【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第一話『襲来、ヴォルデモート卿』


第一話『襲来、ヴォルデモート卿』

 

「お前は誰だ?」

 

 その眼を知っている。

 何故だ。何故、生き残りがいる。あの一族は根絶やしにした筈だ。

 鷹の目を持つ一族。マッキノン家はトラバースに命じて、確かに……。

 

「私の声が聞こえてないのか?」

 

 エレイン・ロットは容赦なく僕の腹部を蹴りつけた。呼吸が止まる。

 周囲が止めようとする。だが、彼女は僕から杖を奪い、そのまま首を掴んで地面に押し付けた。

 

「……お前は誰かって聞いてんだよ。なんで、ロンのフリなんてしてんだ?」

「ミス・ロット! 何をしているのですか!?」

「ババァ! こいつは、ロンじゃない!」

 

 躊躇いなく、彼女は僕の腕の骨を砕いた。

 

「……な、なにをするんだ、エレイン! い、痛い!」

 

 悲鳴を上げてみせても、拘束が緩む事は無かった。

 それどころか、今度は足の骨を折られた。呪文も使わずに魔力を操り、的確に僕の身動きを封じる。

 

「やっ、やめてくれ、エレイン! 僕だぞ!? 先生、助けてっ!」

「お、お止めなさい、ミス・ロット!」

 

 マクゴナガルがエレインの腕を掴んだ。

 チャンスだ。

 

 ――――来いっ!

 

 杖など無くても、僕はある程度魔法が使える。

 奪われた杖をアクシオで呼び寄せ、治癒呪文を唱えた。

 それで、ダンブルドアとムーディに確信を抱かれた。これまでの努力が一瞬で水の泡だ。実に忌々しい。

 

「貴様だけは道連れにしてやる!! アバダ・ケダブラ!!」

「いけない!!」

 

 エレインに向けて呪文を放つ。すると、マクゴナガルが飛び出してきた。

 

「ババァ!?」

 

 死亡したマクゴナガルに周囲が騒然となった。

 

「お、おい、冗談やめろよ!?」

 

 周囲が騒がしくなってきたからか、気絶していたハリーも目を覚ました。

 

「……あれ、僕、どうして」

「ハリー」

 

 僕が気安く声を掛けると、ムーディが間に割って入った。

 

「ロ、ロン? えっ、先生!?」

 

 未だに現状を認識出来ていないハリー。だが、好都合だ。

 今、ハリーは寝転がったままで、とっさに動く事が出来ない。

 

「貴様が避けたらハリーは死ぬぞ!! アバダ・ケダ――――」

「させぬ!!」

 

 ダンブルドアが武装解除呪文を放った。咄嗟に身を翻すと、他の教師達も一斉に杖を僕に向けていた。

 

「……ヴォルデモート卿じゃな?」

「ヴォルデモート……って、何を言ってるんですか!?」

 

 ハリーが喚き立てた。彼にはまさに青天の霹靂といったところだろう。

 

「プッ、クク……ッ、アッハッハッハッハッハ!!」

 

 あまりにも無垢な反応に、僕は思わず笑ってしまった。

 

「ロ、ロン! どうしちゃったんだ!? この状況はなに!?」

「ハリー。ああ、ハリー。君との友情ごっこをもう少し楽しみたかったよ」

「ゆ、友情……、ごっこ?」

 

 怯んだ様子を見せるハリーに僕は再び笑った。

 まるで、友達に『別にお前の事なんて、最初から友達と思ってねーし』と言われたような表情だ。

 

「ロン……。嘘だよね? ねえ、なんとか言ってくれ!」

「止すのじゃ、ハリー。アヤツはロナルド・ウィーズリーではない!」

「ロンじゃないって……、何を言ってるんですか!? だって、どう見ても……」

 

 まったく、これ以上笑ったら笑い死んでしまいそうだ。

 

「アッハッハッハ! ロン? 誰、それ! 僕の名前は――――」

 

 杖を天に向ける。

 

 ――――闇の印(モースモードル)よ。

 

 現れる闇の印に、それまで状況を理解出来ていなかった観客達が一斉に悲鳴を上げた。

 

「――――ヴォルデモート卿だよ。初めまして。そして、久しぶり」

 

 変身を解く。赤毛の貧相なガキから、僕本来の姿を取り戻す。

 ああ、スッキリした。

 

「ヴォルデモート……。嘘だ。なんで、ロンが……」

「おい、テメェ!!」

 

 戸惑うハリーを尻目に、怒りを滾らせたエレインが杖を向けてくる。

 

「素晴らしい。この僕に対して、欠片も恐れを抱いていないらしいね」

「テメェ、本物のロンをどこへやった!!」

「どこだと思う? 空の上? それとも地の底? さーて、ダンテ・アリギエーリの神曲が真実なのか否か、僕にはわからないね」

「……テメェ、ロンまで殺したのか!?」

「えっ……、ど、どういう事!?」

 

 さてさてさーて、そろそろいい頃合いだ。

 一度は散らされた吸魂鬼が上空に戻ってきている。闇の印に隠れているから、誰も気付いていない。

 

「さあ、ダンブルドア! 守りきれるかな?」

 

 降り注いでくる無数の吸魂鬼達。咄嗟に教師達が守護霊の呪文を唱えた。

 

「アバダ・ケダブラ」

 

 エレインだけでも殺しておこうと思ったが、直前にダンブルドアが彼女を引き寄せて守った。相変わらず、危機的状況でも冷静な男だ。

 

「じゃあ、無差別攻撃だ。アバダ・ケダブラ。アバダ・ケダブラ。アバダ・ケダブラ。アバダ・ケダブラ!」

 

 ホグワーツの教師といえど、全員が戦いの達人ではない。二人は躱したが、一人は仕留めた。

 

「そんな、シニストラ先生!」

「貴様!!」

 

 ムーディがアバダ・ケダブラを唱えた。

 

「アバダ・ケダブラ」

 

 僕は敢えて避けずに、カウンターでアバダ・ケダブラを打ち込んだ。

 アバダ・ケダブラは精神力を激しく消耗する。僕以外に連続で発動出来る者はそうそういない。

 僕のアバダ・ケダブラは見事に彼の胸へ命中した。

 

『アッハッハッハッハ!! それじゃあ、僕は退散させてもらうよ。肉体が邪魔だったんだ! ありがとう、ムーディ! 聞こえてないだろうけどね!』

「ま、待つのじゃ、トム!!」

『あっ、ハリー。寝床に戻ったら、僕のベッドの下を探してごらん。じゃあね!』

 

 待てと言われて待つ馬鹿はいない。死亡して霊体となった僕はさっさとホグワーツから退散した。遠く離れた場所に隠しておいた意志のないマグルの肉体に取り憑き、賢者の石で精製した命の水を飲む。

 

「はい、復活! さーて、次の行動に移ろうか! 何事も、切り替えが重要さ」

 

 僕は戦力確保の為にアズカバンへ向かった。


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