遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~   作:久本誠一

30 / 136
ついに遊戯王GX ~水と氷の交響曲~も一期ラスボスですよ一期ラスボス。もうね、ここまで来るのにどんだけ時間かかってんだっていう。


ターン29 聖戦!三幻魔~神の炎、ウリア~

「ちょ、万丈目ー!?どこ行っちゃうのさー!!」

「万丈目サンダー!そ、そんなこと俺に聞くな、鍵が勝手に………うおおっ!?」

 

 七星門の鍵に引っ張られながらも律儀に返事をしようとした万丈目の体が、鍵に引っ張られるような形で宙に浮いていく。と、さすがにそこで首に引っ掛けていた鍵の紐に限界が来たらしくぶちっとちぎれて万丈目を地面に落とす。おもりのなくなった鍵はさらにスピードを上げて飛んで行った。

 

「どうしてこうなったのさ………」

 

 思わずそう呟いて、地面でピクピクしてる万丈目に一発蹴りを入れながら鍵が飛んでいくのをただ茫然と眺めていた。大体これというのも、タイミング的に考えればたぶん万丈目が悪いんだ。あと悪乗りした吹雪さん……いや、10JOINさんと呼ぶべきか。大体あの人だって黙って寝てりゃ普通にイケメンだったのに、なんであんな残念かつ面白愉快な人になってるんだろう。でもモテてるところが妬ましい。

 

『それ、お前にもある程度同じこと言えるけどな。大人しくしてりゃ背も顔もそこそこだってのに、朝早く起きて畑に水撒いて雑草抜いてから投網をぶん投げに海まで行く高校生ってどんなんだよ』

「そう思うならなんか手伝ってくんない?」

『いや、俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな』

 

 じゃあ何が言いたいんだろう。いや、今はとりあえず万丈目だ。大体こいつが七星門の鍵を持ち出したりするからいけないんだ。明日香に惚れたってのは別にいい。それは個人の自由だし、一言でも言ってくれれば応援だってしただろう。そもそも、僕だってその点では人のことが言えた身分じゃない。問題なのは、吹雪さんとよくわかんない同盟を結んで僕を含めて人様に迷惑かけまくったことだ。

 

「………とりあえず万丈目、今日の夕飯は絶対作ってやんないからね」

 

 何か足元でもごもご言ってたけど、無視。無視ったら無視。完全に余談だけど、大徳寺先生がいなくなってから僕の忙しさは数倍に跳ね上がった。寮監としてあの人がやっていた雑用をまさかファラオに押し付けるわけにもいかず、十代も万丈目も翔も隼人も今一つこういったことを任せるには信用できなかったので僕が引き受けてたらいつの間にか予算の交渉にまで駆り出されるようになったのだ。僕、まだ生徒なんだけどなあ。

 

「っと、そんなことより鍵だ鍵!」

 

 慌ててさっき鍵の飛んで行った方を見るが、時すでに遅く何も見えない。えーと、えーと……

 

「こ、こっちかな!」

 

 さっきまでの方角からある程度の見当をつけて、その方向に走り出す。ああ、これ間違ってたらどうしよう。三幻魔の復活なんてシャレになんない。

 

 

 

 

 

 タッタッタッ。

 

『……なあ、清明さんや』

 

 タッタッタッ。

 

『もしもーし、清明ー?』

 

 タッタッタッ。

 

『いい加減にしろこの駄ークシグナーがっ!!』

「うおあっ!?」

 

 無視され続けたことにイラッと来たらしいユーノが走っていた僕の体のコントロールを奪い、無理やり足をもつれさせる。とっさのことで受け身もとれず、顔面から地面に叩き付けられた。

 

「何すんのいきなり!」

『何やってんだお前はー!』

 

 さすがに怒って声を張ると、その1,3倍くらい大きな声で怒鳴り返された。うるさい。

 

「仏の顔も三度までって言うでしょ!?せめて3回は話しかける努力しようよ!」

『それは仏さんの場合だろ!俺はそんなに人間ができてないっつーの!』

「仏さんには違いないでしょうがこの幽霊!で、何、何の用?」

 

 鼻が痛いのを無視してこんなことをした理由を聞くと、実に簡潔なお答えが返ってきた。

 

『三幻魔はあっちだばか』

 

 びしっと彼が指差した方向を見ると、見るからに禍々しい黒雲がいつの間にか立っていた謎の柱の周りを取り囲んでいた。つまり、僕はこれまで見当違いの方向に走ってたと。

 

