの手だろう。そうすれば1200のダメージが確実に通る。ラビエルを戦闘破壊して400ダメージをとるか、攻撃を放棄して1200バーンをとるか。まあ、ラビエルなんてパワー馬鹿がいつまでも残ってると正直邪魔でしょうがないし、攻撃してさくっと退場願おうかな。

 

「チャクチャルさん、ラビエルに攻g『あ・ほ・かお前はあああぁぁっ!!』えぇー!?なんでっ!?」

 

 意気揚々と攻撃宣言をしようとした瞬間、全力でユーノがそれを止めに来た。なんでなのさ、僕だって安全地帯を自分のモンスターに使うデメリットは知ってるのに。次にサイクロンなんかを引かれたら、もうこれ以上チャクチャルさんを守る手段はない。だから今のうちにラビエルだけでも倒しておけば………。

 

『貴方の決断はできる限り尊重したいが、さすがに今のは擁護できないな。というか闇のゲームにおいて勝負を捨てるような所業、ダークシグナーの契約者としてむしろ私が許さない。こんな所で死なれては、生き返らせた甲斐がない』

「チャクチャルさんまで、そんな」

『よしわかった、一から説明してやるからよーく聞け。まずお前がここで攻撃するとして、そのあとどうする?』

 

 言われて、今の手札に目を落とす。そこにあるのは魔法カード、特にわざわざ伏せるようなカードではない。

 

「まあ、そのままターンエンドかな」

『そうだろうそうだろう。で、そうしたら殉教者(あいつ)は何をする?』

「安全地帯が破壊できるなら破壊して、それから……」

『ヒントをやろう。マのつくカードだ』

 

 マのつくカード?あれ、なんかついさっきそんなカードを見たような見なかったような。

 

『ハイ時間切れ。正解はさっきサーチしてたレベル4貫通持ちデーモン、マッド・デーモンを召喚する、だ』

「マッド・デーモン…………ああっ!そういうこと!」

 

 そこまで言われてやっとわかった。僕の場にはオイスターマイスターをリリースした時に出した、アトランティスの効果込みでも攻守200のオイスタートークンが守備表示で残り続けている。そしてマッド・デーモンの攻撃力は1800で、僕のライフは残り200。となると、その攻撃が来れば僕の負けだ。完全に目先のターンでのボード・アドバンテージしか見えてなかったけど、それじゃあ元も子もない。なら、確かに攻撃は悪手か。だったら!

 

「チャクチャルさんを守備表示に変更、そして効果発動!このカードでの攻撃を放棄することで1ターンに1度、相手に守備力の半分のダメージを与える!ダーク・ダイブ・アタック!」

「むうっ!?直接攻撃の次は効果ダメージとは、神を名乗る割にずいぶんと小癪な手を使うものだ」

『さすが幻魔の皇、などと偉そうなことを言っておきながらすることはひたすら物理で殴るのみのパワー馬鹿、私のような神とは考えのレベルが違う』

 

 いやだからそこ、勝手にケンカしないの。今デュエルしてるんだから。

 

 地縛神 Chacu Challhua 攻3900→守2400

 殉教者―ラビエル― LP1400→200

 

「よしっ、やっとライフが並んだ。これでターンエンド」

 

 殉教者―ラビエル― LP200 手札:1

         モンスター:幻魔皇ラビエル(攻)

              幻魔トークン(守)

         魔法・罠:なし

 

 清明 LP200 手札:2

    モンスター:オイスタートークン(守)

         地縛神 Chacu Challhua(守・安地)

    魔法・罠:安全地帯(地)

 

「我のターン。このターンで決めようぞ、手札のマッド・デーモンを召喚!」

 

 マッド・デーモン

効果モンスター

星4/闇属性/悪魔族/攻1800/守 0

このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、

その守備力を攻撃力が超えていれば、

その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードが攻撃対象に選択された時、

このカードの表示形式を守備表示にする。

 

「唸れ、マッド・デーモン!ボーン・スプラッシュの一撃で、オイスタートークンを粉砕せよ!」

 

 威勢よく召喚したマッド・デーモンに、攻撃の指示を出す殉教者。だがマッド・デーモンは、まるで何かにおびえるようなそぶりを見せていつまでたっても動こうとしない。それを訝しんだ殉教者がもう一度指示を出すが、やはりマッド・デーモンの足は前に進もうとしなかった。もっとも、それも無理はないだろう。守備表示のときのチャクチャルさんの放つ圧倒的なカリスマとか威圧感とかなんかそんな感じのは、それを味方にしてるこっちですら並大抵じゃあないプレッシャーを感じるんだ。それを真っ向から受けたりしたらまさに蛇ににらまれたカエル、動くことなんてできるわけがない。

 

『いや、なんかそんな感じのて。もうちょいなんかカッコいい言い回しとかあるだろーよ』

「………ほっといてちょーだい。チャクチャルさん、もう一つの効果発動!チャクチャルさんが守備表示でいる限り相手のバトルフェイズは封印状態、つまりラビエルだろうとデーモンだろうと、この効果の前で攻撃をすることは不可能だよ!」

