短編集・こんなISは嫌だ!   作:ジベた

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ISとACのクロスオーバーが流行ってるそうなのでやってみた。


魔法の言葉

 学年別トーナメントのルールが急遽変更された。クラス対抗戦において外部からの侵入があったことを考慮し、有事の際に出場者で対処がしやすいようにという配慮であるという。

 言いたいことはわからないでもない。ただ、納得したくない者がいた。1年1組、篠ノ之箒である。

 

「くっ……なぜこうも上手くいかぬのだ……」

 

 自室に戻った箒は机に突っ伏して唸る。ここ最近の出来事を振り返ってみれば思い通りにならないことばかりだ。

 学年別トーナメントで優勝したら一夏と付き合える。勇気を出して取り付けた自分だけのはずだった約束が何故か生徒たちの間に広まってしまっている。

 そしてルール変更。個人戦のトーナメントだったはずなのにタッグマッチとなってしまった。正直に言ってしまえばこちらの方が痛手だった。

 

 ……私に誰と組めというのだ。

 

 真っ先に思い浮かべた一夏は同じ男であるシャルルと組むと宣言している。そもそも約束した手前、一夏の力を借りて優勝するのは間違っているとも考えていた箒にとっては誰か女子と組まれるよりは精神衛生上は好ましい。

 一夏が選択肢から外れると残る身近な選択肢としては寮の部屋が同じ鷹月静寐か剣道部員の四十院神楽のどちらか。しかしながら両名ともとっくにパートナーを見つけている。

 他にいないかと探してみても、誰も見つからなかった。参加できないことはないが、当日になって即席のタッグを組まされることになる。それでは連携の確認はおろか、まともな作戦も立てようがない。

 自分1人で相手タッグをまとめて相手にするだけのつもりで臨まなければならない。1対1でも勝てないかもしれない相手もいる中で、このルール変更は絶望的な追い打ちだった。

 

「せめて私自身の技量を上げねば……しかし、練習するだけの時間がない」

 

 箒はあくまで一生徒。専用機持ちとは違って、学園側から機体を借りなければ練習は出来ない。しかしこの時期、空いている練習機などあるはずがなく、大会までの授業以外の練習機会は1回あればいい方だった。

 やる前から諦めそうになった。

 ――そんなときである。

 部屋の入り口が勢いよく開かれた。

 

「話は聞かせてもらったよ、箒ちゃん!」

「帰ってください」

 

 入り口に立っているのは箒の姉、篠ノ之束。

 箒はそんな彼女の姿を見ることなく軽くあしらう。どうやって入ったのかは問うだけ時間の無駄だと悟っている。

 

「そんな冷たいこと言わないでよー。久しぶりに会った仲良し姉妹でしょー」

「寝言は寝ていってください。そろそろ通報しますよ?」

「そんなこと言っちゃっていいのかなー? 練習時間が欲しい箒ちゃんのために束さんが人肌脱ごうと思ったのに」

「え? それはどういう……」

 

 机に突っ伏したままだった箒がガバッと跳ね起きる。束は満足げに頷いた。

 

「専用機をすぐに用意することはできないけど、練習させることくらいはお手の物なんだよ」

「練習できるんですか!?」

「お、目の色が変わったね。じゃあ、週末に神社まで来て。外泊願いも忘れずに」

 

 束からの提案は週末の短期合宿。IS学園の外でISを展開してもいいのかと考えたが、気にするだけ無駄だと思い直す。

 束の手が加わっていて、学園やIS委員会がISの起動を確認できるとは思えない。要するにバレなければいい。

 

 

 

 時は過ぎ、いよいよタッグトーナメントの当日となった。

 束の元には2回ほど通った。その結果をまだ実感はしていないが、確実に経験にはなった。束の指導を受ける前と後では打鉄の扱い方のキレが変わっている。ISだと思うように動かせなかった剣も今では体の一部も同然となった。

