遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~   作:久本誠一

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超・伏線回収の話。あとオリ設定のオンパレードですので、苦手な人はバックプリーズ。
あのカードをアニメ設定と矛盾をできるだけ少なくして出すには、これぐらいしかなかったんだよ!……多分。


ターン23 吸血美女と5000年の負の歴史

「痛てて………」

 

 目が覚めると、知らない天井があった。どうやら、どこかのベッドに寝かされてるらしい。そうだ、ダークネスと闇のデュエルして倒れちゃったんだっけ。きょろきょろと辺りを見回してみると、どこかで見たような気がするイケメンさんが隣のベッドで入院中だった。えーっと、確か……この顔は………と、また意識がぼやけてきた。

 

「アニキ、清明君が!」

「おう、ついに起きたか!」

 

 そんな声が聞こえてきた気がするけど、これ以上はもう体が持たない。全身を支えることができなくなってもう一度ベッドに倒れこみ意識が消える寸前、隣の人が誰か、ようやく思い出した。

 

「(確か、明日香の兄ちゃんで……吹雪さん、とかいったような……)」

 

 行方不明の人が何でここに、なんてことを考える余裕は、全くなかった。おやすみなさい。

 

 

 

 

 

「寝過ごしたぁっ!!」

『やかましいわぁ!!』

 

 慌てて跳ね起きた瞬間、自分の右手に全力で殴られた。多分、というか間違いなくユーノの仕業だろう。いったいなあ。

 

「というかユーノさんや、今何時?」

『午後9時34分7秒、いや8、9、10……』

「もういいや、あんがと。今日のテストどーしよ、こんな成績じゃ退学になっちゃうよ!」

『オーケーわかった、入院中にしちゃずいぶん調子よさそうじゃねえか。寝ぼけて跳ね起きるぐらいならまだ余裕あるな』

 

 へ?だって今日はテストの日……そこまで考えたところで、いろんな人が一斉に近づいてきた。

 

「ついに起きたのか、清明!」

「もう大丈夫ッスか!?」

「よかった……!」

 

 えーと、これなに?なんだかみんな、すごく喜んでるんだけど。特に十代と夢想の笑顔っぷりがハンパなく眩しいです。僕が寝過ごしたのがそんなに嬉しいですかそーですか。そんな調子で人間不信に陥りかけた時、どうしようもねえなといった感じのユーノが明らかに馬鹿にした顔で一言つぶやいた。

 

『ヒント、ダークネス』

「あ、思い出した。えっと……おはよ、皆。心配かけてゴメン。そーいえばさ、なんで吹雪さんがここにいるの?」

「貴方がデュエルしたあのダークネス。彼は、闇の意識に乗っ取られた兄さんだったのよ」

「明日香……」

 

 そうと知ってたら、と言いかけてやめた。そうと知ってたら、僕に何ができたってんだ。あのデュエルはわざと負けてたと?いや、実際僕一人じゃ負けてたけど。僕だってせっかく取り戻した命、もう一度失うなんてまだしたくない。じゃあ、どうあろうと全力で行くしかなかったじゃないか。そんな思い空気を振り払ってくれたのは、悪いニュースと共に飛び込んできた隼人だった。

 

「大変なんだな!今、クロノス教諭が湖で闇のデュエルを!」

「今すぐ行こう」

 

 大体、クロノス先生は七星門の鍵を持ってない。まさかあの人が負けるとは思わないけど、万が一のことがあったら!頼む、間に合ってくれ!

 

 

 

 

 

 よろめく体を支えてもらいながらなんとかたどり着いた時には、もうデュエルは終わりかかっていた。あっちの女の人が、今回の闇のデュエリストなんだろう。そして僕が見ている前で、クロノス先生の古代の機械巨人をアンデットサポートの効果で上回った攻撃力3200の大型モンスター、ヴァンパイアジェネシスが姿を見せた。伏せカードもないうえに、墓地発動のカードもない今の先生のライフじゃ、あのモンスター三体の攻撃は耐え切れない!でも先生は意外に落ち着いた顔で自分の場と相手の場を見渡し、真剣な顔つきでこちらの方を向いた。

 

「諸君、よく見ておくのーネ。そして約束するのーネ。例え闇のデュエルに敗れても、闇は光を凌駕できない。そう信じて、決して心を折らぬこと。ワタクシと約束してください」

 

 そう言うと、自らバトルフェイズを催促した。クロノス、先生………!

 

「ヴァンパイアジェネシスで古代の機械巨人を攻撃、ヘルビシャス・ブラッド!」

 

 ヴァンパイアジェネシス 攻3200→古代の機械巨人 攻3000(破壊)

 クロノス LP1700→1500

 

「さらに私の場のモンスターたちで攻撃!」

 

 身を守るためのカードを持ち合わせていないクロノス先生が狼男の爪に引き裂かれ、蝙蝠にまとわりつかれてさらにダメージを受けていく。闇のデュエルを体感した僕だからわかるけど、闇のデュエルのダメージは質で来るより数で来られる方がキツイ。わかりやすく例を挙げると、僕とダークネスのデュエルの際に受けた黒炎弾のダメージは2400。この数値はグリズリーマザーがレッドアイズに戦闘破壊された時の1000ダメージの2倍以上だけど、実感できる痛み自体にはそこまで差がなかった。つまり、闇のデュエルをするのならいっぺんに4000以上のダメージを与えてワンキルするよりも100ポイントずつ細かくバーンダメージを蓄積させる方がはるかに途中で相手がデュエル続行不可になる確率は高いのだ。そしてクロノス先生は、わずか1ターンの間に三回も戦闘ダメージを受けた。あまりの痛みに気を失っていても何一つおかしくない。でも、クロノス先生は違ったらしい。ライフが0になって倒れる寸前、はっきりとこちらの方を見て一言、言った。

 

「ボーイ!光のデュエルを……」

 

 クロノス LP1500→100→0

 

 そして相手の人、もといヴァンパイア・カミューラはクロノス先生が鍵を持っていないことに気付くと、そのことについて嘲りながら湖に浮かんだ城と一緒に霧の中に消えていった。僕らはそれを、ただ見つめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 クロノス先生がカミューラの手によって人形になった次の日、夢想と僕以外の皆はカミューラ探しに行っていた。本当は僕も行きたかったんだけど、まだ体が本調子じゃない今行ったって途中で力尽きて迷惑になるだけだ。それがわかってるから、おとなしく留守番。夢想は、もし今の僕のところにカミューラが来たら、という心配から自発的に残ってくれている。ユーノとシャーク・サッカーも残りたがってたけど、結局は十代達についていった。鮎川先生も他のクラスの明日の授業の用意があるとやらで隣の部屋にいる。だから僕は今、意識不明の吹雪さんを除けば彼女と二人なわけで。

