遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~   作:久本誠一

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いやー、遅れて申し訳ないです。勘弁してください。


七つの鍵と守護者たち編
ターン22 真紅の瞳と闇色竜


 僕がゲイルをもらったあの日から、またしばらくたった。変わったことと言えば、墓守たちの世界まで行ってきたことだろうか。いやー、あの時はビックリした。でも、そんな非日常な世界も終わってみれば思い出話の中の一つになるんだよね。そういえばあの時十代が受け取ったペンダント、その半分は一体誰が持ってるんだろう。そんなことをつらつらと考えながらの授業中。明らかに授業態度悪いけど大丈夫、隣で爆睡してる十代よりは起きてるぶんだけマシだと思う。お、チャイムだ。よし、今日も昼飯だー!

 

「ああ、遊城十代君。それから遊野君に、万丈目君。三沢君に明日香さん、河風さんも。ちょっとお昼は後にして、私と一緒に校長室まで来てください。もしいるんでしたらユーノ君も、別についてきてもらって構いませんよ」

 

 ちなみに大徳寺先生がユーノのことを知ってるのは、墓守の世界で実体化したところを見られたから。これまで半信半疑だった隼人や翔も、これでユーノがいることにはっきり気づいてくれた。というかユーノ、やっぱり扱いとしては精霊体なんだね。

 

「ちなみにさ、何の話か分かる?」

『こりゃあれだな、レッド寮魔改造のことがばれててド叱られるパターンだな』

「………マジ?」

 

 何気なく話を振ってみたら、即答された。あっちゃー、短い青春だったなぁ。いつかばれるかもとは思ってたけど。

 

『嘘に決まってんだろバカヤロウ。なんでそれに三沢だの明日香だのまで呼ばれなきゃいけねーんだよ。ほれ、さっさと行こーぜ』

 

 な、なんだ嘘か……よかったよかった。それから道中さりげなく聞いてみたけど、どうも大徳寺先生も用件は知らないらしい。うーん、一体何の話なんだろ。

 

 

 

 

 

「三幻魔のカード?」

「そうです、この島に封印されている、(いにしえ)より伝わる3枚のカード……」

 

 いきなり呼び出されて始まったのは、校長によるまるでお伽噺のような昔話。ついこの間、入学する前にはこんな話聞かされても多分信じてなかったろうけど…………今はユーノ(幽霊)とかシャーク・サッカー(精霊)だのがすぐ近くにいるんだから、この話も本当なんだろうなあ、ってのはすんなり受け入れられた。しかしそんな、解放したら世界が魔に包まれるような危険なカードを封印した島に平気な顔して学園を建てちゃうなんて、これが世界に羽ばたく海馬コーポレーションクオリティーなんだろうか。

 

「そのカードの封印を解こうと、挑戦してきた者達が現れたのです……」

 

 七星門だかセブンスターズだか知らないけど、随分大それた真似をする人たちもいたもんだ。名前から察するに、全員デッキには七星の宝刀が3積みしてあるんだろう。というかこーゆーのって大体あれだよね、一回は解放に成功してパワーアップするけどすぐ自分が取り込まれてえらい事になっちゃうパターンだよね。

 

「……そして、これが七星門を守る7つの鍵です。そこで、あなたたちにはこの鍵を守って頂きたい」

 

 そう言って校長がそっと取り出した小箱の中には、なるほど確かに7つの鍵、というかパズルのようになっている金属片。

 

「守ると言っても、一体どうやって」

 

 万丈目の疑問は、すごくもっともだと思う。いくらなんでもこっちは高校生、そんなアブナイ人たちを相手にできる方法なんて……

 

「もちろん、デュエルによってです。だからこそ、学園内でも屈指のデュエリストであるあなた方に集まってもらったのです」

 

 それ(デュエル)くらいしかないよね、やっぱり。でも、なんなんだろうその『鍵を奪うにはデュエルで勝たねばならない』とかいう謎ルール。まあでも封印されてるのもカードなんだし、ある意味筋は通ってるのかな。しかし、僕が学園屈指のデュエリスト、か。うーん、ここまで正面から褒められると照れくさいね。

 

『いや、そのりくつはおかしい。……とも言い切れねーんだよなー、遊戯王だし。セブンスターズなんてまだマシな方だ』

 

 それにしても、なにかマズイことやったのがばれたのかと思ったら全くの予想外な話だ。………ま、僕だってデュエリストの端くれ、目の前に出てきたデュエルのチャンスは掴むだけさ!ということで鍵に手を伸ばしたけど、同時に十代も手を伸ばしたために鍵を手にするのはほぼ同時だった。

 

「おもしれえ、やってやるぜ!」

「その話乗った!じゃあ、僕このピースね!」

 

 そしてその後もカイザーは静かに笑いながら、三沢は真剣な顔で頷きながらそれぞれ鍵を手にし、明日香と万丈目、夢想もすぐに手を伸ばした。……あれ、大徳寺先生とクロノス先生の分は?

