知らないドラクエ世界で、特技で頑張る   作:鯱出荷

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更新遅れ、申し訳ありません。
生活環境の変化についていけず、自分なりに入れていたつもりの見どころが全く見出せない状態になっていました。

それと今回のタイトルは何となくで、深い意味はないです。
ましてや『金太の大冒険』との関係は、もっとありません。

【2017/07/09 追記】
本日までに誤字報告機能にて、5名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

ありがとうございます。



【第29話】キングの大決戦

----クーラSide----

 

「クーラちゃん、いい加減諦めたら?」

 

先ほどから寝ているレイザー様に触れようとしている私に対して、マリンは呆れるように言う。

 

レイザー様はチウに魔人の金槌を渡してすぐに、「疲れた」と言い残してクロコダインが張り付けられていた十字架に寄りかかって眠り始めた。

そのため以前からやりたかった膝枕をしてもらおうとレイザー様に頭を近づけるが、ある程度まで近寄ると眠りながら頭を小突いてくるため、もう10回近く成功出来ずにいる。

 

ちなみにナーミラを放り投げてみたときは私と違って普通に殴ったため、人物によって加減も出来るようだ。

 

「ぬぅ…。武術の腕は『ダーマの書』の出来栄えで理解しておったが、眠りながら他人を近づかせないとは芸達者なものだな」

 

変な布を被った自称ビーストくんが、レイザー様の反応に唸る。

 

感心しているようだが、実際は眠りながら他人を近寄らせない芸当はレイザー様の防具のおかげだ。

レイザー様の防具は複数の防具を合成しているもので、今回の場合は戦士のパジャマによる効果によるものだが、周囲の評価が上がっているので黙っておこう。

 

…それはそうと、レイザー様の防具をあらかじめ脱がしておけば、こんな苦労しなくてよかったのではないだろうか。

 

「お、お待たせ…。レイザー君の言う通り、ちゃんと私の『ハッスルダンス』の改善を終えて皆の傷の手当終わったよ…」

 

息も絶え絶えに、深手を負ったメルル達に『ハッスルダンス』をしていたナーミラが声をかけてくる。

 

ナーミラの『ハッスルダンス』は視覚に入っていないと効果がなかったが、レイザー様曰くそんなことはなく、「自分を見て欲しい」というナーミラの欲求が強すぎるため、視界に入らないと効果がないとのことだ。

バーンパレスに突入する際の回復役としてこのままでは役に立たないので、皆の回復の間にその欠点を改善するようレイザー様から言われていたのだが上手くいったようだ。

 

手当てを終えたクロコダインが、まともな回復役が増えたことに安堵のため息をつきながら言う。

 

「レイザーの一言でこれ程早くあの踊りを改善できるとは、相変わらずこいつは特技のことに関しては一流だな。…そういえばクーラは、レイザーが踊る特技ばかり使う理由を知ってるのか?」

 

「はい。以前聞いたときに教えてもらえましたので」

 

駄目もとで聞いた様子のクロコダインが、あっさり答える私に驚く。

言っていいか迷ったが、別にレイザー様から口止めされていないので構わないだろう。

 

「レイザー様の夢は、特技を教える施設を作ることです。そのため特技の認識を広める必要があるのですが、目撃者が多い場面でこそ、踊りなど見た目では簡単そうな特技を積極的に行うように意識しているそうです」

 

先ほど離れて戦ったキラーマジンガに使ったように、レイザー様はやろうと思えば『ビックバン』など私でも使えない強力で高難易度の技を使用することができる。

 

しかし初めから難しい技ばかり見せてしまうと特技を知らない人間達にとって敷居が高くなってしまうので、あえて簡単に見えて効果的な技を多用しているとのことだ。

 

「言い換えますと、見栄えの良い特技は私や勇者達に実施してもらい、レイザー様自身は習得が難しく見えない特技を人前では多用するように心がけているのです。…そのためオーディエンスが少ない今後の戦闘では、そういったことを気にせずレイザー様は特技を使ってくれると思われます」