 

「えーっと……」

「どうしたの、どこか痛いの?それともお腹すいた?飲み物持ってこようか?だってさ」

 

 好意はありがたいです。倒れてる間寝ずに看病してくれてたみたいで、とてもとても感謝してます。だけど、だけど正直に一言だけ言わせてもらえるならば。

 

「大丈夫だよ、なんだって。鮎川先生もこの分ならすぐよくなるって言ってたし、今は無理しないでね、だって」

 

 居心地、悪いです。すごく。いつもだったらちょっとお金に余裕ができてワクワクしながら新しいパックを買った時並みに手放しで喜んでる状況なんだろうけど、昨日の今日じゃとてもそんなドキドキするような気分にはなれません。ちくしょう、こんなイベント一生に何回あるか分かったもんじゃないってのに……。これというのも間違いなく、全部が全部カミューラのせいだ!吸血鬼、許すまじ。

 そんな下心丸出しの怒りに燃えて決意を新たにし、クロノス先生を助けて心置きなくこの状況を満喫するためにも夢想にある『お願い』をした。

 んで、その5分後。正直もうちょっと説得には手間取るかと思ってたのでうれしい誤算だったけど、ともかく。

 

「清明、本当に動ける?無理してない?だってさ」

「余裕余裕。どってことないよ、もう大丈夫」

 

 突然だけど、脱走って素晴らしい言葉だと思う。ただし、

 

「ただし、自分でやる場合に限る、とか?」

「さっすが夢想、ご名算」

「まったく……なんだって」

 

 という訳でただ今、二人で抜け出してカミューラ探してます。さっさとあんな吸血鬼ぶっ飛ばして、一回死んでからついに僕にも来た青春をエンジョイするんだ!後になって考えれば、この時の僕は明らかにおかしかったと思う。体の痛みが不自然なほど消えて、気分も妙に高揚してきてたし。例えるなら、ちょうどダークネス戦と同じようなことになりかけていた。

 

「出て来い、カミューラアァァァ!!!!」

「待ってー!そんなに叫んだら体に響くし皆に見つかっちゃうよ、だってー!!」

 

 そんな会話をしながら、なんとなくクロノス先生が以前デュエルした湖までやって来た。ここにいるんなら手間が省けてよかったんだけど、さすがにそんなことはな……い………か…………って、

 

「あったー!?」

「だから叫ばないで~、だってば~!!」

 

 ついさっきまで何にもなかったはずななのに、今見たら霧の中にぼんやりとかすんで見える城。そして、その方角から水上を突っ切って伸びているレッドカーペット。まあここまでお膳立てしてもらったんだ、行かないってのはさすがにありえないだろう。

 

「よいしょ、っと」

 

 ひょいっと飛び乗る。あら、思ったより足場しっかりしてるのね。これで、後はここをまっすぐ進んでいけばあのうすぼんやりと見える、ここにあるはずのないあの建物にたどり着けるだろう。つーか、これで罠だったら性格悪すぎんぞ。もしそんなことやられたら、この鍵その場でへし折って再現不可能にしてやる。

 

「おい、そこで何をしている!危険だからそこには立ち入るな……お前ら、何をしてるんだこんなところで!?」

 

 ギギギギギ、と音がするぐらいゆっくりぎこちなく振り返ると、そこにはこめかみに青筋立てて静かに怒ってるカイザーの姿があった。………ばれた。

 

 

 

 

 

「えっと、カイザーさん?まだ怒ってる?」

「…………。黙っていろ」

「ハイ」

 

 結局、今はそれどころではないということでお説教はされなかった。帰れとは一言も言われてないので、許可が下りたと解釈して勝手に後ろをついていく。目つきがとても怖かったけど、やっぱり何も言わなかったのでこちらも余計なことは言わないようにして黙って歩く。と、カイザーが歩みを止めた。慌てて僕らも進むのをやめると、これまでのような通路ではなく大広間のようになった一つの部屋になっていた。そして、その上にいたのは。

 

「カミューラ!」

「あら、後ろの坊や達まで呼んだ覚えはないのだけれど……まあいいわ、今度の相手は全員鍵を持ってるみたいだし、こっちの彼を倒した後でなら遊んであげてもいいわよ?」

「………清明に手を出さないで、この面食い年増。だってさ」

 

 ボソッと夢想が呟いたその一言は、どうも地獄耳のデビルイヤーにははっきり聞こえていたらしい。というか夢想さん、なんでいきなり誰よりも早くケンカ売ってんですか。

 

「なんですってぇ……?」

 

 あ、案の定キレた。やっぱ女性に年の話ってしちゃいけないのね。一瞬だけ二人の間に火花が散った気がしたけど、先に冷静になったのはカミューラの方だった。

 

「まあいいわ、今はあなたの番。さあ、私とデュエルをして下さらない?」

「あいにくだが、俺にも好みがあるのでな。だが、今は好き嫌いは言ってられん。俺が勝ったらクロノス教諭は元に戻してもらうぞ」

「いいわよ?そのかわり、私が勝てばあなたの魂をこの人形にいただくわ」

 

「「デュエル!」」

 

 そして始まった二人のデュエル。今日のカイザーは相当頭にきているらしく、いつものリスペクトデュエルを放棄するような圧倒的なパワーで攻め続けていく。そしてカミューラをあと一歩のところまで追いつめたところで、そういったことに関しては素人の僕から見てもわかるぐらい闇の力がこもったあるカードを彼女がドローした。

 

「魔法カード、幻魔の扉を発動!相手モンスターをすべて破壊し、その後お互いの墓地の中からモンスターを1体を召喚条件を無視して特殊召喚する!」

「サンダー・ボルト効果に加えて死者蘇生の完全上位交換!?そんな無茶な、インチキカードもいい加減にしやがれ!」

 

 思わず突っ込んだけど、効果の説明にはまだ続きがあるらしい。

 

「ただし、このカードにはそれ相応のリスクがある。このカードを使い敗北したプレーヤーは、幻魔に魂を捧げなければならない!でも、ただ私の魂を使うだけじゃ芸がないと思わない?そこで私は、今日の特別ゲストの魂を代わりに賭けさせてもらうわ」

 

 そう言ってパチンと指を鳴らすと、カミューラの分身がなんの脈絡もなく彼女の後ろから現れる。吸血鬼すげえ。そのわきに抱えていた、今は気絶してるらしくてぐったりしてるけど見覚えのあるメガネのレッド生はまさか。

 

「翔!!」

 

 最悪の予感は見事に的中した。僕らのよき友人でありカイザーの弟でもある、翔がそこにいたのだ。

 