 

『七星門、だからな。当然7つしかないだろうな』

「教諭のお二人には、この7人の生徒たちのサポート役に回って頂きたい。何しろ敵の力は未知数ですからな」

「わかりましたニャ」

「校長、このクロノス・デ・メディチに任せてください。私がいる限り、学園の平和は守られますノーネ!」

「いいですか、みなさん。戦いはもう始まっています、常にデュエルの準備をしておいてください」

 

 最後に校長先生から締めの言葉があり、ちょうどチャイムが鳴ったこともありその場はそれで解散となった。あ、お昼まだ食べてないのに。

 

 

 

 

 

 その日の夜。十代が翔や隼人に自慢話してるのを壁越しに聞きながら、僕はちょっと外に行く準備をしていた。

 

『ん、どっか行くのか?』

「いやー、ちょっとね。なんとなく眠れなくて」

 

 早くデュエルがしたいような、やっぱりちょっと怖いような、でもワクワクするのが抑えられない。そんなこんなで眼が冴えてしょうがないので、軽く散歩にでも行こうと思ったのだ。

 

『いや、それは今が9時半だからだと思うぞ』

「いーの。どうせデッキもチェックしたし、特にすることないもん。じゃ、行ってきまーす」

『原作通りなら今日いきなり、か………よし、俺もついてくぞ』

 

 一応デュエルディスクだけは手に付けていつでも動かせるようにして、靴を履いて外に出る。と、こっちに向かって歩いてくる人影を見つけた。

 

「誰!?……ってなんだ、明日香じゃん。おーい!」

「あら、どうしたの?なんとなく不安になったから様子を見にきたんだけど」

「いや、ただの散歩。どうも落ち着かなくてさ」

「あまり一人で出歩くのはお勧めしないわよ。そういえば、この間の彼は今もいるの?」

 

 この間の彼?ああ、ユーノのことか。

 

 そこまで言ったところで、たった今出てきたばかりの部屋から眩しい………レッド寮の電力事情じゃとてもじゃないけど出せないぐらい眩しい光が放たれた。あれだけ光が出るライトなんて買おうものなら、一瞬も持たずにブレーカーが落ちるだろう。

 

「え、何!?」

『始まったか!』

 

 ここにいるのが僕一人だったらどうしたかはわからないけどまだ中には十代達がいるんだ、早く助けに行かないと!

 

「じゅうだーい!翔ー!隼人ー、万丈目ー!」

 

 みんなの名前を呼びながら部屋に駆け込むと、なんと光っているのは部屋の壁に机に天井に………つまり、部屋全体が光を放っていた。驚いて動きを止めている間に、光はどんどん強くなっていく。そしてあまりの眩しさに目を開けていられなくなり、思わず目を閉じると………。

 

「ここどこ?」

『地球ん中』

 

 あ、はい。ありがとうございます。別にそういうことを聞きたいんじゃなかったんだけど。まあ前向きに考えると、また異世界に来たわけじゃないってことがわかっただけよしとしよう。

 

「んで、ここどこ?」

『見ての通りの火山だな。先に言っとくと、この島ど真ん中に火山あるだろ。あの火口ん中』

 

 なるほど、火山か。そう思って辺りを見回すと、確かにちょっと暑い。十代と明日香が後ろで倒れて………あ、起き上がった。よかったよかった。それと、マグマが下の方でボコボコいってるのも聞こえてくる。そのすぐ近くに翔と隼人もいるね。

 

「ってちょっと待って!?何やってんのあの二人!?」

「それについては私が答えよう、遊野清明」

「誰だ!」

 

 いつの間にか後ろに立っていた、全身黒服に身を包んで黒いマスクをかぶった怪人がこちらに向けて歩いてきた。

 

