【2017/07/06 追記】
今回の話で、7名から誤字脱字のご指摘をいただきました。
いつもありがとうございます。
----マァムSide----
ミストバーンをようやく倒すことができてすぐ、キルバーンを倒したというアバン先生とも合流でき、とうとう残る敵はバーンだけとなった。
そのためダイの加勢に行く前に、可能な限り体力の回復に努めていたはずだったのだが…
「はっはっはっ!素晴らしいですな、レイザーさん!!まさか踊りでこんな魔法と同様…。いや、それ以上のことが出来るなんて、正に目から鱗ですよ。今まで私がしてきた研究が基本から脱せない、浅いことだったように思えてしまいます」
「いやいや。そちらこそ、さすがは勇者の家庭教師。『ハッスルダンス』までは無理とはいえ、こんな短時間で踊り系特技を使えるなんて驚きです。それに俺のような既存の物を再現した二番煎じとは違って、この輝石と聖石を利用したフェザーといい、新たな物を生み出すことについては俺なんか足元にも及びませんよ」
目の前で繰り広げられる、軽やかなステップで踊り合うアバン先生とレイザーを見て精神が死にそうになる。
「…ねぇ、ポップ。大切な恩人が目の前で死んでしまう気持ちって、こういうことだったのね」
「その恩人が喜んで地獄に突き進んでいる分、デルムリン島の時より質が悪ぃよ。…マトリフ師匠。『魔法使いは常にクールでなければならない』と言ってましたが、味方に全力で調子を狂わせる奴がいる場合、どうしたらいいんだろうか」
そもそも先生がこうなってしまったのは、合流後にレイザーの持つ特技が先生の琴線に触れてしまい、意気投合してしまったからだ。
そして私達の必死の制止を無視して先生はダーマの書を読み込み、あっという間に踊り系特技を習得してあの有様だ。
「それとブロキーナ老師。老師も踊り系の特技をこっそり習得しようとするのはやめてください」
私の言葉に『踊り子の章』を読んでいた老師が、いたずらがばれた子供のようにギクリと肩を揺らす。
もう手遅れだとわかっているのですが、本当にやめてください。
そうこうしている間にアバン先生は幾つかの踊り系特技を習得してしまったが、満足した様子の先生が気分よく話す。
「久しぶりに知的探求心が満たされる方に出会えて、嬉しい限りですよ。…ところでレイザーさん」
一転して目が笑わなくなった先生が、しっかりとレイザーの肩を掴む。
「ハドラーがデルムリン島に現れた際、『盗賊の章』にあるこのレミラーマという呪文を使って私の居場所を突き止めたと話していたのですが、そこのところを詳しく」
「落ち着こう、先生。それよりも、りせちーの腰について語ろうぜ」
ひとまずその場しのぎと思われる適当な言葉と共に放してくれるよう頼むレイザーの肩に、アバン先生とは別の人物の手が置かれる。
「レイザー様。その『リセチー』という、女らしき者について詳しく。それと私という者がいるのに、なぜ胸ではなく腰などを語ろうとしたかについても詳しく」
暗黒闘気をまとったクーラが、肩を掴んだまま『闘魔傀儡掌』を使ってレイザーを捕らえる。
…うかつなことを口走るもんじゃないわね。
私も肝に銘じておこう。
----レオナSide----
(駄目だわ。幾らポップ君たちが来てくれたからといっても、このままでは…)
先行していたバーンと対峙した私たちにポップ君たちが追い付いてくれたが、バーンの能力によって私を始め、多くのメンバーが「瞳」という名の手の平サイズの宝玉に封じられてしまった。
その対象は現在の実力がバーンと差があるほど成功しやすくなってしまい、一度瞳に捕らわれてしまうと、一切の身動きが取れなくなってしまう。
瞳から許される行動は見る・聞く・考えるの3つだけで、戦闘力の低いチウやナーミラはもちろん、老いによって体力がないマァムの師匠。
そしてあのレイザーでさえも為す術も無く、瞬時に封じられてしまった。
無事だったクロコダインやヒュンケル達が先陣を切って応戦するも、3つの動作を同時に繰り広げる『天地魔闘の構え』で返り討ちされ、受けたダメージによって瞳にされてしまった。
「戦力の低下もそうですが、暗黒闘気への対抗策である『ハッスルダンス』を使える人がいなくなってしまったのが痛いですね…!」
ヒュンケル達から控えてもらうよう言われていたアバン先生が、現状を苦々しく確認する。
苦渋の表情のアバン先生だが、「やはり私が『ハッスルダンス』を習得していれば…!」という呟きは聞き間違いだと思いたい。
それとその隣で、ずっとナーミラの瞳をグリグリと踏みつけながら「これでレイザー様が私の手中に…!」と、レイザーの瞳を持ち上げて目を輝かせているクーラもなかったことにしたい。
そんなクーラをマァムが正気に戻そうと呼び掛けていたところ、クーラが持っていた瞳が突然割れる。
「っしゃぁぁ!戻れた!!ふははは。この特技の伝道師である俺にかかれば、このぐらい…」
何か言いながら瞳から自力で復帰したレイザーに向かって、バーンは無言で魔力を放ち、再度レイザーを瞳にする。
再び瞳に変えられたレイザーだったが、今度は間髪入れず元に戻った。
そしてバーンも負けじと、瞬時に瞳に変える。
またレイザーが戻る。
バーンが魔力を放つ。
レイザー、戻る。
バーン、放つ。
戻る。
放つ。
戻る。
放つ。
放つ放つ放つ放つ放つ…!