「私はこの坊やの魂を生け贄とし、あなたのサイバー・バリア・ドラゴンとサイバー・レーザー・ドラゴンを破壊!そして、サイバー・エンド・ドラゴンを召喚条件を無視して特殊召喚!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴン 攻4000

 

「これで終わりよ、サイバー・エンド・ドラゴンでプレイヤーにダイレクトアタック!」

 

 カイザーの場にはまだ伏せカードがあったけど、カイザーはそれをちらりと見たのみで結局何もせずに3つ首機械竜の光線に呑みこまれた。

 

 亮 LP0

 

「ぐっ………!」

「さあ、いい子ね。あなたの魂をいただくわよ!」

「待て、カミューラ……!」

 

 ライフも無くなってふらふらになりながら、最後の意地を振り絞ってカミューラを睨みつけるカイザー。その目からは、まだ闘志は消えてなかった。

 

「あら、どうしたのかしら?」

「その前に、俺の……俺のサイバー・エンドを、返してもらうぞ!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンのカードはカミューラが復活させて彼女の場に呼んだカードだから、彼女のデュエルディスクのモンスターゾーンにセットされたままだ。多分、それのことを言ってるんだろう。よほどカイザーを倒したことがうれしいのか、カミューラはその頼みを快諾した。

 

「ああ、このカードかしら?いいわよ、最後にそれくらいの頼みはお姉さん聞いてあげるわよ」

 

 そう言って無造作に片手で投げつけたサイバーエンド・ドラゴンのカードが宙を飛んでカイザーの目の前の床に突き刺さる。人のカードをあんな乱暴な投げ方するなんてマナー違反だと思うけど、まあカードそのものが大根すら真っ二つにできるとか上手く投げれば鉄板に突き刺さるとか言われるぐらい頑丈だから石の床程度じゃ傷がついたりはしないだろう。

 

「ふ……すまない、サイバー・エンド!」

 

 そう言い放ってカイザーが最後にとった行動は、僕らの度肝を抜いた。サイバー・エンドを床から引っこ抜き、カミューラにめがけて思いっきり投げつけたのだ。完全に油断していたカミューラはそれ、俗に言うカード手裏剣を避けきることができずにその白い手に………いや、その手に持っていたあるカードに突き刺さって、そのまま2枚のカードはどこかへ吹っ飛んで消えていった。か、カイザー?

 

「清明!」

「は、はい!」

 

 こういうのを鬼気迫る表情、というのだろうか。いきなり話の矛先がこっちに向いたので、思わず背筋が伸びる。

 

「幻魔の扉は俺が消し去った………お前の腕ならば、きっとあの女にも勝てるはずだ。後は……頼んだ、ぞ…………」

 

 そう言ったところでついに限界が来たのか、ゆっくりと倒れていくカイザー。その体が床にぶつかる前に青い炎に呑みこまれ、カミューラの持っていた人形の姿がデフォルメされたカイザーのものになる。クロノス先生の時と同じだ、魂が人形に吸い込まれたんだ。そしてそれを見た瞬間、僕の中で何かが弾けた。

 

「ちっ、全く最後まで生意気ね!」

 

 カミューラがそんなことを言った気がしたけど、そんなもの耳に入ってこない。とりあえず今考えることはただ一つ。

 

「おい、カミューラ」

「あき……ら?」

 

 声のトーンから何かを感じ取ったのか、夢想がこっちの方を心配そうに伺ってくる。そのきれいな目が驚愕に見開かれたところを見ると、やっぱり彼女にも見えてるんだろう。今僕の体を静かに包んでる、ダークネス戦の時にも見たあの中二的な紫の炎のことが。また心配、かけちゃうな。こんなもん見たらだれだって驚くだろうし。ごめん、と心の中で一声呟いて、さっきまでカイザーが立っていたところまで歩く。あれからこの炎について考えてみたけど、どうもこれが出ると僕は感情のコントロールができなくなるらしい。おかしいぐらいにブチ切れたり、不自然なぐらい相手を憎く思ったり。ちなみに今はその両方。でも、多分これがなくても本気で怒ってただろう。

 

「あら、坊や。あなた、並みの人間じゃなさそうね。七星門の鍵も持ってるみたいだし、少しぐらいなら遊んであげてもいいわよ?」

「幻魔の扉、拾ってくれば?どうせそれがなきゃ僕には勝てないよ」

 

 普段の僕なら絶対にしないであろう挑発。こーゆーのはむしろユーノが得意とするところなんだけどなあ。でもまあ、今回はキッチリ効果があったらしい。

 

「言ったわね?別にかまわないわ、あなたごときは幻魔の扉がなくても勝ってあげるもの」

「はいはいそーですか。………じゃあ、始めようか」

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は私だわ!私は速攻魔法、手札断殺を発動するわ。さらにヴァンパイア・レディを通常召喚!カードをセットして、ターンエンドよ」

 

 青白い肌でドレス姿の女性が、持ち主そっくりの高圧的な態度で睨みつけてくる。別に今は怖いとは思わないけど。

 

 手札断殺

速攻魔法

お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送る。

その後、それぞれ自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

 ヴァンパイア・レディ

効果モンスター

星4/闇属性/アンデット族/攻1550/守1550

このカードが相手プレイヤーに戦闘ダメージを与える度に、

カードの種類(モンスター、魔法、罠)を宣言する。

相手はデッキからその種類のカード1枚を選択して墓地に送る。

 

「僕のターン、ドロー!レミューリアを発動してウミノタウルスを召喚、さらに水族のウミノタウルス召喚成功によりシャーク・サッカーを特殊召喚!」

 

 忘却の都 レミューリア

フィールド魔法

このカードのカード名は「海」として扱う。

このカードがフィールド上に存在する限り、

フィールド上の水属性モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントアップする。

また、1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。

このカードがフィールド上に存在する限り、

自分フィールド上の水属性モンスターの数と同じ数だけ、

自分フィールド上の水属性モンスターのレベルをエンドフェイズ時まで上げる。

 

 ウミノタウルス 攻1700→1900 守1000→1200

 シャーク・サッカー 守1000→1200 攻200→400

 

「バトル!ウミノタウルス、真っ二つにしてやれ!」

 

 ウミノタウルス 攻1900→ヴァンパイア・レディ 攻1550

 

 ウミノタウルスの斧が勢いよく振り下ろされ、激しい音を立てる。攻撃力の差は350、まあ少ないけど先制ダメージとしてはこんなもんだろう。というかむしろ、少ないダメージでじわじわ痛みを味あわせてやりたい今にとってはそっちの方が好都合だ。………ん?