「先に言ってよユーノっ!」

『お前のせいだかんな!?』

 

 わーわーと罪をなすりつけながら現場に急行する僕らの姿は、さぞかし情けなかったろうと思う。

 

 

 

 

 

「皆っ!!」

「どこに行ってたんだ、清明!お前の代わりに十代がもうデュエルを始めてるんだぞ!」

 

 ようやく駆けつけた時には、いったい何があったのかすでに三幻魔と思しきオーラを放つ3体のモンスターが場に出ていた。そしてぼろぼろの十代と、本気でいったい何があったのか上半身裸のマッチョな変態がデュエルを繰り広げていた。だけど、この分なら十代が勝ちそうだ。というか、ちょうど十代が最後の切り札を使った瞬間に間に合ったらしい。

 

「エリクシーラーで幻魔皇ラビエルに攻撃!フュージョニスト・マジスタリー!!」

 

 E・HERO エリクシーラー 攻14500→幻魔皇ラビエル 攻4000(破壊)

 変態 LP0

 

 そして十代曰く『究極のE・HERO』であるエリクシーラーの一撃がちょっとオベリスクっぽい幻魔を縦に一刀両断し、デュエルは終わりを告げた。が。

 

「雲が、晴れない……?」

『しつこいな。私たち地縛神もたいがいだったが、少なくとも負けた時はさっさと封印されたぞ』

 

 若干呆れた風にチャクチャルさんがつぶやいた瞬間、十代とデュエルしていた変態のデュエルディスクから赤、青、黄の三本の光が飛び出した。その光は一度大空高くに上っていき、すぐに折り返してきて地面に衝突して爆発を起こした。そしてできた3つのクレーターの中から、それぞれ人型をした『何か』が姿を見せる。

 

「って、何!?何!?」

「「「さあ、第2ラウンドと洒落込もうか」」」

 

 きれいに声を合わせ、寸分たがわず同じ姿にそれぞれ赤、青、黄のマントを羽織ったその姿は、まるで悪魔のようだった。

 

「あの姿……まるでさっき影丸理事長が使っていた幻魔の殉教者トークンじゃないか」

「トークン!?」

 

 僕がいない間に、一体何があったんだろう。幻魔って実はトークンテーマだったんだろうか。しかし殉教者ってまた物騒な名前だこと。いまだに状況が半分ぐらいしか呑み込めてない僕がそんなことを考えていると、三沢が思わずといった風に声を上げた。

 

「ちょっと待て!第2ラウンドだと?一体どういうことだ!」

「そもそも、この人間に我々の開放など期待してはいなかった。この人間が強い欲望を持ち、我々にとって都合がいい地位を持つ存在だったために精霊の知識を与え、この島で闇のデュエルを行うことで力を我々に送り届けさせるよう仕向けただけのことだ。もっとも、先ほどの精霊使いとのデュエルの間にだいぶ調子を取り戻すことができたのはうれしい誤算だがな。ここまでやってくれるとは思わなかった」

 

 えっと………つまり、どゆこと?

 

「我々とデュエルモンスターズでもう一度勝負してもらう。その戦いで我らが勝利し、敗者の魂を取り込むことで今度こそ我々は完全な形で復活することができるからな」

「要するに、結局はデュエルってことだな!なら、俺がもう一回戦って……あ、あれ?」

 

 地面にへたり込んでいた十代が再び相手をしようとして立ち上がるも、さっきまでやっていた闇のゲームによるダメージが大きかったのか膝に力が入らなかったらしく再びへたり込む。これ以上何かやらせるのは危険、か。

 

「まずは私からだ。さあ、この神炎皇ウリアの贄となる者は誰だ?」

 

 そう言いながら、右端のクレーターから赤マントの殉教者が登ってくる。すぐ前に出ようとした僕を手で制して、三沢が前に進み出た。

 

「三沢!」

「安心しろ。神炎皇ウリア………あのカード単体の相手なら、この中にいる誰よりも俺が有利だ。それに、俺はまだ七星門の鍵を奪われていなかった。あれはただの道具にすぎなかったそうだが、それでも俺にはここで戦う権利があるはずだ」

 

 そして、こちらにいつも通りの笑顔を向けてくる三沢。大丈夫、三沢は強いんだ。ウリアってのがどんなカードかは知らないけど、あそこまで言うなら何か勝算があるんだろう。

 

