悪趣味な男だ。
箒が牢獄から拘束されたまま連れ出され、敵の母艦の艦橋に連れ込まれた際。最初に感じたのはそうだった。
牢獄にいた際は分からなかったが、安崎の母艦は彼女もよく知る「家」のような場所だったのだから。
「どうだ、懐かしいか……懐かしいよなぁ!?」
「……かつての脱出艇を、そのまま持って来ていたとはな」
唇を引き結んだ箒が目の前の悪辣な男に対して言えたのは、ただの事実。
たった、これだけだった。
「いいや、無人機の母艦としての機能とPICによる空中浮遊能力も付与してある。そしてぇ!」
狂気の笑みを浮かべた一式が叫ぶと同時、中央にあったかつての作戦表示用モニターには外の映像が大写しにされ、続けて画面が四分割される。
鈴、セシリアとラウラ、イザベル――シャルロット、そしてアーリィと、いつの間にかこっちに来ていた神崎。
彼女らは幾度かの小競り合いを乗り越え、無人機軍団の本拠地となっていた新宿の街へとたどり着いていたのである。
「このように、あいつらが苦しんで死ぬ姿を見るための特等席となってるのさ!」
「悪趣味な……!」
「悪趣味で結構。さぁて、この俺が手を下すまでもなく――物量の前で死ぬ姿、じっくり堪能させて貰おうか?」
じゅるり、と舌なめずりして。一式はモニターへと視線を再び戻す。四肢の拘束さえなければ、箒は今すぐにでもつかみかかりたいところであった。
「くそッ!」
「もちろんその後はオメェを殺して、力を取り戻してから一夏を殺してやるがな!」
ギャハハという笑い声とともに付け足した安崎の言葉に、箒はただ歯噛みすると同時に祈る。
――絶対この戦いに勝って、誰でもいいからこいつを殺してくれ、と。
◆
「あんの野郎……いくら何でもふざけやがって!」
アルタ前をバイク――アクシア・アルテミス高速機動形態「ザンスカール・ガーランド」――で爆走する神崎優奈は、かつての脱出艇が空に浮かんでいる姿を見て激昂した。
まさか勝手に持ち出し、しかも不遜にも母艦にしている。そんな事実など、彼女からしたら許せることでは到底なかった。
その後ろに二人乗りの形で座り、赤い髪を風に靡かせるアリーシャもまた、安崎の悪辣な真似に嫌悪感を隠せないでいる。
そんな彼女達の周囲には何機ものゴーレムにエトワール、それにダーク・ルプスが次々と射撃武装で攻撃してきており、少しでも気を抜けば大ダメージは必至の戦況だった。
「シールドはまだ平気そうサね。だけど――」
「数が多すぎる!」
アーリィが風のシールドでテールブレードを防御してから、同じく風のカッターでワイヤーを切断。優奈がハンドルから離した右手でビームカービンを撃ち、無人機軍団の数を減らしていく。
もう既にこうやってかなりの数を倒していたにも関わらず、一向に数の減る気配は見えなかった。
このままでは、ジリ貧になって押しつぶされる未来しかない。
「どうするサね? 二人で本格的に展開して潰すしかないかナ?」
現在優奈のアクシアはバイクモード、アーリィは腕だけの部分展開。
これでも戦えてはいたものの、やはり十全とは言い難かった。
「そうね。でも……時間がかかる以上、どっかで隙を突かないと」
返答しつつ後ろを向き、あまりの敵の多さに舌打ち。それからまた前に視線を戻した――その時だった。
優奈の頭の中に、かなり乱暴なアイディアが浮かんだのである。
「悪いけどアーリィさん、しっかり掴まってて!」
「何する気サね!?」
アーリィの言葉に対し、優奈は大ジャンプする形で答えた。
跳躍と同時、すぐ近くに建っていた背の高いビルの
「ぬおんどりゃああああぁぁぁッ!」
登り切るやいなや、気合を入れながら飛び上がった優奈。
弧を描いて反転すると同時に、ハンドルから手を離してアクシアのビームカノンを展開。ロングバレルの射撃兵装をしっかりと構えると、敵のへと大出力のレーザーを発射。光の奔流はダーク・ルプスこそ撃破できなかったものの、数多のエトワールとゴーレムを消し炭へと変えていく。
「今だッ!」
「応サねッ!」
そして、その隙を利用して。二人の周囲は白い光に包まれていき――。