「大魔王の名において命じる…。瞳になれぇぇぇ!!」
「そいつを封じたい気持ちは嫌というほどわかるけど、いい加減諦めろ…」
意地でもレイザーを瞳化させようとするバーンに、ポップ君は諭すように言う。
幾ら大魔王といえども、あのレイザーを相手にするのは断固として嫌らしい。
何度やっても瞳からの復帰を果たすレイザーに、渋々バーンも諦めたようだ。
ようやくバーンからの魔力が止まって一息ついた様子のレイザーに、ラーハルトはどうやって戻れたのかを聞く。
「フェンブレンの時みたいに俺でも条件さえ揃えば魂を玉に入れることはできるから、それの逆のことをしただけだよ。解析には時間かかったが、もうコツを掴んだから効かないよ」
「ねぇ、他のメンバーも元に戻すことはできそう?」
マァムからの問いにレイザーは他の瞳を手に取ってみるが、首を横に振る。
「内側から自分で解析するならともかく、外部から戻すのは自信がない。『凍てつく波動』なら出来そうだがバーンのあの瞳化は連発できるのに対して、俺の技量では連発できないから無駄だろうな」
レイザーの説明に、バーンは大きなため息をつきながらようやく言葉を発する。
「…仕方あるまい。アバン以上に何をやらかすか見当もつかない貴様は是が非でも封じておきたかったが、できないなら意識を奪ってから瞳にするまでだ」
「言われなくても、俺に大したことはできないってことはわかってるよ。…だから、全力で皆をサポートする!!」
レイザーは『身かわし脚』で敵の攻撃に備えつつ、『ハッスルダンス』を踊りながら味方を回復し、『戦いのドラム』で皆を鼓舞する。
「これが俺の集大成にして最終形態…!更に口から炎や氷を吐き、一定時間ごとに目から『凍てつく波動』を出すオプション付きだぞ!」
「最醜な変態だよ!大道芸人か、お前は!?」
平常心を保とうとしていたポップ君だったが、レイザーの奇行の前では形無しだった。
そしてバーンが誇らしげに放った3つの動作を同時に繰り広げる『天地魔闘の構え』が、技の数だけならレイザーに負けている分、バーンは複雑そうな表情をしている。
「…わかったよ。だったらさっき使える見込みがついた、俺の切り札を見せてやる」
挙動不審を注意されたレイザーだったが、今度は袋からベチャリという嫌な音を立てて何かを出した。
それを人形だと思ったらしいマァムが触ったところ、悲鳴を上げる。
「死体じゃない、これ!?どういうつもりよ!?」
遺体を触った手をポップ君の服で拭いながら抗議するが、その問いには答えずレイザーは真剣な表情で呪文を唱え始める。
「このための準備は出来ていたんだが、肉体への転移は技術不足でどうにもならなかったんだ。…だけどさっき瞳にされて、その技術を分析することで目途が立った」
詠唱の片手間に説明しつつ、レイザーは死体を中心に魔方陣を展開する。
唱えようとしている魔法陣に心当たりがあるのか、アバン先生が驚きの表情をしつつ、ゴールドフェザーを使ってレイザーの呪文を増幅する。
「サンキュー、先生。…話の続きだが、転生術に必要なのは魂を復活の玉に入れることなんだが、生身では魂は肉体と同化しているのか、復活の玉に入れることができない。…ただし死んだときに灰となることで、通常より早く肉体が朽ちる超魔生物は別だ。肉体が先に崩れることで、魂の回収ができたんだ」
レイザーの説明は続く。
曰く遺体である彼はアバン先生に敗れた時と、アバン先生を倒した時の合計2回バーンから肉体をもらった。
そのうちの1回の肉体をザボエラが実験材料として残していたのがこの遺体で、決戦前に地上を探し回って見つけたそうだ。
「そのため俺に不足していたのは魂を生身の肉体に転移させる技術だけだったんだが、ついさっき瞳を解析したことでその問題も解決した!」
詠唱を終え、ザオラルに似た光が魔法陣から発せられる。
その光が消えてから、レイザーは遺体に話しかける。
「さぁ、賭けは俺の勝ちだ。約束通り、四の五の言わず手伝ってもらうぞ」
「目覚めたばかりだというのに、こき使いが激しい奴だ。言われなくともそのことを反故にするつもりはない。…それにしてもポップ。人間の神は捨てたものではないが、魔族の神もまた捨てたものではないぞ。こうして宿敵と並んで戦うことができるのだからな」
ゆっくりと起き上がる遺体だった人物に、ヒムが叫ぶ。
「ハドラー様…!ハドラー様!!」
「あぁ。お互い妙な形で生き残ったな。…だがまずは、賭けに負けた俺の負債のため、大魔王討伐を果たさせてもらう」
