遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~   作:久本誠一

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最新話ボタン押してここに来た人に業務連絡です。このお話は同時投稿の後編なので、まだ見ていない人は1つ前の前篇から読みましょう。

前回のあらすじ:前回参照。


ターン117 邪魔の化身とラスト・『D』(魔)

 ……なるほど、このタイミングでか。確かに今ここで八百長の指示を出せば、今の逆転で勝負の流れに乗った万丈目がそのまま押し切れた風に見えなくもないだろう。だけど、その指示が出たのなら打ち合わせ通り僕の出番だ。観客席の高さは一番低い場所で精々10メートルもないぐらい、余裕で飛び降りられる。

 

『マスター、その前にあれを見てみるといい』

「へ?」

 

 手すりに手をかけて身を乗り出そうとしたところで、チャクチャルさんが何かを見つけたようだ。あれ、とやらの指す方に目を向けると、ついさっき放送前のカウントダウンをしていたスタッフがじわじわと万丈目陣営に近づいていくところだった。

 それにしてもあの人、確かにそこにいるのになぜか視線が滑るというか、眼には見えているのに存在感が極端に感じられないというか、とにかくなにかがおかしい。僕だって、チャクチャルさんが教えてくれなければあの人がそこにいることに気づきもしなかっただろう。

 

『ただの人間に、少なくともテレビ屋にできる動きではないな。足音どころか気配まで完璧に断っている、相当の修練を積まなければ無理な芸当だ』

「まさか……」

『まあ、そういうことだろうな。何を考えているんだか』

 

 話し込んでいるうちにスタッフ……いや、「彼女」はマイクの真後ろまで回り込み、ここで初めて僕の視線に気が付いたかのように小さく手を振ってきた。だから僕も小さく頷いて息を吸い、きっぱりと叫ぶ。

 

「明菜さん、今です!やっちゃってください!」

「はーい清明ちゃーん、まっかせといてー」

 

 そこからの行動は、とにかく素早いの一言だった。それまで着ていた撮影スタッフの衣装を脱ぎ捨てて私服姿に戻った明菜さんの両手にはずっと隠し持っていたらしい丈夫そうなロープが握られており、それを使って恐らく自分に何が起きたのか理解する暇もなかったであろうマイクをすぐさま後ろ手に縛りあげる。「姉上えぇぇ!?」とかいう叫び声が客席のどこかで小さく聞こえた気もするが、たぶん気のせいだ。きっと気のせいだ。絶対、何があっても、それは気のせいだ。

 ……いいじゃない、今ぐらい夢見たって。あ、駄目だ。葵ちゃんこっち来た。

 

「い、一体何の騒ぎだこれは!?」

「ごめんねおじさん、これもお仕事だからね。清明ちゃん、あったよー!」

 

 ものすごい剣幕で僕の場所に詰めかけてくる葵ちゃんを尻目に、完全にマイクの動きを封じた明菜さんがサッと手を振る。ただそれだけで、もうその中には手品師のように1枚のデュエルモンスターズのカードが握られていた。

 

「ありがとうございます、それじゃあ……よっと、失礼」

 

 捕まる前にさっさと逃げようと手すりを乗り越えて、ちょうどその真下を走っていた警備員の上に飛び降りる。多分何が起きたかもわからなかったであろう彼にクッション代わりになってもらい、そのまま気を失ったのを確認して立ち上がる。そのあたりでただ茫然としていたレポーターのお姉さんがようやく我に返り、カメラマンに合図を送って実況を再開する。

 

「こ、これは前代未聞の事態です!デュエルを中断して突然現れた2人の乱入者、彼らはいったい何者だというのでしょうか!?そしてその目的は!?どうやら、何か1枚のカードを持っているようですが……?」

「明菜さん、それを……えっと万丈目、これどうすりゃいいの?」

「……最後まで締まらん奴だな、お前は。そこのVIP席に千里眼グループの会長がいるから、まずはその人に確認してもらえ」

「だって、明菜さん」

「はいはーい。会長さん、このカードでいいのかしら?」

 

 明菜さんが表向きにかざしたカードは、エドのD-HERO特有のカード名部分が青い文字で印刷された特別仕様で……なんだろうあれ、融合モンスター?少なくとも、かなりレベルが高いのは見て取れる。

 

