篠ノ之箒は想い人の夢を見るか   作:飛彩星あっき

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覇王咆哮

 粒子ボルテックスの奔流が至高龍の頭部から発射されたのを私達は間一髪、瞬時加速で回避する。

 

「くっ……なんて威力だ!」

 

 回避した先にあった白い塔。その途中の部分が一撃で溶かしつくされ、頭頂部が鈍い音を立て地面に倒れ伏す。

 

 IS学園の象徴ともいえる建造物をドロドロに破壊するその姿は、まるで奴が生前の恨みを晴らさんとしているかのように見えた。

 

「おっと! 主砲だけが脅威だって思っちゃ困るんだな。これがよォ!」

 

 あまりの威力に愕然としている私達に向け、アーク・レイの背後に陣取る奴が叫ぶ。

 その直後、機械龍であるにも拘らずアーク・レイはまるで、本物のドラゴンか怪獣のように咆哮。それとともに翼のスリットから砲門を展開。

 禍々しく、そして毒々しいまでに赤いビームを一斉射してくる。

 

「なんて密度だ……!」

「こんなの、モンドグロッソでも味わえないサね……」

 

 なるべくは出来るだけ回避。

 それでも躱しきれなかった分はシャルロットの展開したシールド、アーリィ先生の風の盾。それに一夏の零落白夜の盾を使って守りつつ、呻く。

 

 無論私達とて、あれだけの重量級の機体の武装が主砲だけなどと、思っていたわけではない。

 

 だが、まさかここまでの超密度砲撃を喰らわせて来るとは思ってもみなかった――!

 

「百連装ビームガンのお味はどうだ、えぇ!?」

「百連装……そんなに、だと!?」

「まぁ、これも序の口なんだがな! お次は全身百個超のビットでの、オールレンジ攻撃(アタック)よ!」

 

 いうやいなや、全身の棘上の物体をいくらか射出。本体との接合部に隠されていた銃口が牙を剝き、四方八方から襲いかかってくる。

 

 一つのビットにつき銃口が三つ。数はゆうに五十を超える。普段対峙しているセシリアのものとは比較にならないほどの攻撃密度だ。

 

 ――当然、この間も本体からの攻撃が続いているのだから、なおさら。

 

「だったら!」

 

 ここで、シャルロットが動いた。

 ジャンヌの特性を利用し、回避しきれないと判断された部分。

 それらに対して、展開可能な空間範囲の広さを利用したのである。

 

 次々と呼び出されていく剣は射出されたビットを貫き、十数もの遠隔操作兵装がただの鉄の塊と化していく。

 

「ビットを落としたくらいで!」

「ビットだけじゃないよ!」

 

 奴の言葉を遮り。シャルロットは剣を自機周囲に360度展開。正面に来次第、次々と至高龍に投擲していく。

 

「これなら!」

 

 超巨大な至高龍にとって、通常のISサイズの剣など針の刀に等しいだろう。

 だが、まるでマシンガンの弾めいて、これだけ投擲すれば――!

 

 そんな私たちの想像はどうやら、甘い妄想に過ぎなかったようであった。

 

「非対称性、透過……!?」

 

 非対称性透過シールド「覇王障壁」。

 紅椿がウィンドウ上に表示してくれた文字列を睨み、自分でも気づかないうちに音読してしまう。

 

 姉さんではない以上、どんな原理がそこに用いられているかは理解できよう筈もない。

 だが、目の前で全ての剣を無傷で耐えきった事と、その文字列の凡その意味。それが分からない程、愚かでもなかった。

 

「どうだ!? 全ての攻撃は無意味ってワケよ!」

 

 舌を出し、嘲り。至高龍の胸元の安全地帯から安崎は挑発を繰り返す。

 

 あれだけの余裕を見せられるのも、至高龍のバリアがあるからこそだろうが……どうやって、突破すればいい?