「三沢、といったな。いいだろう、いざ勝負だ!」

 

「「デュエル!!」」

 

「先行は我がもらう、ドロー!我はカードを5枚伏せ、カードカー・Dを召喚!そのまま効果を発動し、ターンエンドだ」

 

 いきなりカードをガン伏せした殉教者が呼び出したのは、夢想曰くDは髑髏のDな平べったい車。通常召喚してリリースするとカードを2枚ドローできるが、その代償としてそのターンのエンドフェイズまで飛ばされてしまう。モンスターのない今なら三沢の攻め放題だが、5枚も伏せられたらさぞかし不気味なことだろう。

 

「俺のターン、ドロー!よし、魔法カード、簡易融合を発動!1000ライフポイントを払い、エクストラデッキから朱雀を特殊召喚!」

 

 簡易融合(インスタント・フュージョン)

通常魔法

1000ライフポイントを払って発動できる。

レベル5以下の融合モンスター1体を

融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、

エンドフェイズ時に破壊される。

「簡易融合」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 三沢 LP4000→3000

 朱雀(朱雀) 攻1900

 

「さらに俺はこのモンスターをリリースし、氷帝メビウスをアドバンス召喚!そして効果発動、フリーズ・バースト!お前の場の両端の伏せカードを破壊だ!」

 

 赤い髪の着物を着た戦士は速攻でリリースされ、代わりに僕も愛用する氷の名を持つ帝………アドバンス召喚時に2発までサイクロンをぶちかませるメビウスが姿を見せ、素早く2本のつららを殉教者の場のカードめがけて打ち出す。

 

「なら、まず1枚をチェーン。永続罠、女神の加護。この効果により我は、3000のライフを得る」

「くっ、やはり永続トラップ……だが、そのカードにはデメリットもある。結局は何も変わらないぞ!」

 

 殉教者―ウリア― LP4000→7000

 

 三沢の言葉は正しい。女神の加護は発動するだけで3000という破格のライフを回復できるが、そのリスクとして破壊された場合に3000のダメージを受けてしまう。どやっ、これぐらいは僕だって知ってるのさ。

 

『そういや翔が言ってたけど、ちょうど3日前の授業にライフ回復に関しての講義があったらしいなー?』

 

 く、ばれてたのか。せっかくユーノを見返してやれるかと思ったのに。でも実際、ここで女神の加護を発動するメリットは何もないはず。なのに、なんでわざわざチェーンしたんだろう?

 

「そして我は、こちら側のカードもチェーンする。トラップカード、幻蝶の護り」

 

 殉教者がもう1枚のカードを発動した瞬間、色とりどりの無数の蝶が一斉にメビウスの周りを飛び回ってその視界を攪乱する。目の前を動き回る原色に目を回したのか、たまりかねたようにメビウスが片膝をついた。

 

 幻蝶の護り

通常罠

フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを表側守備表示にする。

このカードを発動したターン自分が受ける全てのダメージは半分になる。

 

 氷帝メビウス 攻2400→守1000

 殉教者―ウリア― LP7000→5500

 

「なるほど、守りも万全だったわけか。手札にサイクロンか何かがあれば神炎皇ウリアの召喚はさせなかったんだが……カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

 殉教者―ウリア― LP5500 手札:2

    モンスター:なし

     魔法・罠:3(伏せ)

 

 三沢 LP3000 手札:2

   モンスター:氷帝メビウス(守)

    魔法・罠:2(伏せ)

 

「我のターン、ドロー。リバースカード三枚を同時に発動。死霊ゾーマ、棺桶売り、死の演算盤」

「やはり、か……!」

 

 そういう趣味なのか、えらくおどろおどろしい名前のカード3枚を一度に発動させる殉教者。そしてそのうちの1枚、死霊ゾーマは攻撃力1800のトラップモンスター。これで上級モンスターのアドバンス召喚も視野に入れることができるようになってしまったわけだ。

 

「そして、この3枚の永続罠を墓地に送る。出でよ我が分身、神炎皇ウリア!」

 

 と思ったけど別にそんなことはなかった。3枚のカードが同時に燃え上がり、立ち上った3つの火柱が絡み合って一つの炎の竜の姿になる。そしてその炎の中からまるでデュエルキング武藤遊戯さんも愛用した神のカードの一つ、オシリスの天空竜にも似た姿の赤い竜が静かな威厳を漂わせながらその巨体でメビウスと三沢を見下ろした。そうか、『永続トラップ3枚』なんてけったいな召喚条件を持つカードだから三沢もさっきエンドフェイズのときにあそこまで警戒してたんだ。