その姿は、ダイ君と死闘を繰り広げたハドラーだった。
所々様子が違うのは、超魔生物ではなく、今の体が普通の魔族の体だからだろうか。
「ハドラー。蘇ってくれたのは泣きたくなるほど嬉しいんだが、アンタが竜の騎士であるダイと互角の戦いを繰り広げられたのは超魔生物だったからだ。普通の魔族のその肉体だと、とても大魔王の相手は…」
伝えにくそうに言うポップ君に対して、ハドラーは表情を変えずに告げる。
「言われなくても、このままで大魔王に敵うと思うわけがなかろうよ。その対策も、こいつの悪知恵で目途が付いている。…レイザー、やれ」
「はいよ。…言っておくが、死ぬ程辛いぞ?」
何かを投げ渡し、レイザーから受け取ったそれをハドラーが飲み込む。
それを確認してレイザーは金色の腕輪を取り出し、聞き取れない言葉で呪文を唱える。
直後、ハドラーはうずくまるように倒れた。
それだけでなく、ハドラーの体は皮膚や骨格がうごめき、魔族だった体が膨れ上がるように変貌していく。
「ほう…。まさか、進化の秘法を目の当たりにすることができるとはな」
レイザーが始めたことを看破したバーンが、対岸の火事を見るような目をしながら笑う。
「だがその術の制御は余でも容易ではなく、未熟な者が使えば理性なき破壊の化身へと落とす禁術だ。…一度死んだ者を使い捨ての怪物に仕立て上げるなど、お前もまたキルバーンに劣らぬ畜生だな」
「な…!お前、いくら追い詰められているといってもそんなことが許されるわけないだろ!?」
バーンの言葉にレイザーを責めるポップ君だったが、レイザーはハドラーから目を離さないままやんわりと制する。
「あんな愉快犯と一緒にすんな。…で、もう起きてんだろ?調子はどうだい、ハドラーさん」
「…どうにかな。これほどの苦痛でも狂うこともできないのが、良かったのかどうかは別問題だがな」
以前よりも2周りほど巨大となっているが、超魔生物となったハドラーが起き上がりながら答えた。
平然と受け答えするハドラーに、バーンも驚いているようだった。
「レイザーの悪知恵を甘くみたな。先ほどレイザーから受け取ったのは、どんなときも我を忘れない効果があるという『理性の種』。力の種などを作ろうとしてできた失敗作らしいが、こういう使い方もあるということだ」
体の調子を確かめるように腕を回すハドラーの横に、辛抱ならないといった様子のアバン先生が並び立つ。
「カール王国で初めて対峙した時は、まさかこんな日が来るとは思いませんでした。…魔王であるあなたに倒された人達のことを考えると不謹慎ですが、これほど嬉しいと思ったことはありません」
「言いたいことがあるのはお互い様だ。…もっとも、この状況を喜んでいるのもお互い様だがな」
進化の秘法によって体の調子が上がったせいか、ダイ君と戦った時よりも数段加速された動きで、ハドラーはバーンの懐に飛び込む。
さすがのバーンも余裕をなくした様子で咄嗟に『天地魔闘の構え』をしようとするがハドラーの呪文がそれを止め、バーンを殴り飛ばした。
ハドラーに続いて、戦意が上がったアバン先生やヒムもバーンへと立ち向かう。
(これなら、まだまだ行けるかもしれない…!)
仲間が瞳化される度に下がっていた戦意だったが、今や高揚が完全に上回っていた。
そんな期待の中、隅から不貞腐れたような声がする。
「…なぁ、クーラ。俺、今回はこれまでの技術を集結させた結果でちゃんと役に立ったはずなのに、誰も成果を褒めてくれないんだが」
「大丈夫です。この程度の事、レイザー様でしたら出来て当然と思われているだけです。…レイザー様でしたら、もう何をしても驚かないとも言えますが」
…バーンを倒して瞳から出ることができたら、もう少しだけレイザーに優しくしてあげよう。
【追記1】
瞳にされたメンバーについて、クロコダインは特技による技能向上、ヒュンケルは『ハッスルダンス』による回復で免れました。
しかしちゃんとバーン戦を書いてみたところ、真面目なシーンの描写力不足からダラダラな展開となり、カットさせていただきました。
…実際は自分の力量を考えずに見切り発車したことが原因です。はい。
【追記2】
瞳にされた状態でも心を読むことが出来るバーンがレイザーの企みに気づかなかったのは、瞳にされた直後にせめてもの抵抗として「般若心経を唱える」「ファ●チキください」など意味不明な言葉を連呼していたレイザーに、バーンが根負けしてレイザーの心を読むのを意図的に遮断していたためでした。