「わー!すごーい!ここが宇宙センター?」
「ほんとだー!すごーい!」
若い女子の声がすると、近くにいた職員が2人を引き止める。
それも当然、ここはIDカードが無ければ入れない場所なのに、矢田と倉橋は普通に入っているからだ。
「君たちどうやって来たんだい!?」
「おじさんについて行ったらなんか着いた」
「けどここは立ち入り厳禁なの!」
「えー、発射ボタン押したい〜」
「コラコラ!くすぐってもダメ!ちょっと警備さん!!」
ISS運用管制室を警備していた人がその場からいなくなると、E組一の俊足、木村が中へと忍び込む。
職員はどうやら前の方で話し合っているようで、こちらを見向きもしない。
木村は何かのメモリを適当なパソコンに差し込むと、即座にISS運用管制室から離れ、宇宙センターを後にした。
これにより、管制室のパソコンに遠隔操作ウイルスを侵入させ、律の命令で管制センターを動かすことができる。
「よし、発射台に近づくぞ!」
律のウイルスによって、ロケットのセキュリティを一時オフにし、発射台へ楽に近づけるようになった。
「でかいな」
目の前で巨大なロケットが立っていると、言えることはそれだけだった。
セキュリティの大半がネット関連とはいえ、流石にロケット付近は人の警備もある。
片岡の指示により、気配を消してその場を突破する。
ロケットに入るために階段に登って仕舞えばこちらのもので、階段以降の警備は皆無だ。
入り口では既に殺せんせーが待機していて、ロケットの点検をしていた。
『管制室には、ダミー人形の録画画面を流しておきます。今なら人間に取り替えてもバレません』
「マジかよ。すげぇな」
「さて、これに乗って宇宙に行けるのは2名のみ、適性検査では誰でも大丈夫でしたが、行きたい人手ェ上げて!」
バッ!と多くの男子が手を上げる。
そんな中、神栄とカルマは手を上げない。
「あれ?碧くんは手を上げないの?」
「だって怖いじゃん」
「女の子みたいだね……」
「戦略的撤退って感じ」
「まだ一度も成功していない試験機ですが、それでも乗りたい人!!」
さすがにここでは手を上げるのをためらう人が多くいた。
だが、イトナだけはそれでも手を下げることは無かった。
「それでも俺は乗りたい。ロケットなんてメカ好きには垂涎ものだ。けど、今回だけ譲ってやる。渚、カルマ、お前ら乗れ」
「はぁ?俺神栄じゃないけどこーゆーリスキーな挑戦嫌なんだよね。怖いとかじゃなくて。だから寺坂とダミー乗せりゃいいじゃん。仮に落ちても損害ゼロだし」
「「なんだとカルマ!」」
神栄は最初の方に、寺坂は後の方の言葉に怒っていた。
「まぁまぁ……。挑発・戦闘のカルマに、安心・暗殺の渚か。宇宙ステーションのハイジャックにはいい人選なんじゃない?」
「はぁ……。そうだな。お前らがあんなに本気でやりあったから俺たちだってこうやって1つにまとまってんだ。だから先頭を切るのも当然だろ?」
「行ってみようよカルマ」
「…え?」
「卒業旅行、みんなで宇宙行けたら最高だな」
「……はいはい。なんでも言うこと聞くのが約束だしな。わかったよ」
「それでは、ダミーを持って私たちは退散しましょうか」
◇◆◇◆◇
それからしばらく経ち、鉄格子の外からロケットの様子を見守るE組。
ロケットの中ではカルマと渚が宇宙服を身にまとい座っていた。
「……確か前にこーゆー緊張あったね」
「……あー」
前というのは殺せんせーの服の中に入って、マッハを経験したことだ。
前はまだ地球の中での出来事だったからまだ良かったが、今回は宇宙。地球外での出来事だ。
いくら暗殺の訓練をしてきたからとはいえ、宇宙へ行くのに緊張しない人はおそらくいないだろう。
「俺も渚も、あの頃から変わっただろうね」
ポツリとカルマが呟くと、ロケットがガクガクと震え、上にあがっていく感触のようなものがする。
「うおっ……!?」
「にゅや!流石に速い!!」
ロケットの外から殺せんせーの声が聞こえる。一体どれだけ心配なのか。
「なんで着いて来てんの殺せんせー!?」
「心配になってきて……。先生のデータを手に入れることにこだわり過ぎないように!せっかくの宇宙の旅を楽しんでください!」
「殺せんせー。これだけ言っておきたい。
殺せんせーは自分の命を使って僕たちにたくさんの学びの機会を与えてくれた。
けど、僕たちにとって殺せんせーの命は、教材で終わるほど軽くはないよ」
「……はい。わかってますよ」
ロケットが宇宙に行くのに必要な速度は秒速7.9km。約マッハ23という速さである。
この時、彼らは初めて殺せんせーの最大速度を超えた。
またさらに時間は過ぎ、ISSでは試験用のダミー人形入りの宇宙船を迎え入れていた。