 

「ウリアの攻撃力は、我の墓地の永続トラップ1枚につき1000ポイントアップする。今我の墓地にある永続トラップは女神の加護、死霊ゾーマ、棺桶売り、死の演算盤の4枚。したがって攻撃力は4000だ!」

 

 神炎皇ウリア 攻0→4000

 

「そしてその効果、トラップディストラクション!相手の場の魔法、罠カードを1ターンに1度だけ、そのカードおよび他の魔法、罠カードの効果を発動させることなく破壊させる!」

 

 顔に二つある口の上にある方を開き、そこから強烈な衝撃波を放つウリア。三沢がせっかく伏せたカードも、発動すらさせずに破壊してしまった。

 

「そして氷帝メビウスに攻撃、ハイパーブレイズ!」

 

 今度は下の口が開き、火炎放射が一瞬でメビウスの体を灰にする。さっき幻蝶の護りで守備表示になっていたから三沢へのダメージはないのが唯一の救いだろう。

 

 神炎皇ウリア 攻4000→氷帝メビウス 守1000(破壊)

 

「我はカードを伏せ、ターンエンドする」

「俺のターン、ドロー。ふむ、ハイドロゲドン召喚!」

 

 三沢が召喚したのは、ウォーター・ドラゴンを形作る一角となる水素のハイドロゲドン。定番のアタッカーではあるけど、この状況でウリアの相手をするにはあまりにも攻撃力が低い。

 

 ハイドロゲドン 攻1600

 

「さらに速攻魔法、月の書発動!このカードの効果で、お前の神炎皇ウリアを裏守備表示にする!」

「何!?」

 

 そうか、ウリアの効果で上がっていくのはあくまでも攻撃力だけ。守備表示にしさえすれば、その数値は0!それに………

 

「ハイドロゲドンで攻撃、ハイドロ・ブレス!」

 

 ハイドロゲドン 攻1600→???(神炎皇ウリア) 守0(破壊)

 

「おのれ、よくも我が分身を!」

「だがそれだけじゃない、モンスターを戦闘破壊したハイドロゲドンの効果発動!デッキからもう1体、ハイドロゲドンを特殊召喚する!」

 

 ハイドロゲドン 攻1600

 

 そう、ハイドロゲドンにはこの特殊能力がある。確かにこの方法なら、ウリアを処理しつつもダメージを叩き込むことができる。

 

「今呼び出したハイドロゲドンでダイレクトアタック!ハイドロ・ブレス!」

 

 ハイドロゲドン 攻1600→殉教者―ウリア―(直接攻撃)

 ウリア LP5500→3900

 

壁となるモンスターがいない状態で、まともに濁流を受ける殉教者。だがその一撃で冷静さを取り戻したのか、さっきまでとはうって変わった低めのテンションになった。

 

「それで終わりか?」

「あ、ああ。メイン2にカードを1枚伏せて永続トラップ発動、ガリトラップ―ピクシーの輪―」

 

 三沢の発動したピクシーの輪により、2体のハイドロゲドンが光り輝く輪に包まれる。これで……えっと、どうなるんだっけユーノせんせー。

 

『ウリアが攻撃できないとだけ覚えとけ』

「なるほど、つまりロックパーツなわけね。じゃあ、あっちの伏せは永続トラップを破壊から守る宮廷のしきたりってとこかな」

『さあ、な』

 

 ガリトラップ―ピクシーの輪―

永続罠

自分フィールド上にモンスターが表側攻撃表示で2体以上存在する場合、

相手は攻撃力の一番低いモンスターを攻撃対象に選択する事ができない。

 

 殉教者―ウリア― LP3900 手札:1

    モンスター:なし

     魔法・罠:なし

 

 三沢 LP3000 手札:0

   モンスター:ハイドロゲドン×2(攻)

    魔法・罠:ガリトラップ―ピクシーの輪―

         1(伏せ)

 

「我のターン、カードを2枚伏せてターンエンドだ」

「もしもう一枚ウリアのカードがあったとしても、またトラップを3枚準備する前に倒させてもらう!2体のハイドロゲドンで一斉攻撃、ハイドロ・ブレス!」

 

 ハイドロゲドン 攻1600→殉教者―ウリア―(直接攻撃)

