ラストまでこの雰囲気でいくのは(作者の力量的にも)ありえないので、苦手な方はしばしご辛抱を。
【2020/07/30 追記】
今回の話で、3名から誤字脱字のご指摘をいただきました。
いつもありがとうございます。
----レオナSide----
パプニカ王国を滅ぼされてから、私は生き残りと共にここバルジ島に隠れ住んだ。
そのためのストレスだろう。普段温厚な兵士たちが食料の奪い合いをしている。
私はその食料袋を叩き落とし、彼らを叱責する。
「魔物と同じ道を歩むぐらいなら、人間として飢えて死にましょう…!!」
私の言葉に、目が覚めたかのように彼らは驚く。
ここまで付いて来てくれた者は皆、とてもいい人たちだ。きっとわかってくれるだろう。
思った通り、彼らは謝罪の言葉をお互い掛け合い、この苦境を乗り切ることを誓ってくれた。
「…私にとっては、あなた達人間こそが魔物ですが」
聞き覚えのない声を急にかけられ、全員がその方向を向く。
「て、天使…!?」
誰ともなく呟く。
背中には純白の翼、整った顔に艶のある髪、男性の視線を捕えて離さない体つき。
まるで絵画から飛び出したかのような、理想の天使と言える女性が窓に立っていた。
だがこちらを見る目は天使とはかけ離れた、汚らしい物を見るような目だった。
「こんにちは。私はクーラ。主人よりここの管理を任されている者です。あなた達から見たら、先住民です」
「はじめまして、クーラ様。私はパプニカ3賢者の一人、アポロと申します。ここは天使様のお住まいでしょうか」
女性の視線に気づかず、見かけに騙された様子のアポロが友好的に話しかける。
「先ほども言いましたが、私の主人の住まいです。ここは私の主人が偉大な成果によって、大魔王バーンより授かった場所です」
大魔王バーン。
その言葉に、全員が凍りつく。
こちらの反応などお構いなしに、クーラは変わらず淡々と話す。
「ここは私とフレイザード様との楽園。大人しく隠れているだけなら見逃すつもりでしたが、この状況で仲間割れが出来るなんて、やはり人間は野蛮で愚かです。…私の用件はただ一つ。争いの種にしかならない人間なんか、とっとと出て行ってください」
まるで人間そのものが害悪だと言わんばかりの言葉だった。
ようやく彼女の立場を理解したアポロが叫ぶ。
「ふざけるな!魔王の手先め!我々がいつまでもお前たちの好きなようにさせると思うな!」
「私は魔王の手先でも氷炎魔団の手先でもなく、フレイザード様だけの手先です。…どうしても出ていかないのですね」
諦めたかのような言葉の直後、彼女は大きく深呼吸をする。
何をしているか様子を見ていると、突然クーラの口から猛吹雪が吐き出された。
「姫様!危ない!」
隣にいたマリンが、つららが混じった吹雪に驚いて身動きがとれずにいる私を突き飛ばした。
私をかばったマリンには更に吹雪が吹き続け、マリンはみるみる氷漬けにされていく。
「やめて!どうしてこんなことするの!?」
氷柱が天井まで届くほどになってから、クーラはようやく吹雪を止めて私の叫びに答えてくれた。
「私達に逆らうことが無駄だとわかってもらうためです。今のはフレイザード様と共に編み出した、『凍える吹雪』。私はこれ以上の技を幾つも持っておりますし、フレイザード様は私以上に多くの技を持っております。…そして彼女を氷漬けにしたのは見せしめのためですが、3日後の日没までなら命に別状はないですよ。出て行ってくれるなら、すぐに彼女を解放しましょう」
人一人を氷に閉じ込めておきながら、クーラは平然と表情すら変えない。
「くっ…!先ほどまで彼女を天使だと思っていた自分を殴りたい…!こいつは悪魔そのものではないか!」
アポロの言葉に心から同意する。
…悪魔との取引は、こちらも悪魔になるしかない。
「一つだけ教えて。私達がこの島から去ると約束したら、マリンを解放してくれるの?」
私の質問に、皆が驚いた様子で見る。
「はい。私はこの島でフレイザード様と居られればいいんです。出て行ってくれるなら、追撃もしません」
マリンの安全と、今この場にいる皆でクーラを倒せる見込みを天秤にかける。
だが回答を出す前に状況が変わった。
デルムリン島であった、ダイ君が助けにきてくれた。
「レオナ!大丈夫!?」
倒れた私に駆け寄ってくれる。
後に続いて来た、クーラに鼻の下を伸ばしている少年とそれを叱っている女の子はダイ君の仲間だろう。
「ありがとう、ダイ君。それよりも、氷漬けにされたマリンを助けてあげて!…あそこにいるフレイザードの部下に、やられてしまったの」
「フレイザードの部下!?」
驚いた様子でクーラに向きなおす。
今までの私達と同じく、彼女のような人が魔王軍の一員であることが信じられないのだろう。
私達に助けが来たというのに、それでもクーラの表情は変わらない。
「…ダイ。たしかハドラーから連絡のあった、アバンの使徒ですね。あなたからも、ここから出て行ってもらえるよう言ってくれませんか?私達はこの島にいたいだけなんです」
「騙されてはいけません、ダイ殿!あの女は3賢者の一人マリンを氷漬けにした、悪魔のような女なのです!背中を見せたら、何をされるかわかりません!」
仲間を捕えられたアポロが怒り叫ぶ。
その言葉に、ダイ君と一緒に来た女の子も叫ぶ。
「ヒュンケルの時のことを忘れたの!?あの女がフレイザードの部下というのなら、信用できるはずないわ!」
どちらの言葉を信じるか、ダイ君は迷っているようだ。
私も同じで、クーラは本当にこの島から出て行ってほしいだけなのかもしれない。
もう一度話をしようと思った矢先、クーラの側に突然炎と氷の化け物が現れた。
フレイザードさえいなければ、この世界はだいたいシリアスです。