神栄 碧と暗殺教室   作:invisible

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勉強……?そんなことより投稿だ!


第161話 バレンタインの時間 2時間目

 

 

「いたたたた…死ぬかと思った」

「おい、血だらけだぞ」

 

おでこ辺りから血を流している神栄を見て杉野がツッコむと、神栄は岡野を追いかけている前原を見る。

「神栄ですらダメなら、当分岡野の怒りは誰も沈められないな…」

「事を起こした本人がいるじゃないか。あいつがなんとかするだろ」

 

「けど、ひなたは怒らせたら頑固だから、多分渡せないと思うよ」

「そんなもんかね」

2人の会話を聞いていた片岡が話に参加すると、殺せんせーもやってきた。

神栄の方に近づき何をするかと思えば、怪我の治療をしてくれた。

殺せんせーは治療しながら、

「いいえ、前原くんには渡してもらいます。女の子の心一つ掴めないようでは、この暗殺教室の卒業資格はやれませんねぇ。異性の扱いとて、『優れた殺し屋は万に通ず』というところでは例外ではないのですから。

………ねぇ。か、み、さ、か、くん?」

 

「やめろ。こっち見んな。前原を見ろ」

 

 

それから2時間目、3時間目と休み時間のたびに前原は岡野に近づきチョコを渡してもらおうとするが、岡野は全て無視する。

そして、昼休みも前原は岡野を追いかける。

 

「なぁ…頼むから機嫌なおしてチョコくれよ」

「ふざけんな!内申書が欲しいだけだろ!」

「この際内申書はチャラ男でいいけどよ、昨日みたいなもらい方は嫌なんだよ。その、ゴメンな?気づいてなくて」

「謝ってもムダだよ。私がここで折れない性格なの知らないの?」

「知ってるよ!お前のことならこの1年で全部知ってる!」

 

ぴくん、と岡野の体が少し反応する。

 

「……例えば?」

「そうだな。ハイキックの時見えてんのに見えてないと思ってるところとか…」

 

ピキッ、と岡野の血管が1つ浮き出る。

「全体にガサツなんだよ、脳筋だから。借りた漫画はご飯粒付きで戻ってくるし、口にもご飯粒ついてるし、どんだけご飯粒推しなんだよ」

 

ピキピキ…と血管がたくさん浮き出る。もう幾つ浮き出ているかわからないほどに。

前原はそれを知らずに岡野のことをどんどんと話していく。

「あと、なんといっても暴力がひでぇ!ちょっと怒ると引っ掻くし、もっと怒るとミドルキックしてくるし、さらに怒るとドロップキックしてくるし…」

 

怒りの最高潮に達した岡野は、上履きに仕込んだ対先生用ナイフを出し、前原の顔面に向かって刺す。

「最高に怒ると、対先生用ナイフで喉元を突いてくる。野生すぎんだよ」

 

前原の方を見ると、口にはチョコレートがある。さらに自分の上履きを見ると対先生用ナイフがチョコになってることに気づく。

 

「今朝方すり替えておいたのさ。確かに直接お前から貰ったぜ」

「かっこキモい!!!!」

 

「よく知ってんだろ?お前のこと。第一、興味のない女のカラオケのハモリなんか全曲覚えねーだろ?」

「……ん」

 

岡野は顔を赤くしながら一歩引くと、前原は余計な一言を足す。

「お前照れると急に黙るよな。ほんと単細胞は嘘つけないな」

「やかましい!!!!」

 

直後、飛び膝蹴りを食らう前原を、窓越しに皆が見ていた。

 

「なんとかなった、のか?」

「ヌルフフフ、卒業までに進展して欲しいところですねぇ」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

教室では1人の生徒が座っていた。彼女は机の中に入れていた箱を取り出すと、顔を赤くしていた。

 

「………」

 

「おや……おやおやおや」

「それを誰に渡そうとしてるのかね…?」

 

2匹の悪魔が後ろからやってきた。本当に悪魔だからタチが悪い。

「おい…やめてやれよ」

 

