遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~   作:久本誠一

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ヒロインさん登場回。


ターン2 河に吹く風との出会い

 クロノス先生に辛勝してからはや一週間。内心けっこう不安だったけど、めでたく届いた合格通知。……いやまあ、レッドだけど。お情けで入れてもらっただけみたいだけど。そして来ましたヘリの上、これから入学式なのだ。

 

「祝、合格~♪」

『いや、まあいいんだけどさ……一体いつまで浮かれてるつもりなんだ?』

 

 意外とノリの悪い幽霊に水を差され、口をとがらせて抗議する。

 

「なに、ユーノ。せっかく僕が合格したってのに、少しくらい祝ってやろうとかは思わないの?」

『そりゃ祝ってやるのは別にいいさ。た・だ・し!毎日毎日毎日毎日一時間ごとに喜んでる奴の相手なんぞなんで俺が毎回やってやらにゃいかんのだ!?……それともう1つ。受かったのはお前じゃない。俺たち、だ。そこ忘れんなよ』

「ねえ、ユーノ………」

『んー?今度はなんだ?』

「今の、言ってて恥ずかしくなかった?」

『やっかましいわ!!』

 

 あ、やっぱ恥ずかしかったんだ。はっはっは。そんな感じでのんびりだべってたら、突然後ろから声をかけられた。

 

「あ、お前!確か俺の後に試験受けた奴だろ!」

 

 振り返ると、むっちゃ元気そうな見覚えのある顔があった。

 

『あ、十代さんだ。ってん?翔はいないのか?』

「えっと……確か110番、だったっけ?」

「おう、覚えててくれたのか!俺は遊城十代っていうんだ。よろしくな!えっと……」

「名前も知らずに声かけたのね……僕は遊野清明。よろしく、遊城」

「別にいいぜそんな他人行儀なの。十代、で構わないからな」

「そう?んじゃよろしく、十代」

「ああ、こっちこそ!」

 

 制服を見るに、どうやら僕と同じオシリスレッド所属らしい。よかった、少なくとも1人は友達ができそうだ。こっそりほっとしているとそこに、息を切らせながら小柄な丸メガネの生徒が走ってきた。いくら広いとはいえヘリの中で走るのはやめてほしいなぁ、口にはしないけど。

 

「ちょ、ちょっとアニキ、速すぎるッスよ~」

「清明、紹介するぜ。こいつは翔。俺らの同輩だぜ!」

「へ?あ、君はあの時の!丸藤翔です、よろしくッス!」

「翔、ね。了解。僕は遊野清明(ゆうのあきら)だよ。これからよろしく」

「あ、そうだ清明!早速だけど、今からデュエルしようぜ!」

 

 はい!?なにこのトンデモブットビ論理。いや僕もデュエルは大好きだけど、さすがに今はマズいんじゃないだろか。どうせもうすぐ到着だし。でも、確かにあのHEROとはちょっと戦ってみたいんだよなあ……。

 ユーノはユーノで後ろの方でニヤニヤ笑って見てるだけで、特に口をはさむつもりはないらしい。果たしてこの誘いを受けるべきか受けざるべきか困っていると、使い物にならないユーノの代わりに後ろから助け舟が来た。

 

「十代君に、清明君だね。ちょっといいかい?」

『今日は随分と、後ろから声をかけられる日だこった……お、三沢っちか。それにしても、デュエル脳って楽しいけど怖い』

「ああ、えっと?」

 

 見覚えのないその学生……その学生服の色から見てラーイエロー、つまり僕らより1つ上のクラスになった人のようだ。特にこだわりがないのか本人がのんきなのか、それを見ても気軽に返事する十代の態度は見習いたいと思う。

 

「……十代、この人知り合い?」

「翔、お前の知り合いか?」

「なんで僕に聞くんスか!?」

「失礼。俺の名前は三沢大地。君たちの、あのクロノス先生を打ち破ったデュエルスタイルに興味があるのだが、話を聞かせてもらってもいいかな?」

「別に僕は構わないよー」

「俺のヒーローの話を聞きたいってことだろ?俺も構わないぜ」

「ありがとう、じゃあまずは……」

 

 この時の僕たちは思わなかったよ、まさかこの後島に到着するまで延々デュエル談義で大盛り上がりすることになるとは。あー楽しかった。十代も翔も三沢もいい奴だし。

 さ、校長センセのお話だ。

 