 

「ウミノタウルスが、止められた?だって……」

 

 夢想の言った通りだ。ウミノタウルスの斧の一撃は、なんとヴァンパイア・レディの細い腕一本で受け止められていた。ウミノタウルスもかなりの力を込めているのに、押しても引いてもびくともしない。呆然とする僕らの耳に、カミューラの高笑いが聞こえた。

 

「ホーッホッホ!残念だったわね坊や、私はあなたの攻撃宣言の時にトラップカード、ヴァンパイア・シフトを発動していたのよ!」

「ヴァンパイア・シフト?」

「………発動時にあるフィールド魔法をデッキから発動するカードだよ、なんだって。私もそのフィールド魔法は使ってみようか迷ったけど、イメージに合わないからやめたんだけど…………」

「一体、そのフィールド魔法って?」

「私が教えてあげるわ。それは私たち、誇り高きヴァンパイア一族の帝国……ヴァンパイア帝国発動!」

 

 ヴァンパイア・シフト

通常罠

自分のフィールドカードゾーンにカードが存在せず、

自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが

アンデット族モンスターのみの場合に発動できる。

デッキから「ヴァンパイア帝国」1枚を選んで発動する。

その後、自分の墓地から「ヴァンパイア」と名のついた

闇属性モンスター1体を選んで表側守備表示で特殊召喚できる。

「ヴァンパイア・シフト」は1ターンに1枚しか発動できない。

 

 ヴァンパイア帝国(エンパイア)

フィールド魔法

フィールド上のアンデット族モンスターの攻撃力は

ダメージ計算時のみ500ポイントアップする。

また、1ターンに1度、相手のデッキからカードが墓地へ送られた時、

自分の手札・デッキから「ヴァンパイア」と名のついた

闇属性モンスター1体を墓地へ送り、

フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

 

「それじゃあ、レミューリアが……」

「そう、フィールド魔法は1枚しか存在できないのよ。あなたの建物は私の趣味に合わないわ?」

 

 まるで彼女のセリフに合わせるように神殿のようなレミューリアの建物のほとんどが崩れ落ちていき、残ったほんの一部の上に真っ赤な満月がかかった。

 

 ウミノタウルス 攻1900→1700(破壊)→ヴァンパイア・レディ 攻1550→2050

 清明 LP4000→3650

 

「ぐうっ……!」

「そして私のヴァンパイア・レディが戦闘ダメージを与えたことで、レディと帝国の効果が発動するわ。まずレディの効果であなたのデッキから魔法カード1枚を墓地に送り、さらに帝国の効果でデッキのヴァンパイア・ドラゴンを墓地に送ってシャーク・サッカーを破壊するわ」

「………僕が選択するのは、アクア・ジェット。この魔法カードをデッキから墓地に送るよ」

 

 デッキからアクア・ジェットを選択して墓地に送った瞬間、いきなり赤い月がさらに輝きを増して血のような光を放つ。その光に当てられたシャーク・サッカーが突然苦しみだし、そのまま破壊されてしまった。普段ならここでなすすべもなくターンエンドしたっておかしくない状況だけど、今回は特に負けられない理由がある。その執念が、最初の手札にいいカードを入れてくれたのだ。そして僕は、さっきの手札断札でそのカードを墓地に送っておいた。

 

「メイン2に入って墓地のフィッシュボーグ-アーチャー―の効果を発動、手札のオイスターマイスターを捨てて、このカードを特殊召喚!カードを1枚セットしてターンエンド」

 

 まあ、まだ受けたダメージも一度だけ。この程度なら、どってことない。だから大丈夫、まだいける。闇のデュエルでの痛みを怖いと思ったら、それを乗り切れなかったら、そんなデュエルで勝つことなんてできない。

 

 フィッシュボーグ-アーチャー

チューナー(効果モンスター)

星3/水属性/魚族/攻 300/守 300

このカードが墓地に存在し、

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、

手札の水属性モンスター1体を捨てて発動できる。

このカードを墓地から特殊召喚する。

さらに、この効果で特殊召喚したターンのバトルフェイズ開始時に

水属性以外の自分フィールド上のモンスターを全て破壊する。

「フィッシュボーグ-アーチャー」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 カミューラ LP:4000 手札:3 モンスター:ヴァンパイア・レディ(攻) 魔法・罠:なし

 清明 LP:3650 手札:1 モンスター:フィッシュボーグ-アーチャー(守) 魔法・罠:1(伏せ)

 場:ヴァンパイア帝国

 

「私のターン、ドロー!坊や、粋がってたわりにはもう息切れかしら。まだまだ夜は長いわよ?墓地のヴァンパイア・ソーサラーの効果発動、このカードが墓地にいる時、このカードを除外することで一度だけヴァンパイアと名のつくモンスターのアドバンス召喚に必要なリリースを1体減らすことができる!そして私は手札のシャドウ・ヴァンパイアを召喚し、その効果によってデッキのヴァンパイア・ベビーを特殊召喚するわ」

 

 シャドウ・ヴァンパイア

効果モンスター

星5/闇属性/アンデット族/攻2000/守 0

このカードが召喚に成功した時、

手札・デッキから「シャドウ・ヴァンパイア」以外の

「ヴァンパイア」と名のついた闇属性モンスター1体を特殊召喚できる。

この効果で特殊召喚に成功した場合、

このターンそのモンスター以外の自分のモンスターは攻撃できない。

また、このカードをエクシーズ召喚の素材とする場合、

闇属性モンスターのエクシーズ召喚にしか使用できない。

 

 ヴァンパイア・ベビー 攻700

 

 まさにシャドウの名前どうりに影が立体になったような真っ黒いヴァンパイアがぬるりと床を突き抜けて這い上がってくる。そしてゆっくりと右手をかざすとどこからともなく蝙蝠が集まってきて、それが小さな、まだ赤ん坊と言ってもいいぐらいの子供の形をとった。

 

「こんなにたくさんのモンスターが………こりゃマズイかな?」

 

 アーチャーの守備力300だけで防ぎきれる数じゃない。だけど、どうやらカミューラはよっぽど人のことをいたぶるのが好きらしい。

 

「安心しなさい、坊や?このターンはシャドウ・ヴァンパイアのデメリット効果でヴァンパイア・ベビーしか攻撃はできないわ」

 

 助かった、なんて表情は絶対見せてやらない。ここはあえて、もう一度挑発に回ることにする。なにせ効果の処理はもう終わってるんだ、今何を言ったってこのターンベビーしか攻撃できない事実は変わりっこない。

 

「ふーん。だけど、偉そうなこと言ってるけど実はただのプレミスじゃないの?」

「あら、違うわよ?あなたにはじっくりと、なるべくたくさんのダメージを与えたいもの。今の私はそういう気分なのよ。だから、精々楽しませて頂戴?バトル!ヴァンパイア・ベビーでフィッシュボーグ-アーチャーに攻撃!」

 

 ヴァンパイア・ベビー 攻700→1200→フィッシュボーグ-アーチャー 守300(破壊)