そこには日本人宇宙飛行士の水井さんがいて、メンバーは冗談半分でダミー人形にハグでもしてやれよ。と言った。
水井さんが宇宙服を見ると、違和感があった。
なぜか、人形が入っていない。
もう少し見てみようと身を乗り出すと、何者かに引っ張られ、気づいたら目の前にはナイフと、何かを持った少年が浮いていた。
この事態を他のメンバーは見過ごすわけがなく、全員が宇宙船に入ると、そこには少年2人が1人を人質に取っていたのである。
「ハ、ハロー…」
ここで律が地上への中継を遮断した。これでこれから行われるやりとりが誰にも見られなくなる。
「僕らは爆弾を持っています。できれば平和に済ませたいです。だから話がしたいので下がってください」
渚は乗っていた宇宙船から出てくると、それについて行くようにカルマも水井さんを持ちながら出てきた。
「ここじゃ狭いから、もっと広いところで話そうよ。ほら、早く」
足で近くにいた宇宙飛行士をどかそうとするカルマに、メンバーはこいつら、何者だ?と思い始めた。
それも当然、本来無人の宇宙船が来るはずが、有人でさらに中学生くらいの少年ときた。何者だ?と思わないはずがない。
「……そんなわけで、アメリカチームの研究データをコピーさせてください。それ以外は何も要求しません」
「知ってると思うけど、うちの担任怪物でさ、断ったら地上で何するかわかんないよ?」
いつものように挑発気味に話すカルマだが、それに対してメンバーは何も話さない。
明らかにまずい。彼らは異常に冷静だ。誰がどう見ても常識から外れた行為をしているのに、慌てる様子がない。さすが本物の宇宙飛行士、と言ったところだろうか。
「……まずは、この2人の少年にブラボーと言わせてもらおう。だが、軍人含むこの6人とやりあうつもりかい。爆弾なんざ脅しにならんよ。なぜなら…我々はこの宇宙で、いつ爆発するかわからない命がけの実験をしてるんだぞ」
水井さん除く5人の纏うオーラは、殺し屋の持つ殺気に似たものにそっくりだった。
「……いや、無益な争いはやめよう。ここは戦争を最も嫌う場所だ」
「「!?」」
「話し合うから、彼を離してやってくれないか…?」
リーダーであろう男のこの言葉に嘘はないと思ったカルマは、水井さんを離す。
すると、水井さんは5人の元へ戻り、2人の帰還方法についてたずねた。
「データを奪ってもどうやって帰るんだ?まさかハイジャックしておきながら協力を頼むのかい?」
「いえ、自力で帰れます。クラスメイトが帰りの軌道計算を完璧に済ませてるので。微調整はウチの担任がなんとかしてくれるようです」
「君たち、若さゆえに命を軽く考えていない?」
1人の男がそう言うと、渚は黙り込んでしまう。
だが、カルマが口を開く。
「俺だって来たくて来たわけじゃないよ。だけど友達が行こうって言うからさ。
あと、俺たちは命については最近めちゃくちゃ考えるようになったよ。だって、俺たちがいる場所は先生を殺す教室だもん。命に対しては命で向き合う。そういう覚悟はして来たつもりだし、それはあんた達と一緒でしょ?」
「……そうか、わかった。私の責任でハイジャックの要求を呑もう。データを準備をしてくれ」
「……お、おう!」
「それと、君たちは補給物資の手伝いをしたまえ。さっさと出て行ってもらう為に働いてもらおうじゃないか」
2人は船長に言われた通り、色々仕事をした。
カルマは主に食料を食べてしまったり、宇宙空間をいいことに渚をぐるぐる回したりしていた。
手伝い終わると、船長は殺せんせーの爆発を防ぐための実験データを2人に見せた。
それを律がコピーするが、その前にその情報が偽物ではないことを確認してからコピーした。
「んじゃ、コピーも完了したし、さっさと帰って検証しよっか」
「そうだね」
カルマはBOMBと書かれた爆弾を船長に向けて投げると、笑いながら言う。
「それ、ただの羊羹だよ。ウチの担任からの差し入れ。もしなんかあったら爆弾で脅されて逆らえなかったことにしておいてよ」
「……大した勇者だよ。君たちは」
「今度は正規ルートで遊びに来なさい。歓迎するよ」
「俺はもうごめんだね。その代わり偉くなったら宇宙開発の予算増やしてやるよ」
「ああ………楽しみだ」
ISSから離れ、宇宙空間を彷徨っていると2人は自由にしていた。
「データも手に入れたことだし、あとは無事に地球へ帰れるか、だけど、律。大丈夫だよね?」
『はい。大丈夫です!!』
「そっか……良かった」
『渚さん。カルマさん。私は今回のハイジャックでたくさん考えて、動かして、感じたりして……私の知性が進化させたのを肌で感じます。私は、「感情」を初めて自覚しました。
私は幸せ。このE組に来れて幸せです』
「律……」
