神栄 碧と暗殺教室   作:invisible

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コロコロ話が変わりますが、これで督界編が終わります。
長い時間待たせて申し訳ありませんでした。


第165話 違いの時間

 

 

過去に死にかけた時、真っ暗な闇の中に1つの光り輝く道を見た。

そこには人が群がっていて、光の道から落ちる人も少なくはなかった。

自分は結局道を進んでいき、落ちることなく光の先へたどり着き、見事生き残ることができた。

 

 

それとは違い、今は真っ白な空間にいる。

目の前にはドアしかなく、今やることはそのドアを開けることぐらいしかない。

 

 

「………なんだこのドア」

そのドアは堅苦しい形のドアではなく、どこか懐かしさが感じさせるようなドアで、何かを思い出しそうだがそれができない。

まるで、メロディーはわかっているのだが、曲名が思い出せない状態のような状態に陥っている。

 

「…開けてみるか」

 

ドアを開けた瞬間、死亡。なんてことはないだろうと踏んだ神栄はドアを開け、先に進む。

 

 

 

「え?」

 

そこには、10年ほど前に亡くなっているはずの父親と母親、そして今の姿の茜音が座っていた。

テーブルには皿があり、自分スペースと思われるところには、パンとスクランブルエッグが置いてあった。

 

「なんで、父さんと母さんが…!?」

「なんでって言われてもなぁ。父さんと母さんはここにいるわけだし、その事実は変わらないんだし…よくわからないな!あはは!」

「碧、ご飯できてるから、座って食べなさいな」

 

 

本来あるべき光景、ありふれた日常、それが幼い頃に無くなった神栄の目からは、涙が止まらなかった。

「あ…れ?なんで俺、泣いてんだ?」

「何か特別な感情が高まったんだろうな。とりあえず座って話を聞こうじゃないか」

 

神栄は話すネタが大量にあった。

早くに亡くなってしまった父親と母親に、2人の死後にあった出来事を余すことなく話した。

そして、最近起こった出来事も話した。

 

「そうか…暗殺をしているのか」

「うん…けどそれは決して悪い意味での暗殺じゃないんだ。血生臭いことをしてるわけじゃないし、実際人を殺すような暗殺でもないんだ」

 

「つまり、標的が人外ということか。凄いな」

「うん。で、本題はここからなんだ」

「それだけでも本題並みの話題性あるけど、まだあるのか」

 

 

 

「俺…自分に似た人に殺されたんだ」

 

 

正確には自分のクローンだが、そこまで詳しくは話さなかった。

「だからここにいるのか」

「だからここ、って?」

「多分死後の世界だろうな。なんらかの未練がある僕や母さんは、この部屋に残ったんだろう。それは、碧、お前に会うためさ」

「俺に?」

「そうだね。茜音にも会いたいが、残念ながら今はここにいないね」

「ってことは、今いるこの場所は、俺が死ぬ寸前に想像したってことなの?」

 

「それと、僕たちの想いがこの世界を創り上げたっていうのがプラスされれば正しいね」

 

 

まるで御都合主義のような世界ではあるが、実際死んだ後、このような夢の世界が広がっているのではないだろうか。

自分が死んだ後は素敵な世界へ向かうのではないだろうか。

そんなこと考えていると、父さんはまた喋り始める。

 

 

「話は変わるが、碧。お前には生きる権利が与えられている。体が自由に動いているということは、まだこの世界に順応してないということさ。僕や母さんは口しか動かせないよ。残念なことに」

 

「生きる……権利?」

「ああ、生きる権利さ。けどな、その権利は捨ててもいいものだ。捨てれば僕たちと永遠に居続けられる。絶対的な安息が約束されるよ」

 

 

愛する家族と永遠に一緒に居られる。

幼い頃に親を亡くした神栄にとっては、どんなものよりも素晴らしいものだった。

神栄は父に、「生きる権利を捨てる」と言おうとしていた。

それは至極当然のことで、何も悪いことなどない。

 

 

しかし、神栄の頭の中には過去の思い出が突然蘇る。しかも、異常なほど鮮明に。

 

 