「私はセブンスターズの一人、ダークネス。七星門の鍵を持っているということは、細かい説明は不要だろう。さあ、互いの魂を賭けた闇のゲームを始めよう!」

「………なんかもう予想はついてきたけど、あえて聞かせてもらうよ。あの二人、翔と隼人までなんで巻き込んでるの?鍵を持ってる僕に十代、明日香が連れてこられたのはまだ分かんないでもないけど、あの二人はなんも関係ないでしょ」

 

 はたして仮面男改めダークネスの答えは、最悪の予想通りのものだった。

 

「あの二人は、お前に本気を出してもらうためにあの位置に置いた。今はあの壁によりシャットアウトされているが、時間と共に壁は崩れていき最終的にマグマの中に落ちるだろう。そうしたくないならば、私にデュエルで勝つことだな」

「時間制限つき!?上等、何が何でも勝ってやるさ!」

「では、ゆくぞ!」

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は私だ。私は、手札の軍隊竜を守備表示で召喚。さらに魔法カード、一時休戦を発動。カードをセットしてターンエンドだ」

 

 ダークネスの場に、ちょっとした鎧を着こんだ身軽そうな竜人が盾を構えた。

 

 軍隊竜(アーミー・ドラゴン) 守800

 

 一時休戦

通常魔法 (制限カード)

お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。

次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。

 

「僕のターン、ドロー!」

 

 さっきからなんだろう、どうもこの場所に来てから自分でも妙に感じるぐらい全身に力が満ち溢れていて、今ならなんだってできそうな気がする。知らず知らずのうちに、ニヤリと笑みを浮かべていたことにふと気が付いた。一体、僕はどうしちゃったんだろう。まあ、悪い気はしないからどうでもいいさ。

 

「グリズリーマザー、召喚!軍隊竜を攻撃!」

 

 青い体毛の熊が、その鋭い両手の爪で容赦なく竜人をひっかいていく。一撃目で盾がバラバラに壊れ、二撃目で体を守る鎧が吹っ飛んでいき、そして三撃目ががら空きの胴体に叩き込まれた。

 

 グリズリーマザー 攻1400→軍隊竜 守800(破壊)

 

「軍隊竜の特殊効果。このカードが戦闘破壊された時、デッキから軍隊竜を特殊召喚できる!」

 

 軍隊竜 攻700

 

「ちっ………メイン2にカードをセット、ターンエンド」

「エンドフェイズにトラップ発動、リビングデッドの呼び声!甦れ軍隊竜!」

「おっと、蘇生カードか」

 

 軍隊竜 攻700

 

 ダークネス LP4000 手札:4 モンスター:軍隊竜×2(攻・リ&無) 魔法・罠:リビングデッドの呼び声(軍)

 清明 LP4000 手札:5 モンスター:グリズリーマザー(攻) 魔法・罠:1

 

 これでダークネスは、自分のターンにレベル7以上のモンスターもアドバンス召喚できるようになったわけだ。はたして、次の一手は最上級モンスターだった。

 

「ドロー、私の場の軍隊竜2体をリリースし、真紅眼の黒竜を召喚する!」

 

 いきなり足元のマグマが巨大な竜の姿になって立ち上がり、その炎の中から真っ黒いドラゴンが現れた。

 

 真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)

通常モンスター

星7/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守2000

真紅の眼を持つ黒竜。怒りの黒き炎はその眼に映る者全てを焼き尽くす。

 

「レッドアイズ……」

『出たなレッドアイズ。用心してけよ?』

「バトル、真紅眼でグリズリーマザーに攻撃!ダーク・メガ・フレア!」

 

 真紅眼の黒竜 攻2400→グリズリーマザー 攻1400(破壊)

 清明 LP4000→3000

 

 グリズリーマザーが破壊された瞬間僕の体にも(ライフ)の3分の1、つまり1000ポイントダメージ分の痛みが走った。たまらず顔をしかめるけど、思ったよりひどいダメージじゃなかったおかげでなんとか倒れたりはしなかった。アドレナリンでも出てきたのか、それとも闇のゲームのダメージもこんなもんなのか。まあなんにせよ、十代だってこんな痛みを感じながら平気な顔してデュエルしてたんだ、僕がやられるわけにはいかないさ。あれ?今、僕の体の周りに紫色のオーラっぽいモノが立ち上ったような気がしたけど………気のせいかな、うん。見直してみたら何も見えなかったし。

 