「それは間違いなく、紛失していた最後のDカードだ。マイク、なぜ君がそのカードを持っているのかね?」

「そ、それは……」

「言いたくないなら僕が言おうか。アンタがカードを盗み出すなんて卑怯な手を使ったせいで、エドは引退に追い込まれたんだ。違う?」

 

 無言で唇をかみしめ、下を向くマイク。その沈黙が、十分に肯定の意思を表していた。

 

「なるほど……エド、理由が何であれこうしてカードが見つかった以上、君の引退する理由はもはやない。そのカードを使いこれからもプロデュエリストとして、よりいっそうの活躍を期待しよう。そこの君、すまないがそのカードはエドに渡してやってくれ」

「はーい、どうぞ」

「会長……」

 

 明菜さんが手渡したカードをエドが受け取り、それをエクストラデッキに入れる。これで一件落着、といけば文句なかったのだが、まだ何かひと悶着あるらしい。絶望した様子で縛られていたマイクが暗い目になって突如立ち上がり、止める間もなく大声でわめき散らす。

 

「き、聞けぇ!確かに俺があのカードを盗んだ、だがそれなら、そこの万丈目はどうだ!?奴は俺と組んでイカサマ試合をした、そうだろう?つまりと奴は同罪、なあ万丈目ぇ!」

「な……なんと、これは衝撃の告白です!エド・フェニックス引退の真相は1枚のカードの盗難であり、その犯人が見つかったかと思えば、当人の口から明かされたおじゃ万丈目のイカサマ疑惑!おじゃ万丈目さん、今の言葉は真実なのでしょうか!?」

「……ああ、本当だ」

 

 吐き捨てるようにして呟いた言葉に、レポーターもまさか肯定されるとは思わなかったのか言葉を失ってしまう。

 次から次に訪れる展開による混乱が会場を埋め尽くし、誰もがシンと押し黙った。そんな針一本落とした音ですら響き渡りそうな静寂を切り裂いて突如素っ頓狂な、この雰囲気には場違いなほどの大声が上がる。

 

「なにい、万丈目!お前、俺とのデュエルでずるしてたって言うのかよ!」

「十代……」

 

 いつの間に下に降りてきていたのか、入場口のところから十代が走ってきた。当の万丈目はというとあのデュエルから一体どれだけ苦しんでいたのか、非難する十代と目を合わすことすらせず辛そうに顔を伏せる。

 確かに当事者として思うところはあるだろうし、十代の言い分の方が正しいのもわかる。だけど、さすがにここで万丈目を責めるのはやりすぎじゃないか。お前本当におジャマ・イエローの話聞いてたのか……僕の送った非難の視線もどこ吹く風、デュエル場に上がって着ぐるみの襟をぐっとつかむ。

 これ以上無茶するようなら、僕が止めに行こう。だがそう決意した矢先に十代の続けた言葉は、なんとも意外なものだった。

 

「それじゃあお前あのデュエル、わざと弱いふりをして……あれ?それってイカサマなのか?なあ?」

 

 はいはいはい、そういうことね。十代からのパスを受け、すっとぼけたふりして僕も声を上げる。

 

「あのね十代、そんなのイカサマなんていう訳ないじゃん。ただまあ、まだ万丈目の本気ってやつをを僕らに見せてないのは間違いないけどさ。まさか、こんなところでこのデュエル中断するなんて言わないよね?」

 

 言いながらさりげなく手を後ろに回し、後ろから睨みつけているであろう葵ちゃんにハンドサインを送る。やっぱり彼女の察しの良さはどんな時でも頼もしく、すぐに反応してくれた。

 

「それは困ります、もっとデュエルを魅せてくださいよ!」

 

 その葵ちゃんの一声がトリガーとなって、会場のあちこちからデュエル続行を望む声が上がり始める。始めはまばらだったそれが次第に一体化し、やがて割れんばかりの万丈目、そしてエドに対してのコールへと変化していった。その中心で、万丈目の顔が次第に明るくなっていく。ばっと着ぐるみを投げ捨てると、いつもの黒服で統一された万丈目の姿がそこにはいた。

 

「いいだろう、もうこんなくだらん小細工は俺には必要ない」

『ああん、オイラの着ぐるみが~!せっかく男前になってたのに、アニキったら!』

「待たせたな、エド!ここからが本番だ、デュエルを再開するぞ!」

「望むところだ、本物のプロとの格の違いを教えてやろう!」

「デュ、デュエル再開!視聴者の皆さん、デュエル再開です!おじゃ万丈目の姿を捨て、真の姿となった万丈目!果たしてどのようなデュエルが繰り広げられるというのでしょう、なんだか私まで興奮してまいりました!」

