【完結】エレイン・ロットは苦悩する?   作:冬月之雪猫

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第八話『賭け』

第八話『賭け』

 

 結局、ロンは昼になるまでナメクジを吐き続けた。そこら中でナメクジがウネウネしていて、ヒッポグリフ達も嫌そうにしている。

 

「そう言えば、ハグリッド。ホグズミード駅からホグワーツに移動してくる時、馬車を引いてた生き物は何なんだ? ハーマイオニー達には見えていないみたいだったんだ」

 

 アルブスアーラの世話をしながら、私はふと気になっていた事を尋ねてみた。

 幻覚じゃないかと言われたけど、奴等は確かに存在していた。

 

「お前さん、セストラルが見えるのか……」

「セストラル……、あれがそうなのか」

 

 前に本で読んだ事がある。たしか、天馬の一種で、知能がかなり高いらしい。

 セストラルの一番の特徴は、死を直視した者にしか見えない点だ。

 

「お前さん、誰かの死を見た事があるんだな」

「ああ、一緒に暮らしてた女を看取った事がある」

 

 ハグリッドは慰めるように頭をグリグリ撫でてきた。

 大分痛かったけど、悪い気分じゃなかった。

 

「……そろそろ昼飯の時間だな」

 

 ハグリッドはそう言うと、それぞれお気に入りのヒッポグリフの世話をしているエド達を呼び集めた。

 

 城の玄関ホールに戻ってくると、そこには何故かマクゴナガルの姿があった。

 

「……グリフィンドール、レイブンクロー、そして、スリザリン。寮の垣根を超えた友情は大変素晴らしいものです」

 

 いきなり語り出した。どうしたのかと困惑していると、マクゴナガルはハリーとロンを睨みつけた。

 

「ですから、この場でこのような報告をする事は大変遺憾です」

「どうしたんだ?」

 

 私が聞くと、マクゴナガルは鼻の穴を膨らませて言った。

 

「ポッターとウィーズリー。二人の処罰は今夜になります」

 

 おそらく、初日に空飛ぶ車でやって来た事に対するものだろう。

 ハーマイオニーとジニーはやれやれといった表情を浮かべている。

 エドはロンを睨んで鼻を鳴らした。

 

「まあ、頑張れよ」

 

 項垂れた様子でマクゴナガルから処罰の説明を受けるハリーとロンに声を掛け、私達は先に大広間へ向かった。

 二人を待ってやる程、私達の胃袋に余裕はない。

 

 午後はクィディッチの訓練の忙しさで手付かずになっていた宿題にあてた。

 チョウもドッサリと宿題の山を談話室のテーブルに並べている。

 顔を見合わせて、私達は苦笑いをした。

 

「……これだけ貯めるとやり応えは十分だな」

「そ、そうね……」

 

 レネやハーマイオニーが手伝いを買って出てくれたけど、これは私のツケだ。

 持ってきてくれたジュースにお礼だけ言って、お引き取り願った。

 黙々とこなしていると、授業の内容が脳裏に蘇って来て、ちょっと楽しい。

 窓の外が茜色に染まり始めた頃、ようやく殆どの宿題を片付ける事が出来た。

 残るは魔法薬学のレポートだけだ。

 

「疲れた……」

 

 チョウがバタンキューとテーブルに倒れ伏している

 

「お疲れさん」

「エレインも……って、まだ残ってるの?」

「魔法薬学のレポートだけだよ」

「スネイプ先生の宿題って、特に量が多いのよね……」

 

 チョウはウンザリした様子で言った。

 

「魔法薬学と言えば……、そうだ」

「どうしたの?」

「ちょっと出掛けてくるよ!」

 

 カバンに宿題の山を詰め込んで寝室に突っ込むと、私は寮を飛び出した。

 懐から一冊の本を取り出す。エドの母、イリーナから貰ったものだ。

 昔、イリーナとハリーの母親であるリリーが使っていた秘密の研究室に入る方法が書いてある。

 どうせならハリーも誘ってやろうかと思ったけど、アイツは今夜罰則で忙しい。まったく、間の悪いやつだ。

 とりあえず、一人で行く事にした。

 

「えっと、こっちか」

 

