知らないドラクエ世界で、特技で頑張る   作:鯱出荷

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2015/03/06 23:00


【第10話】勇者達は、一目散に逃げ出した

----???Side----

 

予定と違う。

今の心境はその一言だった。

 

話声がした時点で嫌な予感がしたため、『忍び足』を使って部屋の隅に隠れた。

 

(俺は壁、俺は壁、俺は壁…)

 

必死に念じる。

こんなことなら、姿を消す『レムオル』を覚えておくべきだった。

 

「私も持っていない章が何で!?」

 

突然の大声でびくっとしてしまい、机に足をぶつけてしまう。

出てくるよう脅され、無害をアピールしながら表に出ると、翼の生えた女性が飛びついてくる。

 

「フレイザード様!フレイザード様!フレイザード様!」

 

二度と離さないと言わんばかりに自分の足にしがみつき、号泣しながら連呼する。

 

だ、大丈夫。ハッタリのはずだ。まだどうにかなる。まだ誤魔化せる。まだ助かる!

 

「ど…どなたかと勘違いされているのでは?」

 

「私がフレイザード様の挙動を忘れるわけがありません!…私はもう用済みですか?もう手元に置いていただけないのですか?お願いします、捨てないでください。お願いします、お願いします…」

 

靴に額をこすりつけて、懇願してくる。

 

これ以上誤魔化そうにも、ダイ達ですら確信しているようで逃げ場はなかった。

 

「…バルジ島で別れて以来だな。元気そうで本当に良かった。クーラ」

 

 

----レオナSide----

 

「念のため尋ねるけど、あなたは元フレイザードで間違いないのね?」

 

クーラが落ち着くのを待ってから、目の前にいる魔族の男に問いかける。

 

「そうだけど、何か証明しろと言われても困るんだが…。とりあえず、踊ろうか?」

 

「もうその一言で十分よ」

 

世界広しといえども、身分証明を求められて踊る人(?)なんてフレイザードぐらいだろう。

 

「また会えてすごく嬉しいよ。でも、どうやってその姿に?」

 

純粋にフレイザードが生きていたことを喜んでいるダイ君が、元フレイザードに尋ねる。

 

「呪法生命体は、禁呪法を実行した奴の魔力でしか回復しない。だからもし死んだとき、禁呪法実行者以外が強制的に蘇生させたらどうなるかを考えたんだ」

 

そう言って、砕けた腕輪を取り出す。

 

「これは命の石で作った『メガザルの腕輪』。これの半分をフレイザードの石、もう半分は魔族の死体に埋め込んで、フレイザードの方が死んだ際に魔族のほうに魂が転移することに賭けたんだ」

 

「でしたら、なぜ私に話してくれなかったんですか!?それに、魔族の肉体を何時の間にここに移動させたんですか!?」

 

クーラが叫ぶように言う。

 

「実験もしていなかったし、そもそも成功するなんて思わないだろ。俺がメガザルの腕輪を仕込んだのは、短い時間で出来ることがこれだけだったからだよ」

 

どうやらこの結果には、元フレイザードも驚いていたようだ。

 

「それとこの場所は、以前ここにいたモルグさん達を『ニフラム』で供養させるお礼として譲ってもらったんだ。あと移動させたのは、そこにいる賢者の女性にクーラが効きにくいベホマをかけている間、魔族の体と入れている水槽だけはこちらに移動させたんだよ。…どうせ勝っても負けても、研究室は荒らされる気がしたからな」

 

元フレイザードは、一つ一つ答えてくれる。

だがまずはっきりさせたいことがあったらしく、ポップ君が聞く。

 

「それよりも今のお前、なんて呼べばいいんだ?少なくとも、フレイザードじゃないだろ」

 

その質問は予想していなかったらしく、元フレイザードは少し考える。

 

「…『レイザー』。うん、魔族レイザー。これでいこう」

 

ポップ君が捻りのない名前だと茶々を入れるが、現レイザーは気にしてないようだ。

私も今後は、そう呼ぶことにしよう。

 

「それでレイザー。クーラにも聞いているのだけど、あなたはこれからどうしたいの?」

 

「ミストバーンから受けた仕打ちもあるし、そもそも俺の末路は伝えられているはずだから、二度と魔王軍のためには戦う気はないよ。…まずは覚えた呪文と特技がリセットされちまったから、そのリハビリをさせてほしい」

 

「ということは、踊り系の特技も出来なくなったのね!?」

 

それが本当なら、世界にとっての朗報だ。

 