 

 ついにおじゃ万丈目であることをやめた万丈目。再開したこのデュエルは、ちょうどエドのターンが始まる寸前だった。吹っ切れたような顔で笑う万丈目に笑みを返し、エドがカードを引く。

 

「僕のターン、ドロー!ダブル・アームド・ドラゴンか……確かに厄介だが、所詮僕のディーヒーローの敵ではない。魔法カード、手札抹殺を発動。互いに手札全てを捨て、捨てた枚数だけドローする。もっとも僕は本来捨てるこの1枚の他に、便乗によりさらに2枚のドローを行うがな。そしてマジック・プランターを発動、便乗をセメタリーに送りもう2枚ドロー。さあ、これで準備は整った。融合を発動し、手札のディフェンドガイとディアボリックガイを素材として融合召喚!鉄壁の意思もつ英雄よ、輪廻の運命を放浪する英雄よ。暗黒の未来を統一し、理想郷へと歩むがいい!カモン、ディストピアガイ!」

 

 D-HERO ディストピアガイ 攻2800

 

 アモン戦でもエドが使用した、破壊にバーンという2種類の強力な効果を状況に応じて使うことができるディーヒーローのニューフェイス。両手でアルファベットのDをかたどったポーズをとると、そこから赤い光が放たれた。

 

「ディストピアガイのファーストエフェクト発動、スクイズ・パーム。このカードが特殊召喚に成功した時、セメタリーのレベル4以下のディーヒーロー1体の攻撃力分のダメージを相手に与える……そして僕のセメタリーには、先ほどデッドリーガイが送り込んだ攻撃力1600のディバインガイが存在する!これで終わりだ、万丈目!」

「なんとおじゃ万丈目改め万丈目、真の力を我々に見ることなくこのダメージだけで決着がついてしまうのか!?エド・フェニックスによるプロの洗礼は、これほどまでに厳しいものなのでしょうか!」

「万丈目!」

 

 万丈目の残りライフは1400、確かにこのダメージには耐えきれない。でも、あそこまで啖呵切っておいてこんなあっさり負けるなんて、それこそ万丈目が許すはずがない。放たれた怪光線が万丈目に届く寸前、その周囲に光の膜が張り巡らされて威力が半減した。

 

「トラップ発動、ダメージ・ダイエット。発動ターンに俺が受ける、あらゆるダメージは半分になる」

 

 万丈目 LP1400→600

 

「万丈目、エドのディストピアガイの登場を読んでいたかのように華麗に敗北を回避しました!しかも2体のアームド・ドラゴンとディストピアガイの攻撃力は同じ、これではエドもうかつに攻撃はできません!」

「攻撃ができない?甘いな、何を言っている。デッドリーガイの送り込んだディーヒーローは、2体いることを忘れたか!セメタリーに眠るディーヒーロー、ダイナマイトガイのエフェクト発動!自身を除外することで次のお前のターン終了時まで、ディストピアガイの攻撃力を1000ポイントアップさせる。バトルだ、ダーク・アームド・ドラゴンに攻撃!ディストピア……ブローッ!」

 

 ディストピアガイに被さるように、体中に爆発のエネルギーを漲らせた巨漢のヒーローの半透明の姿が1瞬だけ見える。ディストピアガイの全身がそのオレンジ色のエネルギーに包まれ、筋肉が戦闘服の下で盛り上がる。エネルギーを抑えきれないと言わんばかりに飛び上がると、そのままの勢いで帯電した拳の一撃が闇のアームド・ドラゴンの懐深くに突き刺さった。

 

 D-HERO ディストピアガイ 攻2800→3800→ダーク・アームド・ドラゴン 攻2800(破壊)

 万丈目 LP600→100

 

「ぐっ……!ダメージ・ダイエットの効果は、戦闘ダメージにも有効となる!」

「首の皮1枚で繋がったようだが、まだ僕のターンは続いている。ディストピアガイのセカンドエフェクト発動、このカードの変化した攻撃力を元々の数値に戻すことで、場のカード1枚を破壊する!消え去れメタファイズ・アームド・ドラゴン、ノーブルジャスティス!」

