短編集・こんなISは嫌だ!   作:ジベた

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激闘の果てに医務室で……

 タッグトーナメント1回戦の第1試合。

 一夏&シャルルVSラウラ&箒の注目の試合は最終局面を迎えていた。

 早々に箒が脱落した後、2対1という不利な状況でラウラはシャルルのシールドピアースをまともに受けてしまったのだ。

 連続して続く炸裂音の度に大口径の杭が密着状態で打ち付けられる。離れた位置からの射撃よりもISに対して有効な打撃を浴び、シュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギーは枯渇寸前となった。

 勝敗は決した。誰もがそう思った瞬間にそれは起きた。

 

「あああああ!」

 

 ラウラが絶叫する。同時に発された電撃がシャルルの体を大きく吹き飛ばす。

 何が起きたのか。少なくとも通常のISバトルでは考えられない反撃を受けたことは事実。

 多少の混乱を抱えたまま、一夏とシャルルはラウラを見た。

 

 そこには……ただ異様だけがあった。

 

 シュヴァルツェア・レーゲンがどろどろに溶けていく。硬い金属製だとばかり思われていたISが半液体状になって操縦者であるラウラを飲み込んでいく。

 濁った漆黒は闇そのもの。未知そのものがまるでモンスターのように蠢いている。

 誰も説明できないまま、黒い塊は粘土細工のように1つの形を作り上げた。

 黒い全身装甲(フルスキン)のISのような何か。

 ラウラを象ってはいるものの元となったシュヴァルツェア・レーゲンの面影はどこにもない。手にしている武器も違っている。

 雪片。一夏にも見覚えのあるIS用の刀だった。

 ラウラの振るう剣を大きく飛び退いて回避する一夏。やや大げさな挙動だったのはその脅威を知り尽くしているからこそ。一夏は彼女の動きに見覚えがあった。

 

「ふざけんなっ! それは千冬姉のだ!」

 

 エネルギーが底をつく。だからといって一夏の戦う意志が挫けることはなかった。

 許せない。その一心でまだ立ち向かう気でいる。非常事態だからと箒が止めてきても聞く耳は持たない。そもそも前提が間違っているのだ。

 『やらなければならない』のではなく『やりたいからやる』。

 自らの尊敬する姉を模倣する存在をただひたすらに許せなかった。まだエネルギーに余裕のあったシャルルから譲ってもらい、一夏は右手だけの限定展開でラウラと対峙する。

 右手だけの白式は一夏を保護してはくれない。攻撃されても全て素通し。当たりどころが悪いと即死、良くても重傷は免れない。

 ISバトルが競技として成立するための操縦者保護機能を放棄して、残された機能を全て攻撃に回した。

 普段の一夏ならばこのような目に遭わずにすむ方法ばかり考える。

 今回は難しいことを考えずとも戦わなくていい道が用意されている。

 それでもこの場に臨む理由は一夏がやりたいから以外にはない。

 

 雪片弐型が姿を変え、日本刀を模した形となる。一夏にとって扱いやすいように白式が判断した結果だった。

 白と黒。刀を向け合う姿は鏡像のようで、互いを対照的に映し出している。

 黒は千冬と同じ剣技を使う。

 対する白は千冬から習い、箒からも学んだ剣技を使う。

 習熟度で言えば圧倒的に黒の方が上。だが白には黒にはない意志が宿っていた。

 黒の剣は正確で速い袈裟斬り。一夏が目指すものと遜色ない見事なものだが決定的に足りていないものがある。

 

「形だけで剣が振れるかァ!」

 

 そもそも剣同士の戦いは技量だけで成立するものではない。駆け引きのない剣など玄人でなくとも対処できる。

 一夏が横一文字に斬り払い、黒い雪片を弾いた。

 単なる防御では終わらない。雪片弐型は黒い雪片を打ち払った反動により止まった。これを利用し、すぐさま腕を真上に振り上げる。

 

「これで終わりだァ!」

 

