神栄 碧と暗殺教室   作:invisible

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今日はホワイトデーらしいですね。



第155話 本気の時間

神栄と前原が戦闘を始めた頃に時間を戻す。

別の場所では、渚とカルマが対峙していた。

 

(………思えば、カルマ君との出会いは)

渚が中学1年生の頃、2年の範囲をやっていたカルマを見て憧れの念を抱いていた。

『あんな風になれたらな』そんな誰でも思うような気持ちを持っていたある日のこと、とある映画雑誌を読んでいた時にカルマ君は話しかけてくれた。

それを皮切りに、カルマ君とはよく遊ぶようになっていった。

しかし、そんな楽しい時間は長く続かなかった。

カルマ君が喧嘩をしている姿を見て、僕は驚きとか、そういった感情はなかった。なんと言うか、場違いなところにいるな。ただそれだけだった。

勉強でも喧嘩でも、とても僕には上がることのできない舞台。そこにカルマ君は平然といられた。

そんなカルマ君は僕と居る舞台に飽きたのか、だんだんと関わる機会が減って行き、カルマ君が停学になった時には、知人のような状態になってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

(………渚君は……)

 

渚君から距離を置く前、俺は渚君の『何か』を感じ取っていた。

当時の俺には分からなかった、『何か』

ただ、後ろから触られただけなのに、思い切り刺されたような感覚。何か油断できないものが渚君にはあった。

『何か』が怖い。得体の知れない『何か』が恐ろしい。

ただ、その『何か』は喧嘩とか、勉強とかで勝つことで知ることはできない。明らかにそれとはジャンルが違うからだ。

今思えば、俺はその『何か』から逃げてしまったのだと言えるかもしれない。

 

お互い色々やりにくくなっていき、気づけば疎遠になっていた。

 

 

しかし、今は違う。

僕は今カルマ君と暗殺で同じ舞台に立っている!

俺は今なら暗殺で渚君に勝つことが出来る!

 

勝つことで、自分の意見が通る。

 

 

 

(…ねじ伏せてやる!!!)

(…ねじ伏せてやる!!!)

 

 

お互いの想いが一致した時、決戦の幕は切って落とされる。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

初撃はお互い本気のぶつかり合いだった。

双方のナイフが当たると、ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえる。

 

「……殺す!!」

「……助ける!!」

 

すると、カルマは渚の腹を横蹴りを撃つ。

腰を上手く使ったその蹴りで、渚は2回転ほどするが、すぐに体勢を整えた。

 

 

「やっぱりパワーはカルマの方が上ね…」

片岡がポツリと呟くと、磯貝が渚の方へと指差す。

「でも、渚にはもう一本のナイフがある。やる気なんだろ……アレを。けどカルマもそれは知ってることだし、アレを決めるのは至難の技だぞ…」

 

「……!!」

 

再び双方のナイフが当たるが、先ほどと同じようにはいかない。

渚はほんの少しナイフをズラすと、カルマは渚が何をしたいのかを理解し、すかさず避ける。

(変に近づくと、インクが付きかけないな…。けど)

 

ガラ空きのボディーに2度目の横蹴りが入る。

さすがに耐えられなくなったのか、すぐ立ち上がることは出来ず、少しの間うずくまってしまう。

それをみたカルマは間髪入れずにナイフを振り落とす。

しかし、渚はそれを避ける。

 

さらに、地面に刺さったナイフを見た渚はくるりと一回転してその反動で刺さったナイフを遠くへと飛ばした。

カルマがナイフが飛んだ先を見た一瞬で渚は立ち上がり、突進する。

だが、カルマはそれに対して退くどころか、迎え入れる。

 

ナイフを持ち突っ込む渚に、カルマは頭突きでその攻撃を防ぐ。

横蹴りとは違う痛みに、渚は思わず手を離し、ナイフが飛んでいった。

 

 

「これでお互い武器を落とした…」

「けど、渚にはまだもう一本のナイフが残ってる…!」

 

 

渚が2本目のナイフを取り出そうとした途端、カルマの肘打ちが炸裂する。

「出させないよ。そのスキがあったら殴るから」

 

カルマがそう言うと、素手の戦いが始まった。

カルマは髪を掴み、ボディーに膝蹴りの連打を浴びせた後、手を離し顔面にストレートを打ち込む。

それに負けじと渚も顔面めがけて殴るが、カルマはケロっとしている。

 

「……そんだけ?」

 

平手打ちをして体勢を崩させると、渚はその崩れた体勢を活かし、飛び蹴りを放つ。

その攻撃は首の真ん中辺りに直撃するが、カルマは倒れる様子がない。

 

