神栄 碧と暗殺教室   作:invisible

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今日でこの小説(擬き)を書き始めて2年ということで、番外編ではないけど本編ではないものを書きました。
前々からこの話考えてたんですけど、実際行動に起こすまで数ヶ月かかりました。
ファンブックで神崎さんに兄がいることを知った時はちょっとびっくりしました



第92.5話 兄の時間

 

 

「え?一人暮らしをする?」

 

 

 

「ああ、有希子の顔もしばらく見れないかもしれないな……あと母さんも」

 

とある日、親二人が仕事の都合で家にいない時間帯、食事をしている時のことだった。

 

「私は大丈夫だけど……どうしてこんな突然?」

「そろそろ自立しようと思ってな。最近有希子も熱心に何かに取り組んでるし、母さんも結構頑張ってるし、俺も頑張らなきゃな、って思ってさ」

「そっか、でもすぐ戻ってくるんじゃない?」

「大丈夫。母さんの写真をたくさん持ってるから」

(それは大丈夫じゃないんだよお兄ちゃん………)

 

 

神崎の兄は重度のマザコンで、母を待ってるのかつらくなって高校生のくせに泣き出したこともあるくらいひどい。

それ以外はそれなりにまともなので、マザコンの部分だけがものすごく目立ってしまう。

そんなマザコン兄が、突然の自立宣言。兄の全て知っている妹からすれば、杉野がサッカー選手になろうとし始めるくらいヤバイ。

もっと言えば、神栄が突然積極的になるくらいヤバイ。

「ま、まぁ……頑張ってね」

「有希子こそ、綺麗だから変なヤツとだけは絶対付き合うなよ。特に奥手の奴はダメだ。男からリードしてかないヘタレはただのヘッポコだぞ」

(ごめんお兄ちゃん………その奥手てヘタレなヘッポコが私の好きな人なの…)

 

 

「う、うん。わかったよ」

ガラでもなく、嘘をついてしまった……。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

1週間後、兄は部屋にある荷物を全て新しい家に持って行き、自宅を後にした。

兄の部屋に行くと、秘蔵のママアルバムも、ママボイス付き目覚まし時計も、全て無くなっていた。それほど本気の一人暮らしなのだろう。

「………いたらいたでお母さんお母さんとうるさかったけど、いないとなんか寂しいような……」

兄の部屋でポツリと呟くと、今までに起きた出来事を思い出す。

 

 

出来事と言っても、兄と喧嘩なんてした事はないし、兄が怒るなんてことも無かった。

主にゲームのことだった。

おばあちゃんのへそくりでたくさん買えたゲームで、クリアできない時は兄と一緒にプレイしていた。

だがゲームをやり込んでいくうちに、だんだん兄の助けが必要なくなり、練習相手としてしか一緒にゲームをすることがなくなってきてしまった。

今になって、また一緒にゲームしたいな……と思ってきた。

 

 

 

 

「……ゲームセンターにでも行こうかな」

 

 

 

 

 

 

 

最近のブームはオンラインFPSゲームだ。全国のプレイヤーとのオンライン対戦が可能なゲームで、月に何度か非公式ではあるが大会が行われる。

神崎はそのゲーセン内では有名なプレイヤーで、有鬼子と噂される強さである。

 

 

今日は運がいいのか大会が行われる日で、ゲーセンは少しばかり混んでいた。

 

 

「……碧くん?碧くんがどうしてここに?」

 

 

「……神崎か。太鼓の時は世話になったな。今日は大会出んのか?」

「うん……一応」

「そっか。決勝で戦えるといいな」

多分、神栄の力なら容易に決勝には行けると思う。

それに比べて神崎は、若干動揺している。

 

 

 

 

(……碧くんと戦えば…少しは楽になるかな…?)

そんな淡い期待を込めて神崎は大会に参加するための紙を書いた。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

一回戦の対戦相手が発表されると、嘆いてる人がいたり、喜んでいる人がいた。

 

神崎の場合嘆かれる方が多いのだが、神崎もため息を吐いていた。あまり乗り気ではなさそうだった。

 

 

試合開始時間になり、続々と勝者が出ている中、神栄も一回戦を突破していた。

試合が終わり神崎のいるところへ向かうと、相変わらず神崎はいつもとは違う。

「なぁ神崎……なんかあったのか?話あるなら聞くぞ?」

 

「じゃあ、ちょっと場所を変えてもいい、かな?」

「え、でも大会が……って、まぁいいか」

 

 

 

神崎は神栄の腕を引っ張る形で、人気のない場所で話し始めた。

 

「……お兄ちゃんが、一人暮らしを始めたの」

「なんだよそんなことか。別に大丈夫だろ。どんな兄か知らんけど、お盆とか正月とかには帰ってるでしょ。てか、神崎に兄がいたのな、初めて知った」

 

「うん、一応…」

 

「そんな寂しいものかね……兄がいなくなるって」

神栄の場合、姉がいなくなって嬉しすぎて涙でる姉不孝者だ。

性格が合わないのが原因だが、それが無くても神栄は嫌っていただろう。

「まぁ、兄がいなかったら俺が兄になってやるぜー!なんつって。無理か……あはは」

 

神崎の顔が一瞬で明るくなる。

 

「ってうわぁあああ!どうした神崎!?だ、大丈夫、ですか?」

「碧くん……私、 碧くんのことお兄ちゃんって言っていい?」

「え…い……やではない気もするけど、それは良いのだろうか…」

「むー、碧くんはそうやって曖昧にして結局やらないんだもん。たまには私に構ってくれてもいいんだよ?私はいつだって待ってるから」

「………」

 

あまりの綺麗さと可愛さに死にかけた。が、兄妹プレイをするとなると、また死にそうな予感がする。

変な態度で臨めば有希子に迷惑がかかるし、ちゃんとやれば自分が精神的に殺られるし、逃げれば死ぬ。どのルートへ行っても逝ってしまうことは避けることができない。なんて鬼畜な!

