第十八話『一年目の終わり』
一年目が終わりを迎えようとしている。私はチョウと共にレイブンクローチームのキャプテン、ジェイド・マクベスに呼び出されて競技場に来ていた。
これまでも何度か練習に参加した事がある。
「……負けちまった」
頭を掻きながら、ジェイドは肩を落として言った。
今年のレイブンクローは開幕戦のハッフルパフには勝ったものの、常勝無敗のスリザリンには勝つ事が出来なかった。
最後のグリフィンドール戦でも、シーカー対決でメアリーがハリーに負けた。
結局、今年も例年通りの結果となった。一位はスリザリンで、二位がグリフィンドール。レイブンクローは三位に落ち着き、ハッフルパフが最下位。
「もう一踏ん張りしたかったんだけどな」
普段は陽気な変態の癖に、今日ばかりはシンミリしている。
「キャプテン……」
チームメンバー達も消沈している。
みんな、張り切っていた。レイブンクローの名に恥じない作戦の数々を実行した。
だけど、スリザリンはあまりにも強く、グリフィンドールにはハリーがいた。
「エレイン」
メアリーが私に声を掛けてきた。
「ハリー・ポッターは強いわ。それこそ、世界で活躍出来る程の素質を持っている」
「……ああ」
ホグワーツ史上、最速タイムでスニッチを掴み取ったハリーの実力を疑う人間なんていない。
「勝てるとしたら、貴女しかいないわ。練習を通して確信したの。貴女も、ハリーと同じくらいずば抜けている。それは箒に乗るセンスの話だけではないわ。なにより、貴女は恐怖に抗う勇気……、勝利に対する渇望がある。誰もが無茶だと諦めてしまう一線を踏み越える気概がある」
褒めちぎられて、柄にもなく赤面してしまった。
「これは歴代のレイブンクローのシーカーが受け継いでいる箒よ。どうか、彼に勝ってね」
「……おう!」
メアリーからシーカーの座と箒を受け継いで、私は確りと頷いてみせた。
返事をしたからには負けるわけにはいかない。
この前は落ち込んでいたから慰めてやったが、今度は容赦しない。必ず勝ってみせるぜ、ハリー。
「チョウ。お前が来年のキーパーだ。キーパーの役割はゴールを守る事。クィディッチは守るだけでは勝てないが、攻めてばかりでも勝てない。その事は理解してるよな?」
「はい!」
「よし! 任せるぞ、俺のポジション。お前なら任せられると俺は信じた。もし、お前が自分に自信を持てなくなっても、俺が信じたお前を信じろ! いいな!」
「はい!」
隣でチョウもジェイドからポジションと箒を譲り受けた。
すると、ジェイドとメアリーが一歩下がり、代わりに他のメンバーが前に出た。
チェイサーのシャロン、マイケル、アリシア。ビーターのチサト、スヴォトボルク。
新しいキャプテンに任命されたマイケルが口を開く。
「来年こそ、勝つぞ! それが、今までチームを引っ張ってくれたジェイドとメアリーに対する恩返しになる」
マイケルは既存のチームメイトを見ながら言った。
そして、私とチョウに視線を向ける。
「チョウ! エレイン! 二人もこれからはチームメイトだ! 全力を振り絞ってもらう!」
「はい!」
「おう!」
その日、私とチョウは正式なレイブンクローチームのメンバーになった。
◇
レネはアランに取られ、ジェーンもエリザベス達と行動を共にしている為、私はハーマイオニーとカーライルと共に駅へ向かった。
途中でハリーとロンを見つけて、正式にレイブンクローのシーカーに選ばれた事を告げると、ハリーは好戦的な目で言った。
「負けないよ、エレイン」
「ボコボコにしてやるよ」
火花を散らしていると、後ろからスリザリンの集団がやって来た。
ハリーとロンがあからさまに嫌そうな表情を浮かべる。
私は集団の中からエドの姿を見つけた。
「エド!」
声を掛けると、エドは逃げるように顔を逸らし、ドラコが呆れたようにその首を掴んで私の方に投げつけた。
「君が逃げていると、僕に迷惑が掛かる。分かるかい?」
エドにそう告げると、ドラコはハリーの下へ向かった。
互いに喧嘩腰で罵倒し合っている。
「よう、エド」
とりあえず、逃げられないように羽交い締めにしておく。
「は、離してよ、エレイン!」
「うっせー。逃げるだろ、お前」
「待って! 本当に待って! 当たっちゃってるから!」
「当ててんだよ。お前、初心だからな。こうしときゃ暴れられないだろ」
エドは顔を真っ赤に染め上げて俯いてしまった。
「よーし、行くぞー!」
漸く捕まえたエドを離してやるつもりはない。その手を力いっぱい掴んで、再び歩き出した。
「……言いたくね―なら、聞かねぇよ」
「エレイン……?」
「だから……、逃げんなよ」
エドは小さな声で「ごめん……」と呟いた。
ハーマイオニーはハリーとドラコの喧嘩を止めに行ってる。
私はエドと二人で空いているコンパートメントを独占した。どうせ、後からハーマイオニー達も来るだろう。
「私、シーカーになったんだぜ」
「シーカー!? それって、クィディッチの!?」
「他に何があんだよ」
「す、凄いよ、エレイン! ぼ、僕、知らなかった!」
「ああ、知らねーだろうな! テメェが逃げまくるから言えなかったんだよ!」
頭をグリグリしてやると、エドは涙目になって悲鳴をあげた。
これだよ、これ。こういう風に話がしたかったんだ。
「エド……」
「なっ、なに?」
「なんでもねぇ!」
とりあえず、エドを抱き寄せて思いっきり赤面させてやった。
「ちょ、ちょっと、エレイン!?」
「ほれほれ、やわらけーだろ!」
この一年間、どうにもつっかえて取れなかった胸のささくれが取れた気分だ。
その後、ハーマイオニーがハリーとロンを引き連れてコンパートメントに入ってくるまで、エドで遊び続けた。