 

「ぐっ!だけど、また次のターンで復活させれば………」

「残念だったわね。ヴァンパイア・ベビーの特殊効果発動!あなたのモンスターを私のフィールドによみがえらせるわ」

 

 ヴァンパイア・ベビー

効果モンスター

星3/闇属性/アンデット族/攻 700/守1000

このカードが戦闘によってモンスターを破壊したバトルフェイズ終了時、

墓地に存在するそのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

 フィッシュボーグ-アーチャー 守300

 

「カードをセットして、私はこれでターンエンドよ」

 

 今のターン、シャドウの効果を使わなければ僕にもっとダメージを与えられたはずだ。でも彼女はあえてそれをしなかった。つまり、僕はそれくらい余裕をもって倒せる相手だとみられている。俗にいう舐めプというものだろう。面白い、すぐ後悔させてやるから覚悟してもらおうじゃないの。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 とはいえ、カミューラの場には実質攻撃力1200のベビーから2500のシャドウまでいる。この場を突破できるモンスターなんて……いや、いるじゃないか。いいカードが。

 

「モンスターをセットして、ターンエンド」

 

 カミューラ LP:4000 手札:2 モンスター:ヴァンパイア・レディ(攻)、シャドウ・ヴァンパイア(攻)、ヴァンパイア・ベビー(攻)、フィッシュボーグ-アーチャー(守) 魔法・罠:1(伏せ)

 清明 LP:3650 手札:1 モンスター:1(セット) 魔法・罠:1(伏せ)

 場:ヴァンパイア帝国

 

「私のターン!やっぱりあなたみたいな無様な雑魚の相手をしても面白くないわね。このターンで終わらせてあげる!私はもう一体のヴァンパイア・ソーサラーの効果を使って、ヴァンパイア・ドラゴンをリリースなしで召喚するわ。それと………せっかくだからあなた自身のモンスターの手でも葬ってあげるわよ、フィッシュボーグ-アーチャーを攻撃表示に変更。バトル、シャドウ・ヴァンパイアで伏せモンスターに攻撃!」

 

 ヴァンパイア・ドラゴン 攻2400

 シャドウ・ヴァンパイア 攻2000→2500→??? 守1800(破壊)

 

「フフ、これであなたの場にモンスターはいなくなったわね」

「な、何勝った気でいるのさ!セットモンスターだったペンギン・ナイトメアの特殊効果発動!このカードがリバースしたことで、ヴァンパイア・ドラゴンをバウンスする!」

 

 ペンギン・ナイトメア

効果モンスター

星4/水属性/水族/攻 900/守1800

このカードがリバースした時、

相手フィールド上のカード1枚を選択して持ち主の手札に戻す。

また、このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

自分フィールド上の水属性モンスターの攻撃力は200ポイントアップする。

 

「なんですって!?だけど、あなたのフィールドはがら空きなことに変わりはないわよ!ヴァンパイア・レディでダイレクトアタック!」

 

 ヴァンパイア・レディ 攻1550→2050→清明(直接攻撃)

 清明 LP3650→1500

 

 女性ヴァンパイアの鋭い爪の一撃がまともに命中する。い、痛ったあ……でも、おかげでこのターンは何とかなりそうだ。

 

「ま、まだまだ……」

「ヴァンパイア・レディの特殊効果が発動するわ。私が次に宣言するのは罠カード!」

「トラップ、トラップか。じゃあ、フィッシャーチャージを墓地に」

「次はヴァンパイア帝国の番ね。デッキから最後のヴァンパイア・ソーサラーを墓地に送って、その伏せカードを破壊するわ」

 

 やっぱり来た!考えてみれば皮肉な話だけど、この破壊効果のおかげで僕はまだ戦うだけでなく、次につなげることができるんだよね。

 

「それを待ってたんだ!この発動してあるトラップカード、安全地帯の効果発動!僕はこのカードを、シャドウ・ヴァンパイアに対して発動していた!」

 

 安全地帯

永続罠

フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。

選択したモンスターは相手の効果の対象にならず、

戦闘及び相手の効果では破壊されない。

また、選択したモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃する事はできない。

このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。

そのモンスターがフィールド上から離れた時このカードを破壊する。

 

「デメリット効果によって、シャドウ・ヴァンパイア撃破!」

 

 正直、この決断には勇気がいった。ここでベビーを破壊しておけば、このターンで受けるダメージは一回少なくなりライフもその方が多く残る。だけど、それじゃあダメなんだ。それじゃあ、返しのターンでシャドウ・ヴァンパイアをどうにもできない可能性の方が高い。とはいえ、これだとこのターンだけであと2回のダイレクトアタックを受ける計算になるわけで。このターンを立ったまま終わることができるといいんだけど。

 

「誇り高きヴァンパイアの一族を、よくもこんな姑息な手で葬ってくれたわね!!だけどプレイングミスね、私の場にはまだ攻撃をしていないベビーがいる!ベビー、アーチャーでダイレクトアタック!」

 

 ヴァンパイア・ベビー 攻700→1200→清明(直接攻撃)

 清明 LP1600→400

 フィッシュボーグ-アーチャー 攻300→清明(直接攻撃)

 清明 LP400→100

 

 さっき僕が考え抜いた末にあえてとったシャドウの破壊という一手を、カミューラはプレミスの一言で片付けた。そこら辺に考え方の違いってもんが如実に表れてるんだろうな、と思う。というか、そうやって何か考え続けて思考力を保ってないと今にも気絶しそうだ。痛い、痛い、痛い。一回経験済みだからわかってたけど、やっぱりハンパなく痛いです。

 

「もう立ってるのもやっとかしら?ターンエンドよ」

「僕の………ターンッ!ド……ロー!」

 

 このターンで決定的な何かをしない限り、多分これが最後のドローになるだろう。お願いしますデュエルの神様、なにか逆転の一手を授けてください!