 

 

 

 

 ゆ、油断してた……。それが第一印象だった。というよりむしろ、それ以外の感想は出てこない。立ってるだけだったのに、なんだかすごく脳が疲れた。

 

『退屈で精神的ライフポイントはとっくにゼロだな……バタッ』

「同感。鮫島校長、だっけ?これからは注意してないとね……」

 

 しかし先生の話ってのは、どうしてこうも長いんだろうか。おまけに立場の偉さに比例して長くなるときたもんだし。十代なんて途中から立ったまま寝てたぞ。そんなことを考えながら、ぐったりした体を引きずるようにしてパンフレットに書いてあるレッド寮のある場所に進む。一体どんな部屋だろうか。

 

『あんま期待しない方がいいぞー』

「え、どんな感じの寮か知ってるの!?」

 

 意外じゃないけど。ユーノって、常識的なところは時々抜けてるくせに妙に物知りなんだよなぁ。生前は何をやってたんだろ。

 

『普通の学生さんさ』

 

 あ、聞こえてた。

 

「そこの君、さっきから何をブツブツ喋ってるの?って言ってるみたい」

「『!?』」

 

 え、誰?別にそういうのは得意じゃないけど、気配を全く感じなかった。慌てて声の方を見ると、ニコニコと愛想よく笑っている女の子が1人。きれいな青髪を肩のあたりまで伸ばして、なかなかどうして可愛い。

 後になってから時々考えたけど、多分僕の気持ちはこの瞬間、初めて彼女に出会ったまさにこの瞬間から決まっていたのだろう。一目惚れ、だなんて恥ずかしい話だけどさ。

 

「え、えっと。どちら様、ですか?」

「私?多分あなたとおんなじだよ、だってさ。それとも名前を聞いてるの?なら、あなたから言うものでしょう、だって」

「え?ああ、えっと、僕は遊野清明。今日入ってきたばっかの一年坊だよ。そっちは?」

「遊野君、ね」

「……清明、でいいよ」

 

 わかり辛いし。遊野だけじゃ『どっちのだよ!』って近い将来なる気がしてならないし。音だけだとユーノと同じなところが辛い。

 

「私の名前は河風夢想(かわかぜむそう)、だって。夢想だけでいいよ~、だってさ。実は私も、今日入学したばっかりなんだ、って言ってるみたい」

「そ、そう……」

 

 それにしてもなんだろう、このちょいちょい違和感がある喋り方。声自体は柔らかくて暖かい、いい声なだけに余計気になる。そう思っていたのが顔に出ていたらしく、彼女はのんびりした笑顔のまま口を開いた。

 

「ちょっと気になる?ごめんね、これが癖なの。…………って言ってるよ」

 

 なんとなく把握。まあ、世の中いろんな人がいるんだってことだけはわかったよ。でもそれはそれとして、雑にしか聞いてなかったけど確か……

 

『その通りだな。女子は無条件でブルー寮入りするはずだからこんな所にいるはずないんだよな』

「(だよね。いまさらツッコむのも馬鹿らしいからなんも言わないけど)」

『それが正解だな。どうも伝統らしいし』

「それでさ、君にちょっとお願いがあるんだけど、聞いてもらっていいかな?って言ってるけど……どう?いいかな、だって?」

「構わないよ」

『即答っ!?』

 

 可愛い女の子の頼みを断るほどの根性は欠片もありませんから。だいたい、上目づかいで頼んでくるとかもう反則でしょ。

 

「ありがとう!って、お礼を言ってるみたいだよ!」

『なっさけねえの』

 

 るっさい。夢想も喜んでるし、それでいいじゃないか。それにしてもこうやって笑った顔なんて、ああ可愛いなあもう。もう今ならそこの崖から海に飛び込んでって言われてもできそうな気がする。

 

「それじゃあ、早速デュエルしよう!だって!」

「よしきた!……って、それが頼みごと?」

「うん!それじゃあ、デュエルだよっ!」

デュエル脳全開(バカ)がまた一人……でもま、そこがこの世界の魅力ってやつか……な?』

 

 

 

 

 

「「デュエル!!」」

 清明LP4000 夢想LP4000

 

「先攻は私からみたい。ドロー!」

 

 カードを引いた瞬間、めちゃくちゃ嬉しそうな顔をした。よっぽどいいカードでも来たんだろうか。

 

「私はまず、ワイトを召喚するんだって。それからカードを二枚伏せて………う~ん、永続魔法、弱者の意地を発動するみたい。これで、ターンエンドらしいよ」

 

 フィールドに仁王立ちする、青い衣のガイコツが一体。ワイト………ねぇ?

