【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第九話『決戦、魔法省』

 エレインとメアリーの心温まる一幕を尻目に僕はドビーを問い詰めていた。

 

「おい、お前はエドを探しに行った筈だろ!」

「そ、それがその……」

 

 ビクビクと怯え切っているドビーに僕はため息を吐いた。

 

「ドビー」

 

 僕は膝を折り、小柄なドビーに視線を合わせた。

 

「頼むよ、ドビー。僕の友達が今、とても危険な目に合ってるかもしれないんだ……」

「……坊ちゃまが、た、た、頼むと……? ド、ドビーにた、頼むと!?」

 

 ドビーは目を血走らせた。予想外の反応に僕が困惑していると、ドビーは言った。

 

「ド、ドビーはエドワード・ロジャー様の痕跡を辿ったのです!!」

 

 それまでのおどおどとした口調が嘘のようにドビーはハッキリと言った。

 

「で、ですが、ドビーが到着された時にはエドワード・ロジャー様は既に移動なされていました。そ、それで、ドビーは追いかけようとしたのです! ですが……、その……、あの御方に止められたのです」

 

 ドビーはメアリーを見た。

 

「止められた……?」

 

 視線に気付いたのか、メアリーも此方を見た。

 

「メアリー・トラバース。何故、ドビーを止めたんだ?」

「そのまま行かせたら、あの子がピンチに陥るからよ」

「エドの事か?」

 

 メアリーは頷いた。

 

「今の魔法省は完全にヴォルデモートに支配されているのよ。おぞましい手段によって、末端の職員に至るまで全員が彼の手駒となっている。迂闊に飛び込めば、魔法省のすべてが一斉に敵として襲いかかってくるのよ」

「なっ!? だったら、エドも危険じゃないか!!」

「あの子だけなら恐らく大丈夫よ。言ったでしょ? 迂闊に飛び込めばって」

「どういう事だ?」

「支配に使っている魔法の関係よ。エドワードはわたしから情報を奪った上で侵入しているから横槍が無ければヴォルデモートの下まで問題なくたどり着けると思う」

「それはそれでマズいだろ!? 一人でヴォルデモートと戦うなんて、あまりにも無謀だ!!」

 

 エドにはポッターやエレインほどのヴォルデモートとの関係性はない。だから、最悪でも直接対決とはならないだろうと考えていた。

 死喰い人の群れに玉砕覚悟で特攻するほど愚かでもない筈だから、多少時間が経過してもエドは魔法省内で息を潜めて機会を伺う筈だと思った。

 だからこそ、ドビーを向かわせたのだ。

 

「……一応、ヴォルデモートを滅ぼす手段はエドに伝わっているわ。わたしには使えなかった手段だけど、エドの魔法力なら可能よ」

「ヴォルデモートを滅ぼす手段!?」

「手順自体はシンプルなの。まず、ヴォルデモートを殺害する。その後、抜け出した霊体を束縛して固定し、悪霊の火で焼き尽くす」

「そ、そんな簡単……でもないが、それで滅ぼせるのか!?」

 

 声を荒らげたのはガウェインだった。

 

「そもそも、ヴォルデモートの不滅性は分霊箱によるものよ。そのメカニズムはただオリジナルの魂を地上に縛り付けておくというだけのもの。つまり、オリジナルの魂を滅殺してしまえば分霊箱の有無に関わらずヴォルデモートを抹殺出来るの」

「……ま、まさか」

 

 ガウェインはダンブルドアを見た。彼は表情を曇らせている。

 

「魂の破壊なんて、まさしく闇の魔術の領域。あなた達が思いつけなかったのも無理はないわ。そもそも、思いつけたとしても使えないでしょ」

 

 メアリーは言った。

 

「魔法は心で操るもの。闇の魔術は心に闇を抱かなければ使えない。悪党を倒せるのは悪党だけってわけよ」

 

 その言葉に眉をひそめる者は多かった。

 僕も考えるよりも先に口を開いていた。

 

「……だったら、やっぱりエドには無理だ。アイツはいつだって優しかった! 良い奴だった!!」

「そうだよ……。エドは悪党なんかじゃない」

 

 ポッターが言った。他のみんなもエドを悪党だとは欠片も考えていない。

 その反応を見て、メアリーは何とも言えない表情を浮かべた。

 

「……あー、言葉の綾って奴よ。でも、そっか……。あなた達にとって、あの子は良い子なのね」

「お前にとっては違うのか?」

 

 エレインが問いかける。

 

「……わたし、そこまであの子について知らないの。笑えるでしょ? 母親なのにね……」

「だったら、そろそろ行こうぜ」

 

