【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第五話『幕間』

第五話『幕間』

 

 ホグワーツ魔法魔術学校の校長室。そこで、アルバス・ダンブルドアは一人の男と会っていた。

 

「……いきなり喚び出すかと思えば、最悪だな! よもや、賢者の石をヴォルデモートに奪われるとは!」

 

 傷だらけの面貌、片方の眼孔には義眼、到底まともな人生を送ってきたとは思えない男。彼は相手が偉大なるアルバス・ダンブルドアと知りながら、臆する事なく怒鳴り声を上げた。

 

「申し開きの言葉もない」

「……セブルス・スネイプ。奴が手駒だったのか? それとも……」

「セブルスは潔白じゃよ。彼は……、儂の片腕として働いてくれておった。あまりにも大き過ぎる損失じゃ」

 

 心から嘆くダンブルドアに、傷だらけの男は深く息を吐いた。

 

「儂を喚び出したのは、スネイプの代わりが必要になったからか?」

「……否定は出来ぬ。あやつに任せておった仕事は信頼出来る者達の中でも、更に限られた者にしか託せぬものばかりであった」

「ッハ! 元死喰い人をよくもそこまで信じられたものだな」

「……あやつはリリーを愛しておった。その愛は闇の帝王に牙を剥く……、十分な動機となった」

「エバンス家の……、ハリー・ポッターの母親か」

 

 沈黙が広がる。彼らを囲う歴代の校長の自画像からも言葉はない。

 事態の深刻度は十年前を遥かに上回っている。

 賢者の石という秘宝がヴォルデモートの手に落ちた。いずれかの方法で完全なる死を遠ざけたヴォルデモート卿は、更に、手軽に完全復活を遂げる手段を獲得したのだ。

 

「……ファッジには話を通したのか?」

「話しておったら、儂はここに居らんじゃろうな」

「どうするつもりだ?」

 

 ダンブルドアは口を閉ざした。その姿に、男は顔を顰める。

 

「……打つ手なしか」

「アラスターよ。今、我々に出来る事は備える事だけじゃ」

 

 アラスター・ムーディは義眼をクルクルと回転させながらやれやれと肩を竦めた。

 

「忙しくなりそうだな」

「頼りにしておるぞ」

 

 話が一段落した所で、校長室の扉が開いた。

 

「失礼します」

「おお、待っておったぞ」

 

 継ぎ接ぎだらけのローブに身を包んだ男が入ってくると、先程までとは一転して、ダンブルドアは朗らかに微笑んだ。

 

「紹介しよう。リーマス・ルーピンじゃ。リーマスよ、こちらはアラスター・ムーディじゃ」

「よろしくお願いします。お噂はかねがね」

 

 人好きのする笑顔を浮かべるリーマスに差し出された手をアラスターはふむと握った。

 

「さて、二人にはいろいろと頼みたい事があるのじゃが、その前に此方を渡しておこう」

 

 そう言って、ダンブルドアは二人に書状を渡した。

 

「……魔法薬学か」

「私は闇の魔術に対する防衛術ですね」

「うむ。急な事で申し訳ないと思っておる。じゃが、どうか二人にはそれぞれの教科で教鞭を振るって欲しい」

 

 アラスターはやれやれと書状を仕舞い込んだ。ところが、リーマスは難しい表情を浮かべている。

 

「どうかしたのか?」

「……その、本当によろしいのですか?」

 

 リーマスの言葉にダンブルドアは間髪淹れず「もちろんじゃよ」と答えた。

 

「ですが……、私は人狼です」

「もちろん、心得ておる」

 

 ダンブルドアはアラスターを見つめた。

 

「アラスターよ。お主には負担を掛ける事になるが、脱狼薬の調合も頼みたい」

「まったく、お前というヤツは……」

 

 呆れながらアラスターはリーマスを見た。

 

「シケた面をするな! 脱狼薬如き、儂に掛かれば容易いものだ」

「マッドアイ……」

 

 アラスターを異名で呼び、リーマスは頭を下げた。

 

「ありがとうございます」

 

 アラスターは理解していた。このタイミングで呼び出されたという事は、ダンブルドアがリーマスという男に格別の信頼を置いているという事。

 状況は最悪だ。だからこそ、結束しなければならない。

 

「さて、ここからはゼロからのスタートとなる。いろいろと苦労を掛けると思うが、どうか二人には力を貸して欲しい」

「仕方あるまい」

「私でお力添えが出来るなら!」

 

 二人の意志を湛えるが如く、ダンブルドアのペットである不死鳥のフォークスが美しい旋律を奏でた。


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