 

 もっとも、この布陣だってもし今殉教者の引いたカードがサイクロンとかの安全地帯を破壊することができるカードだったら、そこでおしまいなことには変わりない。バトルフェイズを行わない限りメインフェイズ2には移行しない………それはつまり、攻撃宣言こそあったもののそれが通用しない以上、いまだ殉教者のメインフェイズ1であることを意味している。

 あの手札にある1枚のカード。その内容によっては、このターンで勝負がつく。

 

「…………カードをセットし、ターンエンドだ」

 

 やった、そう思った。これで砂塵の大竜巻とか飛んできたら泣くしかないけど。とにかく、僕のターンだ!

 

「ドロー!チャクチャルさんの効果をもう一回使って………」

「なあ、人間よ。名はなんという」

 

 まったく、今日はよくセリフを止められる日だ。えっと、人間ってのは多分僕のことなんだろう。むしろこの流れでそうじゃなかったらびっくりだわ。

 

「遊野清明。覚えといてね、ラビエル」

「ああ、覚えておこう。だがな、一つだけ言わせてくれ。お前は人間のために戦ったのかもしれんが、我にもふたたび封印されていった仲間の仇討ちという大義がある」

「それで?」

 

 言いたいことはわからないでもないけど、だからと言って今更勝ちを譲るつもりはさらっさらない。ここまでやっといて結局負けちゃって『20XX年、世界は幻魔の炎に包まれた―――――』なんてオチは御免こうむりたいしね。

 

『高攻撃力で敵を外側から叩きのめすサイバー流とトラップ封じで内側からデッキコンセプトを破壊するサイコ流が一子相伝で受け継がれていきそうなオチだな。まあ冗談言ってる状況でもねえか、なーんか怪しいんだよなあ、あの伏せカード。止める手段がないってのがまたイラッとくるな』

 

 そう言われて、ちょっとだけ緊張する。やだな、変なこと言わないでよユーノ。ここでチャクチャルさんの効果を使う。1200のバーンをもう一回与える。僕が勝ってハッピーエンド。それでいいじゃない。………ねえ?

 

「つまり、だ。我にも最後に残った幻魔皇としての意地がある。この勝負、たとえ差し違えようとただ負けるようなことにはしない!リバースカードオープン、破壊指輪!我はフィールド上に存在する我自身を対象にしてこのカードを発動する!」

『………っ!!』

 

 ラビエルが右手で天を指さすと上空の黒雲から雷がその人差し指に落ち、そのまま指にまとわりついて指輪のような形になる。そして、その指輪を中心として、フィールドのすべてを吹き飛ばすような爆発が起きた。

 

 破壊指輪(はかいリング)

 通常罠

自分フィールド上の表側表示モンスター1体を破壊し、

お互いに1000ポイントダメージを受ける。

 

「そん、な………」

「言っただろう、たとえ差し違えようともただ負けるわけにはいかないと」

 

 殉教者―ラビエル― LP200→0

 清明 LP200→0

 

 負けた。いや正確には引き分けだけど、闇のゲームでライフが0になったことに変わりはない。魂を抜かれるってのはどんな感じなんだろうとぼんやり思った瞬間、猛烈な勢いで体中の力が抜けてきた。腕を上にあげることができない。足がふらつき、地面に崩れるのを止めることができない。今何か叫んだのは、ユーノだろうかチャクチャルさんだろうか、それともほかの誰かだろうか。あるいは、誰も何もしゃべってなんかいなかったのかもしれない。どちらにせよどんどん耳が遠くなってきていて、もう何も聞こえない。目もかすんできて、視界に霧がかかったように何も見えなくなった。眠い、眠くてしょうがない。世界の運命とか幻魔とか、もう全部どうでもいいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おやすみなさい。




ユーノ『………別にこれで最終回じゃないぜ?さ、今日の最強カードだ。幻魔皇ラビエル、悪魔族モンスター3体をリリースすることでのみ場に出せる特殊召喚モンスター。4000と高い攻撃力を持つうえに、ターン1回とはいえリリースしたモンスターの攻撃力を加算と某地球のヒーローみたいなことをやってのける打点馬鹿。相手がモンスターを通常召喚するたびに攻守1000でシンクロ、リリース制限が一切ない使い勝手のいいトークンを出すこともできるな。ただ、今のモンスター除去がいっぱいなカードプールで活躍させんのは厳しいかもなあ。特殊召喚モンスターだから進撃の帝王やら帝王の凍志やらの対応範囲にも引っかかんないし。出したらそのターンで確実に落とす、ぐらいの意気込みで使おうぜ。なんだかんだ言って攻守の固定値は悪魔族の中でもトップクラスだから、少なくとも一回攻撃を通せばかなりのダメージは期待できるはずだ。ほかに主な使い方としてはダーク・ガイアの素材ってのがあるけど、この役目もネオスフィアに取られがちだから………なあ?』

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