 今の箒は自信に満ちている。結局パートナーが見つからなかったのだが、もうこの際どうでもいいことだった。即席のタッグでも自分が強ければそれでいい。

 

「私1人でいいさ。私1人だからといって絶対に勝てないわけじゃない。自信はあるんだ。だから私1人でも問題ない。私1人で……」

 

 訂正。パートナーが見つからなかったことにショックを隠せていなかった。『私1人』と口に出す度、胸にグサグサと突き刺さっていてじわりと涙が浮かんでいる。

 トーナメント表が発表される。自分の名前は1回戦の第1試合。対戦相手はよりによって一夏のペア。

 そして、自らのペアはラウラ・ボーデヴィッヒとなっている。単独の強さは鈴&セシリア組を単機で圧倒したことでわかっている。1人で戦うことも覚悟した箒にとって頼もしいパートナーであると言える。

 ただ、同時にショックでもあった。

 

「私はアレと同じくらい孤立しているのか……」

 

 真実はたまたまあぶれただけなのだが、クラスに溶け込もうとすらしない問題児と同じ扱いに思えて箒はまた一段と自虐の念を強める。

 もしかすると、自分はぼっちなのではないか。

 思えば、束の元での練習の間もずっとそんなことばかり考えていた。

 

「いかん! このような雑念があっては勝てるものも勝てない!」

 

 アリーナのピットまで全力疾走する。深く考えすぎないようにと。

 

 ピットには既に銀髪黒眼帯の相方がいた。ラウラは箒を一瞥すると一言も声をかけることなくアリーナへと入っていく。

 走ることで孤独感を忘れることが出来ていた箒だったが唐突に寂しくなった。

 

「私は……私は……」

 

 試合とは関係なく心が折れそうになる。そんな自分に気がついて……腹が立った。

 

「私はそんな弱くない!」

 

 打鉄を装着してアリーナへと入る。

 相手は一夏とシャルル。味方はラウラ。ただし気分的には専用機持ち3人全員を相手にするようなもの。

 1回戦から酷い組み合わせにされたものだと苦笑いする。決まってしまった者は仕方がないと腹は括った。

 負けるつもりはない。対戦相手だけでなくラウラにすらも。そして完全勝利して一夏との約束を果たす。それができるだけの努力はしてきた。

 

 ――叩きのめす。

 

 一夏とラウラが同時に同じ言葉を発してせめぎ合う。完全に箒とシャルルを蚊帳の外にして盛り上がっている。

 目の物を見せてくれる。そう意気込んだ箒の前にシャルルが立ちはだかる。

 

「相手が一夏じゃなくてゴメンね」

「気にするな。順番が変わるだけだ」

 

 ただ1人、スペックの劣る量産機であるはずの箒だがその顔には余裕が窺える。

 シャルルからアサルトライフルが撃たれる。箒を大きく動かす為の牽制であるが、箒は足を止めたまま。刀の切っ先を少し動かすだけで弾丸の軌道を逸らしてみせる。

 

「え、嘘っ!?」

 

 焦った箒が飛び込むところへのカウンター。そう思い描いていた戦闘プランが一瞬で崩壊する。

 箒は腰を落ち着けて慎重に歩を進める。体勢を崩せないまま接近戦をするとシャルルでも圧勝は難しい。それどころか今の箒に接近戦を挑めば返り討ちに遭う危険性すらある。

 一夏と立てた作戦に支障がでる。焦りを覚えるのはシャルルの方だった。

 対する箒は代表候補生相手に戦えている事実に安堵する。先ほどまで沈んでいた心も軽い。あまりにも広くなってしまった寛容な気持ちのまま、思わず呟いた。

 

「ありがとう、姉さん」

 

 無茶な我が儘に付き合ってくれた姉に感謝の言葉を漏らす。直接はまだ言えなくても、少しは距離が縮まったとそう思えた。

 