「てりゃああああッ!」
「はああああああッ!」
目くらまし代わりの閃光が晴れた途端、二人は全身に展開した状態で瞬時加速で突撃。処理が追い付かない状態の敵集団を一気に殲滅していった。
だが――。
「クソ、まだおかわりあるっての!?」
たった今壊滅させた敵集団に代わって。新たな無人機の軍勢が相手の母艦から出撃して向かってくるのを見れば、優奈も舌打ち交じりにそう口にせざるを得なかった。
「流石に敵の懐と言ったとこサね。まぁ、そう簡単に近づけるとは思ってなかったけどサ!」
「まぁ後々、安崎本人と戦ってるときに邪魔される可能性が減ったと考えるしかないんじゃない!?」
「違いないサね!」
軽口を叩きあいながら、かつての戦友同士は再び、地獄のような戦場へと突っ込んでいくのであった。
◆
「邪魔だぁっっっ!」
小柄な体躯からは及びもつかない大絶叫を口から放出し、小柄な体躯の少女――凰鈴音は両の手に握る青龍刀で次々と立ちはだかる無人機――ゴーレム――をなぎ倒す。
その姿はさながら「真紅の閃光」といったところだ。
「こいつらとも、思えば長い付き合いになるわね」
目の前に、まるで死肉に群がる蝿のごとく集まるゴーレムを見て、鈴は感慨にふける。
中学の卒業旅行で立ち寄ったあの温泉宿で最初に目撃し、次はイギリス、帰国の途に着いた際の海辺の街。それからフランス、しまいには東京だ。もはやここまで来ると腐れ縁とも思えてくる。
もしかしたら、この機械人形こそがあたしの運命の相手なのだろうか?
ふと無意識下で思った戯言を、鈴は青龍刀で目の前の人形とともに切り伏せた。
「冗談じゃないっての」
半ば八つ当たりに近い形で
刹那、ズガァァア! という激しい破砕音が鳴り響き、多数のゴーレムが連鎖的に破壊されていく。固まって配置したのが完全に裏目に出てしまったのだ。
「喰らえっ!」
とどめと言わんばかりに鈴は衝撃砲を、ガラクタの山と化したゴーレム軍団に叩き込む。爆発が爆発を呼び、炎の海は瞬く間に暗雲たち込める東京の街を照らしていったが――。
敵は、まだ街を埋め尽くさんばかりに存在していた。
「まだ、これだけいるって……どういうことだっての!」
咆哮とともに、鈴は敵部隊へと。双天牙月を構えて突撃していった。
◆
「これがダーク・ルプスとやらか……」
「ええ。随分と禍々しい見た目をしていますわね」
ビルの屋上にてセシリアとラウラは会話を交わしつつ、たった今隣のビルに着地した、獣じみた外見の無人機に視線を移す。
その周囲には幾重にもゴーレムとエトワールの残骸が積み重なっており。二人が無人機キラーとして覚醒していた事を伺わせる。
「流石に放置はできなくなった、と言ったところでしょうかね?」
「だろうな。そして私達を確実に仕留めるために送り込まれたんだ、相当厄介に違いない――来るぞ!」
ラウラがセシリアに返答した直後、ダーク・ルプスはテールブレードを展開。
間一髪で横に瞬時加速した事で、運良く二機とも回避したものの、その切れ味は凄まじく。背後にあった貯水タンクを横薙ぎしただけで真っ二つにしてしまった。
「なるほど、優奈さんが言っていた通り……随分回避困難な武装のようですわね――ですが!」
水が勢いよく噴き出し、濡れるビル屋上からセシリアは飛び立つと同時。ビットを展開して床スレスレを低空飛行させていく。
「こっちにも、変幻自在な武器はあってよ!」
一斉に放たれる、変幻自在に曲がるレーザーの雨。それらはダーク・ルプスに殺到すると、次々と表面装甲へと着弾していく。
だが無論、この機体には「千変鉄華」がある以上、ダメージは与えられないが――。
「動きが一瞬止まれば――」
「それで十分だッ!」
そう、あくまで牽制。セシリアのビットが光の矢を吐き出した途端、ラウラは自身の背後から襲いかかってきたテールブレードをAICで拘束、レーザー手刀で切除。
続けざまに瞬時加速で敵機本体に迫り、得物の超大型メイスが振り下ろされる寸前になって。今度はダーク・ルプス本体にAICによる拘束を仕掛けたのであった。
「あとは――セシリアッ!」