「あ……れ?」

「どうした?」

「俺、あいつらのこと放っておいたのかよ」

「……なんのことだい?」

「こんなところで死ぬのか。俺」

「だからなんのことだい、碧」

「何が有希子のためだ。結局俺は…何を?」

「……?」

 

神栄は座っている父の方へ向かい、膝を床につけ、父とほぼ同じ目線になるようにした。

「父さん、母さん。俺、まだやることがあるんだ」

 

その発言は、父にとって「生きる権利は捨てない」ということになる。それは、今まで待っていたことが無駄になるということだ。

それでも父は問い詰めることはない。なぜなら、それが息子の選択なのだから。

息子が選んだ道を、親はとやかくいう権利はない。

 

父は、「子どもというのは、親の考えていることを超えたり、親が考えてもいなかった行動を起こしたりしたその時、大人になるものである」と昔神栄に言ったのを思い出す。

 

「……大人になったなぁ……」

父の目からは、大粒の涙が溢れる。

 

「俺、待ってくれる人たちのために行かなきゃいけない」

「そうか。それは仕方ないことだ。

 

 

守ってやれよ。その人たちを」

 

「うん…。絶対ね」

 

 

「碧…元気でね」

「母さんこそ…病気にならないようにね」

「ここではもう病気になんかならないわ…うふふ」

「ははっ、そうだね…。そうだよね」

 

神栄は父と母を自分の力一杯抱きしめた後、ドアの前に立つ。

 

「なぁ父さん」

「どうした?」

「また会えるよね?もう、二度と会えないなんてこと、ないよね?」

 

「例えどんなところにお前が行こうとも、僕と母さんは碧の元へ行くし、お前を迎えるつもりだよ」

 

 

 

「……そうだね。じゃあ俺、行ってくる。必ず戻ってくるからさ。気長に待っててよ」

 

「そうだな…いつでも待ってるよ」

 

 

 

そう言って、神栄は部屋から出た。

部屋を出たらすぐに、非常に明るい光が自分の方へ迫ってくるのを見た。

 

 

 

◆◆◆◆◇

 

 

 

 

 

 

……痛い。全身が痛い。

 

「…………」

少しだけ目を開くと、先ほどまで戦っていた場所に戻っていた。

左手は足を掴んでいて、督界はそれを離そうと必死に神栄を蹴っていた。

 

 

……痛いのはこれが原因か。

 

「何故離れない!!兄さんは殺したはずだ!!」

……は?殺した?

 

「……今度こそ、本当に殺してやる…!心臓をこれで貫けば…」

…おい、自分に刺さってるナイフを抜いて何をする気だよ。

 

「………死ね!!!!」

……やめろ。やめろよ。

 

 

 

 

「終わりだ……終わりだ!!!!」

 

 

「…やめろって、言ってんだろ」

 

神栄はその一言を発した後、ゆっくりと立ち上がる。

「え………?」

 

若干フラついてはいるものの、目だけは督界の方をジッと見ていた。

 

 

「なんで…!?殺したはずなのに!」

「よぉニセモノ。死の世界から帰ってきたぞ!!」

 

「嘘だろ……?」

今までに見たことないほど震えている。明らかな動揺が目に見えてわかる。

 

「どうした。攻撃しないのか」

「……」

 

手はプルプルと小刻みに震え、足もカクカクとしている。督界はその場から動けない。

「なら俺から行こう。とっとと終わらせようじゃあないか」

 

神栄は自分の腹部に刺されていたナイフを抜き、督界に向かって走ると督界の胸を刺すことなく、両目めがけて斬りかかる。

とっさに避けようとする督界だが、足が言うことを聞かないため、思うような動きができなかった。

結果的に督界の目は斬られ、両目とも何も見えない状態になった。

 

 

「目がっ…!僕の……目がァァアア!!」

「……怖いか?目が見えず、真っ暗な世界にいる今の気持ちは…どうだ?」

 

 

「ヒッ!」

耳元で囁かれると、督界はナイフを無闇やたらに振る。

しかし、そんな攻撃が当たるわけもなく、神栄は落ち着いてそのナイフを取る。

 

 

 