 

しかし、ここでやらねば男ではないし、ヘタレというのが事実になってしまう。

 

「………わかった。具体的にどんなことをやるかを聞こうか」

「え?いいの?」

「今更なんだよ。神崎がやってほしいって言ったんじゃないか。俺はやるぞ」

「………あれ?」

 

神崎はふと思う。

これは本当に碧くんなのだろうか。

誰もがヘタレと呼ぶ神栄は、これまでどんなアプローチも曖昧にしたり、逃げたり、逃げたり、逃げたりしたのに、なぜこんな時はやると言ったのだろうか。

あまりの事態に動揺している神崎に、神栄は首をかしげる。

 

「どうした?どこか具合が悪いのか?」

「い、いや、大丈夫だよ!けど、ちょっと碧くんがいつもと違うから……」

「ん?俺はいつも通りだぞ?」

 

だめだ。本人がヘタレっていう自覚がない。

 

「じゃあ……やってもらおうかな…。お兄ちゃん!」

「ゴフッ!」

吐血したような咳をすると、神栄は膝をつく。

「碧くん大丈夫!?」

「…破壊力がありすぎる。俺の彼女がこんな美少女だった件について」

「…どうしたの?」

「あー、なんでもないよ。ちょっとびっくりしてて」

「そう?なら良かった。それじゃお兄ちゃん、どっか行こっか!」

「大会は………どうでもいいか」

 

 

そう言うと2人は大通りへと手を繋いで行ったのである。もちろんリードしているのは神崎だが。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

「碧く……お兄ちゃんは何したい?」

「無理してお兄ちゃんなんて言わなくてもいいんだぞ?兄だと思えばいいだけだし…」

「お兄ちゃん、どこ行きたい?」

「え」

 

お兄ちゃんをゴリ押す神崎は可愛いが、本当に妹になりきっているのはどうだろうか?

「そうだな…公園なんかどうだ?のんびりできるし」

「うん!そうしよっか!!」

 

 

公園のベンチに座ると、神崎がこちらに寄りかかってくる。

「あの……これは一体?」

「お兄ちゃんに甘えてるの」

「なるほど。よくわかりません」

「むー、また曖昧にした!」

「え、これが?」

 

 

「…………有希子?」

 

バサッ、とレジ袋が落ちる音が聞こえると、神栄と神崎は落ちた音の方を見る。

 

神崎には、既視感のある姿が。

神栄には、何か神崎に似てる人だなぁと思った。

 

「有希子…?何だそいつは」

「え……?誰だこの人」

 

まるで二股かけたような会話だが、一体誰なのか。

 

 

「俺は有希子の兄だぞ!お前!有希子に何してるんだよ!」

 

「あんたが兄か。俺はそちらの妹さんとお付き合いしてる神栄です」

「なんだと!?どう見てもただのヘタレじゃないか!有希子!俺はそんな奴が彼氏なんか認めないぞ!」

 

 

 

 

「……おい。初対面の人にヘタレだなんて失礼だな。やれやれ、これじゃ妹さんが心配するわけだ」

「なんだと!?」

「別におせっかいが悪いってことじゃあないが、いい加減妹離れしようぜ。こっちだって薄っぺらい付き合いしてるわけじゃねーんだよ。真剣に愛してんだよ。そんな妹を見て、応援する気持ちにはならんのか?」

「うっ、それは……」

「なら、別に俺が付き合ってても問題ではないだろ。少なくともあんたが思うような人間じゃないような努力はするつもりだし、そんな簡単に別れるような真似はしないから。な?いいだろ?」

 

「………なんか、随分大人びてるな。神栄……くん、だっけ?有希子をよろしくお願いします……」

「わかってもらって嬉しいです。では、これで」

 

そう言って神栄は神崎の腕を掴み走ってどこかへ行ってしまう。

 

「………真剣に頑張ってるのは、お付き合いってことなのか…?」

 

 

 

 

 

 

 

「………はぁ。だめだ…。ガラでもなくあんなこと言ってしまった。恥ずかしすぎて逃げちまったよ」

「碧くん」

「……ん?どうし」

 

た?と言おうとしたが、その瞬間に神崎が抱きついてきた。

「碧くん…。私嬉しかったよ。普段ちゃんと言ってくれないんだもん……だから、嬉しかったよ?」

「…そうだな。多分今後言わないかもしれんからな…」

「それはどうかと思うけど…」

「まぁ、なんだ。兄公認のお付き合いができるから、それで許してくれないか?」

 

 

 

「そうだね。じゃあこれからも末長くよろしくね!あーおくん!」

 

今まで見た中での、最高の笑顔になっている神崎を見て、神栄は顔を背ける。

 

「ごめん……耐えられない」

「……まずはそのヘタレを治さなきゃね」

 

 

 

 





1年経った時から数話しか進んでないですけど、どんな理由があっても必ず終わらせます。ここまでやって逃げるとか嫌ですし。

今年は受験だし、きっと忙しいですけど気がついたら書いてた的な感じでポンポン出してることでしょう。

2年生最後のテストが終わって気が緩んでるけどテストは終わってないという謎の矛盾。
(なんか諸事情があって再試験するらしい)


今後もよろしくお願いします。次回こそ本編書きます!

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