知らないドラクエ世界で、特技で頑張る   作:鯱出荷

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【第14話】踊る阿呆とよく動く城

----クーラSide----

 

「ガラクタのくせに、しぶといです!」

 

いち早く私が相手をすると宣言したメタルドラゴンだが、装甲を剥がしたり、そこら辺に転がっている壊れた戦車をぶつけてダメージは与えているはず。

それだというのに、メタルドラゴンは依然として動きを止めないでいた。

 

ブレスなど遠距離攻撃がないとはいっても、その巨体で暴れられてかなり手こずっていた。

腐っても、フレイザード様が基本設計をしたことだけはある。

 

「クーラ、お願い!こっちを助けて!」

 

いい加減、刃こぼれしそうだったことから出し惜しみしていた剣を取り出そうとしたとき、マァムから悲鳴のような助けが聞こえる。

 

見るといつの間にかミストバーンが鬼岩城から出ていて、全員を暗黒闘気で縛り付けた上、ヒュンケルに対しては更に闘魔傀儡掌をぶつけていた。

ミストバーンが自身の顔を押さえているが、ヒュンケルが何かしただろうか?

 

「今すぐそちらに行きます。『メタル斬り』!」

 

躊躇せず吹雪の剣と奇跡の剣を取りだし、こちらも暗黒闘気を使ってメタルドラゴンを真っ二つに切り裂く。

いくら頑丈なメタルドラゴンでも、縦に切り裂かれればもう動くことはできないようだ。

 

「あ、暗黒闘気だと!?貴様、神の使いと言われる精霊の自覚があるのか!」

 

ミストバーンが失礼なことを言ってくるので、切りかかりながら答えてやる。

 

「精霊の自覚?そんなもの、あるわけないじゃないですか。私は天界で、異物扱いされていたのです。自身が精霊で良かったなどと思ったことは、一度もありません」

 

攻撃は寸前で避けられたものの、さすがにヒュンケル達を束縛している暗黒闘気の維持はできないらしく、皆を解放することはできた。

そして私の攻撃を避けたミストバーンの背中へ、別の人物が飛びかかる。

 

「隙ありだ!『飛び膝蹴り』!」

 

突然この場に現れたレイザー様の攻撃は予測できなかったらしく、ミストバーンは背後から受けた衝撃に耐えられず、地面に倒れこむ。

 

「邪魔だよ、雨ガッパもどき。今日のような快晴に、お前みたいなてるてる坊主は不要だぞ」

 

「その魔族姿、その台詞…。貴様、フレイザードか!?」

 

「初めましてだよ。俺の知り合いに、死にそうな同僚を踏みつけるような奴はいないよ」

 

「とぼけるな!言っておくが、バーン様はこの事態を予測済みだ。むざむざ殺されに現れるとは、探す手間が省けたがな!」

 

長い間ミストバーンに拘束されていて起き上がれないのか、地面に突っ伏しながらもポップがレイザー様に文句を言う。

 

「というか、来るのが遅すぎだ!俺達が戦っている間、お前何やってたんだよ!?」

 

「魔力がなくて、マホトラ踊りとアイテムで回復してたんだよ。今すぐ傷の手当をしてやるから、許してくれ」

 

いつものこととはいえ、まるで挨拶するかのようにレイザー様は『ハッスルダンス』を踊りだす。

それをミストバーンは鼻で笑う。

 

「無駄だ。いくら貴様の曲芸だろうと、暗黒闘気で受けた傷は回復呪文などでは治療できんぞ」

 

「え?回復してるけど?」

 

レイザー様が当然のように答える。

この中で最も傷が深いヒュンケルを見てみると、明らかに出血が止まり、顔色も良くなってきている。

 

「ば、馬鹿な…。私の暗黒闘気が、こんなものに…」

 

「というよりも、お前には俺の踊りが回復呪文に見えるのか?」

 

「見えてたまるか!そもそも、踊りで傷が治るなど誰が思うか!」

 

あまり顔を合わす機会がなかったとはいえ、激高するミストバーンは初めて見た。

ヒュンケルも治っていく傷に、納得できない様子でぼやく。

 

「ここまでミストバーンに同意したのは、俺も初めてだ…」

 

レイザー様とミストバーンが言い合っていると、その側に突如としてシャドーが現れる。

 

「ミストバーン様。世界の王共の居場所を突き止めました。…どういたしました?」

 