 

『このタイミングで、手札が0じゃないと意味をなさない弱者の意地?とりあえず出しただけなのか、それとも伏せに何かあるのか、あるいはそれを考えさせるためのブラフか……まだなんとも言えないな』

「(あ、今のだけでそんなに深く考えるものなの!?)」

『なんでその位考えねえんだよ!?』

 

 びっくりしたら怒られた。なにこの扱い。

 

「まあ、僕が悪いんだろうけど……ドロー!ウミノタウルスを召喚、ワイトに攻撃!」

(おとこ)探知かよ。まだ序盤だから別に正解だとは思うけどな』

 

 仮にブラフだとしたら、僕にはまるで意味がない。何がどうなるとしても、とりあえず殴ってみないとね。召喚されたなんだかよくわからない見た目の青白い戦士が、二枚貝のような斧を振りかざして突っ込んでいく。

 

「悪いけどこの瞬間にトラップカードを2枚発動、どっちもライジング・エナジーなんだってさ。その効果によりそれぞれ1枚ずつの手札コストを払い、攻撃力を1500ポイントアップさせるんだって」

「うわっ!やっちゃった!」

『言わんこっちゃない……なるほど、ここまで読んでの弱者の意地か。それにしても、なーんであんな怪しいとこで攻撃するかねぇウチの馬鹿は。これがあれか?原作モブキャラの限界ってやつか?』

 

 ちょっと待てユーノさんや、あんたついさっきこれが正解とか何とかほざいてませんでしたかねえ。

 そんなことを考えている最中にもフィールドでは、僕の納得のいかない思いをよそに突っ込んでいった海の戦士の斧をひらりとかわしたガイコツが、お返しとばかりになんか物凄い気の力がこもったパンチを胴体に叩きつける。次の瞬間、ウミノタウルスが大爆発した。

 

 ワイト 攻300→3300

 

 ウミノタウルス 攻1700(破壊)→ワイト 攻3300

 

 清明LP4000→2400

 

 突っ込んでいった海の戦士の斧をひらりとかわしたガイコツが、お返しとばかりになんか物凄い気の力がこもったパンチを胴体に叩きつけると、ウミノタウルスが大爆発した。

 

『ファル〇ンパーンチ!!……ってか?攻撃力3300ってスゲーな』

 

 さすがのユーノも若干呆れ気味の声を漏らす。というか、やっぱり『あの』パンチに見えたんだ……。

 

「この瞬間、弱者の意地の効果が発動するみたい。手札がない時にレベル2以下の通常モンスターが相手モンスターを破壊したから、カードを2枚ドローするんだってさ。他に何かある?」

「カードを一枚伏せて、ターンエンド…………」

 

 清明 LP:2400 手札:4

モンスター:0

魔法・罠:1(伏せ)

 夢想 LP:4000 手札:2

モンスター:ワイト(攻)

魔法・罠:弱者の意地

 

「うん。それじゃあ私のターン、ドローするみたい。う~ん、よし、ワイト夫人を守備表示で召喚、ワイトも守備表示にしてターンエンドにするみたいだよ」

 

 ゴゴゴゴゴッとボロボロの椅子が地面からせり上がり、そこに女物のドレスを着たガイコツが座っている。すると前からいたワイトが、そのゴージャス(?)なワイトに向かって慌ててひざまずく。

 

 ワイト夫人 守2200

 ワイト 攻300→守200

 

『あーあ、ウミノタウルスが今いればなー。ワイト夫人の効果で戦闘破壊耐性もちになったワイトを貫通能力付与でボッコボコのサンドバックにしてやれたのになー』

 

 果てしない棒読みで嫌味を言ってくる。うわぁ、これは腹立つ。なまじ本当のことだけにタチが悪い。おまけにいつの間にか、僕1人のプレミスみたいな扱いになってるし。自分だって反対しなかったくせに。