 

 ダーク・アームドを殴り倒したディストピアガイが間髪入れず、その隣にいた光のアームド・ドラゴンに片手をかざす。するとそこから零距離で解き放たれた破壊の衝撃波が、幻竜の体をも吹き飛ばした。

 

 D-HERO ディストピアガイ 攻3800→2800

 

「なんということでしょう!光と闇のアームド・ドラゴン、わずか1ターンで駆逐されてしまいました!辛うじて敗北こそ回避したものの、ディストピアガイとはなんと恐ろしい効果を持っているモンスターなのでしょうか!」

「まだ終わりではない、セメタリーに眠るディアボリックガイのエフェクトも発動だ。自身を除外することで、デッキから同名モンスターを特殊召喚する。カモン、アナザーワン!」

 

 D-HERO ディアボリックガイ 攻800

 

「攻撃表示だと……?エドめ、また何か企んでいるのか?」

「さあね、どうだろうか。カードを1枚伏せ、セメタリーからディバインガイのエフェクト発動。僕の手札が0枚になったことで、このカードと同じくセメタリーのディフェンドガイを除外してカードを2枚ドローする。ターンエンドだ」

 

 確かディストピアガイの2つ目の効果は、相手ターンでも発動できたはずだ。つまり、今ここでわざわざあのモンスターの攻撃力を下げる意味は何一つない。強いて言うならば今のうちにモンスターを減らすことで次のターン万丈目に最上級モンスターをアドバンス召喚するためのリリース要因を残さなかったということぐらいだが、それにしたってやはり今やるようなことではない。しかもあのディアボリックガイの不自然な攻撃表示、そして1枚の伏せカード。

 ……どう見たってあからさまに怪しいが、ついさっき万丈目は同じく怪しい伏せカードにまんまと釣られて強欲な瓶2枚にダーク・アームドの効果を使ってしまうという致命的な失敗をやらかしてしまっている。どうしてもあの時の記憶が蘇り、冷静な思考力を削いでいるのだろう。

 

「俺のターン……兄さんたち、もう1度力を貸してくれ!魔法発動、おジャマ改造!」

「なんと万丈目、未知の力を誇るディーヒーローに対抗し、2枚目の未知なるおジャマカードを発動しました!ですが彼の手札にいた3体のおジャマはすでに手札抹殺により墓地に送られ、残るは場にいたままのおジャマ・ブルーのみ。これで万丈目、一体何を成し遂げようというのでしょう!」

「このカードは発動時に俺のエクストラデッキから光属性で機械族の融合モンスター1体を見せ、さらにデッキ以外の場所から任意の枚数だけおジャマモンスターを除外する。そして除外した数まで、その機械族融合モンスターの素材を1種類ずつどこからでも呼び出すことができる!XYZ-ドラゴン・キャノンを見せることで俺の墓地のおジャマ・イエロー、グリーン、ブラックを除外し、代わりにデッキからX、Y、Zを特殊召喚だ!」

『結局俺たちゃ最後まで』

『コスト要因なのかよーっ!』

『アニキのいけず~!』

 

 そんな切ない叫びが聞こえた気もしたが、万丈目もその声に構ってやるほどの余裕がないらしい。それとも、集中しすぎていてその声も耳に入っていないのかもしれない。まあ3兄弟もついこの間、割とやりたい放題に暴れたからか本気で自分たちの待遇を嫌がっているわけではないようだ。あくまであれも、いつものちょっとしたじゃれ合い程度の意味合いなのだろう。

 ともかく3枚のカードが除外されるのと同時に、アルファベットの名を冠する3体のマグネットモンスターが合体前のまだ分離した状態でディストピアガイの眼前に着陸する。

 

 X-ヘッド・キャノン 攻1800

 Y-ドラゴン・ヘッド 攻1500

 Z-メタル・キャタピラー 攻1500

 

「まずはお前らの合体だ!ゆけっ、X、Y、Z!この3体のマグネットモンスターを除外することで、XYZ-ドラゴン・キャノンを特殊召喚する!」

 

 Yの胴体の中央にXの下半身である球体が接続され、その横を補強するかのように2つに分離したZが左右にそれぞれ接続される。あの海馬瀬人がバトルシティにおいて神のカード召喚のための足掛かりとして採用しておきながら、それ単体で並のモンスターならば蹴散らすことのできる力を持つ大型融合モンスターだ。