2匹の悪魔を捕まえ、教室から追い出そうとする神栄に、カルマは抵抗していた。

「そういう神栄は、神崎さんからチョコ貰って無いのかよ」

「昨日貰ったよ」

「昨日貰ったからって今日貰わないとは限らないだろ。邪魔しないでよ」

「そーそー。あの2人がくっつけばいい玩具が完成するんだから…」

 

神栄は呆れて何も言えない。

「はぁ……もうひどいとかじゃ言い表せねーよそれ」

「まぁいいや。神栄も一緒に来いよ。さぁ茅野ちゃん。人気のないところに行こうか」

「…え?」

 

 

 

 

「で、誰に渡すの?それ」

「え!?こ、これは義理だし、まだ誰に渡すかなんて……」

「へぇ〜。俺ゃてっきりこの男に渡すかと」

 

カルマが見せたのは、渚が茅野にキスをしている瞬間を捉えた写真だった。

茅野は顔を真っ赤にし、こちらを見ないように背中を向けた。

 

「渚は自己評価低いからね。キスしたことも『茅野に悪いことした』とか言ってたし、ちゃんと言わなきゃ多分永遠に伝わらないね。アレは」

 

「……演技ではたくさん恋愛したけど、現実で同級生を好きになるなんて、経験がないから…」

そう言っている茅野の顔は、まさしく恋する乙女だった。

「なるほどねぇ。、じゃあ偵察しようぜ。隠密訓練の活かしどころだよ」

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「あ、有希子だ」

「神栄はこれを見てなんとも思わないの?」

「むしろ狂喜してる杉野を見てしまうんだが。怖いよアレ」

 

チョコを渡して平然としている神崎と、チョコを貰って文字通り狂喜乱舞している杉野と言うこの構図は、あまり見たくなかった。

 

「次は……千葉と速水か」

 

「…すごい。粒チョコ撃っても命中率変わらないんだ。約束だから全弾あげる。これからもよろしくね」

「サンキュー」

 

お菓子の粒チョコを渡す速水と、普通に受け取る千葉、2人の独特な雰囲気は流石に真似できないだろう。

 

「今度は狭間と…寺坂組か」

 

今まで見たことないほど狭間がモジモジとしていたが、どうやらその理由がチョコと一緒に入れた手紙らしい。愛の手紙などではなく、呪いに関するチェックシートだった。

 

「ヤンデレ属性を付ければ真似できるな。そーゆーのは渚には効かなそうだけど」

「ヤンデレ属性……?」

 

 

「お次は磯貝と片岡か。片岡は何をしてるんだ?」

草むらから何かを取り出すと、磯貝はとても喜んでいる。

「アレは……業務用チョコセット的なやつか」

 

「え…!?いいのかこんなに!」

「うん。めちゃくちゃ安い業務用スーパーで買ったんだけど、往復4時間チャリで遠出したんだよ」

「受験中なのに…いいのか?」

「へーきだよ。私の本命も受験日までは時間あるし…。磯貝くんと同じ高校だよ」

「そっか!一緒に浮かれたら嬉しいな!」

 

 

 

「一緒の高校……ねぇ」

「どうしたの神栄」

「なんでもない。次行くぞ」

「もう次はないよ。強いて言うなら茅野ちゃんのを覗く」

 

「……せめて本人のいない前で言ってよ」

「まぁまぁ。茅野ちゃんなりに一番言いたいことを言えばそれで十分じゃん?ほら、早く行ってきなよ」

 

「うん、ありがとね。3人とも」

「ただ、問題なのは…」

 

中村は磯貝たちが一緒に帰っている道にある大きな木を見ながら言う。

そこにはいつもより触手を絡ませている殺せんせーがいた。手にはメモ帳、口からはよだれとただのゲス超生物と化していた。触手を絡ませているのは、何か意味があるのかよ。

 

「確かに、アレに見られるのは嫌だなぁ。なんか策はあるか?カルマ」

「それなら大丈夫。茅野ちゃん、アレ持ってきた?暗殺に使えるかもって言ったやつ。それを使えばしばらく動きは封じられるから、茅野ちゃんは思う存分チョコを渡せるよ」

 