 ウリア LP3900→2300

 ハイドロゲドン 攻1600→殉教者―ウリア―(直接攻撃)

 ウリア LP2300→700

 

「これでターンエンドだ」

 

 殉教者―ウリア― LP700 手札:0

    モンスター:なし

     魔法・罠:2(伏せ)

 

 三沢 LP3000 手札:1

   モンスター:ハイドロゲドン×2(攻)

    魔法・罠:ガリトラップ―ピクシーの輪―

         1(伏せ)

 

 これは闇のデュエル。いくらなんでも一度に3200のダメージを受けたんだから人間ならそのまま気を失ってもおかしくないくらいの痛みを感じているだろうに、殉教者はその名の通り神のためにその命を平然と使っているのだろうか、まるで痛みを感じていないかのように立ったままでいる。そもそも人間じゃないんだろうけど。

 

「ドロー。モンスターをセットして、我はターンエンドだ」

「くっ……怯んでいる暇はない!カードを伏せて手札のモンスター、オキシゲドンを召喚!そしてバトル、まずはハイドロゲドンで伏せモンスターを攻撃!ハイドロ・ブレス!」

 

 オキシゲドン 攻1800

 

 見るからに怪しい伏せモンスターだが、リバース効果もちならまだここで戦闘破壊した方がましだ。僕と同じ結論を三沢も出したらしく、ちょっと嫌そうな顔をしながらもハイドロゲドンのブレスをぶつけさせる。守備力の高い壁モンスターなら反射ダメージを受けるだけで済んだんだけど、案の定そのモンスターはあっさりと破壊された。

 

 ハイドロゲドン 攻1600→??? 守600(破壊)

 

「我のモンスターはメタモルポット、そのリバース効果によりお互いカードを5枚ドローする」

「あー、やっぱり………」

『まあ定番だな。だけどやっぱりこの土壇場で引く運命力って恐ろしいわ』

「だが、こっちもハイドロゲドンの効果発動だ。モンスターを戦闘破壊したので、さらにもう一体特殊召喚!」

 

 ハイドロゲドン 攻1600

 

 これで殉教者の手札は5枚に増えたけど、それは三沢も同じこと。それに三沢の場には、まだ動いてないモンスターが3体もいる。この中でどれか一つでも攻撃が通れば!

 

「ハイドロゲドン2体目で攻撃!ハイドロ・ブレス!」

「この瞬間我の手札からモンスターカード、護封剣の剣士を特殊召喚する。そしてその効果で、ハイドロゲドンは返り討ちだ」

 

 光の剣を両手に持った二刀流の剣士がハイドロゲドンのブレスの前に立ちはだかりその剣を一閃すると、俗に言う波動斬りのような光の衝撃波が起こってそのブレスごとハイドロゲドンの体を両断した。

 

 護封剣の剣士

効果モンスター

星8/光属性/戦士族/攻 0/守2400

相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。

このカードを手札から特殊召喚する。

さらにこのカードの守備力がその攻撃モンスターの攻撃力より高い場合、

その攻撃モンスターを破壊する。

また、フィールド上のこのカードを素材として

エクシーズ召喚したモンスターは以下の効果を得る。

●このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。

 

「守備力2400………ならば、もう1枚カードを伏せてターンエンドだ」

 

 殉教者―ウリア― LP700 手札:5

    モンスター:護封剣の剣士(守)

     魔法・罠:2(伏せ)

 

 三沢 LP3000 手札:4

   モンスター:ハイドロゲドン×2(攻)

         オキシゲドン(攻)

    魔法・罠:ガリトラップ―ピクシーの輪―

         2(伏せ)

 

「我のターン、死者転生を発動。手札を1枚捨てることで墓地のモンスターカードを1枚手札に戻す。我はこの効果で、無論神炎皇ウリアを手札に。さらにカードを3枚伏せターンエンドだ」

「俺のターン!守備力2400の護封剣の剣士を突破するためには………いや、やめておこう。オキシゲドンを守備表示に変更してターンエンドだ」

 

 オキシゲドン 攻1800→守800

 

「我のターン、ドロー!永続トラップ3枚発動、デスカウンター、倍返し、反撃準備。そしてこの3枚をリリースし再び顕現せよ、神炎皇ウリア!」

 

