知らないドラクエ世界で、特技で頑張る   作:鯱出荷

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今回長い割には、おふざけ要素は控えめです。

【2017/01/20 追記】
今回の話で、1名から誤字脱字のご指摘をいただきました。

いつもありがとうございます。


【第20話】明日の決戦場は、今日の実験場

----チウSide----

 

「む!?これはポップが使っていた杖か。…目的とは違うが、成果として拾っといてやるか」

 

ぼくたち獣王遊撃隊は死の大地の侵入経路を探るため、マァムさんやダイ君たちに黙って潜入調査を行っていた。

 

バピラスのパピィとゴメちゃんからの空路、また先ほど仲間にしたマリンスライムのマリべいからの海路からも探しているため、見逃すことはないだろう。

 

だが…

 

「ピー…」

 

ゴメちゃんが心配そうに、離れたところからする爆発音を気にしている。

先ほど別れた、あの魔族が心配なのだろう。

 

彼は僕たちを探しに来たらしいが、こちらの事情を話したら反対するどころか自ら囮役を買って出てくれた。

 

「心配いらないさ。彼の行動は常に変だけど、クロコダインさんやマァムさんからの信頼も厚い。敵に見つかって倒すことは難しくとも、逃げ切るには大丈夫だろうさ」

 

ついこの間も、あの魔族が使っている技をまとめた新たな本を持ってきたという話になった途端、ダイ君やマァムさんはもちろん、あのヒュンケルでさえ我先にと本に食いついていた。

そのため彼もポップなどと同じく、見た目はともかくただの変人ではないはずだ。

 

「奴が手に負えないことは、ワシらも同感だ。…だからといって、全員生かして帰す気はないがな」

 

急にかけられた声に振り替えると、以前かまくらで遭遇した、全身が刃物のような人型の生命体が立っていた。

 

 

----レイザーSide----

 

サババのドック襲撃の怪我人治療をしていると、チウを探しているというマァムに会ったことからレミラーマで調べて探しに来たが、この死の大地で無事見つけることはできた。

 

だが連れ戻そうとする俺に対して、チウは強く抗議した。

チウのその表情は真剣で、目先の手柄に目がくらんだ者がする瞳ではなかった。

 

そのため俺では説得出来そうにないので、一度は止めようと思った計画を実行することで敵を引きつける囮になり、協力することにした。

 

ちなみにクーラはマリンに捕まったこともあり、その辺の人間に伝言を頼んで現在は一人で行動している。

なおクーラが捕まった理由は、旅の間に化粧や髪のケアをしていなかったことがマリンには許せなかったらしい。

 

「さーて。久しぶりの単独行動だし、派手にやりますか」

 

わざわざ死の大地に来てやろうと思ったことは、ポップが使っていたメドローアの練習だ。

もちろん一番の目的は呪文を習得することだが、失敗したメドローアなどで死の大地に穴を空けて潜入経路が出来ればそれもまた良しだ。

 

本当はポップから教えてもらおうとはしたのだが、「こうするんだ!」と問答無用で放たれたメドローアをマホターンで跳ね返したらすごく怒られて教えてくれなくなった。

 

そのため仕方なく見様見真似でやったら、今度は腕が激しく燃え上がった。

恐らくメドローアは炎と氷のバランスが難しく、俺はフィンガー・フレア・ボムズなどメラ系が得意だから腕が燃えたのだろう。

 

「まぁ、こうして練習すれば感覚はつかめそうだな」

 

俺が考えた練習方法。

それはベギラゴンのように頭上に炎と氷をぶつけることで、腕で直接魔力を衝突させずに調節することだ。

 

この方法で失敗して腕が焼けることはなくなったが、調整している間はずっと魔力を消費する上、ようやく調整が成功しても頭上のメドローアは球体状で下へ落ちるしかないため、ポップのように光線状としては一度も成功していない。

これを敵にぶつける場合、相手の頭上にトベルーラで飛びながら、ボーリングの球を落とす感覚でぶつけるしかないだろう。

 

「それにしても、やっぱりこの呪文は魔力の消費が激し過ぎんな」

 

今日何度目かわからないが、作成した祈りの指輪で回復を行う。

 

この世界でのアイテム作りのコツがわかってきたため、作ったアイテムの効能を確認することも計画していたことの一つだ。

今まで作ったアイテムは何らかの不具合があったが、この祈りの指輪は正常のようだ。

 