 

「落ち着くサね、篠ノ之。あんなのは連続しては張れないナ……だから」

「張り終えた隙を狙って、攻撃する……?」

 

 私の出した答えに、アーリィ先生は満足げに頷くことで返した。

 確かに、丸裸のところを狙えばダメージを与えられる。

 

 それに、もし発生装置を壊すことができれば――。

 

「――確かにそうだ。連続して張れなどしねぇよ。非対称性透過シールドなんざ」

「自分から弱点を!?」

 

 一夏の驚く声が聞こえたが、私からしたらそこまで意外というわけでもなかった。

 なにせこれだけ強力無比で極悪な機体を随伴させているのだ。多少の弱点を教える余裕なんて奴の性格上、有り余っていてもおかしくはない。

 

 それに――わざわざ伝えるということは、それを上回る策なり武装なり能力を持っているはず……!

 

「どうした? 教えてやったんだから攻撃して来いよ!」

「――ッ!?」

 

 予想通りの内容と挑発を手招きしつつ一式は口にしていくと、続ける。

 

「運さえよければ発生装置を壊せるかも知れねぇんだしよ!」

「じゃあ、運試しといくよっ!」

 

 売り言葉に買い言葉といったふうに、シャルロットは奴の言葉に乗ると、動いた。

 再び大量の剣を円周上に、しかし前回と違って二円を展開。袈裟状に配置してから、一気に放射させていく。

 

 だが。

 

「けどなぁ、迎撃はしないとは言ってねぇよ!」

 

 ウィング・バインダーが再び開き、砲口から再び赤い破壊光線が飛来。次々とシャルロットの攻撃を蒸発させていく。

 やはり、届かない……!?

 

「そら、お返しだ!」

「それで終わりじゃないよ!」

 

 声が聞こえるや、いなや。

 至高龍の背後を取るかたちで、オレンジ色の武装――ラファール・リヴァイヴの盾の改造されたものが出現。

 

 瞬く間に変形すると中から鉄杭を露出させ、そして。

 

「喰らえッ!」

 

 杭がシールドというケースから飛び出し、龍の首へと一直線に向かって飛んでいく。

 

 ダインスレイヴ発射型「フォビドゥン・アリアンロッド」。

 

 優奈が勝手に作ったというダインスレイヴを、姉さんが更なる改良を施し。飛ばして質量弾にもできるようにした代物である。

 ジャンヌの高い奇襲性と、質量弾というシンプルイズベストな武器の持つ、高い破壊力。

 それらが合わさったものを、再展開される前に叩き込む。

 

 流石にこれには、至高龍とて……!

 

「相変わらずそれか……パイルバンカーかよ。お前は変わらねぇなァ……シャルロットさんよぉ」

 

 猛烈な勢いで風を切り、迫るダインスレイヴ。

 至高龍はそれを、振り向きもせずに対処した。

 

 剣山のように刺々しい、背中。そのおびただしい数の鋭角上のパーツ――ヒレの先端。

 そこからビームが発射された結果として鉄杭は溶け、蒸発させられてしまう。

 

 背中も妙に尖っていると思ってはいたが……そんな、無茶苦茶な使い方までできるとは……!

 

「にしてもあれだな! 俺の至高龍に最初に突っ込んだ栄誉、褒めてつかわす! なんつってなァ!」

「な、に……?」

「ならば、覇王たる俺に刃向かった褒美を与えねばならなるまい!」

「褒美、だと……!」

「あぁ、そうだ! 一曲付き合ってくれよシャルロット・デュノア! お前は至高龍ではなく、この俺自らの手で葬ってやる!」

 

 奴はそう口にすると、同時。

 手招きをしつつ至高龍の胸元から瞬時加速を用いて、上空へと飛んで行った――!

 

 

 風を切り、優奈の覇王狼龍のテールブレードがダーク・ルプスを引き裂く。

 同時にキャノン砲が上空のエトワール二機を次々撃破。大量の武器を駆使し、次々と無人機を葬り去っていく。

 

「そしてこれで二十五機目ェッ!」

 

 地上では一機の同型機がソードメイスの質量攻撃によってすぐさま鉄塊へと変わっていく。

 

「私はこれで三十機! ふふっ、楽勝♪」

 

 異世界の私はというと、ヴァイオレット・ヴェノムの非固定部位。そこに搭載された大型クローアームを巧みに使い、次々とエトワールを撃墜していっている真っ最中。

 

 今なんて投げつけられた下半身を掴み、そのまま返すといわんばかりに上半身へと投げ返して衝突事故をおこさせている。

 