 ついに3枚のトラップの発動を許してしまい、再び召喚されるウリア。だけど、その禍々しさというかカリスマというか覇気というか、それはさっきまでいたウリアとは比べ物にならなかった。まあ攻撃力が3000も違うんだ、無理もないことなんだろう。どうでもいいけど今ウリアの召喚コストにしたトラップ、あれ明らかに狙ってやってるよね。

 

 神炎皇ウリア 攻0→7000

 

「ガリトラップ………いや、貴様から見て一番右の伏せカードを破壊だ!トラップ・ディストラクション!」

「残念だったな、ここでガリトラップではなくこのカードを狙うことは想定済みだ!今破壊されたカード、荒野の大竜巻の効果発動!このカードが破壊された時、場の表側カード1枚を破壊する!俺が破壊するのはもちろん、神炎皇ウリア!」

 

 ウリアの衝撃波が破壊したカードは、三沢のブラフだったようだ。激しくうねる砂の竜巻が、赤い竜の姿を飲み込む。

 

 荒野の大竜巻

通常罠

魔法&罠カードゾーンに表側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。

破壊されたカードのコントローラーは、

手札から魔法または罠カード1枚をセットする事ができる。

また、セットされたこのカードが破壊され墓地へ送られた時、

フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。

 

「どれほど攻撃力を上げたところで、あくまでも三幻魔はただのモンスターカード。攻略の道は必ずある……む?」

 

 砂嵐が収まったそこには、何事もなかったかのようにそびえる赤い幻魔がいた。そんな、確かに荒野の大竜巻が命中したはずなのに。 

 

「三沢大地、どこまでも忌々しい男よ。だが、今度は我のほうが一枚上手だったようだな。永続トラップ、暴君の威圧………我はこのカードを、護封剣の剣士をリリースすることで発動していた」

 

 暴君の威圧

永続罠

自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースして発動する。

このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上に表側表示で存在する元々の持ち主が自分となるモンスターは、このカード以外の罠カードの効果を受けない。

 

「オキシゲドンに攻撃!ハイパーブレイズ!」

 

 そしてバトルフェイズに入り、放たれる火炎放射がオキシゲドンを一瞬で焼き尽くす。するとそのオキシゲドンが、完全に焼き尽くされる一瞬前に炎の中で壮絶な自爆を遂げた。

 

 神炎皇ウリア 攻7000→オキシゲドン 守800(破壊)

 

「ぐっ!だが、水素に火をつけた場合、化学反応により爆発が起きる!具体的には、このモンスターが炎族のモンスターとの戦闘で破壊された時お互いに800ポイントの効果ダメージを受ける。これで終わりだ!」

 

 三沢 LP3000→2200→1400

 殉教者―ウリア― LP700

 

「ぐわああっ!?俺が倍のダメージを受けて、お前がダメージを受けていない………まさか!?」

「その通り。カウンタートラップ、地獄の扉越し銃の効果により我のダメージは貴様に代わりに受けてもらった!」

 

 地獄の扉越し銃

カウンター罠

ダメージを与える効果が発動した時に発動する事ができる。

自分が受けるその効果ダメージを相手に与える。

 

「我はカードを伏せる。これでターンを終了」

「俺のターン!死者蘇生を発動、オキシゲドンを蘇生する!」

 

 オキシゲドン 攻1800

 

「ふん、それがどうした。まさか絶望のあまり自爆特攻でも狙っているのか?」

 

 馬鹿にした様子の殉教者の言葉に、三沢は笑顔で答える。まだ諦めてなんかいない、ここからが勝負だとその眼は語っていた。

 

「とんでもない。むしろ俺は嬉しいんだ、いくつか予想外の点もあったとはいえ、俺の戦略が幻魔に通用することが分かってな」

「……なんだと?」

「じゃあウリアよ、、一つ理科の質問をしてやろう。H、つまりハイドロゲンが2つにO、オキシゲンが1つ。この物質が化学反応を起こすことで、何ができると思う?」

「貴様、何が言いたい」

「答えは水、だ。その証拠を見せてやる!魔法発動、ポンディング―H2O!これが俺の、化学反応召喚!来い、ウォーター・ドラゴン!」

 

 ハイドロゲドンとオキシゲドンの姿が混ざり合い、その姿が一つの水龍になっていく。青い体に赤く光る目、三沢の切り札がついに場に現れた。

 

 ポンディング―H2O

通常魔法

自分フィールド上に存在する「ハイドロゲドン」2体と

「オキシゲドン」1体を生け贄に捧げる。

自分の手札・デッキ・墓地から

「ウォーター・ドラゴン」1体を特殊召喚する。

 