 

「魔法カード、サルベージを発動!攻撃力1500以下の水属性2体を墓地から手札に……僕が加えるのは、ペンギン・ナイトメアとシャーク・サッカー!さらに魔法カード、強欲なウツボを発動!手札の水属性2体をデッキに戻すことで、3枚のカードをドローできる!」

 

 これで手札は3枚、何かしらのコンボができるといいんだけど。おそるおそる引いた1枚目は、死者蘇生。強力なカードではあるんだけど、いかんせん今は墓地にそこまで攻撃力の高いモンスターがいないから壁を出すことにしか使えなさそうだ。次に引いた2枚目は、シャーク・サッカー。ありがとうシャークさん、こんな時でも僕の精霊は僕を助けてくれるらしい。だけど、そこまで考えたところで凍りついた。次のターンで壁を出しても、モンスター2体じゃ耐えきれない。もし仮に、また舐めプをする気になったとかの理由で耐え切れたとしても、その次のターンで何をする?手札だって次のドロー1枚しかないのに、逆転なんてできるのか?つまり僕に残された唯一の生き残る手段は、この最後の1ドローで巻き返すしかない。カードをドローするためにデュエルディスクに手を伸ばすけど、その手は僕の意思とは関係なくガクガクと震えていた。いつの間にか流していた汗が、つーっと頬を伝って床に落ちる。痛み関係なく緊張と恐怖で倒れそうになったその時、どこからともなく声が聞こえた。

 

『………力が、欲しいか』

 

 え、嘘。今の誰?ちらっちらっと周りを見回すけど、僕ら以外に新しい人はいない。不思議に思う暇もなく、もう一度その声が聞こえた。

 

『貴方は力が欲しいか?この勝負、勝ちたいか?』

 

 どうやらこの声、夢想にもカミューラにも聞こえてないらしい。ついに幻聴まで聞こえるようになったんだろうかってHAHAHAHAHA、ちょっとそれシャレにならないな。

 

『……少しは緊張感を持ってくれ。私がシリアスやってるのに、肝心要の貴方がそんな調子では私の立つ瀬がない』

「緊張感がないんじゃなくて色々吹っ切れただけ。だいたい、ここに入学してから僕がどんだけ濃い人生送ってると思ってんのさ」

 

 自分でもちょっと驚きだけど、正体不明の声の主との会話はなんだか心が落ち着いた。まるで、ずっと前からの知り合いと駄弁ってる時のような。なんでだろう。

 

『それは後で話すとして、まずはあの吸血鬼を倒す。改めて聞こう。遊野清明、貴方は私の力を使いたいと願うか?』

「………君の力を使えば、この状況からでも勝てるってこと?」

『勝つ!』

 

 声の主が誰かは、まだわからない。でも、なんとなくだけど、この声は信用してもいい気がした。だから、僕もきっぱりと答えることにする。

 

「じゃあ、よろしく頼むよ!僕は勝つ、勝ってあの2人を元に戻す!」

 

 あと夢想と2人でいられる時間のために、って言うのは心の中だけに留めておいた。

 

『ならば私の力を使うといい。デッキトップに私はいる』

 

 どれどれとデッキを見てみると、なんかデッキトップの1枚が明らかにヤバい感じの紫色のオーラに満ち溢れていた。

 

「あのー。これ、使っても大丈夫なの?」

『すまない。正直その邪気は、私が消そうとして消せるものではないのだ。心の闇に囚われなければたぶん大丈夫なはずだが………私も、貴方ならなんとかしてくれると信じているから私のカードを託している。信用しているぞ、遊野清明』

 

 うーん、そんなふうに言われたら断れないじゃないか。最初からそんなつもりもなかったけど。

 

「それじゃあ最後の1枚いくよっ!ドローッ!!」

 

 引いた瞬間、とんでもない量の負の感情が流れ込んできた。それと同時に、僕の体全体がこれまでも何回か見た例の紫のオーラに包まれる。これまでは体の一部にしか見えなかったから、全身すっぽりってのは初めてだ。『な、なんとか耐えきってくれ!』という声がぼんやり聞こえた気がしたけど、これは……ちょっと、キツイ……か……も…………。

 

「うわあああああああああっ!!!!!!」

 

 誰かの叫び声が聞こえてくる。いったい誰だろう、と思ったらどうも無意識のうちに自分で叫んでたらしい。足にうまく力を入れられなくなり、後ろの方に倒れていく。だけど地面に体が叩きつけられる前に、誰かが優しい手つきで背中を支えてくれた。ほんの少し頭を動かすと、心配そうに僕の顔を覗き込む夢想の顔が見えた。

 

「ぼ……僕、は………」

「もういいの、清明。私があなたを助けてあげるから、だって」

 

 何か言おうとするけど、上手く言葉が出てこない。必死になって喋ろうとする僕の唇に黙っていて、と言うかのように人差し指を当てて、ゆっくりと顔をあげてカミューラと目を合わせる。

 

「ねえそこの年増。これ以上清明に無茶させないで、だってさ」

「あくまでも年増呼ばわりかしら?確かに私も、その子はあんまり好みじゃないから別に魂をもらったって持って帰ろうとは思わないわ。でも私だって鍵は欲しいし、第一誇り高きヴァンパイアの末裔として一度狙った獲物を無条件で逃がすわけにはいかないのよ」

「なら、私の鍵ぐらい持って行って構わないから。だから今すぐ清明とのデュエルを中止して、だって」

「……っ!?む、そう」

 

 慌てて起き上がろうとするけど、まだ体中から吹き出ている紫のオーラのせいで動くこともままならない。このっ、このっ!

 

「へぇ………ご立派なことね。そうね、鍵がもらえるなら確かに悪い話じゃあないわね。ただし、もう二つ注文があるわ」

「なに?なんだって」

 

 とても邪悪な笑みを浮かべながら、カミューラは一言一言強調するように言葉を発した。

 

「まず一つ目に、その坊やを放す代わり鍵二つ。あなたの分だけじゃなくて、その坊やの鍵もよこしなさい」

「そんな程度なら……構わない、だってさ。はい、まず私の分」

 

 そう言って首にかけていた七星門の鍵を、ヒュッと投げつける。それをカミューラが片手でキャッチすると、その鍵が光になって消えていった。ここまではまだいい。だけど次のセリフをきいた瞬間、心臓が止まりそうになるほどの衝撃を受けた。

 

「はい、よくできました。それじゃあ、ふたつ目の条件ね。坊やの鍵、それにあなたの魂も一緒に付けるって言うなら考えてあげてもよくってよ?私は坊やの魂をあきらめる。だからあなたの魂を代わりに貰っていく。合理的じゃなくって?」

「ふざ、けん、な……」

「わかった。だって」

 

 動かない体で何とか思いとどまらせようとするけど、彼女はそっと僕の体を地面に横たえ、僕の首から七星門の鍵を取るとそれを持ったままカミューラと向かい合う。何とか、少しでも体が動きさえすれば!

