短編集・こんなISは嫌だ!   作:ジベた

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私はバカでありたい。


バカには見えない

 IS学園の臨海学校は新型装備のテストを目的としている。初日こそ自由時間を与えられて遊んでいた生徒たちであるが、2日目以降はIS学園の生徒としての本分を全うするため活動する。

 ビーチに集められた生徒たちは例年であればすぐに装備の試験を開始しているところだ。しかし今年は織斑先生に集合をかけられて待機している。

 

「篠ノ之。お前には今日から専用――」

 

 生徒の中の一人を名指しで呼びつけようとした。その瞬間――

 

「ちーちゃ~~~~~~~~ん!!!」

 

 篠ノ之束がコミカルな砂埃を巻き上げながら崖を爆走してきた。

 唐突なIS開発者の出現に生徒たちは驚きを隠せない。

 とは言っても彼女たちの大半は篠ノ之束の顔を知らないはず。

 そう、皆が驚愕しているのは決して彼女が篠ノ之束だったからではなかった。

 

 砂埃が大人しくなったとき、全員の目に飛び込んできたのは一糸纏わぬ篠ノ之束の裸体であったのだ。

 要するにとんでもない痴女が現れたに等しい。

 そして、この場には男性がたった一人だけ存在している。

 

「一夏、歯を食いしばれェ!」

「え、何――ぐはぁ!」

 

 箒の咄嗟の一撃が一夏の顔面を捉えた。5mほど砂浜を転がったところでピクピクしていたかと思えば、やがて一夏は動かなくなる。

 完全なとばっちりであるが、彼の悲劇は周囲には完全にスルーされてしまっていた。

 

「束ェ!」

「ん? どうしたの、ちーちゃん?」

「どうしたもこうしたもあるか! 服くらい着てこい!」

「え、着てるよ? もしかしてちーちゃんにも見えてないの?」

 

 千冬の指摘に対して首を傾げながら何も無いはずの中空を触る束。不審に思った千冬は彼女に近づいて同じ場所に手を触れてみる。

 不可視の布がそこにはあった。

 束は『ちーちゃん()()見えない』と言った。つまり、条件を満たせば見える服がそこに存在している。故に束は裸ではないということらしい。

 

「まさか、束……今日のファッションのコンセプトは……?」

「裸の王様!」

 

 実際のお話では服など存在していなかったのだが、束にとっては細かい話らしい。とりあえず彼女は持ち前の技術によって“バカには見えない服”を作り上げてしまったのだ。

 

「今回は展開装甲とかも応用したから手がかかってるんだよ!」

「技術の無駄遣いにもほどがあるぞ……」

「折角ちーちゃんにだけ見てもらおうと思ったのに、まさかちーちゃんにも見えないなんて思わなかったよ」

「それは私のことをバカにしていると見ていいか?」

「あ、そっか! バカの基準が束さん以下に設定してあったから仕方ないね」

「いや、この場においてお前は誰よりもバカだと断言してやる」

 

 青筋を浮かべた千冬の右手が束の顔面を掴む。

 加えられる圧迫感。

 束は人とは思えない奇声を発した後、動かなくなった。

 

「……山田くん。このバカに服を貸してやってくれ」

「あ、はい」

 

 そうしてこの場は収まった。

 

 とりあえず専用機を持っていない一般生徒たちは山田先生に連れられて当初の予定であった装備の試験をするために移動した。

 残されたのは千冬と専用機持ちたち。早々に復活していつもの不思議の国のアリスの服に着替えた束はここに来た本来の用件を始める。

 

「さあ、大空をご覧あれ!」

 

 束の一声に応じて空より落ちてきたのは紅のIS。名を紅椿。

 篠ノ之箒の専用機として束が自ら作り上げた世界最高のISである。

 

「さあ! 箒ちゃん! 早速装着してみようか!」

「……では、お願いします」

 

 素直に束に従う箒。それもそのはずでこの専用機は彼女が望んだもの。一夏の隣に立つために欲した純粋な力だ。

 紅の武者鎧が箒に装着される。フィッティングとパーソナライズをすると、このISが持っている力の大きさが箒の手にも伝わってくるようだった。

 

「よしっ、完了! 流石は束さん! 仕事が早い!」

 

 全ての準備が完了。

 紅椿の機能、全て良好。

 ()()()()、起動。

 

 ――そうして紅椿が全ての機能をオンにした瞬間だった。

 

 箒の纏う紅椿が、彼女のISスーツごと見えなくなる。

 

『えっ……?』

 

 箒本人はまだ気づいていない。

 束にだけは紅椿が見えている。

 しかし他の人間から見れば、箒が全裸で宙を浮いているようにしか見えない。

 注目の集め方に異変を覚えた箒は自らの身体を見下ろしてしまう。

 

 

「あー、酷い目に遭った」

 

 運命のいたずらか。

 さっき気絶させられていた一夏がこのタイミングで目を覚ます。

 そんな彼の目に飛び込んできたのは、篠ノ之箒のあられもない姿。

 

 箒と一夏の目が合った。その瞬間――

 

「きゃああああ!」

 

 悲鳴とともに繰り出されるISパンチ。

 哀れ、一夏はお星様となる。白式がなかったら即死だった。

 

 後に篠ノ之束は語る。

 いっくんが誤って宇宙に放り出されても大丈夫。そう、ISならね。


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