 しびれを切らしたようにエレインは言った。

 

「エドがヴォルデモートを倒せていても、倒せていなくても、敵は一人じゃないんだ。さっさと助けに行かないとな! そんで、それからゆっくりアイツの事を知ってけばいいさ。だろ?」

「……ええ、そうね」

 

 第九話『決戦、魔法省』

 

「ステューピファイ!!」

 

 真紅の閃光を老年の魔法使いの胸元に命中させる。

 これで36人のベラトリックス・レストレンジを沈黙させた。

 けれど、限界が近い。

 

「殺す! 殺してやる!!」

 

 敵は魔法省の全職員だ。その総数は1,000に届き、繰り出される魔法の光は本来点であるにも関わらず壁となって迫り来る。

 既にヴォルデモートとの決戦で魔法力を大量に消費してしまったエドワードは無言呪文を発動する余力すら無くなっていた。

 それでも数に圧殺される事なく抵抗を続けていられるのは皮肉にも父であるダレンの研究と教育の成果だった。

 エドワード・ロジャーはダレン・トラバースがヴォルデモート卿という規格外の魔法使いに憧れて、その力を再現する為に拵えた存在だ。

 メアリー・ディオンを洗脳し、配偶者としたのも彼女が人並み外れた魔法力を保有していた為だ。

 母胎に宿る内から闇の魔術による調整が行われ、その結果として死の呪文の連続発動を可能とするほどの強大な魔法力を備える事が出来た。

 その魔法力を活かす為の戦術や技術も幼少期の虐待染みた教育によって骨身に刻まれていたが為にエドワードは今も生きている。

 

「ペトリフィカス・トタルス!!」

 

 エドワードにとって幸いだったのはベラトリックス・レストレンジ達が死の呪文を乱用出来ずにいる点も大きい。

 彼女達は人格こそ闇の魔術に精通した女傑であるが、その肉体は闇の魔術どころか戦闘用の魔法すら殆ど使い慣れていない善良な一般市民のものだ。

 それぞれの杖の中には闇の魔術の発動そのものを拒むものもあり、保有する魔法力も戦闘系の魔法を連続発動出来るほどの余裕がないものも多い。

 更にベラトリックス・レストレンジ達は主人を葬られた事で激昂している。

 彼女達はあくまでも他者の肉体に植え付けられた人格に過ぎず、記憶まですべてをインストールされているわけではなかった。その為に思考は短絡化し、戦闘の経験値も不足している。

 ヴォルデモートはその欠点を自らの指揮によって補う事を想定していた。その彼がいなくなった今、彼女達は言ってみれば単なる暴徒と変わらない有様となっている。

 

「ステューピファイ!!」

 

 とは言え、その数はやはり脅威だ。

 皆殺しにしていいならやりようは幾らでもあったけれど、相手は罪なき一般市民。悪霊の火で焼き尽くすわけにもいかない。

 フィニートでヴォルデモートの魔法を解呪する案も考えたが、この状況下で洗脳を解けば、その人物にベラトリックス・レストレンジ達が襲いかかるだろう。

 状況も分からぬまま襲われれば抵抗する余裕もあるまい。それでは殺すのと大差ない。

 ベラトリックス・レストレンジ達はベラトリックス・レストレンジのままノックアウトしていくしかないのだ。

 まさにジリ貧だ。魔法力だけではなく、体力や思考力も限界に等しい。

 

「死ねぇぇぇぇ!!!」

 

 遂に対処が追いつかなくなってきた。

 反対呪文で止めきれなかった呪文を回避しきれず、エドワードの肉体は宙を舞った。

 衝撃と激痛によって意識が一瞬途切れる。その一瞬の間にベラトリックス・レストレンジ達の呪文が殺到する。

 万事休すだ。これを受ければ、今度こそ身動きが取れなくなる。

 

「……エレイン」

 

 間近に迫る死をエドワードは恐れていなかった。

 彼は既にヴォルデモートを殺害している。

 相手が悪人である事など言い訳にはならない。エレインに認められたいという我欲の為に人を殺しておいて、自分が殺される事に文句を言うのは筋違いだと思った。

 それでもベラトリックス・レストレンジ達に抵抗したのはエレインにもう一度会いたかったからだ。

 ここで死ねばエレインの記憶に深く刻まれる。それはそれで悪くない。それでも会いたかった。

 

「会いたいな……」

「ならば、会いに行かねばならぬ」

「え?」

 

 ベラトリックス・レストレンジ達が放った魔法の光が遮られた。

 彼の眼前に現れたのは今世紀最高の魔法使い、アルバス・ダンブルドアの偉大な背中だった。


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