ただこの指輪のことを知らなかったらしいクーラにプレゼントして、試しの1回目で壊れた際は泣き崩れて大変だった。

 

「帰ったら、なんか違う指輪作ってあげるか。命のリングか、落ち着いてほしいという願いを込めて水のリングだな」

 

ぶつぶつ独り言を呟きながら作業をしていたためようやく気づいたが、何度も落下型メドローアの練習をしたおかげで、次の実験にちょうど良い感じに地面に穴を空けることができた。

 

メドローア以外でもう一つしたかった実験が、爆弾石の連結だ。

もっと具体的にいうと、爆弾石でチェーンマイ●が出来ないかの実験だ。

 

ロン・ベルクのところで爆弾石を干し柿のように結ぼうとしたら禁止されてしまったため試せなかったが、ここなら穴に爆弾石を積もうが、誤爆しようが(味方からは)文句は出ない。

こんなこともあろうかと袋に入るだけ爆弾石を持ってきたので、どんどん爆発させてみよう。

 

「まずは細工せずに一箇所にまとめて、爆発させてみるか」

 

とりあえず20個ほど、六星の魔法陣の形に作って爆発させる。

この世界の魔道書を読んだところ、こうすると威力が上がるそうだ。

 

 

 

試行錯誤すること、数百個。

結果として爆弾石同士が接触した時点で爆発してしまうため、あらかじめ間隔を空けて設置するか、単品としてしか使えないということがわかった。

 

「うーん…。だったら石を凍らせて、メラ系で点火する方向で行くか?」

 

次の爆破実験をしようとしたところ、突然聞いたことのない怒号と共に、ブロックとフェンブレンが出現する。

 

『さっきから我輩の寝床の上で、ドカンドカンしているのは貴様かぁー!?』

 

その怒号は、なぜか喋れないはずのブロックから聞こえてくる。

前に会ったときのように魔力の波動を確認しようとするが、何か違和感がある。

 

「…核からの魔力の質が全然違うな。もしかして、ハドラー以外が禁呪法で作った奴か?」

 

俺の独り言に対して、ブロック…。いや、城兵タイプから再び声がする。

 

『然り!そやつらは全て、頭脳明晰な我輩の忠実な駒!!我輩の名は、キーング!マ…』

 

名乗ろうとしていたはずの城兵タイプだが、突然その言葉を止める。

 

『…こほん。我輩はバーン様の居城を守る最強の守護者。おいそれとは姿を見せたり、名乗るわけにはいかん。よって「キング」と呼ぶがよい』

 

「わかった。キングマだな」

 

『キィィィングだ!』

 

「おいおい。お前は大魔王バーンの部下なんだろ?それなのに大魔王を差し置いて、『キング』を名乗るのは不味いと思っての配慮だぞ?」

 

俺の口八丁に、自称キングが食いつく。

 

『む?…うーむ、それもそうだな。良き考えだ。ならばこの場での我輩を『キングマ』と呼ぶことを許そう』

 

納得してくれてよかった。

…こっちもインパスで相手を分析する隙が出来たし、持ちつ持たれつだ。

 

「了解だ。よろしく、キングマさん。…それと時間稼ぎに付き合ってくれて感謝だ。この前ヒム達の核の波動と位置を把握したおかげで、そっちのも解析は終わった!!」

 

正面に来た僧正タイプと城兵タイプに、手をかざす。

本当は魔力節約のため『死の踊り』にしたいところだが、幾らなんでも踊ってる暇がないので妥協する。

 

「そら!ザラキーマ!!」

 

ブロックにラリホーを使った要領で、ザキ系上位の呪文を唱える。

呪文は成功したらしく、僧正タイプと城兵タイプはチェスの駒に姿を変え、床に転げ落ちた。

 

この場に操っている奴がいればすぐに禁呪法をかけ直すことができるのだろうが、周囲に本人がいないため出来ないのだろう。

 

とにかく狙いは上手くいったので、敵の増援が来る前に駒になった僧正タイプと城兵タイプを袋に入れる。

袋の原理はわからないが食べ物や植物が劣化しないため、恐らくこの中に入れておけば奪い返されることもないはずだ。

 

「くくく…。ようやく念願のオリハルコンを手に入れたぞ。これで俺のダーマ神殿(仮)を築くための道が近づいたな」

 

…あれ?なんだか幻獣を魔石化する道化師と、同じことをしていないだろうか?