『あと、私は不安です。どこかで計算間違ってないか』
「「!?!?」」
『……そろそろ宇宙服に着替えましょうか。あと少しで地球に到着します』
律の指示通り宇宙服に着替え、しばらくすると殺せんせーの声が聞こえた。
「2人とも、宇宙の旅お疲れ様です!」
「殺せんせー!」
ボン!と上の部分から音がすると、巨大なパラシュートが開……かない。
殺せんせーが正常に開くよういじるとようやく開く。
「ここまでくれば、あとは先生が押しましょうか。行き先は…」
殺せんせーはE組専用プールでその宇宙船を着地させた。
その様子を見ていた烏間先生は絶句した。
それも無理はない。こんなことをしてしまえば、一体いくつもの省庁に謝らなければならないのか予想がつく。
だが、殺せんせーはスマートフォンで今回の件についての考察が書かれたページを見せる。
「人形の代わりに本物の人間を乗せたデータは、ロケットをもう一回飛ばす分の価値がありますし、律さんが見つけた効率的な宇宙への航路。さらにパラシュートの構造の根本的な見直し、これを全部あげるからチャラってことでいいでしょうか?」
「……悪人め」
◇◆◇◆◇
全員が教室に戻ると、律の画面に手に入れたデータを載せた。
だが、英語しかないし、専門用語まみれのその文章は、普通の人にはわからない。
「……なんとなーくわからなくもないが、専門用語に関しては全くわからんな。けどよ、奥田、お前なら出来るだろ?俺たちにこれをわかりやすく説明すること」
「は、はい!!」
またしばらく時間が経つと、奥田は要約を説明した。
「反物質サイクルの暴走を防ぐための実験の結果、爆発リスクは反物質生物のサイズと反比例する。大きいほど安定で、小さいほど高確率で爆発した。つまり、月を破壊したネズミの悲劇を起こす条件は、人間ベースでオリジナル細胞の『奴』にはほぼ該当せず、爆発の可能性は極めて低い。さらにこの化学式の示す薬品を投与することで、定期的に全身にケイ素化合物の流動を促すことで、さらに爆発の可能性は低くなり、これらの条件を満たした時、爆発の可能性は少なくとも1%以下になる……。もしくは、爆発より先に他の細胞が寿命を迎え、90年以内に穏やかに蒸発するだろう……と書いてありました」
「1%以下……だと?」
「……はい」
「それよりも、さっき言ってた薬品は作れんのか?結構難しいんじゃねーの?」
「いえ、割と簡単です。というか、前に私、これとほとんど同じ薬を作ったことが…」
「アレか!!」
「アレ?なんだよそれ」
どうやら神栄が転入してくる前に奥田はこれに似たものを作ったらしい。
「なんにせよ、殺せんせーを殺さなくても地球は爆発しないで済むぞ!!」
全員が喜んでいる中、磯貝だけは不安な顔をしたままだった。
「じゃあ…暗殺はどうするんだ?」
「………」
「一学期から続けてきた暗殺は、もう終わりにするって事なのか?」
「……それは」
「おい、どうするんだ、渚」
「カルマや中村さんに、神栄くんや千葉くん、速水さんや殺す派だった皆、全員の気持ちを大切にしたい…」
渚、いや、E組が出した結論は、『国からの依頼が消えない限り、3月まで全力で暗殺を続ける』だ。
自分たちにとって暗殺は、使命であり、絆であり、E組の必修科目なのだから。
ただし、3月までに殺せんせーなければ、暗殺からも卒業し、他の人たちに手を下してもらう。
こうして、今日も暗殺の日々が始まっていくのである…。
…そろそろ時期的に、作品内も僕も受験シーズンになります。
これから話すのは作品内の事ですが、受験の話を書く際に、1つ決めてない事があります。
神栄くんは一体どこの学校に行くのか。です。
彼の実力はカルマと張れるレベルという設定なので、椚ヶ丘高校に行くという選択肢だってないわけではありません。
ですが、神栄くんは神崎さんとお付き合いをしています。彼なら同じ高校に行く可能性だってあります。だって好きだもん。
そこで、僕はみなさんに問いたいのです。彼がどういう選択をするべきかを。
・神栄くんは、神崎さんと同じ高校に通うべきだ。
・神栄くんは、神崎さんと違う高校に通うべきだ。
本来ならお前が決めろよ。って話なのですが、僕にはとても決められる様な気がしないのです。
どちらにせよ、ストーリーはなんとなく出来ております。
ただし、前回の殺す派助ける派の様に、そのうち選ばれなかった方を書く。というのは、今回は無しにしようかと思います。
それが僕たちが決めた彼の未来なのだから。(なんかすげぇかっこいいセリフっぽくなってて申し訳ない)
前回と同じように活動報告にてアンケートしようと思います。参加してもらえると嬉しいです。
次回は原作通り、受験についてですね……。
僕もそろそろ本気で勉強しましょうかね。