 よくまあ、そんな器用な使い方ができるねって、思わず関心してしまった。

 

 ほんとに、体は私と同じ「鏡ナギ」のものなんだろうか――なんて、思わずにはいられない。

 

「あぁもう、なんでそんなに倒せるかなぁ!?」

 

 圧倒的なスピードで機械人形の屍の山を築きあげていく二人にぼやきつつ、目の前のエトワールへと牽制射撃を仕掛ける。

 

 一応、エトワール自体はパリで戦っていたし、どういう戦法をとってくるのかはある程度知ってはいた。

 だから何発かは当てることはできたし、ある程度は役に立っていたとは思うけれど……。

 

「優奈、これで――」

「ラストっ!」

 

 背中合わせに二人は構え、最後まで生き残っていたダーク・ルプスを、それぞれの得物で真っ二つにしていく。

 これで正真正銘、無人機軍団は全滅。第一アリーナは鉄屑の残骸まみれで足の踏み場もない有様だった。

 おまけにその前の、目の前の二人のケンカで壁は崩れ落ちている有様。

 

 これ、しばらく使い物にならないんじゃないかなぁ……?

 

「ねぇ、そっちの私」

「え、あ……はい!?」

「射撃、なかなか良かったわよ。GJ」

「あ、ありがとう……」

 

 微笑みとともにサムズアップされた事や、四天王なんて圧倒的な強者に褒められたこと。

 それはうれしいんだけど――でも、自分と同じ顔の人に褒められるってなんか、変な気持ちがする。

 なんだろ、まるで自画自賛しているみたい。

 

「あーあ……私の負――」

「何言ってんの? 試合はまだ終わってないじゃない」

「――え?」

 

 戸惑いの声をあげたのは、私も優奈も同じだった。

 だって、もう無人機はいないのに――。

 

「ほら、あんたのボーナスステージ。あれ倒したら一億点あげる」

 

 どうにも意図をつかみかねていた私達へと、もう一人の私はヴァイオレット・ヴェノムを通じてウインドウを空中に投影。

 

 そこにあったのは――。

 

「あれって……安崎!?」

「なに、あのドラゴン……!?」

「さぁ? そこまでは私も。余所見運転してたわけじゃないし」

 

 私達の質問はそっけなく、冷たく返されてしまったが、実際確認なんてしてる暇はなかった。

 あのドラゴンについては、リアルタイム映像からの情報以外は何もわからないけれど――ヤバいのだけは、間違いなく伝わってきた。

 

「で、行くのか行かないのか……早く決めなさい」

「さっき一夏にさ、あんたに安崎殺すのは譲るって言ったりしたけど……」

「けど……やっぱやめるって?」

「というか、明らかに私も行かなマズいじゃん、あんなの。どう考えても、普通のISじゃない」

 

 二人会話しつつ、優奈は覇王狼龍をかつてパリでそうしたようにバイクモードへと移行。展開されたメットを被ると同時に跨っていく。

 

「まだ敵機が来た場合は――」

「分かってるわよ。私とヴァイオレット・ヴェノムが全て壊してやるっての」

「それなら安心だね――あ」

 

 あとはグラウンドの転移装置に向かうだけっていう状態になった優奈だったけど、急に何か思い出したようで、呟く。

 

「私が勝ったらナギ、デートしよう!」

「は……? それ今言う必要ある?」

「あるよ! 私が勝って戻ってくる! そのモチベ上がる!」

 

 今まで見せたことのない、眩しい笑顔を向けてくる優奈。なんだろ、パリで会ってからこんな顔したっけ――とか思っちゃうレベルには、別人みたく明るい。

 

 それを見せられたもう一人の私は、呆れたのか、つられたのか。

 とにかく微笑を浮かべると、口を開く。

 

「はいはい。勝ったら映画でも買い物でも遊園地でも、いくらでも付き合ってあげるわよ」

「約束だからね!」

 

 最後に言い残すと、もの凄い速さでバイクは第一アリーナから飛び出していった。

 

 その、直後。

 

「もっと、優奈と一緒にいたかった」

「え?」

「この身体の持ち主がね、最期に思った事よ。ほんとに最期の最期だってのに……何考えてたんだか」

 