「グリズリーマザーも特殊効果発動!ただしこっちが呼ぶのは同名モンスターじゃなくて、攻撃力1500以下の水属性だけどね。来い、ハリマンボウ!」

 

 ハリマンボウ 攻1500

 

「ふ、お互いリクルーターを失った訳か。マジック・プランターを発動。私の場のリビングデッドを墓地に送ってカードを2枚ドロー、そしてカードをセットしてターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!ハリマンボウをリリースして氷帝メビウスをアドバンス召喚、その効果フリーズ・バーストで伏せを破壊、さらに今ハリマンボウが墓地に送られたことでその特殊効果!レッドアイズの攻撃力を500下げる!」

 

 これが決まれば、いくらレッドアイズと言えども攻撃力は1900、さらに伏せカードのサポートも受けられなくなるはず。ライフはそんなに削れなくても、ボードアドバンテージはだいぶ稼げる!だけど、そんな僕の考えは十分に予想の範囲内だったようだ。

 

「ならば私は、この伏せを発動しよう。竜魂の城の効果で墓地の軍隊竜を除外してレッドアイズの攻撃力をエンドフェイズまで上げ、その後メビウスの効果が適用され破壊されることで今除外した軍隊竜を特殊召喚する」

 

  竜魂の城

永続罠

1ターンに1度、自分の墓地のドラゴン族モンスター1体をゲームから除外し、

自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで700ポイントアップする。

また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが墓地へ送られた時、

ゲームから除外されている自分のドラゴン族モンスター1体を選択して特殊召喚できる。

「竜魂の城」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

 真紅眼の黒竜 攻2400→3100→2600

 軍隊竜 守800

 

「決まんない、か………だけどダークネス、ひとつ教えてあげるよ!火山の中じゃあ今のメビウスはレッドアイズに勝てないかもしれないけど、海の中なら話は別さ!フィールド魔法、アトランティス発動!」

 

 伝説の都 アトランティス

フィールド魔法

このカードのカード名は「海」として扱う。

このカードがフィールド上に存在する限り、

フィールド上の水属性モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントアップする。

また、お互いの手札・フィールド上の水属性モンスターのレベルは1つ下がる。

 

 氷帝メビウス 攻2400→2600 守1000→1200 ☆6→5

 

「行け、メビウス!今ならお前はレッドアイズとも互角に戦える!」

『っ!?おい、何を』

「うるさい!メビウスでレッドアイズを攻撃、アイス・ランス!」

 

 氷帝メビウス 攻2600(破壊)→真紅眼の黒竜 攻2600(破壊)

 

 メビウスの投げつけた氷の槍がレッドアイズの吐き出した炎の球とぶつかり合い、激しい爆発の脇をすり抜けて駆け付けたメビウスがレッドアイズをがっしりと掴んで自分もろとも足元のマグマに飛び込んでいく。………ソリットビジョンの調子が悪いんだろうか、また僕の周りに一瞬だけ紫の炎が見えた気がした。他の皆が気づいてないのは単に気のせいなのか、それともフィールドに注目してたからか。まあ、そんなことはやっぱりどうだっていい。メビウスには悪いことしたけどダークネス、まだまだ僕は全然暴れ足りないんだ。もっと付き合ってもらうよ!

 

「カードを一枚セット、ターンエンド!」

『おい清明、一体どうしたってんだ!なんかさっきから変だぞ、ちょっと頭冷やせ!』

「いいじゃないの、るっさいなあ」

『清明……?』

「せっかくこっちは力が溢れてきてんだよ、邪魔しないでくれる?」

 

 ダークネス LP4000 手札:4 モンスター:軍隊竜(守) 魔法・罠:なし

 清明 LP3000 手札:5 モンスター:なし 魔法・罠:1

 場:伝説の都 アトランティス

 

「私のターン。魔法カード、思い出のブランコを発動。墓地のレッドアイズを特殊召喚する」

 

 思い出のブランコ

通常魔法

自分の墓地の通常モンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターを特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時に破壊される。

 

 真紅眼の黒竜 攻2400

 

「そして攻撃……いや、黒炎弾を発動。私の場のレッドアイズの攻撃を放棄することで、2400のダメージを与える!」

 

 黒炎弾

通常魔法

自分フィールド上の「真紅眼の黒竜」1体を選択して発動する。

選択した「真紅眼の黒竜」の元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

このカードを発動するターン「真紅眼の黒竜」は攻撃できない。

 