 ウォーター・ドラゴン 攻2800

 

「だが、そのモンスターを出したところで攻撃力は2800!我の前には塵も同然の攻撃力だ!」

「なら、自分の目で見てみるといい。その自慢の幻魔の攻撃力をな」

「何?……ハッ!?」

 

 神炎皇ウリア 攻7000→0

 

 この時、ようやく三沢が最初に言っていた『ウリア相手なら誰よりも自分が有利』という言葉の意味が分かった。さっきまで十代がデュエルしていたから、すでに三沢はウリアの効果を完全に見切っている。あの破壊効果が1ターン1回なことを生かしてガリトラップを守りつつウリアを破壊しようと荒野の大竜巻をブラフにしたり、守備力が上がらない点をついて月の書からハイドロゲドンで畳み掛けたり。そしてさらに、あのカードが炎属性なことも三沢は知っていた。そしてウォーター・ドラゴンがいる限り、場のすべての炎族、および炎属性モンスターの攻撃力は0で固定される。だから、あんなに自身があったんだ。

 

「今だ、ウォーター・ドラゴン!アクア・パニッシャー!」

 

 ウォーター・ドラゴンの巻き起こした水流がウリアの巨体を押し流す……その寸前、その体がふっとかき消えた。代わりに、ばかでっかいモグラたたきのような上部分に穴がいくつか開いた箱がデン、と据えられる。そしてその穴の一つから、ひょっこりとモンスターの方のウリアが顔を出した。

 

「永続トラップ発動、モンスターBOX!」

 

 モンスターBOX

 永続罠

相手モンスターの攻撃宣言時、コイントスを1回行い裏表を当てる。

当たった場合、その攻撃モンスターの攻撃力はバトルフェイズ終了時まで0になる。

このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払う。

または、500ライフポイント払わずにこのカードを破壊する。

 

「なるほど、二分の一に賭けたか。どうにかする手はない、通しだ」

「ゆくぞ、コイントス!我は表を選択する!」

 

 ソリッドビジョンでできた金色のコインが宙をくるくると舞い、皆の注目を集めながらゆっくり地面に落ちていく。ここで裏さえ出れば一気にウリアのライフを減らせる、お願い裏出て裏!

 

「くっ」

「表だ、よってウォーター・ドラゴンの攻撃力もまた0になる。そしてお互いのモンスターの攻撃力が0ならば、どちらも戦闘破壊されない」

『なんかこの間から思ってんだけど、三沢ってビミョーに運悪くね?どこがどうってわけじゃねーけど、何となくそんなイメージがついたんだが』

 

 ウォーター・ドラゴン 攻2800→0→神炎皇ウリア 攻0

 

「カードを2枚伏せる。ターンエンドだ」

 

 ウリア LP700 手札:0

    モンスター:神炎皇ウリア(攻)

     魔法・罠:暴君の威圧

          モンスターBOX

 

 三沢 LP1400 手札:2

    モンスター:ウォーター・ドラゴン(攻)

    魔法・罠:ガリトラップ―ピクシーの輪―

         3(伏せ)

 

「我のターン!スタンバイフェイズ、我はモンスターBOXの維持コストである500ライフを払わずこのカードを自壊させる」

「墓地にいくら永続トラップを増やそうと、ウォーター・ドラゴンがいる限りウリアの攻撃力は0だ!」

「そんなことはわかっている、忌々しいがな。まずは効果発動、左の伏せをトラップディストラクションで破壊する」

「……まだまだだ!」

 

 破壊されたカードは、これまたただのブラフ。偽物のわなだ。

 

 

「そしてこんなのはどうだ?装備魔法、愚鈍の斧をウォーター・ドラゴンに装備する」

 

 愚鈍の斧

装備魔法

装備モンスターの攻撃力は1000ポイントアップし、効果は無効化される。

また、自分のスタンバイフェイズ毎に、

装備モンスターのコントローラーに500ポイントダメージを与える。

 

 ウォーター・ドラゴン 攻2800→3800

 神炎皇ウリア 攻0→8000

 

「まずい、ウリアの攻撃力が8000まで上がっちゃった!」

『ンなもん見りゃわかるわ!』

「これで終わりだ!ハイパーブレイズ!」

「三沢っ!」

「いいや、まだだ!リバースカードオープン、ダメージ・ダイエット!」

「ダメージ・ダイエット………発動ターンのあらゆるダメージを半減するカードか。だが、それでも貴様のライフを削るには十分!」

 