 ぽつりとつぶやいた、言葉。

 それにどう返せばいいのか、私にはわからなかった。

 死の間際なんて経験していないし、優奈と会ったのもほんの一週間前。当然私は死体人形じゃない。

 

「まぁ私が叶えても、意味はないかもしれないけれど」

「きっと――ううん。絶対あるって!」

 

 けど、それだけは理屈を抜きにしても断言できた。

 だって、親友にあれだけの笑顔をさせたんだもの。

 

 それを意味がないなんて言うのは、きっと死んでいった別世界の鏡ナギに失礼だと思う。

 

「そっか……ありがと」

 

 私の言葉に、もう一人の私がどう考えたのか。正確なところは同じ人間じゃないからわからない。

 けど、そっと笑ってそう言ってくれた以上は。好意的に取られたには違いない。

 

 それがなぜか、妙に嬉しく感じていると――。

 

「ったく、あいつが帰って来るまで、優奈の昔話でもしてあげるつもりだったのに――」

 

 光とともに、再び無人機の軍勢がこっちへと送り込まれていった。

 

「空気、ほんっとに読めないわね!」

「ほんとうにね……安崎ってやつは、昔からそうだったの?」

「当り前じゃない。今まで攻め込まれてるんだし、わかるでしょ?」

「それもそうだね」

 

 なぜか世間話をする感じで、目の前の敵を眺めながら会話を続ける。

 

 そして――。

 

「さて、もうひと頑張り――いくか!」

 

 私達の更なる戦いが、始まった……!

 

 

「まさか、君からダンスのお誘いを受けるなんてね。思ってもみなかったよ」

「この身体になって変わったんだよ! もう俺はクラスの端で虐められていた俺じゃねぇ!」

 

 展開したソード「アルタイル・エッジ」と、クロノグラフの七色に輝く剣の鍔迫り合い。

 その最中、僕と奴は言葉を交わしていく。

 思えば一式――ううん、安崎とこうして会話したのは、()()()()()かもしれない。

 

 女の子として再び転入しなおした直後、見かねて訓練に誘った――あの時の。

 

「お前からのダンスのお誘いは、前にそういや断ったことがあったっけなァ!」

「君が一方的に……ね!」

 

 口を動かしつつ、同時にクロノグラフの胸部装甲へと蹴りを入れ、続けざま瞬時加速し距離をとる。

 ジャンヌは第四世代とはいっても全距離対応仕様のISで、向こうはバリバリの接近戦特化型。

 

 まともに正攻法で撃ち合って、勝てる相手じゃなかった。

 

「ってか、僕が誘ったのは踊り方のレッスンだった気がするけど!」

 

 言いつつ、展開したガルムと周囲に浮かせた剣での波状攻撃。

 しかし、安崎はこちらと同じ能力で相殺。さらには増量した剣をお返しとして投げつけてきた。

 

 いくら偽骸虚兵になっていた僕との戦いで一度味わったとは言っても――やっぱり、躱しづらい攻撃だ……っ!

 

「くっ!」

「レッスンだァ? よく言うぜ!」

 

 怯む僕に、ピンクに光った剣の一振りで発生した不可視の斬撃波――甲龍の「衝撃砲」とおなじものだ――が迫り、右の非固定部位が粉々に砕け散る。

 

 これじゃあ、推力とバランス制御……その両方がっ!?

 

「優しい僕ちゃんをアピールするために、俺を利用しやがった癖にッ!」

 

 奴の怒りはまだ収まらなかったのか。続けて刀身は青く発光。ビット変わりの光弾が大量に展開されていくと、全身へとくまなく襲いかかっていく。

 躱そうにもあまりの量と、半壊したジャンヌ。

 とてもじゃないけど、できるはずもなかった。

 

 最低限は展開したシールドで防ぎはしたものの、次に脚部の装甲を穿たれ、さらにスラスターを破壊されてしまう。

 

「施しを与えてあげる優しい子。そう思われたい腹積もりだったんだろうが!? 一夏の気を惹くために!!!」

 

 まだも叫び、今度は剣は薄灰色に発光。

 全身にいきなり増設されたミサイルが遅いかかり、そして――。

 

「俺はそんなお前の偽善が大嫌いだった!!! だから殺してやったんだ!!!」

「――僕も、お前なんか嫌いだよ」

 