 清明 LP3000→600

 

「ぐっ……!」

 

 流石にさっきの倍以上のダメージだけのことはあり、結構効いた。でも、やめたいとかつらいとかは全然感じない。本当に、さっきから僕はなにか調子がおかしい。

 

「そして私の場のレッドアイズをリリースして、カイザー・グライダーをアドバンス召喚する!」

 

 カイザー・グライダー 攻2400

 

『まだ闇竜の出番じゃねえってか?まあ、今のこっちにとっちゃありがたい事ではあるが』

「バトル!カイザー・グライダーで直接攻撃だ!」

「させないよ!トラップ発動、メタル・リフレクト・スライム!」

「ならば攻撃は中止だ!戻って来い、カイザー・グライダー」

 

 金色に光る体を持つ竜の突撃を、銀色に光る巨体のスライムががっしりと両腕で受け止めてダークネスの場に投げ返す。本当はレッドアイズの攻撃をこれで受けてノーダメージで済ますつもりだったけど、済んだことについてどうこう言うのは趣味じゃない。

 

 メタル・リフレクト・スライム

永続罠

このカードは発動後モンスターカード(水族・水・星10・攻0/守3000)となり、

自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。

このカードは攻撃する事ができない。(このカードは罠カードとしても扱う)

 

 メタル・リフレクト・スライム 守3000→3200 攻0→200 ☆10→9

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!場のスライムをリリースして、レベル6になった超古深海王シーラカンスをアドバンス召喚する!」

 

 超古深海王シーラカンス

効果モンスター

星7/水属性/魚族/攻2800/守2200

1ターンに1度、手札を1枚捨てて発動できる。

デッキからレベル4以下の魚族モンスターを可能な限り特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃宣言できず、効果は無効化される。

また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが

カードの効果の対象になった時、

このカード以外の自分フィールド上の魚族モンスター1体をリリースする事で

その効果を無効にし破壊する。

 

 超古深海王シーラカンス 攻2800→3000 守2200→2400 ☆7→6

 

「………いいだろう、続けてくれ」

「シーラカンスの効果!手札を捨てて、魚族を展開!来い、シャクトパス、竜宮の白タウナギ、ヒゲアンコウ、ハンマー・シャーク!」

『よりによってそのカードがコストかよ。ってかハリマンボウもアーチャーもナシだと!?おい、今攻撃力だけ見て出す奴考えたろ!?』

 

 ユーノがごちゃごちゃ言ってるけど、知ったこっちゃない。4体の色とりどりの魚が、魚の王様の前に集まってくる。

 

「トラップ発動、奈落の落とし穴!お前が特殊召喚したモンスターの攻撃力はすべて1500以上、よってまとめて除外だ!」

「っ!!」

 

 確かに、そうすることはできる。僕のモンスターの攻撃力はヒゲアンコウの1500にシャクトパスの1600、ハンマー・シャークと白タウナギの1700だから、攻撃力1500以上のモンスターの召喚、特殊召喚に対応して全除外する奈落の発動トリガーとしては十分以上だ。だけど……!

 

『確実にくるシーラカンスの攻撃より、デッキの魚をごっそり除外したかったってわけか。くそ、下級モンスターがずいぶん減ったな。事故んなきゃいいが。おい清明、どう間違ってもグライダーにだけは攻撃すんじゃねえぞ?』

「なんでさ!軍隊竜なんて攻撃したってダメージは入らないし、3枚めに繋がるだけだからなんにも変らない!グライダーの攻撃力は2400、ダメージを通せる!」

『だから駄目だっつってんだよ!カイザー・グライダーは破壊された時、場のモンスター1体をバウンスする効果があるんだよ。今シーラカンスまでいなくなったら、軍隊竜の攻撃一発でやられちまうだろうが!』

「そんな、早くしないといけないのに!シーラカンス、軍隊竜に突撃!マリン・ポロロッカ!」

 

 超古深海王シーラカンス 攻3000→軍隊竜 守800(破壊)

 

「へへっ、ざまーみ……」

「軍隊竜の特殊効果!デッキからもう一体の軍隊竜を特殊召喚する!」

『アホかああああ!!リクルーター相手にわざわざ無駄な攻撃仕掛けてどーするってんだよ!?デッキ圧縮と墓地肥やしのお手伝いなんてしてんじゃねえ!!つーかたった今自分で意味ないって言ったじゃねえかなんでやるんだよ!?』