 だが、万丈目のマグネットモンスター戦術にはさらにその先があることを、僕らは知っている。

 

 XYZ-ドラゴン・キャノン 攻2800

 

「魔法カード発動、融合識別(フュージョン・タグ)。エクストラデッキのモンスター1体を見せることで、このターン指定したモンスターを融合素材にする際そのモンスターとして扱うことができる。これによりおジャマ・ブルーは、VW-タイガー・カタパルトの名を得る」

「これで万丈目、フィールドにその1体ごとの召喚すら難しいとされる2種類のマグネット融合体を、1体は同名カード扱いになっただけとはいえわずか1ターンで並べました!となるとまさか、狙いはあのロマンカードでしょうか!?」

「XYZ、そしてVW……この2種類が全て場に揃った時、それらを除外することでさらにその先のマグネットモンスターの特殊召喚が可能となる。さあ受けてみろエド、この5体合体を!出でよ、VWXYZ(ヴィトゥズィ)-ドラゴン・カタパルトキャノン!」

 

 せっかく完成した2種類の合体がいきなり解除され、新たに命じられた5体合体に応じた組み合わせにそれぞれのパーツが重なり合っていく。XYZの手札を捨てて場のカードを破壊する効果を使わなかったということは、よっぽど使いたくないカードしか手札に残っていないのだろうか。

 ともかくまず総司令塔となる頭をVが、重い体全体を支える両足をWが引き受け、さらに背面にはYの機械の翼が目一杯広がることで両足だけではバランスを崩しそうになる体全体の調整器官としての役目を果たす。胴体を支えるXの両腕が相変わらず分離したままのZのパーツをがっちりと握りしめることで両腕代わりにすることで、人型をした1体の超火力移動砲台の姿がついに現れた。

 

 VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン 攻3000

 

「ドラゴン・カタパルトキャノンは1ターンに1度、無条件で場のカード1枚を除外する。これでその、目障りこの上ない伏せカードには退場してもらおうか、VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

「やはり、このカードを除去しに来たか。だが残念だったな、万丈目。トラップ発動、D-フュージョン……このカードは僕のフィールドに存在する、ディーヒーローのみを素材としての融合召喚を行う。暗黒の世界の英雄よ、輪廻の運命を放浪する英雄よ。悠久の時の果てに得た、理想郷にて安息の時を!カモン、ダスクユートピアガイ!」

「フリーチェーン……また逃げたか!」

「なんと、ディストピアガイにはまだもう1段階の進化が残されていました!専用の融合カードにより呼び出された、その姿は……キャッ、眩しいです!」

 

 眩しい。僕も、それが第一印象だった。全身を黄金色に輝く鎧に包む、頭部そのものがDの一文字をあしらったデザインのラスト・ヒーロー。モチーフがモチーフだからか暗い色合いばかりだった既存のディーヒーローの中にあって一際目立つその光は、まさに黄昏の太陽のような存在感を放っていた。

 

 D-HERO ダスクユートピアガイ 攻3000

 

「ダスクユートピアガイがその融合召喚に成功した場合、僕はもう1度だけ融合を行うことが許される。手札のディーヒーロー、ドグマガイとBloo-Dを素材とし、この最後のDを呼び出そう!カモン、Dragoon(ドラグーン) D-END!」

 

 太陽のようなダスクユートピアガイと並ぶかのように、ついにエドの手に渡った最後のDカードがその謎に包まれたベールを脱ぐ。

 それはBloo-Dの持っていた悪魔的荒々しさと、ドグマガイの洗練されきった力。全く毛色の違う、だけどどちらも比類なき圧倒的な2つの力の集大成だった。左腕と胸部にはどちらも龍の頭部を模した鎧と武器が装着され、龍を使役するドラグーンの名を相応しいものに見せている。そのほかにもドグマガイの蝙蝠のような翼とBloo-Dの持っていた悪魔そのものの鮮血の翼を足して2で割ったような赤い翼からは龍の爪が生え、背面では新たに生えた太い龍の尾が血を求めてでもいるのか、かすかに動いていたのも見えた。

 

 Dragoon D-END 攻3000

 

「これが……最後のD……」

 

 いつもの実況も忘れて見入っていたお姉さんが呟いた言葉が、いまだ手放さなかったマイクに拾われて反響する。それだけ、誰も何も言えなかったのだ。

 いや、それは違った。この中でたった1人だけ、いまだ闘争心を燃やし続けている男がいた。

 