プラズマ手刀によって両手のジョイントを破壊し、続けざまに胸部装甲に大きな裂傷を与えるとラウラが叫び。
「ええ、よくってよ!」
セシリアがそれに応じるかたちで、腰のBTミサイルビットを発射。着弾寸前にレーゲンが後方に瞬時加速を用いたバックステップで回避し、ダーク・ルプスのみが大ダメージを受け。その身を炎に焼かれて撃墜される。
「とりあえず、一機はそれなりに苦戦せずに行けましたが……」
「ああ。まだ随分と残っているようだな」
最強の無人機が爆破炎上し、ビルの屋上が崩れ行く中。浮上したラウラがセシリアの言葉に応える。
彼女らの前方にはゴーレムとエトワールだけとはいえ、おびただしい数の敵機が迫ってきており。まさに多勢に無勢といった様相を呈していた。
「まったく、どうしてこんなに好かれる事になったのやら」
「さぁな。私達が魅力的だからだとかか?」
苦笑とともにセシリアが言い、ラウラが軽口で返した瞬間。敵部隊は本格的な攻撃を開始。ここに、新たなラウンドの幕が切って落とされた。
「さて、片っ端から振っていくとするか!」
「ええ! こんな人形に落とされるほど、安い女になった覚えはありませんしね!」
気合を入れ直すと、少女たちは再び終わりの見えない戦いへと身を投じていった。
◆
「ジャンヌ・ダルク……想像以上に、凄い力だ」
旗を槍のようにして突き刺す事で、敵エトワールの心臓部を貫いたイザベル――否、シャルロットは驚愕とともに口にする。
前の専用機からは一世代飛ばし、いきなりの第四世代だ。あまりの違いに唖然とするのも無理のない話だった。
「やっぱり、これを選んで正解だった……かな!」
言葉と同時、シャルロットは自機の周囲に次々と近接ブレード「ブレット・スライサー」を浮遊させ展開。それらはやがて、彼女の周囲に円を描きながら回転を開始し――そして。
「いけっ!」
号令とともに次々と発射され、刃は空を切ると無人機の軍勢へと着弾。機械人形を次々と串刺しにしていく。
だが、エトワールとゴーレムは撃破できても。圧倒的な性能を持つ無人機に、小手先の技など通用しなかった。
「ダーク・ルプス……四年ぶり、かな」
随分久しぶりに見た、悪魔じみた外見の敵に向けてシャルロットは言う。記憶を取り戻してからこっち、その存在を忘れた日はなかった。
「さて、君には本気を出さないといけない……よね!」
シャルロットは叫びながらテールブレードとメイスを巧みに使い、剣を全て弾いた無人機へと突撃。敵もまた近接戦闘でケリをつけようと、瞬時加速で迫る。
「はぁぁぁぁっ!」
超大型メイス「オーガス・クレセント」を受け止める、ジャンヌの旗――バトン・デ・フェール。
前の世界では圧倒的重量でもって猛威を振るい、打鉄程度ならば一撃で粉砕していた悪魔の兵器ではあったものの、ジャンヌは旗の力でもって拮抗する。流石、第四世代は伊達ではないと言ったところだろうか。
だが、戦いは何も得物の鍔迫り合いだけで決まるものではない。
ダーク・ルプスは拮抗状態になった瞬間に一瞬で演算ユニットから答えを導き出すと、直後背部のテールブレード「ウィルオ・ザ・ウィスプ」を発射。別アプローチからの攻撃によって撃墜を試みるが――。
「悪いけど、そうはさせないよ」
テールブレードの着弾寸前、インターセプトするように一枚のオレンジ色の盾が出現。鋼鉄の刃は突き刺さって身動きが取れなくなると、続けざまに展開された剣が伸びきったワイヤーを切断する。
展開範囲の異常に広いジャンヌだからこそできる、対ダーク・ルプス戦術だった。
「さて、やっぱりこれがないとね」
左手を旗から離すと同時に、シャルロットはいまだ敵の刃が刺さったシールドを装備する。それはパリで待機していた時にラファールから移植されたものであり、第四世代に搭載するにあたって微改造が施された代物だった。
「行くよッ!」
盾の装甲が変形、展開され、裏側に装備された最強の武器が姿を現した。かつての「
その名を「
「はああああああああっ!」
叫びとともに杭は悪魔の頭を砕き、コアと演算ユニットを同時に損傷した最強の無人機は仰向けに倒れ伏す。