 だけど、今はこっちで喧嘩してる場合じゃない。アドバンス召喚せずにワイト夫人を突破する方法は数少ないから、そっちは諦めて何か別の手を引かないと。一応手札にあるこのカードを使えばワイト夫人は突破できなくもないけど、それだとダメージが与えられないし。

 

「僕のターン、ドロー……よっしゃ、ドリル・バーニカルを召喚」

 

 宣言と同時にフィールド上に出てきたどでかいフジツボもどきから、ニョキニョキッといくつものドリルが生えてくる。

 

 ドリル・バーニカル 攻300

 

「……?その子の攻撃力なら確かにワイトの守備力より上だけど、ワイト夫人が突破できないと意味がないよ?」

「慌てなさんなって。そして魔法カード、アクア・ジェットを発動!対象はもちろんバーニカル!このカードの効果でバーニカルの攻撃力は、永続的に1000ポイントアップする!」

 

 ドリル・バーニカル 攻300→1300

 

『出た!清明さんのマジックコンボだ!!』

 

 外野がなんか言ってるけど、無視。無視ったら無視。

 

『無視すんなって……しゃーないだろ、アクア・ジェットが出たらこれ言うのがお約束なんだから』

 

 そんなお約束、聞いたことがない。今重要なのは、これでバーニカルの攻撃力が4倍以上にはね上がったということだけだ。

 

「ドリル・バーニカルはダイレクトアタックに成功するたびに攻撃力が1000ポイントずつアップしていき、さらに自身の効果で相手モンスターがいてもダイレクトアタックができる!攻撃、ドリルアタック!」

 

 バーニカルの無数のドリルのうち1本が夢想の方を向いて超回転しながら発射され、盛大な音と共に命中した。

 

 ドリル・バーニカル 攻1300→夢想(直接攻撃)

 夢想LP4000→2700

 

 ドリル・バーニカル 攻1300→2300

 

「いよしっ、ターンエンド」

 

 清明 LP:2400 手札:3

モンスター:ドリル・バーニカル(攻)

魔法・罠:1(伏せ)

 夢想 LP:2700 手札:2 

モンスター:ワイト(守)

      ワイト夫人(守)

魔法・罠:弱者の意地

 

「私のターン、ドローしてワイトをリリースするんだって。来て、龍骨鬼」

 

 ワイトがガシャガシャッと崩れたかと思うと、その骨が再び組み合わさって大きな骨でできた鬼に姿を変える。サイズ違うけど質量おかしくね?とか言ってはいけません。

 

 龍骨鬼 攻2400

 

「龍骨鬼でドリル・バーニカルを攻撃するみたいだよ?」

「……残念ながら、何にも発動できるようなカードがないんだよねー」

 

 足元に散らばる骨の中から適当に一本取り出して投げつけた龍骨鬼に対し、ドリルを発射して迎え撃とうとするバーニカル。二つの飛び道具がぶつかり合って互いの威力を打ち消し合ったすぐ隣を二本目の骨が回転しながら飛んでいき、ドリルを発射した後の無防備な穴に突き刺さる。

 

 龍骨鬼 攻2400→ドリル・バーニカル 攻2300(破壊)

 

 清明 LP2400→2300

 

『ちょーっと押され気味だな』

「(うるさい)」

 

 言い返したものの、劣勢は間違いない。打点上昇のアクア・ジェットも使っちゃったし、龍骨鬼の攻撃をなんとかいなす手段を探さないとこのまま押し切られる。

 

「僕のターン、ドロー!……おっ」

『ふむ、使い方は任せる。どっちを選んでもプレミスっていうほどひどくないし』

「(そう?なら、お言葉に甘えて)」

 

「モンスターをセット、ターンエンド」

 

 清明 LP:2430 手札:3 

モンスター:???(セット)

魔法・罠:1(伏せ)

 夢想 LP:2700 手札:2

モンスター:龍骨鬼(攻)

      ワイト夫人(守)

魔法・罠:弱者の意地

 

「私のターン、なんだって。ドローして……う~ん、このまま攻撃するみたい。お願い、龍骨鬼、ってさ」

 

 再び投げつけられる骨。それを受け、セットされたモンスターの姿が明らかになる。

 

「この瞬間にスノーマンイーターの効果発動!リバースした時、フィールド上の表側モンスター1体を破壊する!」

 