「何でもない!お前は鬼岩城を使い、早く王達を皆殺しにしろ!」

 

ミストバーンに怒鳴られ、シャドーは慌てて姿を消す。

少しして先ほどまで動きを止めていた鬼岩城が、レオナ姫達がいる大礼拝堂に向かって動きだす。

 

「や、やべぇ…!レイザー、クーラ!ミストバーンの相手は俺達がどうにかするから、あの巨人を止めてくれ!」

 

ある程度回復したのか、ポップが叫びながら頼んでくる。

私が鬼岩城に向かって飛ぼうとすると、レイザー様がそれを止める。

 

「鬼岩城の足止めなら、俺一人で十分だ。…まずは下準備に、これを喰らいな!」

 

気合いを込めた雄たけびを上げると、レイザー様が真剣な表情に変わる。

 

「さすがレイザー様。頼りになります。あまりの素敵さに、後光が差しているようです」

 

「目を覚ますんだ、クーラ。あれは後光ではなく実際レイザーは光っているし、どちらかといえば気味が悪い光だ」

 

クロコダインが指摘する。

確かあれは、状態異常を引き起こしやすくする『不気味な光』。相手にルカニでも使うつもりだろうか?

 

「マリン達にもずっと踊ってたから疲れてはいるが…持ってくれよ!俺の大腰筋!」

 

頭に手を置き、レイザー様は軽やかにクネクネと腰を振る。

 

「…」

 

そのレイザー様が踊る光景を、ポップ達やミストバーンは冷めた目で見ている。

だが誰かが次の行動を起こす前に、鬼岩城からシャドーの叫び声が聞こえる。

 

「み、ミストバーン様!鬼岩城の操作が出来ません!お助けください!」

 

今までレイザー様ばかり見ていて気付かなかったが、鬼岩城を見るとレイザー様と同じく、妙に苛立つ動きをしている。

 

「これぞ踊り系特技の代名詞、『誘う踊り』!これで鬼岩城は、俺のダンスパートナーだ!」

 

Y字開脚をしながら、レイザー様はその場で1回転する。

鬼岩城も体に亀裂が走りながらも、それに続く。

 

「や、やめろぉ!バーン様からお預かりしている鬼岩城を、どうするつもりだ!?」

 

「ふははは!このまま踊り壊してやる!…Y字からの~ブリッジ!」

 

「それは周囲の被害がひどいからやめてぇー!」

 

今にも崩れそうな鬼岩城が激しく踊る姿に、ミストバーンだけでなく、味方のマァムからも制止がかかる。

そんな中、疲れたようにクロコダインが呟く。

 

「あの鬼岩城をこんな簡単に止めるとは…。これまでの俺達の苦労は、何だったのか…」

 

なお踊り続けるレイザー様に我慢の限界を迎えたのか、ミストバーンが自身の爪を伸ばす。

 

「昔から貴様は、言ってわかる馬鹿ではなかったか!死ね!」

 

「やらせないぞ!空裂斬!」

 

その爪を、見たことのない剣を背負ったダイが切り落とす。

背負っている剣は使っていないが、どうやら時間稼ぎには成功したようだ。

 

「ダイ!俺達はこのままミストバーンの足止めをするから、あの城を頼む!」

 

光の闘気をまとった槍技を放ちつつ、ヒュンケルが言う。

 

「俺たちではあの城を足止めすることが精いっぱいで、破壊することはできない。だからお前のパワーで、あの城を破壊してくれ!」

 

「ついでに言うと、俺の踊りというか腰があと数分しか持たない。気持ち急いでほしい!」

 

レイザー様が、踊りながら顔に脂汗を浮かべる。

『ハッスルダンス』と違い、今の踊りは自身に体力を回復させる効果がないため、辛そうだ。

 

「…わかった!俺の新しい剣の力、見ててくれ!」

 

ダイがルーラで大礼拝堂に向かう。

ミストバーンがダイを追おうとするが、私が剣で切りつけてそれを制止する。

 

後はダイが鬼岩城を倒すまで、踊るレイザー様を守り切れば、私達の勝ちだ。

そして鬼岩城が真っ二つに切り裂かれたのは、それからすぐのことだった。




『原作では暗黒闘気などで受けた傷は回復呪文では回復しない』→『だったら踊ればいいだろう!』という謎発想が、オリ主が踊りまくる話にする切っ掛けでした。

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