「やっぱりな。お前はイレギュラーなことに極端に弱い。それと、覚悟が違う。

お前は死ぬ気で戦ったことあるか?優秀なクローン様には、そんなことねぇだろーなぁ。なんてったって優秀だもんな。ピンチなんてほぼ無いだろうかな。優秀だから。

優秀だから絶対勝てる。戦いがそんな甘いわけ無いだろ。少なくとも俺は死ぬ気で戦ってるぜ。薬で狂気を取り繕っても本質は変わらない。お前はただのビビリってことだ。

ちょうどいいからこの際お前も味わうといいよ。迫り来る死の恐怖を」

 

「嫌だ……俺は……死ヌわけには行カナインだぁぁあああ!!!」

督界は最後の注射器を首に刺し、強制的に足の震えを止める。

督界の所持している薬には治癒効果はないため、視力がないままの狂気状態だ。

 

「覚悟トカ…取り繕ッてルトかウルセェよ!僕は殺ス!兄サんを殺シテ僕が神栄になルンだ!!」

「そうか。お前が倒れる前に1つだけ言っておこうか」

 

 

「ァァアアアァァ!!!」

ホーミング機能があるのか、と突っ込みたくなるようなレベルの精密さで督界はこちらへ向かってくる。

神栄はすぅ…と息を吸い、重心をグッと下げる。

 

督界は隠してあった最後のナイフを神栄の心臓めがけて刺しこもうとするが、ナイフが当たったのは頭頂部の髪の毛だった。

「…!?」

「終わりだ」

 

神栄は督界の懐に潜り込み、腹にナイフを刺す。

貫通を確認すると神栄は手を離し、もたれかかる督界に一言告げる。

 

「神栄 碧は俺だけで十分だ。二度と俺を名乗るな。ニセモノ」

 

 

「……カハァッ…!」

最後の一言とは言い難い言葉、というより吐血をしたあと、督界は地面に倒れ、そのまま二度と動かなかった。

 

 

「……所詮ニセモノはニセモノだったと言うことか」

「元となった人間が悪かったな。あいにく俺は少しずつではあるが成長するもので、イレギュラーなことを見過ぎだせいかもう慣れたんだわ。残念だったな」

「……なら、力ずくでお前を殺して捕まえてやろうか」

「…やれるもんならやってみろよ」

 

神栄は真剣な眼差しでシロを見ながら言うが、それは虚勢だ。

死に至るような攻撃を受けた挙句、胸を刺されたり頭を蹴られたりなど普通の人が立ってられるような状態じゃない神栄は、立っているのがやっとだ。

殺せんせーは動けず、誰からの助けも来ない。そう思っていた時だった。

 

 

「……!?」

シロの足元に本物のナイフが数本刺される。

その後、神栄の前に3人ほどがやって来る。

 

 

「大丈夫か神栄!」

「なんで…お前たちが?」

磯貝、カルマ、渚が神栄を守る形で立つと、磯貝が神栄を背負う。

 

「…話せば長くなる!とりあえずここは俺たちに任せとけ」

 

 

 

「……貴様、何をした!!」

怒りを露わにしたシロは、磯貝たちに怒りの矛先を向けるのではなく殺せんせーに向けた。

 

「さぁ…?気になるなら生徒たちを倒してから聞いてみてはどうでしょうか。倒せるものなら」

 

「……つくづく人をイラつかせるのが上手いやつだな。まぁいい。第1の刃を研ぐことにしようかな」

 

そう言った後、シロは森の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての戦いが終わった後、神栄は殺せんせーに治療されていた。

殺せんせーの治療は完璧と言っていいほど精密で、刺された傷や少なかった血もいつも通りの量になっていた。

 

ただ、頭を強く蹴られたため、一応病院で精密検査を受けることになった。

 

 

「……なんともなくてよかったよ。俺も有希子も」

病室にはベッドで寝ている神栄と、その近くで座っている神崎がいた。

 

「碧くん」

「どうした?」

「私、碧くんが嫌い」

 

「………え?」

「そうやっていつも…自分だけが犠牲になって、死に至るような怪我してもいつも通り笑ってる碧くんが……嫌い」

 

 

「まぁ……そうなるよな。傷だらけで死にかけてたら、誰だって心配するか。けどさ、もうこんなことないようにするから、有希子も俺を守ってくれよ。俺も有希子を守るからさ」