 さて、普通に考えたら破壊するのは龍骨鬼。でも、ワイト夫人にはなかなかどうして突破しにくい破壊耐性を味方に受けさせる効果がある。どっちにしようか……よし、決定。

 

「やっちゃって、スノーマンイーター。ワイト夫人を破壊する!」

 

 雪だるまを背負ったよくわからない獣がシャカシャカと相手フィールドまで駆けていき、ワイト夫人にガブリと噛みつく。それと同時にどういう仕組みなのかホーミングして追いかけてきた骨が雪だるまに突き刺さって動きを止める。

 

 龍骨鬼 攻2400→スノーマンイーター 守1900(破壊)

 

「私のワイト夫人が……カードを伏せて、ターンを終わるんだってさ」

「ドロー!罠カード、リビングデッドの呼び声を発動!甦れ、ウミノタウルス!そして、ウミノタウルスは水族モンスター……この特殊召喚をトリガーにして、シャーク・サッカーを手札から特殊召喚するよっと」

 

 地面に開いた魔法陣から勢いよく飛び出してくる、青白い肌の海の戦士。よくよく見ると、その頭ののっぺりした部分にはコバンザメがひっついていた。

 

 ウミノタウルス 攻1700

 シャーク・サッカー 攻200

 

「さらに僕はこの二体をリリースして、青氷の白夜龍をアドバンス召喚する!」

『これをアド損とみるよーな世界にいたんだよなー俺………なんだか悲しくなってきた』

 

氷の翼を広げた、真っ青なドラゴンがフィールドに現れる。おお、かっこいいかっこいい。

 

「なら私は、ここでリバースカードの発動をするんだって。手札を一枚捨てて、サンダー・ブレークッ!この効果で、その氷のドラゴンを破壊するみたい」

 

 ビシッ!とポーズまで決めて、罠を発動する。だけど、相手だって伊達に最上級モンスターなわけじゃない。ジグザグな軌道を描きながら飛んできて絡みついた雷を、あっさりと氷のドラゴンは振り払った。

 

「む。ってさ」

「白夜龍には、自身を対象にする魔法・罠を無効にする効果がある!そのまま龍骨鬼に攻撃……いっけぇー!孤高の冬色輪氷弾(ウィンター・ストリーム)!」

 

 青白く光るブレスが、あっという間に龍骨鬼を飲み込んで消し去る。そして夢想のところにも、その余波が届いてダメージを与える。

 

「くっ……!やっぱり強いね、だってさ。さすがはあのクロノス先生を倒した人だね、って」

 

 青氷の白夜龍 攻3000→龍骨鬼 攻2400(破壊)

 夢想LP2700→2100

 

「見ててくれたの?ありがとう。僕はこれで、ターンエンド」

 

 清明 LP:2400 手札:2

モンスター:青氷の白夜龍(攻) 

魔法・罠:リビングデッドの呼び声(対象無し)

 夢想 LP:2100 手札:1 

モンスター:なし

魔法・罠:弱者の意地

 

「私のターンだね。ここで逆転できないと、私の負け。でも、まだ私は自分のデッキを信じるんだって言ってるよ。ドロー!」

 

 勢いよくドローして、そっとそのカードを確認する。さあ、一体何を引いたんだろう?なんだかこっちまでドキドキしてきた。

 

「ありがとう、私のデッキ!って凄く喜んでるみたいなの。お願い、ワイトキング!!」

 

 ドラゴンと向かい合い、自分の主人を守るように立ちふさがる骸骨の王。その相本から大量の霊魂が噴き上がり、骸骨の王の空になった眼の跡や服の隙間などからその体内に注入されていく。

 

『まずいな、ワイトキングは墓地のワイトの数1体につき1000。確か今の攻撃力は裁定でもワイトが1枚にワイト夫人が1枚の2枚だから2000か。さあ、あのたくさんの手札コストの中で、一体何枚がワイトかね?』

 

 相変わらず楽しそうに解説してくれるユーノ。この様子からいって、ホントに僕が負けてもいいって思ってるんだろうなぁ。

 

「今のこの子の攻撃力はね、まずフィールドから墓地に行ったワイトとワイト夫人、ライジング・エナジーのコストにしたワイト2枚、さらにサンダー・ブレイクのコストにしたワイトメアが1枚の、合計5000なんだよ!だって言ってるよ」

「『って、あれ全部ワイトだったのかよ!?』」

 

 あ、ハモった。なんて言ってる場合じゃなーい。あれだけの手札コストが全部攻撃力に回るとすると……もしかして、あのサンダー・ブレイクもミスじゃなくてわざと、ここでワイトキングの火力を上げるために……?