 

「…思っていた以上に、まともな理由だったんだな」

 

クロコダインの予想と違ったらしくどこか拍子抜けしたような様子で呟くが、フローラ女王はなぜか感心していた。

 

「さすがですね。皆が目の前の大魔王討伐のことだけで精一杯だというのに、レイザーは初めからその先のことも考えているのね」

 

皆が何か言いたいような表情でフローラ女王を見ているが、実際に発言すると色々と問題なので私は次の行動を促す。

 

メンバー選抜は気合に溢れたチウが率先して行ったことで決定して、戦闘で傷ついたレイザー様と皆の回復を待っていたが、もう十分だろう。

ちなみにレイザー様を突入メンバーに入れるべきか最後まで協議したが、最終的に「大魔王への嫌がらせとしてこれ以上の適材はいない」というクロコダインの意見に満場一致で賛成となった。

 

…思い返してみると、判断基準がおかしい気がするがいいのだろうか。

 

「お前達。手当てが済んだのなら、そろそろ出発したほうがよいだろう。…私はこれ以上の戦闘では足手まといにしかならない。ここで待たせてもらうことしかできないが、息子たちを頼む」

 

自分からこの場に残ることを言い出したバランが、申し訳なさそうに言う。

ザボエラとの戦闘で予想以上に自身の体が動かなかったことに限界を感じ、落胆しているようだ。

 

「わかりました。それではアバンの使徒達が大魔王を倒す前に合流できるように、レイザーさんを起こしますね」

 

マリンがザメハを唱えようとするが、レイザー様を起こす役目は私のものだ。

それを誰かに譲る気はない。

 

…近づいて叩かれるなら、それよりも早く懐に飛び込むのみ!

 

「そうはさせません!『疾風突き』!!」

 

「なんで!?クーラちゃん、あなた一体何と戦っているの!?」

 

突きによって傷が開いたらしいレイザー様に驚きながら、珍しくマリンは大声をあげた。

 

 

----ヒュンケルSide----

 

大魔王を討伐するダイ達を先に行かせるため、バーンパレス中央部で敵の足止めを選んだ俺だったが、復活したことによって光の闘気という強大な実力を手にしたヒムを相手にしてその体は既に限界に達していた。

 

その状態にもかかわらず、直後に現れた軍団と言って良いほどの数の敵勢に俺は身動き取れずにいた。

 

「ハァーハッハッハッ!我輩達に見とれるのは致し方ないが、何か言ってみたらどうだ?もしくは我輩達の姿に戦意喪失したのか?」

 

敵軍の最奥で高笑いをする自称キングのマキシマムは、バーンがハドラーに授け、ヒム達ハドラー親衛騎団の基となった5つを除いた全てのオリハルコンの駒を呪法生命体として操る能力を持っているようで、今俺たちの前にはその駒たちが並んでいた。

しかし、なぜか2体足りない8体しか現れていないが、何か理由があるのだろうか?

 

「てめぇ…!俺たちが戦って疲弊しているところを待ってノコノコやって来やがるとは、大将としての誇りはあんのか!?」

 

俺の決死の一撃で起き上がることも出来ないヒムが、マキシマムを睨み付ける。

 

「ふん…。単細胞な兵士はそのような考え方しか出来んようだな。我輩が遅れたのはそのような姑息な理由ではなく、思うところがあって魔界屈指の強者であるこやつらを我が軍勢に引き入れるためだ」

 

マキシマムが自慢げに、自らの前に立つモンスターを顎で指す。

 

黄金の竜、グレイトドラゴン。

青い巨体に巨大な斧を持つ4本足のモンスター、セルゲイナス。

醜悪な悪魔を形にしたようなモンスターを何体も率いる、エビルマスター。

俺の育ての親である地獄の騎士バルトスに似て、4本腕にそれぞれ武器を持つアンデット系モンスターのボーンファイター。

 