 

にしし、と神栄が笑うと、神崎は神栄の手を握り、そのまましばらくその状態で涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◇◇◇

 

 

数日後に退院した神栄は、登校中に偶然会った磯貝に、なぜ居場所がわかったかを聞いてみた。

 

「律がお前らのケータイに入って、そこから居場所を特定した後に、イトナのドローンで見てみたらあら不思議、神栄たちが戦ってるじゃん!ってことで殺せんせーがマッハで先に行っちゃったんだよ。俺たちはイトナのドローンで状況を見ながら、殺せんせーが出してくる合図を待ってたんだよ」

「はぁ…。結構大変だったんだな」

「それはこっちのセリフだよ」

 

 

磯貝と神栄が学校に着いてすぐ、殺せんせーが今いる生徒全員を校庭に呼び出した。

 

「なんだなんだ?」

「神栄君たちが戦いをしてから出来なかったことがあったので、それを消化しようと」

「どんなのだよ」

「もちろん卒業アルバムに入れる写真です!ありとあらゆる衣装を着て1万ページのアルバムを作るのです!!」

 

 

全員が集まると、殺せんせーはマッハで全員の服を変えさせ、様々な衣装を着せ、一人楽しく写真を撮っていた。

 

「…やりたい放題だな殺せんせー」

「……だね」

「うん…」

 

悪魔のコスプレをしていた渚、茅野、神栄は隅の方で話していた。すると、烏間先生が話に入る。

 

「多分、君たちに甘えているのだろう。一月までの授業で十分すぎるほど育った。だからそんな君たちに今度は甘えたい、などと思っているのかもしれないな」

 

「……そんなもんですかね」

「烏間先生にとっても、僕たちはそういう人になれましたか?」

「…もちろんだ。もし俺が困れば迷わず君たちを信頼し、君たちに任せるだろうな」

「……こりゃ嬉しいね。前は歯が立たなかった人に認められるって、最っ高に嬉しいな」

 

 

 

この後、烏間先生がビッチ先生をお姫様抱っこした姿を激写されたり、たくさんの恥ずかしい写真を撮られたりしてから撮影会は終わり、最後の個人面談が始まった。

それが終わると殺せんせーは教室に残り、卒業アルバム制作を続けていた。

 

教室に最後までいた烏間先生が帰ると、烏間先生のケータイから一本の電話がかかる。

 

 

それとほぼ同時刻、自宅でのんびりしていた神栄のケータイにも一本の電話がかかってくる。

 

 

「もしもし?」

『あ、碧君?茜音だよ!』

「……切っていい?」

 

『ごめん。手短に話すよ。心して聞いてね?』

「なんだよいきなり」

『なんか変な予感がするの。誰かが……死ぬ。そんな予感が…』

 

 

「ったく、そんな冗談はどうでもいいだろうが。それだけか?なら切るぞ」

『えっ、ちょっと待』

 

 

その電話の数分後、神栄だけでなく、他の人たちにも何か不吉な音が聞こえるのである……。

 




あとがきは読まなくてもいいです。次回予告とか無いので。(この話を作るにあたっての経緯をただ話すだけです)


この話を本気で出そうと思ったのは、グリザイアシリーズのアニメを見たからでした。
この話のすべてのベースは雄二VSテュポーンのところです。ですが、薬のところはマジで被りました。これだけは偶然でした。
その他、神栄が一旦殺されるところはグリザイアの果実のゲームでの周防天音 バットエンドをベースにしました。
あそこでは完全に死にますが、死んだら僕が嫌なので何か過去の話を繋げてやりたいなと思い過去の話に繋げて復活しました。
他にも様々な作品の一部分を切り取って この話ができました。
(クローン、というところはグリザイアで被りましたが、その部分は超人高校生のあのクトゥルフTRPGをベースにしてます)

裏話とかだと、茜音の体の一部を使用したとシロがいい、それに神栄が怒って薬を…なんて展開を考えたりもしてました。
大した出来ではなかったですが、とりあえず終わってよかったです。これでようやく本編に入れますしね。
長文失礼しました。次回も楽しみにしてくださいね!



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