 二の太刀は一夏の方が速い。一夏はその確信の元に振り下ろした。

 だが本人の呼吸をトレースできていないとは言っても、今のラウラの剣の技量は織斑千冬そのものである。この程度ではまだ決定的な隙とは言えなかった。

 一閃。互いに防御を考えない、攻撃のために剣を振り合う。

 先に届いたのは一夏。雪片弐型の輝く刃はラウラの頭を捉えた。黒いISにピシリと大きく亀裂が入り、真っ二つに割れる。中から現れた眼帯すらないラウラと一夏は目が合った。そのまま眠るように気を失う彼女を一夏は雪片弐型を投げ捨ててまで抱き留める。そうでなければ彼女を受け止められなかった。

 

「……まぁ、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ」

 

 あまりにも弱々しくなっていたラウラを前にした一夏はそう呟いた。許せないとしか思っていなかったはずでも、目の前で助けを求めている者を責めるような残忍さは持ち合わせていない。

 腕の中で眠るラウラに優しく微笑みかける一夏。その額には脂汗が浮かんでいた。呼吸もひどく荒い。

 

「一夏ァ!」

 

 箒が駆け寄ってくる。その声を聞きながら、一夏の意識は次第に遠くなっていった。

 ラウラと抱き合うその場所には血溜まりが出来ている。

 一夏の左腕は肩から先が無い。

 

 

 

 目を開けると眩しいくらいの照明があった。寝そべっている一夏を照らす明かりには容赦がなく、顔を右に向けることで刺激を避ける。

 

「ハロー! お目覚めのようだね、いっくん♪」

 

 そこには水色ワンピースの上から白衣を羽織っている束の姿があった。

 

「なんで、束さんが――いっ!」

 

 事態を把握できない一夏だがこのまま寝ていてはマズいと体が反射的に動く。起きあがろうとしたところで左肩辺りの激痛に襲われた。

 一夏は思い出した。ラウラとの戦いで左腕を失ってしまったのだ。

 

「まだ応急措置しかしてないから動いちゃダメだよー」

 

 まともな返答があり、尤もなことだと納得した一夏は大人しく寝台の上で寝ていることにした。

 落ち着いて深呼吸すると少しだけ頭に冷静さが戻ってきた。どうやら大怪我をして手術ができる場所に運ばれたらしい。束がいるのも医者の代わりということだろう。

 ……それって変じゃね?

 

「束さんって医療に詳しいんですか?」

「ISを造るよりは簡単でしょ。大丈夫大丈夫」

 

 比較対象としてISが持ち出されたために一夏は強烈な不安を覚える。

 

「俺、腕が切れてるんですよ!? そんな簡単に――」

「ふっふーん♪ この束さんにかかればどんな怪我もイチコロなのだ!」

「患者をイチコロにしちゃいそうですよ!」

 

 ハッキリと不安要素を言ってやった一夏だが束はアッハッハと笑うだけ。

 

「束さんは天才だからね。こうしてちゃんと材料も用意してるのだー!」

「だー、じゃないよ!? そもそも材料って言い方が不穏すぎる!」

 

 束が右手に取り出したのは透明でぶよぶよした何か。まるで生き物のように蠢いている。

 

「この束さんお手製の“ST○P細胞”があれば、たとえ片腕欠損でもたちまち治っちゃうぞ!」

「絶対それ危険ですよね!? あと、違う意味でも危ない!」

 

 束は左手の指を1本立てる。

 

「今ならなんと! おまけでもう1本ついてくる!」

「お得感なんてねーよ! 片腕だけ2本とか、ただの化け物になってんじゃないですか!」

「さすがはいっくん。目の付けどころが違うねー。そう、左右のバランスは大事!」

「この人、反対側も増やす気だ!?」

 

 一夏の叫びは聞き流され、束は手袋とマスクをして準備完了。

 部分麻酔が投与されて一夏は身動きが取れなくなった。

 

「とにかく時間が勝負だから急いでオペにとりかかるよ!」

「やめて――いやああああ!」

 

 一夏の絶叫がIS学園に響く。

 

 

 翌日の朝。一夏は三面六臂(さんめんろっぴ)になっていた。

 しかもロケットパンチができる。


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