魔王軍にいた俺でも、聞いたことのないモンスターばかりだった。

 

「こやつらは皆六大軍団長の候補だったが、軍隊を率いる能力が足りなかったり、現六大軍団長と反りが合わないなどで辞退した者達だ。それを我輩が魔界に自ら出向き、味方に引き入れたのだ」

 

説明に満足したらしく、マキシマムは「キングスキャン」と叫びながら俺たちを眺める。

 

「つまらん。ここまで来れたため大層な実力を持っていると思ったが、ステータスを見てみれば死にぞこないそのものではないか。…貴様らは、新たな我が軍の初戦にふさわしくない」

 

マキシマムが指を鳴らすと、今までいたオリハルコンの呪法生命体に加えて、キングを除いた15体の駒が増援として現れる。

その体の色から材質はオリハルコンと違うようだが、オリハルコン製ではないとはいえアルビナスに似た駒などがあり、一斉に襲い掛かられてしまったら今の俺たちでは勝てそうもない相手だ。

 

「これらはバーン様がチェスをする際に使用していた遊戯用の駒だ。貴様ら程度にはオリハルコンの駒ではなく、魔鉱石によって出来ているこれら兵士タイプだけで十分だ」

 

「…いいだろう。軍団長からの脱落組と人形の烏合の衆で、俺の命を奪えるか試してみろ」

 

未だに起き上がれないヒムを抑え込むように、俺は覚悟を決めてマキシマムの人形達と対峙する。

 

何度も死線を共にしてきた鎧の魔槍は、ヒムとの戦闘の際に遥か後方へ手放したためナイフ一つない丸裸な状態だが、先ほどものにしたカウンターとレイザーの特技を用いれば、キングを引きずり出す程度までは敵を減らせるはずだ。

…後は俺の生命が燃え尽きるまでに、地上の仲間が来てくれることを願うだけだ。

 

俺の虚勢を見抜いたのか、マキシマムはつまらなそうに溜息を吐く。

 

「我輩の軍を前に、くだらない自信をほざくな。…我輩がバーン様より授かった使命は、ある魔族をこの場より進めさせないこと。貴様らなどに使う時間は、これ以上ないわっ!!」

 

高らかにマキシマムが指を鳴らすと、魔鉱石の兵士タイプが一斉に襲い掛かる。

それらをどの順序で破壊出来るか算段を付けるが、後方から放たれた一閃が兵士タイプを全て切断し、俺の考えを中断させる。

 

「俺はお前に、バラン様とディーノ様を頼んだはずだ。それだというのに、こんな所で人形遊びをして何のつもりだ?」

 

目で追うのが精いっぱいな速度で俺の横に現れた人物に、俺は驚きながらも苦笑いを浮かべる。

 

「…厳しいな。これでもダイが倒すべき相手を、千体以上は相手にしてきた自負があるんだが」

 

かつて戦死したはずの竜騎衆ラーハルトが、俺が投げ捨てた鎧の魔槍を手に平然と立っていた。

驚きこそあるが、ラーハルトがあのバランの部下だったことを考えると、ポップと同じく竜の騎士の血にて復活したのだろう。

 

俺があまり驚いていないことについては何も言わず、ラーハルトは背負っていた武器を俺に渡す。

 

「千体倒してまだディーノ様の敵がいるなら、一万体倒せ。…お前だけで無理なら、手助けしてやる。これを使え」

 

ラーハルトが生き返ったことにはそれほど驚かなかったが、渡してきた武器にはさすがに驚く。

それは刀身が消滅して二度と復活出来なくなったはずの、鎧の魔剣だった。

 

「道中で会った変な魔族に使える武器をねだった際、お前のことを話したら代わりの武器として譲り受けた。一応ロン・ベルク本人が監修したらしく、最低限の機能はあるとのことだ」