「エド・フェニックス!」

 

 万丈目だ。ただ1人万丈目だけが真正面から2体のディーヒーローの究極融合体を見据え、一歩踏み出しながら声を張り上げた。

 

「この俺は、万丈目サンダーは、こんなところで止まりはしない!VWXYZ、奴に……最後のDとやらに攻撃するんだ!VWXYZ-アルティメット・デストラクション……そしてこのダメージ計算時に速攻魔法、リミッター解除を発動!倍となった攻撃力で、全てまとめて吹き飛ばしてやれ!」

 

 2体の攻撃力は、互角。相打ち狙いで体中の全砲門の照準を最後のDに合わせるドラゴン・カタパルトキャノンに対し、Dragoon D-ENDもまた右腕に装着された剣を一振りしてそれに立真っ向から立ち向かう。その反撃をレーダーが捉えた瞬間VWXYZの全砲門から迸る光の奔流が一気に倍となり、あまりの衝撃に自らの体をも破壊しながら眼前の敵に向かって突き進んでいく。目も眩むような閃光と轟音が走り、2体の大型モンスターの生み出した破壊のエネルギー乱舞が場を荒らしまわった。

 

 VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン 攻3000→6000→Dragoon D-END 攻3000

 

 どこまでも続くかに思われたその衝撃がようやく静まった時、VWXYZの姿はすでに辛うじて原形こそとどめているものの全身の砲台は破裂してボロボロ、エネルギーも枯渇寸前の見るも無残なスクラップ寸前になっており……対してエドのフィールドには、いまだ無傷の状態で2体のディーヒーローが立っていた。

 

「馬鹿な!?攻撃力はこちらが圧倒的に……!」

「確かにな。だが僕はダスクユートピアガイのセカンドエフェクト、アナスタシム・グリームを発動していた。互いのターンに1度ずつ場のモンスター1体を選ぶことでそのターンそのモンスターは戦闘でも効果でも破壊されず、バトルダメージも0となる。この効果でDragoon D-ENDは守られていたから万丈目、このターン破壊されるのはリミッター解除のデメリットを受けることになるお前のモンスターだけだったということだ」

「ダスクユートピアガイ、その真の力は自らの仲間を呼び、仲間を守ることにありました!破壊とバーン効果を持つディストピアガイを進化させることで、仲間のためにその力を解放するダスクユートピアガイとなる……なんという奥が深いカードなのでしょう!対する万丈目、このターンで勝負を決めるべく呼び出した頼みの綱のVWXYZの攻撃すらエドには通らず、それどころかリミッター解除のデメリットまで背負う形になってしまいました!ここまでの健闘むなしく、ついに力尽きてしまうのかあーっ!?」

 

 ここまで戦ってきた万丈目に対しこんなこと言いたくはないが、確かにその言葉は正しいと僕も思う。おジャマ達からのサポートを受けながら戦ってきたアームド・ドラゴンが倒れ、VWXYZも今まさに機能停止しようとしている。こんな状況で、さらにこの場をひっくり返すような手が万丈目に残されているとでもいうのだろうか。

 いや、答えはノー、だ。万丈目とは3年間も腐れ縁が続いてきた僕だからこそ、その限界もよく知っている。これ以上の番狂わせなんて、それこそ奇跡でも起きなければ無理だろう。万丈目本人もそのことは承知しているからか、厳かな顔になって壊れかけのVWXYZを無言で見上げる。

 と、その時、その右腕が高々と宙に掲げられた。皆の視線が自然とそこに集まる中でおもむろに1度指を鳴らすと、まるでそれがきっかけとなったかのようにVWXYZの目に再び光が宿る。破損した砲台や装甲、使い物にならなくなった部品が次々にパージされ、まだ辛うじて動く部分だけが残された。

 パチン。もう1度指を鳴らすと、次に現れたのは半透明のアームド・ドラゴン。それも1番最初にドリルガイによって倒されたはずの、LV7の亡霊だ。

 

「なんだ一体!?何が起きている!?」

「やはりエド・フェニックス、貴様は確かに凄腕のプロデュエリストだ。だが俺もこの試合、絶対に負ける訳にはいかない。これが兄さんたちにより俺に贈られた、最強にして最後の力。アームド・ドラゴンとVWXYZの2体による、禁断の変形合体モンスター。あの2体をこのデュエル中どちらも特殊召喚に成功したことで、すでにその召喚条件は整っている」

