【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第十二話『Magazine』

第十二話『Magazine』

 

 欠伸が出た。最近、忙しない毎日を過ごしているせいだ。

 朝は賭けの確認をしに来るフレッドとジョージの相手をしながら朝食を取り、夕方はクィディッチの練習か、魔法生物飼育クラブの活動。夜は貯まりに貯まった宿題をこなす。

 手帳を開くと、予定が隙間なく埋まっている。

 

「……クリスマスまで待つしかないか」

 

 イリーナに教えてもらった秘密の研究室には、未だに辿り着いていない。そもそも、探索に出掛ける余裕がない。

 充実感はあるが、疲れを取る暇すらない。

 とは言え、クラブもチームもサボる気にはなれない。なにしろ、自分で入ると決めた事だ。一度口にした事を曲げる事は主義に反する。

 

「さてさてさーて、今日はチームの練習だな」

 

 昼食の席でチョウやアリスに声を掛け、一緒に競技場へ向かった。

 競技場にはマイケルとシャロンが既に来ていて、二人で作戦を練っていた。

 

「おっす!」

「おはようございます」

「おはよー!」

 

 私達三人が声を掛けると、マイケル達も顔を上げて挨拶を返してきた。

 その少し後にチサトとボルクも姿を現した。

 相変わらず、この二人はクールだ。どちらも頭を下げるだけで一言も発しない。

 おかげで、未だに二人の性格が掴めずにいる。

 

「なあ、アリス」

「なんだ?」

「チサトやボルクはどういうヤツなんだ?」

 

 思い切って、アリスに問い掛けてみる。

 

「どういうヤツって言われてもなー。アタシもあんまり話した事が無いんだよ」

「マジかよ……」

 

 アリスは四年生で、チームに入って二年目になる。同じチームで戦う上で、これは大丈夫なのか?

 

「……ねえ」

「ん?」

 

 声を掛けられて振り向くと、そこにはチサトの姿があった。

 ビックリして目を丸くする私にチサトは言った。

 

「わたしがどうかしたの?」

 

 どうやら、内緒話が聞こえていたらしい。

 別に悪口を言ったつもりはないが、どうやら怒らせてしまったようだ。

 

「あんまり無口だから、どんなヤツなのか気になったんだよ」

「お、おい、エレイン!」

 

 アリスが慌てて止めようとするが、こういう時は変に取り繕わない方がいい。

 

「……別に無口なわけじゃない」

「そうなのか?」

 

 チサトは眉間に皺を寄せながら言った。

 

「……その、口下手っていうか」

「へ?」

「あんまり話す事が得意じゃないのよ。よく、余計な事を言って、相手を怒らせちゃう事もあるし……」

 

 眉をハの字に曲げて、チサトは溜息をこぼした。

 印象とは随分と違って、可愛い性格をしているようだ。

 

「ふーん、ボルクとは付き合ってるのか?」

「……付き合ってるのかな? 趣味が合うから一緒にいる事が多いけど」

 

 チサトの言葉にボルクがショックを受けた表情を浮かべている。

 つつけば面白い反応が見れそうだが、今は止めておこう。

 

「趣味って?」

「……その、アニメや漫画」

「アニメ? アラジンとか?」

「あら、アラジンを知ってるの!?」

「お、おう」

 

 チサトは思った以上に食いついてきた。

 エドの家に行く前、劇場でチラシを見ただけなんだけどな。

 

「あっ、あなた、日本のアニメや漫画には興味ない? あの、ドラゴンボールとか、幽遊白書は?」

「いや、日本のまでは知らねーよ。そっか、チサトは日本人だもんな」

「あっ……、その、ごめんなさいね」

「え? なんで、いきなり謝るんだ?」

「……わたし、漫画やアニメの事になると、つい興奮しちゃうの。それで、よく煙たがられたのよ……」

 

 しょんぼりした表情を浮かべるチサト。

 

「別に、趣味の事で興奮するくらい普通だろ? 私も、マンガやアニメに詳しいわけじゃないけど、そんな事で煙たがったりしねーよ」

「……あなた、なんていうか、すごく大人びてるわね」

「そうか?」

 

 チサトはコクコクと頷いた。

 

「……思うんだけど、エレインは普通の人よりも自我が強いんだと思う」

 

 いきなり、チョウが言った。

 

「我儘って事か?」

「違う……ううん、違わないのかな? エレインって、周りの意見に流される事が無いじゃない。いつも、自分の考えの下で行動しているっていうか……」

「別に、周りの意見を無視してるつもりはないぞ?」

「それは分かっているわよ。要するに、周りの意見も聞くし、それを取り入れる事もする。だけど、最後は自分の意志で決定する。だから、大抵のレイブンクロー生が避けたがるスリザリンの子に何度も会いに行ったり、スニッチを掴む為に危険な真似も平気でしたり、ノーバートの世話を継続する事に率先して賛同したりもした」

 

 どれもウィルやみんなに止められた行動ばかりだ。

 バツの悪い気分になって来た。

 

「それを悪い事って言ってるわけじゃないの。むしろ、エレインのそういう所を私は尊敬しているもの」

「そ、尊敬って……、なんだよいきなり」

 

 不意打ちで褒められると、どうしていいか分からなくなる。

 頬が熱いぜ。

 

「……ともかく! 折角のチームなんだ。私はチサトの事をもっと知りたいと思ってる。マンガやアニメも、あんまり触れる機会は無かったけど、興味はあるんだ。今度、教えてくれよ」

「ええ、分かったわ」

 

 チサトが微笑むと、ボルクも嬉しそうに笑った。

 おそらく、趣味が合ったんじゃなくて、ボルクは趣味を合わせたんだろうな。

 

「……で、ボルクはなんで喋らないんだ?」

「ああ、ボルクは―――」

「オレの英語、訛りが酷い。だから、あまり喋らない」

 

 チサトの言葉を遮り、ボルクが言った。

 なるほど、気をつけているみたいだけど、イントネーションも少し変わっている。

 

「なるほどな」

「……あ、あの!」

 

 突然、アリスがチサトとボルクに声を掛けた。

 

「ア、アタシも二人と仲良くなりたい! 私も教えてよ! アニメやマンガ!」

「……アリス」

 

 チサトとアリスが見つめ合っていると、気まずそうな咳払いが響いた。

 

「あー……、うん。チームメンバー同士の友好を深めるのは大変に結構な事だ。ただ……、そろそろ始めないと時間が無くなってしまうんだ」

 

 マイケルの言葉に、私達は慌てて訓練の準備を始めた。

 訓練中、いつもよりチサトやボルクが声を掛けてくれるようになった。

 終わった後、チーム専用の浴室で日本のアニメやマンガの文化について教えてもらい、思った以上に興味を唆られた。

 チサトはたくさんのマンガを寮の寝室に持ち込んでいるらしく、寮に戻ると読ませてくれた。

 かめはめ波とか、レイガンとか、最高にかっこいい。


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