 

「俺が知っている魔族で、こんな物を持っている奴といえばレイザーぐらいだろう。…またアイツの怪奇現象に助けられたか」

 

アバンに始まり、立て続けに起こる思わぬ再会に何か言う暇もなく、俺は受け取った剣を鎧化せずに鞘から抜く。

今の俺は軽い攻撃ですら絶命してしまう状態なため、無意味な防御を上げるよりかはこちらのほうが身軽でいい。

 

その様子を顔のひげを撫でながら眺めていたマキシマムが、待ちくたびれたように言う。

 

「我輩のデータを見る限り、貴様は竜騎衆の一人、ラーハルトだな。本来なら貴様のような化けて出た敗者を相手にするつもりはないが、こやつが構ってやるそうだ」

 

マキシマムの言葉に応えるように、グレイトドラゴンが威嚇するかのようにいななく。

 

「先ほども言ったがこやつは六大軍団長の候補で、超竜軍団を率いる候補であった。しかしバランが竜の騎士であることをバーン様が気に入ったため辞退してやったというのに、それを勘違いして六大軍団長最強と誇っていたお前達にお灸を据えたいようだ」

 

「そこのトカゲがバラン様と同格だと?…身の程を知るんだな。お前程度、超竜軍団を率いるどころか俺たち竜騎衆が乗るドラゴンの控え要員にもならん」

 

ラーハルトの挑発にグレイトドラゴンが翼を広げ、宙に飛び立つと思われたが、何かに気付いたらしく動きを止める。

 

マキシマム達に注意しつつ俺も見上げてみると、グレイトドラゴンとは別のドラゴンが急降下して、グレイトドラゴンを踏み潰す。

踏みつぶされて泡を吹いているグレイトドラゴンを余所に、飛来したドラゴンから降り立つクロコダイン達に驚く。

 

「クロコダイン!それにクーラやチウ達も…!!」

 

一目見ただけでもわかる俺の状態を気にしたのか、クロコダインはマキシマムから俺を庇いながら言う。

 

「なんとか間に合ったようだな。ここまで来て、壁役にもなれないとは悲しすぎるからな」

 

「…それはいいんだが、クロコダイン。その気味が悪いドラゴンは、どこから連れてきたんだ?」

 

クロコダイン達が乗ってきたドラゴンは、形状こそまともだがその皮膚の色は毒々しい七色に変化し、おまけに夜のキノコのように怪しく発光している。

こんなドラゴン、見たことも聞いたこともない。

 

レイザーがいない時点で嫌な予感がするのだが、言いよどむクロコダインに代わってクーラが答える。

 

「この竜はドラゴラムを使ったレイザー様です。空中に浮かぶバーンパレスに乗り込む際、ルーラやリリルーラなどで乗り込むと戦闘中だった場合にそこに飛び込むことになり危険で、かといってトベルーラなどで飛んで突入すると迎撃される可能性があります。そのためレイザー様が練習されていた、この姿で運んでくださいました」

 

「…近寄るだけで毒になりそうな見た目だが、背中に乗っても平気だったのか?」

 

自殺希望者でもない限り近づこうとも思わないその発光物を見て、乗っていたメンバーが心配になり尋ねる。

 

「触れても問題ありませんよ。…すぐにキアリーをすればの話ですが」

 

「ブロキーナ老師がいなければ毒死だった…」

 

平然と言うクーラに対して、九死に一生を得たような様子のチウが地に伏せる。

そこのグレイトドラゴンが意識を失った…というよりも既に息をしていないのは、このドラゴン化したレイザーと接触したことが原因のようだ。

 

皆がバーンパレスに降り立ったと同時にドラゴラムの効果が切れたらしく、レイザーは元の姿に戻る。

 

「人のことをキメラの翼や乗り物扱いしてんだから、ちょっとやそっとの毒でぶーぶー言うな」

 