 

 軍隊竜 守800

 

「や、やっちゃった……?いいやたかだかこの程度、さっさと叩き潰せば問題ないねっ!」

 

 まただ。かあっと頭が熱くなって、異様に力がみなぎってくるあの感覚。それと同時にちらりと見える、紫色の炎。ユーノには位置の関係で見えてなかったみたいだけど、ここまで連続して見ると本当に気のせいなのかどうかも怪しいもんだ。いやまあ、心当たりなんてまるでないんだけど。

 

『しゃーない、次行くぞ次。説教は後だ。とりあえずそれは伏せとけよ』

「う、うん。カードを1枚セットして、ターンエンド……」

 

 ダークネス LP4000 手札:1 モンスター:軍隊竜(守)、カイザー・グライダー(攻) 魔法・罠:1(伏せ)

 清明 LP600 手札:1 モンスター:超古深海王シーラカンス(攻) 魔法・罠:2

 場:伝説の都 アトランティス

 

「ドロー!俺の場のカイザー・グライダーと軍隊竜をリリースして、2体目のレッドアイズをアドバンス召喚!」

 

 真紅眼の黒竜 攻2400

 

 もし今のダークネスの手札がもう1枚黒炎弾だったら、僕にはそれを防ぐ手立てがない。だけどありがたいことに、もう1枚は違うカードだった。

 

「そろそろ見せてやろう、私の切り札を。場のレッドアイズをリリースすることで、このカードは手札から特殊召喚する!現れろ、真紅眼の闇竜(レッドアイズ・ダークネスドラゴン)!」

 

 レッドアイズの体がカードから湧き出る闇に覆われていき、その闇を自分の中に取り込んだレッドアイズが更なる進化をする。羽の一部が赤く光り、前足の形が変わり、顔つきもより鋭くなり、さらに凄みを増した声で一声吠えた。………前言撤回!よくわかんないけどなんかヤバそう!

 

 真紅眼の闇竜 攻2400

 

「ってあれ?別に攻撃力変わんないんじゃ?」

(ダークネス)の力を受け生まれ変わった新たなるレッドアイズの特殊効果!このカードの攻撃力は自分の墓地のドラゴン族1体につき300ポイントアップする!今の俺の墓地には、軍隊竜3体とレッドアイズが2体、そしてカイザー・グライダーが存在する。したがって攻撃力は4200だ!」

 

 真紅眼の闇竜 攻2400→4200

 

「シーラカンスを超えた!?」

 

 しかも、僕のライフ600じゃ受けきれない!そうだ、今伏せたカードなら……だめだ、このままじゃ何の意味もない!だったら?と、そこまで考えた時。またあの感覚がして、自分の中から恐怖感がいっぺんに消え去った。面白い、負けたら魂を取られるだぁ?まだそんなの体験したことねえんだ、ぜひやってもらおうじゃないの。幻魔や世界がどうなろうと、そんなの僕の知ったこっちゃない!

 

「これで終わりだ!レッドアイズの攻撃、ダークネス・ギガ・フレイム!」

「ああ、やってみやがれってんだ!!」

『おい馬鹿!?えーい、こうなったら………!』

 

 真紅眼の闇竜 攻4200→超古深海王シーラカンス 攻3000

 

「ふん、たわいない。この程度が七星門の守護者とはな………む?」

 

 先ほどとは比べ物にならないほどの爆炎の塊が起こした砂煙のせいでよく周りが見えないながらも、自分の勝ちを確信したダークネスが目にしたものは。

 

 清明→ユーノ LP600

 

「選手交代だぜ、この野郎……。『このアホ』はどーだか知らんが、まだ『俺ら』は終わっちゃいねえんだよ」

 

 全く減っていないライフポイントで、燃え盛る海中の街をバックにしっかりと立っている(ユーノ)の姿だったろう。だって、また元に戻って気分が落ち着いた僕が最初に見たのも、その後ろ姿だったんだから。

 

「馬鹿な!お前の場にシーラカンスはいない、なのになぜダメージを受けていない!」

「理由?んなもん簡単だぜ。戦闘なんて最初(ハナ)っからしてねえのに、俺にダメージが通るわけねーだろが」

 