 ……このまま何事もなければ良かった。

 まさかこの一言が全てをぶち壊しにするだなんて誰も考えられなかったことだろう。

 妹の孤独感を紛らわそうとしたマッドなとんちんかん博士の好意がここまでの全ての努力を水の泡とする。

 

「ありがとウサギ~」

 

 何か出てきた。

 ポンという軽い破裂音の後、白い煙とともにアリーナに出現した謎の生物。それは王冠を被ったバレリーナ姿のウサギだった。タラコ唇が異様な間抜け感を醸し出している。

 箒もシャルルも戦闘の手が止まる。それどころか距離を取っていた一夏とラウラすらも固まっている。

 一夏は突然の乱入者に過敏に反応してのこと。

 一方、ラウラは乱入者に釘付けになっていた。

 

「かわいい……」

「お前のセンス、スゲーな。ある意味で」

 

 一夏たちがなぜか仲良く謎の生物を見守る。

 ここでしばらく呆気にとられていたシャルルが我に返った。

 

「これも箒の武器? 良くわからないけど倒さなきゃ!」

 

 十分に混乱したままだった。シャルルはアサルトライフルとショットガンを乱射する。狙いだけは正確無比であり、無数の銃弾がウサギに命中する。

 しかし、ウサギがバレエのようにその場でスピンするだけで全て弾かれてしまう。

 

 戦闘が再開したことでどこからともなくBGMが流れ出す。まるでスーパーロボットが出撃しそうな曲だった。

 ウサギが身を屈めた後で勢いよく空へと飛び上がる。三頭身の体を十字に広げるとぬいぐるみのようだった体に線が入り、機械的にパカッと割れる。大きな側頭部が上方に開いて肩パーツとなると、体だった部分が真っ二つに割れて肩に接続され腕となる。同時に耳部分が後頭部ごと頭の下にまでグルリと回ってくると下半身と脚に変形する。腕からはどこから隠していたのかとツッコミを入れたいくらいに立派な手が姿を現し、頭に被っていた王冠が引っこ抜かれるように飛び出してくると人型ロボットの顔がそこにあった。王冠にあった丸い穴に青いクリスタルがはめ込まれ「え~し~♪」と音声が発されると顔の方にもカメラアイに光が灯る。そして力強いポーズを取って全てが完了した。

 

「え……何これ……?」

 

 折角動き出せていたシャルルもあまりの出来事に呆気にとられる。そんな彼女が咄嗟に反応できることはない。

 人型ロボットとなったウサギがイグニッションブーストでシャルルに近づき、強烈なパンチをお見舞いする。まともに食らったシャルルはアリーナの端まで吹き飛ばされ、壁に激突させられた。

 

「シャルルっ! くっ! よくもやってくれたな!」

 

 我に返った一夏がラウラに雪片弐型を向けなおす。まだラウラはウサギだったロボットを見つめていた。

 

「……かわいくなくなった」

「おーい、そろそろ帰ってこーい」

 

 なにやらショックを受けているようだ。一夏は不意打ちを食らわす気になれずついつい声をかけてしまう。

 一方、シャルルがやられる一連の流れを唖然としたままの箒はまだ口をあんぐりと開けていた。

 

「こ、これは一体……」

 

 状況についていけていない。そんな箒を見かねたのか、全ての元凶が動き出す。

 

『箒ちゃんが寂しそうだったから、束さんが頑張ってみちゃった♪』

 

 テヘッと会場のアナウンスを利用して束が説明する。つまり、箒は合宿中に束の改造を受けてしまっていたということだった。

 その内容を束は端的に告げる。

 

『やったね、箒ちゃん! 挨拶する度、友達が増えるよ!』

「おいバカやめろ!」

 

 丸っきり公開処刑。箒は戦うことなくその場に崩れ落ちてしまった。

 試合は箒&ラウラ組の反則負け。

 唯一の救いは一夏が箒を必死に慰めてくれたことだろうか。

 やったね、箒ちゃん!




……なんだこれ?

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