 

軽い自己嫌悪に陥っていると、キングマの増援らしきヒムっぽい兵士タイプが3体現れる。

 

『貴様ぁ!よくもやってくれたな!!…って、我輩の駒をどこにやった!?』

 

「悪いが俺はチェスより、将棋派なんだ。だからこの駒はもらっていくぞ」

 

『何?ショウギとは何だ?』

 

「倒した駒を使える、チェスみたいなものだな。相手を必ず倒すチェスと違って、倒した相手を味方にするという考えのボードゲームだ。せっかくだから、やってみるか?」

 

最初の目的通り、囮役をこなすため敵の注意を引く。

ただ予想と違ったのは、てっきり断られるつもりだった将棋をキングマがすると言い出したことだった。

 

「えーと…。とりあえず、ルールブックを渡そうか?」

 

旅の道中、金が尽きたときに備えて作っておいた将棋盤と説明書を兵士タイプに渡す。

どうやら視覚も共有できるらしく、兵士タイプは渡した本を熟読している。

 

『ふーむ…。確かにチェスとは似ているが、微妙な違いがあるのだな』

 

「まぁ、習うより慣れろだ。初回ってことで『二歩』とか禁じ手があったら指摘するから、とりあえずやってみるぞ」

 

相手の興味が失せる前に、対局を促す。

これで時間を稼げれば、チウ達が調査と退却する時間を作れるだろう。

 

 

 

『ま、待った!その王手は待った!!』

 

対局を開始して数十分。

チェスと違って後半になるほど持ち駒のことを考えなければいけないルールに、混乱しているようだ。

 

「もう待ったは14回目だぞ。さすがに次でラストな」

 

俺の言葉にキングマが唸る。

結局ラストの待ったをした甲斐もなく、そのまま俺が勝利した。

 

「ほい、これで詰みだ。…続いてもう一局するか?」

 

どれくらいこの敵を引きつければいいかわからないが、可能な限り時間稼ぎを試みる。

 

『当然である。次こそ我輩が…!?』

 

話をしている最中、突然目の前の兵士タイプが正座になる。

そのまましばらく黙っていたが次に声を出したとき、その声はなぜか震えていた。

 

『ほ、本当にやられるので!?…う、うむ、魔族よ。もちろん次も勝負させてもらうぞ…。それと、もう一度ルールブックを貸してもらおうか』

 

先ほど十分に読んだと言い張ったはずのルールブックを、再度要求される。

明らかに挙動不審だし、キングマの後ろで指図している人物がいるが、やる気ならいいだろう。

 

 

 

「…ま、参りました」

 

初心者に負けた…。

それも相手は途中から王手をすることを後回しにして、こちらの駒を奪い尽くす遊びをしたにも関わらずだ。

 

こちらも相手が詰ませるのに有効な金将の対策を知らなかったと思い込み、後一歩のところまで行ったのだが、直前に気づかれて巻き返せず投了となった。

 

『ふむ。中々楽しめたと仰って…。い、いや、楽しめたぞ。うむ』

 

キングマの背後にいるのが誰かわからないが、格の違いを見せつけられた結果だ。

 

『よ、よろしいので?…おい、そこの魔族。そのショウギ盤と本を置いていくことで、この場は見逃してやろう。頼むから、何も言わずに置いていけ』

 

どうやらこちらの狙いも、見抜かれているようだ。

このまま下手なことをして機嫌を損ねる前に、退却しよう。

 

「…わかった。お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

対局に使用した将棋道具一式を、兵士タイプに差し出す。

 

『ふむ、確かに。…それでは我輩は戻ってこれを献上しに行くから、お前もさっさと去るがよい』

 

道具を大事そうに受け取ると、兵士タイプは全て立ち去っていった。

 

こちらも時間稼ぎは十分なはずなのでチウ達を探し出して帰還しようと思ったが、妙に乱れた魔力の波動を感じ取った。

その魔力の波動は、つい最近感じたものだった。

 

「さて。…こんなとこで不貞腐れて、どうしたんだ?」

 

そこには両目を潰されたフェンブレンが、岩に寄りかかっていた。

 