だが、戦いはこれで終わったわけではなかった。
「――まだ、かなりいる……?」
少しの安堵を味わっていたシャルロットだったが、直ぐに鳴り響きだしたアラートによって、現実へと引き戻される。
間一髪サイドステップで避けた前後、凄まじい勢いでテールブレードが向かってくると地面に着弾。ぱっくりとアスファルトに裂傷を作り上げていく。
「しかもダーク・ルプスも三機……か」
一機倒すだけでも精神的にも肉体的にも疲弊するのに、まだ三機も残っている。
その事実は、シャルロットに冷や汗を流させるのには十分であった。
「まぁでも、前の時よりはいくらかマシだし――これくらい!」
かつて、ここではない次元で第二世代を駆っていたときはもっとつらい戦いを強いられていた。
そう自分に言い聞かせるとともに、シャルロットは新たな敵の集団との交戦を開始したのであった。
◆
高層ビルの階段を上りきり、更識楯無が屋上へとたどり着く。
東京を一式の無人機軍団が制圧してすぐに屋敷を飛び出して、下水道や警戒の手薄な道をひたすら止まらずに突き進んだ結果、ついに敵が待ち受ける都心部に到達したのである。
「さて、あとは私が……これで」
懐から取り出した扇子に括り付けられたストラップ――ミステリアス・レイディに視線を移しながら、楯無は呟いた。その機体には現在新装備である、専用機専用パッケージ「オートクチュール」が搭載されていた。名を「麗しきクリースナヤ」という。
前は結局完成しなかったそれは半年前から極秘裏に、しかし着々と更識家の邸宅地下で製造されていた。
すべてはこの世界で再び起こる動乱に、備えるため。
「テストなし、ぶっつけ本番だけど……やるしかないわ」
眼下に広がる街の中から聞こえる戦闘の音を耳にしつつ、楯無はいよいよその意識を扇子のストラップへと集中させていった。
「久しぶりね、ミステリアス・レイディ」
光が晴れると同時に、専用機を纏った楯無が微笑みながら口にする。
装甲面積が通常の機体よりも少ない代わりに透明な液状のフィールドが形成されており、さながら水のドレスを思わせる。
そして、そんな機体の背中には、赤い双翼を模したユニットが搭載されていた。
「さて、いくわ……コフッ!?」
気合を入れていざ、という時。ここまで無理をしてきたツケを支払わされる羽目となった。急に吐血すると、楯無は展開したその場に崩れ落ちる。
「くそ、こんな時に……!」
専用機を展開した以上は敵味方双方のセンサーに捉えられ、居場所も筒抜けとなってしまっている。早くしないと敵がやって来て、何もできずに倒されてしまう危険性だってあるのだ。
「早く、しないと……!」
槍を杖代わりにして立ち上がり、急ぎ体勢を立て直すも。既に敵はすぐそこまでやって来ていた。楯無のすぐ目の前には、大型のビームランチャーを構えたゴーレムが一機、差し向けられていたのである。
「まず……!?」
いかにかつてのロシア代表にして学園最強といえど、病んだ身体に本調子ではないとくればどうしようもない。アラートの鳴る中、急ぎ逃げようとしたものの、もう既に回避に間に合う余裕はない。
このまま終わるの――と、思った時だった。
「だらっしゃああああああ!」
突如として咆哮が響き渡ると同時に、光の刃が通り抜けていく。
そうしてゴーレムが真っ二つとなり地面に墜落する中。銀のISを纏った少女は、金のポニーテールを揺らしながら楯無へと向き直った。
「まったく、すぐ近くに反応があったから来てみれば……楯無会長! あんた、こんなトコで何してんですか!?」
「優奈ちゃん……どうしてここに!?」
驚愕とともに、楯無は問う。
神崎優奈。かつての世界での専用機持ちの一人で、度重なる実戦で磨かれていったガンナー。
装備している機体も細部こそ異なれど、神崎零から貰ったという機体「アクシア」そのものだ。
だが、彼女と同じ名前の人間はこの世界にいないはずだ。なにせ、神崎零と安崎裕太がこの世界にいるのかいないのかは、最初に念入りに調べたことなのだから。