「心配すんな。この体で目覚めてから、いの一番に習得し直したからバッチリだ」

 

「…そう。それは何よりね。本当に良かったわ、本当に」

 

世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりね。

 

「あとリハビリが終わったら…氷炎将軍時代の罪を償いたい」

 

私の目を強く見つめる。

だが、私の答えは一つだった。

 

「何を言ってるか、わからないわ。氷炎将軍フレイザードは勇者ダイによって討たれた。あなたは今まで寝たきりだった魔族。一体何を償うの?」

 

「…おい。そんなんで済むわけにはいかないだろ」

 

「だったら、私達に言ったフレイザードの夢を叶えて。その夢のためには魔王軍を倒さないといけないでしょう?だったら、勇者の手助けをしてあげて」

 

私の言葉に、ダイ君も続く。

 

「俺からも頼むよ。あのとき見せてもらった技を使える人が味方になってくれるなら、すごい心強いしさ」

 

回答に困っているレイザーに向かって、横からマリンが口出しする。

 

「姫様。他に何もないんだったら、私からも言わせてください。…レイザーさん。クーラちゃんはフレイザードさんの遺言を叶えるために、ずっと怖いのを我慢してたんです」

 

クーラのことをマリンが抱きしめながら言う。

 

「もうクーラちゃんを寂しがらせないでください。この子はあなたに初めて優しくされたとか関係なく、あなたのことが大切なんです」

 

「…わかった。クーラに嫌がられるまでは、ずっといることを誓うよ」

 

レイザーとマリンが話す中、ふとクーラがダーマの書に挟んであった用紙に気づく。

それはレイザーが書いていた、今後の予定表だった。

 

【今後の予定(仮)】

1.呪文と特技を覚え直す。

2.未完成のダーマの書(特に上級職)を完成させる。

3.その間にクーラがこの場所に気づけば、一緒に行動する。

4.来ない場合は一人で旅に出て、特技を覚えつつ、腕試しをしていく。

5.酒場などで、踊り系の技を身につけてくれる弟子を探す。(出来ればかわいい子)

6.ついでに道中、おすすめの『パフでパフ』な店を回る。

 

「………」

 

黒いオーラがクーラの周囲から出てるような気がするが、ダイ君やポップ君も後ずさりしているため、気のせいではないようだ。

 

クーラが何気なく正面に手を差し伸べると、糸状の物が出て、レイザーの体の自由を奪う。

その技にダイ君が驚く。

 

「これは…『闘魔傀儡掌』!?」

 

「えぇ。以前見たことがある、ミストバーンの技です。今の私なら出来る気がしたんです」

 

「で、出来るような気がして出来る技じゃ…」

 

黙らせるようにクーラがグッと力を入れると、レイザーの悲鳴が3割ぐらい大きくなった。

レイザーが痛みを訴える中、クーラは私に宣言する。

 

「レオナ姫。私がしたいことが見つかりました。フレイ…いえ、レイザー様と一緒に技を磨く旅に出ます。そしてお役に立てる自信がついたら、必ず勇者の元へ駆けつけます」

 

「…わかったわ。それじゃ、ここで一旦お別れね。約束通り、力を取り戻したら勇者の助けになるのよ」

 

レイザーが「今は二人にしないで!」とか言っているが、せっかくの再会をこれ以上邪魔するわけにもいかないだろう。

ダイ君達と慌てて扉から退出する中、クーラがマリンに声をかける。

 

「マリン。その…今日までありがとうございます。良ければ、これからも私の友達でいてくれませんか?」

 

「…もちろん!レイザーさんとこれから元気でね。次に会える日を、楽しみにしてるわ」

 

言い終わったのを確認して扉を閉める。

中から「ぬわーーっっ!!」と悲鳴が聞こえた気がするが、大したことはないだろう。




【6話から10話までのあらすじ】
・おめでとう!『氷炎将軍フレイザード』は、『魔族レイザー』に進化した!
・やったねクーラちゃん!暗黒闘気を覚えたよ!

【あとがきという名の言い訳】
色々ありましたが、オリ主は魔族に転生致しました。

フレイザードのまま物語を進めることをご期待された方が多く申し訳ないのですが、当初から魔族に転生することを想定していたため、路線変更は難しく、変更せずに進めました。

またフレイザードとクーラの変化は、これぐらいしないとバーン戦で戦力にならないと思ったためです。

【追記】
次回以降の更新は、1週間に1~2話程度になる予定です。

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