「その声、レイザーか。…あまりに自分が情けなくて、皆に合わす顔がないだけだ」

 

愚痴を聞く限り、自分より格下の相手をいたぶっていたら、突然現れた謎の敵に呆気なく両目を潰されたらしい。

そのため強者と思い上がっていた自分に嫌気が差し、仲間のもとに戻る踏ん切りがつかないとのことだ。

 

「…貴様のような奇妙な天才には、わからんだろうな。ワシらは技術を磨くことはできても、成長はすることが出来ない。これ以上ワシらに先はなく、これからもただ自分より弱い敵を相手にすることしかできないのだろう」

 

どうやら茶化すこともできないほど、追い詰められているようだ。

 

「…なぁ、フェンブレン。オーディンの話って知ってるか?オーディンは人間とエルフの間に生まれた神で、初めはとても弱い神だった。それが神々の中でも最強となったが、理由はわかるか?」

 

突然の俺の話に、フェンブレンはいぶかしい様子ではあるが返答してくれた。

 

「…人間共は自分達が最も優れていると思っている。それ故に自分たち人間を混ぜることで、最も優れた存在になると考えたのだろう」

 

「すごい偏見だな。…そうじゃなくて、答えは未熟な人間が混ざることによってオーディンは成長できる神になれたからだ」

 

「…さっきから何が言いたい?お前の話は、いつも意味不明だ」

 

こちらの話に食いつき始めたフェンブレンに対して、俺は提案を持ち掛ける。

 

「フェンブレン。俺に対して、保険をかけてみる気はないか?」

 

 

----???Side----

 

「ば、バーン様。こちらがあの魔族との遊びで使用していた、『ショウギ盤』というものです」

 

戻らせた兵士タイプが持ってきた魔族との対局で使用していたボードとルールブックを受け取り、バーン様にお渡しする。

 

「ご苦労だった、マキシマム。チェスを指す相手が久しくいなかったが、今回の遊びはなかなか良い余興であったぞ」

 

あの魔族とショウギをしている最中に突然バーン様が現れた時は、我輩の核が停止するかと思った。

しかし先ほどの対局でそこそこ楽しんでいただき、機嫌を損ねることは免れたようだ。

 

バーン様は我輩から受け取ったショウギの本を読みながら、何やら熟考する。

 

「マキシマムよ。先ほどレイザーとやった対局、どう思った?」

 

「れ、レイザー?あの魔族のことですね。…そうですな。さすがゲームの考案者といったところでしょうか。まるでこちらに合わせたようにころころ戦略が変わり、手の平で踊らされているようでした」

 

「そうだ。…だがあまりにその戦法は多く、変化も激し過ぎる。そしてこの将棋自体も、まるでチェスのように完成されたルールだった。これらを一人で考えて作成したのか、疑うほどにな」

 

そういえばこのゲームは金策のつもりで作って、人前には公開していないと言っていた。

しかしルールや駒の動きを見る限り、ワンマン作業ではあるはずのルールの穴や矛盾がない。

 

「考案者が複数いたのでは?あの魔族はこのゲームを一人で作れるほど、賢いようにはとても見えませんでしたぞ」

 

「ふむ。あの精霊が口出ししたのならば、あり得るか。…まぁ、よい。しばらくこの本は借りる。その時はこの遊戯に付き合ってもらうぞ」

 

バーン様はそう仰ると、玉座に戻って行った。

 

「…敵を殺さず、自分の兵に迎えるか」

 

先ほどやったショウギと併せて、かつてバランを受け入れていたバーン様のことを考える。

バーン様は敵には容赦しない反面、ミストバーンのような忠臣からキルバーンなど明らかな獅子身中の虫も手元に置いている。

 

それに引き換え、我輩の駒を見る。

 

こやつらは我輩の思った通りにだけ動く、優秀な駒たちだ。

だが我輩に危機が迫ったとき、この駒たちは何をしてくれるだろうか。

 

完璧と疑っていない我輩の戦法に、ぽっかりと穴が空いたような感覚だった。




皆様のおかげで、いつの間にやらお気に入り件数が5000件を超えることができました。

少年雑誌でいうと四コマ漫画みたいに気楽に読める話を目指しているためこの結果には驚きですが、慢心せず完結まで続けさせていただきます。

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