「う、うん」

 

「あ、俺もう帰るから茅野についていくわ。安心しろ、俺はドアの前で覗いてやるから」

「まだ窓から見られてた方がいいよ!!」

「まぁまぁそう言うなって」

 

校舎に着くと、岡島が血の涙を流して教室から出てきた。

「俺のチョコがどこにもねえ!絶対あるはずなのに!俺はこのまま0で終わらせはしないぞ!見とけよ渚!神栄!」

 

「ははは……」

「………はは」

普通なら矢田と倉橋が全員分の義理チョコを渡しているはずなのだが、岡島には一個も無かった。非常にかわいそうだが、これも彼が犯した罪が悪い。どんまい、岡島。と神栄は心の中でエールを送った。

「おっと電話。ちょっと外に出るわ」

「え?あ、うん」

 

神栄は曲がり角で止まり、渚の後ろにいた茅野を覗いていた。カルマと中村は窓からゲッスい目で覗いている。

「渚……ちょっと、いいかな」

「茅野……?」

 

2人が教室に入ったのを確認すると、神栄は急いでドアの前まで走り、2人の様子を見る。

 

「どうしたの?黙っちゃって」

「……」

 

茅野の心臓の鼓動はますます速くなっていき、息も荒くなっていく。さらに思考回路も乱れてきて、何を言えばいいか、どんな顔で渡せばいいかがわからなくなっている。

 

「な、渚は…進路とか決めたの?」

「……うーん。なりたいものはなんとなく見えてきたけど今のところなれる自信がなくて…」

 

「……そ、そうなんだ」

(きっと渚がなりたいものは先生だ。超生物とか、殺し屋とかではなく、先生としての殺せんせーに憧れていたのを見てきたから、私にはわかる。そろそろ答えを出すんじゃないかな…?)

 

「…………ん?」

 

渚は何かを見つけると、窓の方に向かう。

「木の上に殺せんせーがいる。なんか見てるなぁ…」

ふわぁっ……と獲物を捕まえる蛇の如くエアガンを手に取るが残念ながら射程外だった。

その姿を見た茅野はようやく気づいた。

 

渚を好きになったのは、この顔だ。

まっすぐ標的の方を向いているあの顔を見て、私は渚を好きになったのだ。

大切なもの、考えていたことを失った私が空っぽにならずに済んだのは、渚が私を殺してくれたから。

私に向けられたまっすぐな殺意が、私の心を満たしてくれたから。

そんな彼に、どんな顔で、どんな形で渡せばいいか。答えは決まってる。

 

 

「渚、1年間いつも隣にいてくれて、ありがとう」

最大限の笑顔で、感謝の気持ちを伝えるように、茅野はチョコを渡した。

 

「え、僕に?」

「うん…」

「しかも今ありがとうって…お礼を言うのは僕の方じゃ…」

「また明日!合格通知くるといいね!」

「え…っと……?」

 

渚は何がなんだかわからないまま教室でボーってしていた。

「……はいはーい。大丈夫ですか渚」

そこに、一部始終を見ていた神栄がカバンを取りにやってきた。

「神栄くん…。僕、お礼されるようなことした、かな?本来なら僕の方がお礼をするんじゃ…」

「はぁ……こりゃ相当難しそうだな。渚の攻略」

「え?ちょ、神栄くん!何わけのわからないこと言ってるの!?」

「こっちの話だよ。気にしないでくれ難攻不落の渚クン!」

「…嬉しくないよ。それ……」

 

 

 

 




今月から来年の1月くらいまで(?)僕にとって勝負の月のため、おそらく今年は投稿できる数が極端に少なくなります。受験生だからね。仕方ないね。

早めに決まれば10月から再開、決まらなければ来年って感じですね。
次回から新章と言いますか、督界編に入れればいいなぁと思います。僕が考えるオリジナルストーリーなので、たかが知れてると思いますが、温かい目で見ていただけると嬉しいです。

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