 本……というか、手記によれば、研究室は八階にあるらしい。

 廊下を歩いていると、目印となる《バカのバーナバス》の絵を見つけた。

 

「これか……」

 

 さて、ここからどうすればいいのかと手記に目を落としていると、不意に視線を感じた。

 

「おお、こんな場所で巡り合うとはなんたる運命の悪戯!」

「レイブンクローの姫君が、こんな場所でいかがなされたのですか!?」

 

 妙に芝居掛かった口調と共に現れたのはフレッドとジョージだった。

 

「ゲッ……」

 

 こいつらと関わるとロクなことにならない事はクリスマスの時に嫌というほど思い知った。

 手記を閉じて、寮に戻ろうと踵を返すと、腕を掴まれた。

 

「……おい」

 

 振り向くと、フレッドが満面の笑顔を浮かべていた。

 

「離せよ、フレッド!」

「おー、さすが!」

 

 なにが、さすが! なのか全然分からない。

 

「エレイン。何か探しものかい?」

 

 フレッドを振り払うと、ジョージが普通に話しかけてきた。

 テンションの振り幅が大きすぎて疲れるな。

 

「なんでもねーよ。お前らこそ、なんでこんな所にいるんだ?」

「たまたまだよ。なんとなく歩いていたら、エレインがいたのさ」

「なんとなく……? まあ、いいけどさ。それより、もうロンは大丈夫なのか?」

「ロン?」

「我等の愚弟がいかがしたのかな?」

 

 未だに妙な口調を続けるフレッドを無視して、とりあえず会話が成立しそうなジョージに顔を向けた。

 

「呪いだよ。ナメクジをゲーゲー吐いてたぞ」

「ああ、朝の事か! それなら、さっき会った時はもう大丈夫そうだったよ」

「罰則の事でゲーゲー不満をぶち撒けてたけどな」

 

 そっちは自業自得だから、どうでもいい。

 

「そんな事より、聞いたよ! エレインもレイブンクローのシーカーに選ばれたんだって!?」

 

 弟をそんな事扱いして、フレッドが言った。

 

「まーな。お前達とは敵同士ってわけだ。覚悟しとけよ? ボコボコにしてやるぜ」

「悪いけど、相手が君でも俺達は手を抜いたりしないよ?」

「当たり前だろ! 全力で掛かってこい! 真っ向からぶっ千切ってやるぜ!」

 

 フレッドとジョージは揃って好戦的な笑みを浮かべた。

 

「ねえ、エレイン」

「なんだ?」

「ちょっとした賭けをしてみない?」

「賭け?」

「そう! 試合で君が勝ったら、俺達の宝物をあげるよ。代わりに、俺達が勝ったら、君の捜し物の事を教えてくれないかな?」

「……どんだけ知りたいんだよ。まあ、いいぜ? その賭け、乗ってやるよ。そんで、お前達の宝物を貰ってやるよ」

「約束だよ、エレイン。言っておくけど、俺達は強いからね?」

「コテンパンにしてやるよ」

 

 とは言ったものの、グリフィンドールとレイブンクローの試合は学年末に行われる。

 その頃には賭けの事なんて忘れてそうだな。

 

「じゃあな。私は寮に戻るよ」

「またね、エレイン!」

「また会える日を心待ちにしております、姫君!」

 

 フレッドは疲れるから無視しておこう。

 結局、イリーナの秘密の研究室探しは諦める事にした。また、時間がある時に探してみよう。

 

 翌日、何故か朝食の席にフレッドとジョージがいた。

 

「……何してんだ?」

 

 レネやハーマイオニーもキョトンとした顔をしている。

 

「それはもちろん、エレインが賭けの事を忘れないように言いに来たのだよ!」

「これから毎日確認するからね!」

「……は?」

 

 宣言通り、フレッドとジョージは一日に最低一回。多い時は二回も三回も私の前に現れて、賭けの話を持ち出してきた。

 こいつら、暇なのか……?

 

 そうこうしている内にハロウィンが終わり、いよいよクィディッチシーズンが到来した。

 初戦の相手はハッフルパフ。私のデビュー戦の相手としては少々物足りない気もするが、必ず勝利してみせるぜ!


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