 

 実に真っ当なエドの言葉に、そこでようやく万丈目が答えた。静かな、しかしよく通る声音で、はっきりと語りだす。そうこうしている途中にも、亡霊のはずのアームド・ドラゴンの体のあちこちを補強するかのようにVWXYZの残ったパーツが鎧となり盾となりそして武器となって組み合わさり、枯渇した自らのエネルギーの代わりにドラゴンの持つ原初的な生命エネルギーを注入され息を吹き返していく。生身の体に機械の力が組み合わさり、まさに本人が言った通りの禁断の変形合体モンスターが次第にその全容を現していく。

 

「俺の墓地のアームド・ドラゴン LV7と、場のVWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノンをゲームから除外する!さあその姿を見せろ、アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン!」

 

 新たな力を得たアームド・ドラゴン……いや、生まれ変わったVWXYZ……いや、違う。アームド・ドラゴン・カタパルトキャノンが、龍の咆哮と機械の咆哮の入り混じった産声を上げる。よく見ると背後から黒煙が噴き上がっている辺りやはり相当に無理のかかる合体なのだろうが、当の本人はまるでそんなこと気にした様子もなく目の前の強敵に対し好戦的に両腕を打ち合わせる。

 

 アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン 攻3500

 

「なんだこの合体は、ふざけた真似を……!」

「そのふざけた真似の力を思い知るがいい、エド!墓地の魔法カード、おジャマッチングのさらなる効果を発動。たった今除外したおジャマ3兄弟をデッキに戻すことで、カードを1枚ドローする。フン、ここでお前を引くことになるとはな。まあいい、カードを2枚伏せてターンエンドだ」

「な、な、なんなのでしょうこのモンスターは!まさに異形!奇怪!悪魔的発想による融合失敗の産物としか思えない代物ですが、その身に秘めたパワーは間違いなく本物です!一体我々の前に、どのような戦い方を見せてくれるというのでしょうか!?」

 

 本当に、何を考えてこんなカード作ったんだあの兄弟。いくらカードについては素人同然とはいえ、もうちょっとなんかなかったのだろうか。いや、むしろこのぶっ飛んだ発想力こそが、さすが万丈目の一族と言うべきなんだろうか。

 ともあれ、これで満を持してエドと万丈目それぞれの最終決戦兵器がフィールドに並んだ。こうなると後はもう、どちらが先に倒れるかの戦いだ。

 

 万丈目 LP100 手札:1

モンスター:アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン(攻)

魔法・罠:2(伏せ)

 エド LP1000 手札:0

モンスター:D-HERO ダスクユートピアガイ(攻)

      Dragoon D-END(攻)

魔法・罠:なし

 

「僕のターン!Dragoon D-ENDのエフェクト発動、インビンシブル・D!このターンのバトルフェイズを放棄することで相手モンスター1体を破壊し、その後そのモンスターが表側表示だったならば、その攻撃力分のダメージを与える!お前の墓地には除外することで効果ダメージを半減できるトラップ、ダメージ・ダイエットがあったようだが、それを使ってもこの効果は防ぎきれまい!」

 

 最後のDが龍の顎を開き、その目に映るもの全てを火の海にする火炎弾を吐き出す。だがその質量を前に万丈目は避けようともせず、アームド・ドラゴン・カタパルトキャノンがその前に立ちはだかった。

 

「ならばこのタイミングで、こいつの効果を発動だ。相手ターンに1度デッキからカードを1枚除外し、全弾発射!エド、貴様の場も、墓地も、全てのカードを根こそぎ除外する!この効果ならば、貴様のダスクユートピアガイからの干渉も受けることはない!やれ、アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン!」

「全てを除外だと?速攻魔法、禁じられた聖杯!指定したモンスターの攻撃力を400ポイントアップさせる代わりに、そのモンスター効果をこのターンの間無効にする!」

「させるか!速攻魔法、禁じられた聖槍!対象モンスターの攻撃力を800ポイント下げることで、このターン魔法、罠に対する完全耐性を与える!」

「……だが、Dragoon D-ENDのエフェクトは既に発動している。たとえこちらが除外されようが、どのみち効果ダメージでお前の負けだ万丈目!」

「それはどうかな、その心配は俺には無用だ。トラップ発動、魂のリレー!手札のモンスター1体を特殊召喚し、そのモンスターがフィールドに存在する限り、俺はあらゆるダメージを受けない!」