 

『落ち着きなさい。私の持つ負の力は、100年も生きていない人間が力づくで押さえつけられるようなものではない。力と正面からぶつかりあうのではなく、うまくコントロールするのだ。そして貴方にはそれをする素質と能力がある』

 

 そうこうしている間にも夢想はゆっくりとカミューラの方に一歩一歩近づいていき、その分僕との距離も離れていく。その距離がなんだか、二度と埋められないような気がして。………そんなの絶対に嫌だ。そう思った瞬間体が急に楽になって、ほぼ無意識のうちに口が動いていた。

 

「待ちな、お二人さん。夢想、僕なんかのためにそこまでしてくれてありがとう。カミューラ、お前はここで終わらせてやる」

「清明!?もう無理しないでっ………て、その顔はどうしたの!?」

「あら、また動く気になったのかし………あなた、本当に人間なの!?目、目が……」

 

 なんだろう二人とも。僕の顔だの目だのがどうかしたんだろうか。いや、それは後でいい。今は、このデュエルにケリをつけるだけさ。

 

「僕のターンはこれから、だからね。僕はまず、死者蘇生を発動。そうだな、墓地からウミノタウルスを蘇生。水族のウミノタウルスが出てきたことで、シャーク・サッカーを特殊召喚」

 

 1ターン目と全く同じ組み合わせの2体。あの時と違うのは、さらに続きがあるということだ。

 

「そしてこの2体をリリース。七つの海の力を纏い、穢れた大地を突き抜けろ!来い!地縛神Chacu Challhua(チャクチャルア)!!」

『よく頑張った、後は私の力に任せておいてくれ。………ダークシグナー、遊野清明』

 

 突如地面に亀裂が走り、その中から紫色のシャチのような形の『何か』が飛び出す。これが僕の新しい力、地縛神。

 

 地縛神 Chacu Challhua 攻2900

 

「攻撃力2900ですって!?でも残念ね、私はトラップカード発動、重力解除!このカードの効果で、あなたのモンスターも私のモンスターも守備表示になるわ!どんなに高い攻撃力のカードを出そうとも、攻撃ができないんじゃねえ?」

 

 重力解除

通常罠

自分と相手フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの表示形式を変更する。

 

 地縛神 Chacu Challhua 攻2900→守2400

 ヴァンパイア・レディ 攻1550→守1550

 ヴァンパイア・ベビー 攻700→守1000

 フィッシュボーグ-アーチャー 攻300→守300

 

「それはどうかな?ってね。チャクチャルアの5つ目の特殊効果を発動、このターンの攻撃を放棄して相手にこのカードの守備力の半分、つまり今は1200のバーンダメージを与える!ダーク・ダイブ・アタック!」

 

 カミューラ LP4000→2800

 

「ターンエンド。さあカミューラ、これがアンタの長い人生最後のターンだ。精々抵抗してみなよ!」

 

 カミューラ LP:2800 手札:3 モンスター:ヴァンパイア・レディ(守)、ヴァンパイア・ベビー(守)、フィッシュボーグ-アーチャー(守) 魔法・罠:なし

 清明 LP:100 手札:0 モンスター:地縛神 Chacu Challhua(守) 魔法・罠:なし

 場:ヴァンパイア帝国

 

「一回ダメージを与えただけで、ずいぶん言ってくれるじゃないの!ドロー、墓地のヴァンパイア・ソーサラーの効果!手札のヴァンパイア・ロードを通常召喚して、このロードを除外!現れなさい、高貴なる夜の王!ヴァンパイアジェネシス、特殊召喚!」

 

 紫色の体をした、ヴァンパイアの王様。クロノス先生の古代の機械巨人と同じ攻撃力を持つ大型モンスターだけど………もうそれも、怖くない。ヴァンパイアだか何だか知らないけど、今の僕には5000年近い歴史がある地縛神が味方に付いてくれてるんだ。いったい何を怖がることがあろうか、いや、あるはずがない。

 

『反語表現だな。人間のことは封印されながら暇つぶしに観察していたがあの時にこの島国で一般的だった言葉が過去のものとは、つくづく移り変わりの速い種族だ』

 

 ヴァンパイアジェネシス

効果モンスター

星8/闇属性/アンデット族/攻3000/守2100

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に存在する「ヴァンパイア・ロード」1体を

ゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。

1ターンに1度、手札からアンデット族モンスター1体を墓地に捨てる事で、

捨てたアンデット族モンスターよりレベルの低い

アンデット族モンスター1体を自分の墓地から選択して特殊召喚する。

 

「私のモンスターたちを攻撃表示に変更するわ。さあ攻撃しなさい、ヴァンパイアジェネシス!ヘルビシャス・ブラッド!!」

 

 その言葉に従い、ヴァンパイアジェネシスの体が攻撃のために紫色の霧になる。だが、その体がチャクチャルアを覆い尽くすことはなかった。何もできずに元の体に戻ったヴァンパイアジェネシスを見て、カミューラが金切声をあげる。

 

「なぜ!どうして攻撃しないの、ヴァンパイアジェネシス!」

「地縛神 Chacu Challhua、第6の効果発動!このカードが守備表示でいる限り、相手はバトルフェイズを行うことができない!」

 

 まあ、実のところを言うと第3の効果のおかげでどっちみち攻撃はされないんだけど。わざわざ言うことでもないから黙っておこうっと。

 

「そ、それでも私の場で一番攻撃力の低いモンスターはフィッシュボーグ-アーチャーの300、このカードが破壊されてもまだ私のライフは残るわよ。カードを1枚伏せてターンエンド!(さあ、早く攻撃してきなさい?今伏せたカードは攻撃反応の罠、援護射撃。どのモンスターを攻撃して来ようと、ヴァンパイアジェネシスの攻撃力3000を加算すれば私の勝ちね)」

 

 援護射撃

通常罠

相手モンスターが自分フィールド上モンスターを攻撃する場合、

ダメージステップ時に発動する事ができる。

攻撃を受けた自分モンスターの攻撃力は、

自分フィールド上に表側表示で存在する他のモンスター1体の攻撃力分アップする。

 

 あの、ほんの一瞬だけ見えた勝ち誇ったような表情………張ってるな、罠を。だけど、怖くなんてないね。何度だって繰り返すけど、こっちにはざっくり5000年の歴史があるんだ。たかだが500年も生きてないような吸血鬼ごときに、後れを取るなんてことはない。

 

「僕のターン、ドロー………さあカミューラ、自分の人生にお別れは言った?チャクチャルア、攻撃!」

「かかったわね、トラップを……」

「もう一回言わせてもらうけど、それはどうかな?チャクチャルア、第4の特殊効果!このカードは相手に直接攻撃ができる!」

「なんですって!?」

「これでとどめだよ、ダイレクトアタック!ミッドナイト・フラッド!」

 

 地縛神 Chacu Challhua 攻2900→カミューラ(直接攻撃)

 カミューラ LP2800→0

 

 

 

 

 

 ライフの無くなったカミューラの体が、風になって消えていく。そして彼女がすっかり消えた瞬間、なにやら地響きがした。見ると、あれよあれよという間に館が崩れてきている。く、ここは湖の上、下手したら沈んでっちゃう!