となると、この目の前のは――と、楯無がそこまで考えた時だった。
「一夏と安崎がいるんだから、私がいたっておかしくないんじゃないですか!? それに……ねッ!」
「それに?」
四方八方から向かってくる敵に対し、今度は両手に展開したビームカービンで次々応戦しながら優奈が叫び、続きを楯無が問うと。さらなる叫びが返される。
「あなただって、やる事あるから来たんでしょ!?」
「――ッ!?」
「だったら、さっさとやってくださいよ! 見ての通り、こっちも余裕ないんでね!」
ダーク・ルプスのテールブレードの切断作業中に、優奈が最後にそう口にすると。楯無は一度胸に手をあててから意を決し、口を開く。
「まったく、ちょっと見ないうちに随分強くなったじゃない……優奈ちゃん。いいわ、ここからは私のターンよ」
死ぬことと死体を使われる事に怯え、頻繁に泣いては不安がっていた金髪の少女。
元凶の一人の妹だから、みんなと違って戦える力があるから逃げるわけにはいかないと言って涙を拭い、恐怖を押し殺して戦場に立ち続けた新米専用機持ち。
そんなかつての優奈を思い出してから、その成長を微笑とともにもう一度眺めてから。
楯無は全ての敵機をマルチロックオン――かつて最愛の妹の機体に搭載されていたものの改良版だ――で捕捉。
この場にいるすべての無人機を、標的に捉えてから。
「ワンオフアビリティー『セックヴァベック』――発動ッ!」
叫び声とともに、以前は間に合わなかった最強の力を覚醒させた。
◆
「何が起こったっての……!?」
鈴の困惑気味に放ったその言葉は、楯無以外の全ての専用機持ちが共通して感じたものであった。なにせ、起きた事象が異常すぎる。
全ての無人機が
「ワンオフアビリティ、セックヴァベック。早い話が、見えない水で溺れさせてるようなもの……らしい」
「優奈――って、誰?」
突如かかってきた仲間からの通信に反応した鈴だったが、すぐ近くにいる水色の髪の女を見かけた途端、鈴の意識はそっちへと向けられていった。
「その話とかも後でしたげるから……鈴、今のうちに敵戦艦に突撃を!」
「――分かった!」
一番敵戦艦に近い鈴から中心に、高層ビルの頂上の戦艦へと瞬時加速で突撃を開始する。すでに邪魔者は殆ど動きを止め、なんとか脱出した唯一の機種――ダーク・ルプスも次々と、セシリア達によって狩られている真っ最中であった。
「箒ッ!」
衝撃砲で戦艦の底部に穴をあけ、侵入を試みようとした――その時だった。
ちょうど隣あたりの位置の装甲がXの字に切り裂かれると、一機のISが出現してのである。
「な、アンタ……安崎!」
「また殺してやるよ、二組!」
そのまま左腕の複合兵装を変形させ、荷電粒子砲にして鈴を狙い撃つ。咄嗟の事だったために回避が間に合う訳もなく、非固定部位を含む右半身に着弾。一気にシールドエネルギーが削り取られていき、徐々に機体が消え失せていく。
「くそ、ここまで来て……!」
落下を始める鈴は、安崎を睨み付けながら悔しそうに口にする。優奈とセシリアによる援護射撃がなければ、このまま撃ち殺されても不思議ではなかった。
「なにか、方法は――ッ!?」
そこまで考えた際、鈴の脳裏に。パリで聞き、実際に目にしたこともある「秘策」が浮かび上がってきた。
あの方法さえ使えれば、このまま墜落して死ぬ危険性もなく、また箒だって助かるかもしれない。
だが、専用機を持って三ヶ月目の自分に出来るのか――!?
一瞬過ったそんな不安を、鈴はかぶりをふって切り捨てると。自分の意識の中で、一つの形を強く思い浮かべる。
この春、まだ無力だった自分が手に入れた力。箒達と並びたち、ともに戦えるまでに至った力を――!
「甲龍ッ!」
名を呼んだ、その瞬間。
鈴の華奢な四肢に再び鋼鉄の鎧は纏われていき、まるで何事もなかったかのように再び展開された。
「な……!?」
そんな姿を見て、一式が一瞬困惑した隙を鈴は見逃さなかった。彼女は機体のスピーカーを最大にして起動させると――。
「箒! 紅椿を、自分の中の自分を信じて!」
敵の本陣に未だ拘束されている親友へと、渾身のメッセージを届けた――!