 

「ワイトキング、その綺麗なドラゴンに攻撃して!!」

 

 不気味なステップを踏みながら、ゆったりとこちらにやってくるワイトキング。そして次の瞬間、目に見えないほどのスピードで踊りだしたワイトキングが何が起こったのかわからないうちにきれいなステップの蹴りで白夜龍を撃破していた。え、なにこのメッチャ速いガイコツさん。

 

 ワイトキング 攻5000→青氷の白夜龍 攻3000(破壊)

 清明LP2300→300

 

「逆転だね。私はここでターンエンド、だって」

 

 くっ、かなりマズイな……。攻撃力5000のワイトキングか。突破できる、かな?できるよね、きっと。

 

『できるな。とゆーかさ、仮にもデュエリストが一瞬でも弱気になってどーするよ?正直に言うとな、俺は前世では弱い方だった。けど、少なくとも諦めたこたぁ1回もないぜ?』

 

 おお……なんかかっこいいな。でもそうだよね、ここで勝負捨てるわけにもいかないか。

 

『まあ、俺のデッキの場合ピンチの時になると魔宮の賄賂ドロー率が跳ね上がるんだけどな』

 

 聞きたくなかった。そこ凄く聞きたくなかった!

 

『いやいや、ちょっと考えてみろ。いいか、残りライフ800でフィールドもカラ、手札も事故ってる状況でのラストドロー!であの賄賂のおっさんのドヤ顔がこっちを見てくる状況ってどうだと思う?正直俺は泣きたくなります』

「(そんな感想限りなくどーでもいいよ!)」

「……?どうしたの、って聞いてるんだけど」

「あ、ああゴメン……ド、ドロー!」

 

 魔宮の賄賂じゃありませんよーに魔宮の賄賂じゃありませんよーに魔宮……。

 

『わーいろ!わーいろ!わーいろ!わーいろ!わーいろ!わーいろ!』

 

 るっさいわ。えっと、何を引いたかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔宮の賄賂「やあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな幻聴が聞こえた気がした。

 

「ターン、エンド……」

「じゃあ私のターン、ワイトキングで攻撃!だよ!」

 

 そして空っぽのフィールドをワイトキングが爆走しながらこっちに近づいてきて、吹っ飛ばされて……。

 

 ワイトキング 攻5000→清明(直接攻撃)

 

 清明 LP300→0

 

 デュエルの終了と同時に、ソリットビジョンも消えていく。負けた、か。そしてちょっとわかったユートの気持ち。こりゃ泣きたくもなるわ……。

 

「ありがとう、清明。私も危なかったよ、だって」

「いやいや、こっちこそありがと。帰ったらデッキ調整だなー」

 

 まず真っ先に、魔宮の賄賂は2枚積みから1枚積みにしよう。絶対に。

 

「あ、ちょっと待って、だって。もう1つだけ、お願いなんだけどいいかな?って頼んでるんだけど……どう?」

 

 はて、まだ何かあるんだろうか。まあ、別にデッキは後でもいいし断る理由もないか。

 

「別にいいけど、何?」

「えっと……」

 

 ちょっと目をそらしながら口ごもる夢想。

 

「その、えっと、恥ずかしいんだけど……私、今迷子なのっ、て言ってるみたい。だから、その……ブルー寮まで案内してくれるかな?なんて……」

 

 結論。ただの迷子さんでした。ちなみに同じころに十代が万なんとかってブルー生徒とデュエルしてたらしいけど、それはまた別の話。




ここでいきなり1回負けちゃう。そしてヒロイン、河風夢想登場の巻。
ちなみに彼女のデッキ、いくつか他にも候補がありました。

ちなみに魔宮の賄賂に関するくだりは全部実話。それと、活躍させられなくてごめんよシャーク・サッカー。ホントならワイトキングを渾身の一撃(魔法カードの方ね。念のため)でぶち倒す予定だったんだけど……ネタに走ってしまったんだ(汗)。

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