 流石のダークネスも僕の性格が急に変わったことには驚きを隠せないようだけど、それ以上に自分の攻撃が通らなかったことに驚いてるみたいだ。僕も、今ならわかる。さっきはなんでか暴走しちゃってたから思いつかなかったけど、最初から攻撃を防ぐ一手は場にあったんだ。

 

「まず俺は攻撃を受ける前に、今は墓地に行ったあるトラップ………儀水鏡の反魂術を発動していた。この効果でシーラカンスはデッキに返しておいたんだよ。ちなみに手札に戻したのはハリマンボウと霧の王、シーラカンスの発動コストにしてたモンスターな」

 

 儀水鏡の反魂術

通常罠

自分フィールド上の水属性モンスター1体を選択してデッキに戻し、

自分の墓地に存在する水属性モンスター2体を選択して手札に加える。

 

「だが、それならば私のレッドアイズのダイレクトアタックが命中しているはず!ダメージが増えこそすれ、0になる理由にはならない!」

「ああそうさ。だから俺はこっちのトラップ、バブル・ブリンガーも発動した。俺の場にモンスターがいなくなった以上、必然的にお前の攻撃は直接攻撃になる。その点を利用させてもらったぜ」

 

 バブル・ブリンガー

永続罠

このカードがフィールド上に存在する限り、

レベル4以上のモンスターは直接攻撃できない。

自分のターンにフィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地へ送る事で、

自分の墓地の水属性・レベル3以下の

同名モンスター2体を選択して特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

「くっ………だが所詮は悪あがきにすぎん、その防御カード1枚で何ができる!ターンエンドだ!」

「まあ見てなって、ドロー!手札の爆征竜-タイダルの効果発動、このカードと水属性のハリマンボウを墓地に送りデッキのモンスター1体、ハリマンボウを墓地に落とすぜ。ここでハリマンボウ2体分の特殊効果が発動、対象はどっちもレッドアイズ!」

 

 真紅眼の闇竜 攻4200→3700→3200

 

「私のレッドアイズが!」

「まだ終わんねえよ、バブル・ブリンガー第2の効果発動!このカードを墓地に送って墓地のレベル3水属性で同名モンスター、ハリマンボウ2体を特殊召喚!」

 

 ハリマンボウ×2 攻1500→1700 守100→300 ☆3→2

 

「さらにフィールド魔法の張替えだ、ウォーターワールドを発動!」

 

 ウォーターワールド

フィールド魔法

フィールド上に表側表示で存在する水属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップし、

守備力は400ポイントダウンする。

 

 ハリマンボウ×2 攻1700→2000 守300→0 ☆2→3

 

「さらに、ハリマンボウ2体をリリース!頼んだぜマイフェイバリット、霧の王を召喚!そしてハリマンボウがリリースという手段で墓地に送られたから、さらにレッドアイズの攻撃力を1000ポイントダウン!」

 

 霧の王

効果モンスター

星7/水属性/魔法使い族/攻 0/守 0

このカードを召喚する場合、生け贄1体

または生け贄なしで召喚する事ができる。

このカードの攻撃力は、生け贄召喚時に生け贄に捧げた

モンスターの元々の攻撃力を合計した数値になる。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、

いかなる場合による生け贄も行う事ができなくなる。

 

 霧の王 攻0→3000→3500

 真紅眼の闇竜 攻3200→2700→2200

 

「霧の王でレッドアイズに攻撃、ミスト・ストラングル!」

 

 霧の王が掲げた大剣が、黒いドラゴンを一刀両断した。やっぱりこの攻撃方法は魔法使いのやることじゃない気がする。

 

 霧の王 攻3500→真紅眼の闇竜 攻2200(破壊)

 ダークネス LP4000→2700

 

 清明 LP600 手札:0 モンスター:霧の王(攻) 魔法・罠:なし

 ダークネス LP2700 手札:0 モンスター:なし 魔法・罠:なし

 

「おのれ、私のレッドアイズを!私は何もせずにターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!………なあ、ダークネス」

 

 てっきり挑発でもするのかと思いきや思いがけないほど真剣な声音で、静かにユーノは語りかける。

 

「お前のデッキの中で一番の切り札は俺が倒した。今のお前は、心の中を切り札を倒された怒りで煮えたぎってるはずだ。お前のたった今引いたカードは確かに考えられる中でも最高の一手だろうさ。だけどな、ちょっと冷静になってみればそのカードにも弱点があることに気付けるはずだ」