 最後にそう言い返した途端、全弾が着弾。

 シールドエネルギーが、残りたったの一桁となり。

 

 推進機能とPICをすべてだめにしてしたジャンヌが、推力を失って落ちていった――。

 

 

 仲間が落ちるその瞬間を、私は至高龍との戦闘の最中に見てしまった。

 

「シャルロット――くそっ!」

 

 助けに行きたい。

 たとえ強制帰還システムがあるとはいっても、万が一という事は容易にあり得る――なにせ、相手はあの一式白夜なのだから。

 

 だけど、至高龍の圧倒的な火力はそれを許さなかった。

 

「まだ、だ……よっ!」

 

 悔しさに歯噛みしていた、そんな時だった。

 

 シャルロットのそんな言葉が通信越しに聞こえてくると、あいつは量子空間にあったであろうすべての武器を放出。至高龍の周囲に並べていく。

 

 そして――。

 

「最後のお返し、だよ……!」

 

 すでに倒していたと、至高龍の方は狙わないと安心しきっていたのだろうか。

 それとも――覇王障壁で防げばいいと思っていたのか。

 

 どれかは定かではないものの、全弾が命中。しかし、非対称性透過シールドがダメージを防ぐ。

 

「悪いけど、アンコール……だ!」

「おっと、そいつァ却下ァ!」

 

 しかし本命かに思われたネクロ=スフィア展開の第二陣。それらはすべて、先ほどのように全身の火器により蒸発させられてしまう。

 届かない、のか……!?

 

「とどめ、だ……」

 

 だが、そんな状況にあっても。シャルロットの顔はまだ絶望に沈んではいない。

 その答えは、あいつの最後の呟きとともに出現したものにより、容易に理解できた。

 

 ――ダインスレイヴ発射型。

 

 それが、ネクロ=スフィア展開によって至高龍の頭部。その目と鼻の先へといきなりの出現。

 

 今度はさっきと違い、反撃はされないであろうことを考えると――今度こそっ……!

 

「いける……!」

「ネクロ=スフィアか。愚かなり!」

 

 だが奴は余裕の笑みを崩さず、妙なことを口走ったかと思うと……。

 

「霧……!?」

 

 そう、一夏の発した通り。

 急に至高龍の全身からは、毒々しい色をした霧のようなものが出現。

 害なす鉄杭へと、浴びせかけていくと――。

 

「消え、た……!?」

 

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「何が、起こって――!?」

「――単一仕様能力『覇王瘴気』」

「な……!?」

「それによりネクロ=スフィア展開した武装を無効にし、破壊した」

 

 予想外にして、最悪の能力。

 それが、奴の口から語られていく。

 

 私達の最後の切り札にして、起死回生の一手。それこそネクロ=スフィア展開に他ならない。

 なにせ手札をありもしないところから増やせるのだから。

 

 圧倒的な戦力差になればなるほど、その凄まじい奇襲性から有用さが上昇していくのに……実質的に使用を封じられた、だと!?

 

「この戦場で、覇王たる我以外に心意の力を使う事は罷りならぬ! なんてな……あーっひゃっひゃっひゃっひゃ!」

 

 不愉快な嗤い声が響く中、歯噛みする。

 奴は言った、この機体は負のネクロ=スフィアが生み出した最強の無人機だと。ならば確かに、私達のそれを封じたとしても、なんら不思議なことはないではないか。

 

 おまけに奴は、新宿での戦闘でネクロ=スフィア展開によって煮え湯を飲まされていたのだ。それも二度。はっきり言って、対策を取らない方がどうかしている。

 

 クソ、どうして……どうしてそこに、気が付かなかったのだ……!

 

「消えろ、シャルロット・デュノアッッッ!!」

 

 後悔と、急激につらい感情が心を占拠していく中。奴は叫ぶと同時にジャンヌの能力を使用。

 

 大量の剣が降り注いで、ブロンドヘアの少女に直撃していき……。

 

「箒、あとは君たちに任せた……」

「シャルロット!」

「シャルッ!」

「必ず、至高龍を倒してね……!」

 

 儚げな微笑みを最後に、私達へと残していくと。

 

 シャルロットはその体を粒子に変え、消えていくのだった――。


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