 くやしいけど、殉教者の言うとおりだ。三沢のライフは1400、そして今のウリアとウォーター・ドラゴンの攻撃力の差は4200。ダメージ・ダイエットの効果で半減することを計算に入れても三沢の受けるダメージは2100で、敗北を免れることはできない。そんな思いをよそに、ウリアの炎がウォーター・ドラゴンの放つ水流を押し返していき力尽きたウォーター・ドラゴンが炎に包まれてゆっくりと倒れていった。

 

 神炎皇ウリア 攻8000→ウォーター・ドラゴン 攻3800(破壊)

 三沢 LP1400→2400→300

 

「三沢……!」

「クッ、さすがに闇のデュエル、だいぶこたえるな。だが、他のやつらだってこの痛みと戦ってきたんだ、俺だけが倒れるわけにはいかん!」

「馬鹿な、なぜだ!なぜまだ立っている!」

「それは簡単な話だ。俺は攻撃前、ダメージ・ダイエットと合わせてこのカードを発動していた。この永続トラップ、炎虎梁山爆をな!」

 

 炎虎梁山爆(えんこりょうざんばく)

永続罠

このカードの発動時に、自分は自分フィールド上の

永続魔法・永続罠カードの数×500ライフポイント回復する。

また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが

相手の効果によって墓地へ送られた場合、

自分の墓地の永続魔法・永続罠カードの数×500ポイントダメージを相手ライフに与える。

 

「お前がフィールドにガリトラップを残し続けてくれていて助かったよ。もしこのカードが途中で除去されていたら回復量は500、俺のライフは200の差で負けになっていたからな」

「お、おのれおのれおのれぇ!」

「さらにウォーター・ドラゴンは破壊された時、墓地のハイドロゲドン2体とオキシゲドン1体を特殊召喚する効果を持っている。帰って来い、ハイドロゲドン、オキシゲドン!」

 

 ハイドロゲドン×2 攻1600

 オキシゲドン 攻1800

 

「だが、いくらそんなモンスターを再びそろえたところで!」

「確かにそうだろう。だが、もし俺の手札にもう1枚ポンディング―H2Oがあったとしたら、どうなる?」

「なっ………!」

「俺の変幻自在の水デッキにおいて水素と酸素に分かれた水は、再びここで水となる!魔法カード、ポンディング―H2O発動!場のハイドロゲドン、オキシゲドンをリリースして墓地のウォーター・ドラゴンを特殊召喚する!」

 

 ウォーター・ドラゴン 攻2800

 神炎皇ウリア 攻8000→0

 

「馬鹿な、我が、この三幻魔の一角たる我が!」

「残念だったな、ウリア!ウォーター・ドラゴンで神炎皇ウリアを攻撃、アクア・パニッシャー!」

 

 ウォーター・ドラゴン 攻2800→神炎皇ウリア 攻0(破壊)

 殉教者―ウリア― LP700→0

 

 

 

 

 

「うあああああああっっ!見事であった、三沢大地……!!」

 

 ライフポイントのなくなった殉教者が赤い光になって、火山の方向まで飛んで行った。力を失ったからまた封印された、ってところだろうか。それを見送りながら、

 

「まずは1体、か………」

 

 そうつぶやき、静かに倒れこんだ。慌てて近寄ってみると、どうも気を失っただけらしい。とりあえずホッと一安心したところで、これまでずっと黙っていた残りの黄マント青マントの殉教者のうち、黄マントの方の声が響いた。

 

「さあ、次は我の番だ。この降雷皇ハモン、軟弱なウリアとは一味違うぞ」




夢想「今日の最強カードは、神炎皇ウリアだって。他の2体と違って攻撃力が墓地依存で不安定だけど、爆発力は幻魔一。1ターンに1度ナイト・ショットの上位交換をノーコストで発動できるのも地味にありがたいカードなんです。一昔前はこの効果を使うと奈落激流に引っかからずに破壊できたんだけど、最近その流れはできなくなって弱体化しちゃったみたいなんだって。まあ昔の話は関係ないわね。特化すれば十分強いけど、効果を無効にされたら攻撃力0なのが難点。除外にも弱いし。そういえば【ウリアロード】と【ワイトロード】って結局どっちが強いんだろうね、だってさ」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。