「毒はまだいいとして、敵にアピールするかのように発光してんのはなんでだよ!?乗ってる間、気が気じゃなかったぞ!!」

 

怒鳴るチウを見て、自分もあのようにレイザーを拒絶していた時期があったと懐かしい気持ちになる。

今ではすっかり「アイツはああいった生き物」だと、諦めの境地に達してしまったが。

 

「ふ、ふはははは…!待ちわびたぞ!!我が宿敵にして好敵手っ!!」

 

これまで俺たちに大して興味を示さなかった様子のマキシマムだったが、レイザーを見た途端、歓迎の意を示す。

 

「元軍団長やバーン様に反旗を翻した雑兵などに、我輩は端から興味はない!我輩の標的はバーン様から直々にこの場より通すなと勅令を受けた、お前だけだ!!将棋で受けた屈辱、ここで返させてもらうぞ!」

 

マキシマムからの一方的な宣言をいぶかしんでいたレイザーだったが、どうやら心当たりがあるらしく口を開く。

 

「その声は、前に俺と将棋をした…えっと…確かキンタ『キングマだ!貴様が付けた呼び名だろうが!!』

 

マキシマムの怒号に反応したのか、魔鉱石の僧正と騎士タイプの駒がレイザーに襲い掛かる。

だがレイザーは向かって来る駒達を、以前見た『回し蹴り』とは違う足技を一瞬にして繰り出し、容易く蹴り倒す。

 

「これが上級剣術、『五月雨剣』!…ただし、俺の剣技は足からも出る」

 

「斬れよ!もうこの際、百歩譲って手刀でもいいから、せめて斬れよ!!」

 

無駄に高度なレイザーの技術に、チウが抗議する。

 

「特技の基本は、武器を選ばないことだ。いつも使っている得物がないから戦えませんなんて、特技の第一人者を自称している身としてはあり得ない」

 

「あり得ないのはお前の存在だよ!普通、技は武器を選んで放つんだ!!」

 

チウの抗議に、ラーハルトは首をかしげる。

 

「あの魔族が言っていることの何が間違っている?戦場で武器を選ばずに戦えるのは、戦士の最低条件だと思うが」

 

「ラーハルト。よく考えろ。剣術を足で放っている時点で、おかしいだろうが…」

 

新たなレイザーの被害者を増やさないよう、俺がラーハルトの正気を取り戻させようとする。

しかしその意識を治す暇もなく、クロコダインが敵からの攻撃を斧で防ぐ。

 

「俺の相手はお前か、セルゲイナス。ハドラーの部下となることを嫌ったと聞いたが、こんな所で戦うことになるとはな…!」

 

クロコダインの言葉に返答せず、セルゲイナスは至近距離でマヒャドを放つ。

 

「唸れ!業火よっ!!…見ての通り、俺は呪文が使えん。だから武器に頼らせてもらうぞ」

 

クロコダインの斧から放たれた業火によって、マヒャドは相殺される。

それが気に入らなったのか、セルゲイナスは巨大な斧を軽々振り回し、クロコダインへ幾度となくその斧を振り下ろす。

 

力比べが拮抗していることに気付いたのか、マキシマムが叫ぶ。

 

「セルゲイナス!お前には小回りが利くオリハルコン製の騎士タイプを援護に付けてやる。我輩の期待に応えて見せろ!!」

 

再度マキシマムが指を鳴らすと、見た目はシグマと同じ騎士タイプの駒がクロコダインへと向かうが、千鳥足のようにふらつきながら、ブロキーナ老師がその進行を遮る。

 

「仕方ないのぅ…。その馬面は、ワシが相手しよう。クロコダイン君は、その大物の相手を頼む」

 

「…ご老体。お気持ちは嬉しいのですが、あの騎士タイプは、スピードだけならマァムより上だった駒ですよ」

 