「何だと?」

「教えてやるよ。俺にはそのカードの見当があらかたついてる。なにしろダークネス、あんたはこの大事な場面でいいカードが引けないなんてことはないほど強いデュエリストだからな。逆に考えれば、この状況で引くようなカードなんてほんの数枚しか考えられない。そのカード、バトルフェーダーの弱点はこれだ!俺の墓地の水属性はグリズリーマザーに氷帝メビウス、ハリマンボウ2体にタイダルの5体………氷霊神ムーラングレイス、特殊召喚!」

 

 氷霊神ムーラングレイス

効果モンスター

星8/水属性/海竜族/攻2800/守2200

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の水属性モンスターが5体の場合のみ特殊召喚できる。

このカードが特殊召喚に成功した時、

相手の手札をランダムに2枚選んで捨てる。

「氷霊神ムーラングレイス」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

このカードがフィールド上から離れた場合、

次の自分のターンのバトルフェイズをスキップする。

 

「バトルフェーダーは手札誘発だが、相手の攻撃宣言に合わせてしか効果が発動できないモンスター。なら、このメインフェイズで叩き落としてやるよ」

「私の……速攻のかかしが……!」

 

 とりあえずユーノのために、聞かなかったことにしてあげよう。何も言うなという無言の圧力と共にジト目でこっちの方をにらんできたユーノから慌てて目をそらしながら、そう思った。

 

「霧の王、そろそろ全部終わらせようぜ!プレイヤーにダイレクトアタック、ミスト・ストラングル!」

 

 霧の王 攻3500→ダークネス(直接攻撃)

 ダークネス LP2700→0

 

 ユーノが勝った瞬間、叫び声をあげながらダークネスが炎の柱に呑みこまれていく。あっちも気になるけど、まずは翔と隼人を………!と、そちらの方に向かおうとしたユーノががくんと崩れ落ちるように倒れた。

 

『ユーノっ!?』

 

 さらに、その場にいた僕ら全員が炎のわっかの中に閉じ込められてしまう。デュエルには勝ったのに、何でこんなことに!とパニックになりそうになった瞬間光が弾け、ふと気づいたらどういう原理なのか火山の外まで章や隼人も含めたみんなでワープしていた。よかった、二人とも無事で!

 

『じゃあ、ユーノに一体何が起きたってのさ!!』

 

 思わず叫ぶと、無茶苦茶に苦しそうな声で倒れた本人からコメントが入った。

 

「ギャーギャー……耳元で、わめくなうるさい……おい清明よ、お前の………体、もろすぎ、んぞ……なんで、この程度で………ぶっ倒れるんだよ……」

 

 しょうがないでしょ、なんでデュエリストに体力が必要になるのさ!

 

『だからお前は、アホだってんだ………デュエリストの……身体能力ってのは……そっちの道でも、食ってけるんじゃねーかって………思うぐらいには、しとくもん、だぞ……」

『それっておかしくないかな!?』

「知る、か……とりあえず、交代………な……」

 

 へ、交代?そう思った瞬間、なにかを言う暇もなくユーノと僕の位置が入れ替わる。いや違う、僕の魂が元の体に戻って、ユーノがいつもの精霊体になったんだ。って、全身痛い!デュエル中はアドレナリンとかなんかそーゆーののせいで何にも感じなかったけど、今になるといろいろ痛いよこの体!あまりの痛みにあっさり意識を手放す寸前、

 

『あー、痛みが消えた。目ぇ覚ましたらいっぺん体力づくりと喧嘩(リアルファイト)の仕方をみっちり叩き込む時間を作ってやんなきゃな』

 

 そんな恐ろしいことを呟く相方の声が聞こえた。僕、生きてられるんだろうか。




清明「ども。またユーノには迷惑かけちゃったなあ………でもさ、デュエリストに体力がいるなんて変な話じゃないかな?それとも僕が何も知らないだけ?うーむ。それはじっくり考えるとして、今日の最強カードは真紅眼の闇竜。真紅眼の黒竜をリリースすることでのみ特殊召喚できる、特殊召喚モンスター。ドラゴン族メインならガンガン攻撃力が上がっていく超攻撃的なカードだけに、召喚方法が一つしかないうえ体制も特にないのがネックだよね。まあ、僕は今回除去なんて器用なマネできなかったしユーノの倒し方もハリマンボウ4連打での超ゴリ押しだったけど。こういうロマンカード、僕もユーノもほんと大好きなんだけどなぁ……」

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