「……カルマ、なんか攻撃をわざとくらってないか?」

「……アレだ。渚の攻撃をあえてくらう事で勝った時にちゃんと負けを認めさせるんだろ……」

「神栄!?どうした突然」

「どうしたも何も、負けたからここに来たんだが」

「いや、ずっと目をタオルで抑えてるから…」

「前原の野郎、インク入り水風船を俺の目の前で投げやがって、今完全にムスカ状態なんだよ」

「そ、そうなのか」

 

 

 

そう言っているうちにカルマが複数発殴ったり蹴ったりをしている。

今、圧倒的有利はカルマだ。こんな差を見せつけられたら、誰でもカルマ優勢だと思ってしまう。

 

 

「……マジかよ」

 

悍ましいものを見た時に、とっさに言ってしまうような声で神栄が言うと、カルマは渚の頭めがけてかかと落としを放つ。

「これは……。カルマの勝ちだな。かかと落としなんかくらったら勝ち目無ぇよ…」

 

渚は倒れたままピクリとも動かない。それを見たカルマはゆっくり息を吸い、飛ばされたナイフを取る。

 

(……こんなに自分の思いをさらけ出せる場所は、もう2度とないだろうな)

そして、殺せんせーの方をじっと見つめ、

 

(それでも俺は殺すよ殺せんせー。それが正しいことだと信じてるから)

 

カルマがナイフを振り落とそうとしたその時だった。

 

 

 

 

パァァン……!!!

 

上半身をわずかに浮かし、死力を尽くして猫騙しを使う。

いつか必ず来るであろう猫騙し。わかってはいたものの、まさかここでやって来るとは!と誰もが思った。

さらに、この一発で戦況が変わると誰もが思った。

 

しかし、カルマは猫騙しをくらった瞬間に自分の舌を思い切り噛んだ。

その痛みで気絶を防いでいた。

 

(……殺してみろよ。渚君。けど、それすらをへし折って、俺が勝つ!!!!)

 

「う……あああああっ!!!!」

 

 

渚の全てを賭けたこのナイフを見たカルマには、勝利のビジョンが見えていた。

これさえ防げば、渚君にはもう何もない。

全ての殺気が込もったこのナイフさえ防げば、俺が勝つ。と。

 

 

(持ち手の部分をはたき落とす…!そうしたら渚君には対抗する手段が無い!これで俺の……勝………!?!?)

 

 

勝ち。そう頭の中で言いかけた途端、渚の手からナイフが離れる。

こんなところで手が滑るだなんてありえない。これは一体何が起こったのだろうか。

 

「………え?」

 

ナイフを……『捨てた』!?

 

 

 

手から離れたナイフは、カルマの腹部付近に向かうが、カルマはすぐにはたき落とす。

 

「………!?」

渚はカルマに抱きついたと思うと、お互いに宙に浮いた。

お互いが地面に着いた時には、カルマは頸動脈が締め上げられている状態になっていた。

 

 

「肩固めだと!?」

少しずつ見えてきた目で2人の戦いを見ていた神栄は、思いもよらない行動をしてきた渚に対して驚くことしか出来なかった。

 

 

「〜〜〜ッ!?」

「ぜったいに……言うことを聞かす!!!」

 

思うように呼吸が出来ないカルマに渚は容赦なく締め上げる。

 

(やばい………やばい!!このままだと、気絶する!!!)

必死に横腹をボスボスと殴るが、渚は動く様子がない。

 

「……まさか渚のヤツ、カルマと同じように相手の得意分野で勝つことで負けを認めさせようとしてるな!?」

 

 

 

 

 

 

 

「………ガアッ…!!!」

ジタバタともがくカルマは、手に何か感触を得た。

 

 

────自分のナイフだった。

 

これを当てれば、俺の勝ち。

ナイフを当てるだけなら、まだ耐えられる。

当てるだけで、俺の勝ちなんだ。

 

 

 

 

 

だけど、何でだよ………何で渚君の頭の上から……動けないんだよ。

 

一生懸命に、ただ目の前の敵を負かそうとしている姿を見て、カルマはふと昔のことを思い出す。

 

 

「僕が喧嘩?怖いから一生出来ないよ。まぁ、やらなきゃ死ぬって言うのなら話は別かもしれないけどね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「降参。俺の負けだよ。渚」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

「……赤チームの降伏により、青チームの勝利!!!!」

審判の烏間先生の一言によって、この戦いは終わった。

 

結果は青チーム。すなわち助ける派の勝利だった。

 

 

 

 

 




こっからはノンストップで行きたいものですね。



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