クーラが代わりに戦うことで止めようとするが、向かってきた騎士タイプの一撃をブロキーナ老師は紙一重で躱し、俺の目ではほとんど見えないほど早い一撃をその横っ面に入れ、殴り飛ばす。

 

加えて胸部へも攻撃をしていたらしく、倒された騎士タイプは胸の亀裂から爆発し、粉々となった。

 

「何か言ったかのぅ?」

 

「…いえ。私の人を見る目が、未熟だったという話です」

 

クーラは実力を見誤ったことを素直に謝るが、ブロキーナ老師は「どっこいしょ」という一言と共に地べたに寝転ぶ。

 

「構わんよ。しかしワシの体は、老いから手のひらピカピカ病に冒されておる。後はお任せさせてもらうよ」

 

レイザーの扱いでこういった態度を取る人物に慣れているのか、ブロキーナ老師にクーラはそれ以上何かを言おうとせず、一礼を返す。

怠けているように装っているが、ブロキーナ老師は皆に何かあった際は手助けしてくれる位置に陣取っている。

 

彼のような強力な味方がいる以上、全員でこのマキシマム達を相手する必要はないだろう。

 

「ラーハルト。こいつらの相手は俺たちで十分だ。だからここは任せて、お前に借りていたその鎧の魔槍を使ってダイ達の力になってくれ」

 

「…そうみたいだな。俺はディーノ様の元へ行くから、お前も早く片づけてこい」

 

俺の言葉にセルゲイナスは両手で持っていた斧を片手に持ち替えてマヒャドを唱えるが、ラーハルトはその吹雪を掻い潜るように駆け出し、瞬く間にバーンパレス奥深くに消えていく。

 

自身が歯牙にもかけられなかったことが気に食わなかったのか、再度マヒャドを唱えようとするセルゲイナスの斧をクロコダインが弾き飛ばす。

 

「貴様は目の前の敵にも集中できない、俺以上の脳筋のようだな。…刃を交えている相手を侮った戦士の風上にも置けない態度の代償、受けてもらうぞ!!」

 

クロコダインは持っていた斧を地面に突き刺す。

 

「俺が人間たちと共に戦って身に着けた技を、その眼に焼き付けろ!獣王会心撃!!」

 

クロコダインが得意とする技を放つが、その渦に巻き込まれる敵の様子がいつもと違う。

これまでように敵を吹き飛ばすのではなく、先ほど放った獣王会心撃はセルゲイウスを急激に吸い寄せているのだ。

 

「俺は見ての通り、鈍重でな。…だからお前の方から来てもらおう!!」

 

竜巻に飲まれた木の葉のように飛んでくるセルゲイナスを待ち構え、クロコダインは獣王会心撃を放ちつつも片手に渾身の力を籠める。

 

「はぁぁぁ…!『正拳突き』!!」

 

無防備にクロコダインに飛び込む形になったセルゲイナスに、クロコダインは自慢の腕力による一撃を与える。

更に腹部に拳が突き刺さった瞬間、クロコダインは再度獣王会心撃を繰り出す。

 

手を押し当てられた状態でクロコダインの必殺技に耐えきれるはずもなく、セルゲイナスは半身が分かれて絶命した。

 

壮絶な最期を迎えたセルゲイナスの死にざまから恐れ戦いた様子のエビルマスター達を睨むように、クロコダインは言い放つ。

 

「さぁ、次だ。どこぞの氷炎魔団のせいか、どいつもこいつも軍団長を甘くみているようだが、本物との格の違いを教えてやる」




【追記という名の言い訳】
更新が遅れて本当に申し訳ありません。

3月から生活環境が変わったり、4月は季節外れのインフルエンザにかかったり、預かる子供が増えたり、1話の配分感覚がおかしくなって今回の話を気づいたら2万文字以上書いていたりと、執筆の調子が乱れておりました。

落ち着くまではまだ時間がかかりそうですが、少しずつでも執筆を続けていきます。

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