 

「夢想、逃げるよ!」

「う、うん!」

 

 そう言ってまだ気絶したままの翔を背中に担ぎ、さっさと来た道を戻りだす………前にカミューラがさっきまでいた場所に引き返し、なぜかまだ人形のままのカイザーを拾い上げる。そのまま脱出しようとしたその時ひときわ大きく館が揺れ、天井が僕と夢想の間に落ちてくる。全力で走り抜ければまだ間に合ったのかもしれないけど、慌てて後ろに飛びのいてしまったのがまずかった。………通れねえ。

 

「清明!?」

 

 砂埃の向こうから夢想の声が聞こえてくる。というか、まだそんなところにいたのか。さっさと逃げないとそっちまで危ないってのに、全く何してるんだか。そんなことを考えてると、今度は真横の柱が倒れてきた。

 

「うおっと危なっ!こりゃ、まずこっちの心配しないとダメかな……?」

 

 自分一人ならまだなんとでもなるんだけど、人形カイザーと翔を抱えながらってとこがなんともマズイ。これだけで難易度が一気に跳ね上がってる。どうしよう、と思ったけど特に何も思いつかないので大人しく相談してみることにする。

 

「チャクチャルさん、どうすればいいと思う?」

『「ア」の一文字ぐらいわざわざ略さなくても………まあ、いくら今の貴方でも正面突破は難しいだろうな。そうだな、私の力を応用すればある程度精霊としての力を持ったカードなら実体化させることができるはずだ』

「なにそれすごい」

 

 なんというかもう、人間飛び越えちゃってるね。いやまあ、リアル死者蘇生やらかした時点で人間やめてるって言われたらそれまでだけど。

 

「でさ、具体的にはどのカードならできそう?」

『ふむ………霧の王だな。さすがに愛着がこもっているだけのことはある。正直、私が手を貸さなくても放っておけば実体化できるだろう』

「ホント!?」

『うむ』

 

 嬉しいなあ、ありがとうマイフェイバリットカード。早速デッキをデュエルディスクから取り出し、その中から霧の王のカードを掲げてみる。お願い相棒、力を貸して!そう心の中で呟いた瞬間、きれいな青い光がカードからほとばしる。そして光が収まった時、そこに立っていた一つの影。僕がデュエルを始めるきっかけになったカードであり、どんなデッキにも必ず入れていたカード。ユーノは自分がいた世界の話をなぜかめったにしてくれないけど、それでもこのカードと出会ってからは僕と似たようなものだったらしい。

 

「霧の王………」

 

 ついにソリットビジョンじゃない実体化した霧の王が、僕に向かってコクリとうなずく。そして右手の大剣を一振りすると、一瞬で道をふさいでいた瓦礫の山が消滅した。魔法が凄いのか剣が凄いのかはよくわからないけど、とにかく霧の王はできる子だってことはよくわかった。

 そう思ってわずか一分後。僕たち3人+人形1個は、湖のほとりに立っていた。

 

「訂正。スペック高いとかできる子とか通り越してとんでもないチートっ子じゃないですかー」

 

 助かった、とか嬉しい、とかよりもここまであっさりしてると正直呆れの方が先にくる。ちなみにあれよあれよという間にゆく手を阻むがれきを消し去り、僕らのことを抱え上げて文字通りのひとっとびで元の場所まで運んでくれた当の本人は、僕のすぐそばで何も言わずに立っている。

 あ、そうだ。せっかくだからこれも頼んでみよっと。

 

「ねえ霧の王、この人形元に戻せたりとかする?」

 

 そう言ってポケットからカイザー人形を取り出して見せる。最初のうちはカミューラも倒したんだしすぐ元に戻るだろう、なんて思ってたけどいつまでたっても人形のままで、そろそろ不安になってきたのだ。さすがに多くを求めすぎた気もするけど、彼(?)はあっさり頷くと、僕の手から人形を受け取ってそれを地面に置いた。そして手をかざすと、地面に魔法陣が浮かび上がる。そして魔法陣の中心で光が弾けると、さっきまで人形の転がっていた位置にはカイザーが座り込んでいた。うーむ、霧の王が魔法使いっぽいとこ見るのってこれが初めてな気がする。

 

「すまなかったな、清明。俺が不甲斐ないばかりに」

「いや、いいっていいって。もうこれで皆助かったんだし、ひとまずハッピーエンドってことでいいじゃないの。それとありがとう、霧の王。これからもよろしく!」

 

 霧の王にお礼を言ってカードの中に戻ってもらい、相変わらず律儀なカイザーに軽く返事してから、ふと思い立ってデッキを取り出してみる。地縛神、地縛神………あった。

 

 地縛神 Chacu(チャク) Challhua(チャルア)

効果モンスター

星10/闇属性/魚族/攻2900/守2400

「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。

相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。

このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。

また、1ターンに1度、このカードの守備力の半分のダメージを

相手ライフに与える事ができる。

この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

このカードがフィールド上に表側守備表示で存在する限り、

相手はバトルフェイズを行えない。

 

 こうやってじっくりテキスト見直してみると、なにげにひどい効果だよねチャクチャルさん。

 

『使うだけ使っておいてその言いぐさはあんまりではないか?』

 

 あ、聞こえてた。ごめんごめん。さて、それじゃあユーノ達に見つかる前に病室に戻ろうかな。チャクチャルさんのことも、遅かれ早かればれるだろうし皆には話しておこう。

 そう決心して帰る途中ユーノ達に見つかり、こっぴどく怒られたのはまた別の話。とほほ、せっかく勝ったのに………。




ユーノ『今日も最強カードは定休日だ。以下ユーノ先生プレゼンツ、SALでもわかるこの小説の裏設定。本編でやれ?おう、俺もそう思う。
①ユーノ&清明、全く同時に死亡。
②あんまりタイミングが一緒だったもので、二人の魂が偶然出会う。
③ナスカの地上絵内で封印されていたチャクチャルさん、遊戯王世界に入り込んだユーノのデッキ内の自分のカードの存在に誘発されてたたき起こされる。
④目覚めたチャクチャルさん、最初に見つけたこの世に未練がある魂である清明を元の体に戻す。清明、ダークシグナーになって復活。ユーノもついてくる。
⑤目覚めたはいいけれど、そもそも今は赤き竜との戦いも起こるわけない中途半端な時期であることに気付く。『カードとしての自分』を使いつづけたユーノへの恩義を感じ、自分の存在がシグナーまで呼んで争いが起きることをを避けるためにひとまず身を隠す。とはいえ清明もダークシグナー、次第に自分の闇の力に影響されていく。(←ターン22参照)
⑥清明、人生最大のピンチ。駆け付けて加勢し、改めてデッキに加入する。(←今ここ)

ってとこだな。ちなみに孤高のシルバー・ウィンドが怖いのは、アニメ5D’sでバサラ食らったのを『カードとしての自分』が覚えているから、とのことらしいぜ』

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