 

 カウンター合戦を万丈目が制したことにより、遺憾なくその実力を発揮したアームド・ドラゴン・カタパルトキャノンが火炎弾に対抗するかのように全力掃射を行う。3体のモンスターが火球と閃光に飲み込まれ、全てが消えてなくなっていき……ぽっかりと空いたフィールドに唯一残っていたのは、誰もが見慣れたあのモンスター。万丈目が魂のリレーで呼び出した、ただ1体だけだった。

 

「なんと万丈目、この効果さえも凌いだーっ!しかし魂のリレーはそのデメリットとして特殊召喚したモンスターがフィールドを離れた時に自身の敗北が確定する、モンスターとプレイヤーが文字通り一蓮托生となる効果を持っています!果たして万丈目が最後に選んだのは、一体どのモンスターなので……あ、あれは!?」

「俺が特殊召喚したのは、こいつだ。これが最後の戦いだ、おジャマ・イエロー!」

 

 おジャマ・イエロー 攻0

 

『よーし、いってらっしゃ……え?あれ、もしかしてオイラのこと?』

「お前の他に、どんなおジャマ・イエローがいるというんだ。いいからシャキッとしろ、それでも俺のエースモンスターか!」

『エース?オイラが……?』

 

 感動のあまりぶわっと泣きはじめるおジャマ・イエローからは照れ隠しからか顔を逸らし、すぐにエドの方へと向き直る。

 

「……ターンエンドだ」

「俺のターン。貴様の負けだ、エド!おジャマ・イエローでダイレクトアタック!」

『ええ!?でも、オイラの攻撃力は……』

「何をゴチャゴチャ言っている、いいからさっさと攻撃して来い!」

『わ、わかったわよん、もう……でやあ~っ!』

 

 おジャマ・イエローが、その足でフィールドをてちてちと真っ直ぐに走る。前だけを見て懸命に走っている彼の眼には入らなかっただろうが、彼1歩を踏み出すごとに周りの風景が次第に変化していった。地面から家が、策が生え、足元が床から土がむき出しの地面へと変わっていく。

 

「フィールド魔法、おジャマ・カントリーを発動。このカードが存在してなおかつおジャマモンスターが存在する限り、フィールドのモンスターの攻守は逆転する」

『でやあ~っ……おジャマ・パ~ンチッ!』

 

 イエローが跳んだ。その小さな腕を懸命に伸ばし、エドの頬を平手で力いっぱいに打ち据える。

 

 おジャマ・イエロー 攻0→1000→エド(直接攻撃)

 エド LP1000→0

 

 

 

 

 

「や……やりました、ついに決着です!勝者は万丈目、なんとあのエド・フェニックスを打ち破る快挙を成し遂げました!」

「万丈目、この借りは必ずプロの世界で返す。だが今は、それより先にやるべきことがあるだろう?」

「俺のやるべきこと……違ーうっ!」

「え?」

 

 レポーターお姉さんの言葉に、突如一声叫んでデュエル場の中央までずかずかと歩く万条目。おもむろに立ち止まると会場全体を見渡し、指を1本天に掲げた。

 

「いいかお前ら、準備はいいな!この俺の名は……一!」

 

 当然、僕らのやるべきことも決まっている。会場全員が腕を振って声を張り上げ、一体となってコールを飛ばす。

 

「十!」

「「百!」」

「「「千!」」」

 

 ここで一度言葉を止め、ワンクッション置くことで会場の期待がさらに高まる。その熱気が最高潮に達したところで、それを解き放つ万丈目の声が響き渡った。

 

「……万丈目、サンダー!」

「「「「サンダー!サンダー!サンダー!」」」」




灼銀の機竜=トリシューラ(アローラのすがた)。
……すいません言ってみたかっただけです。ちなみにどうでもいいことですが、発売時期私はポケモンから離れていたのでサンムーンやってないです。ダイパリメイクが来たら多分復帰します。

で、今回の話ですが。実は、これだけ書いてもまだ出しきれてないモンスターも多いんですよね。特におジャマ・キングと光と闇の竜の出番を作れなかったのは個人的にちょっと無念です。

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