今回の話で、2名から誤字脱字のご指摘をいただきました。
いつもありがとうございます。
----クーラSide----
フレイザード様がいなくなって、初めての朝を迎えた。
麻痺になりながら全てを聞いていた私はフレイザード様が言われた通り、それぞれ数冊ある特技の書物をアバンの使徒に差し出した。
書物の名前は「ダーマの書」。フレイザード様曰く、特技をつかさどる由緒ある施設の名前らしい。
それはフレイザード様の指示のもと、職業ごとに「戦士の章」「商人の章」などに私が分けて保存したものだ。
…『ハッスルダンス』など、何を言ってるかわからない箇所については白紙だが。
これらは前もって私に預けられていた袋に入っていた物で、研究所にも行ってみたが、恐らくザボエラかミストバーンの仕業だろう。
そこには何も残っていなかった。
そして無事魔王軍を退け、マリンという賢者を助け出したことの祝宴が開かれたことまでが昨日の出来事だった。
人間に処刑されると思った私だが、アバンの使徒やレオナ姫が集まった人間に、私がこれまでどんな目にあったか説明してかばってくれた。
もっとも一番効果があったのは、昨晩の宴の間ずっと側にいて、今もくしで私の髪や羽をといている女性のおかげだろう。
「クーラちゃんの髪の毛、サラッサラ~♪翼の羽もフワッフワ~♪」
その女性は、私が氷漬けにしたマリンだった。
どうやら氷漬けにされていても意識はあったらしく、フレイザード様との会話も、私が『氷炎結界呪法』で効果が薄いベホマをかけ続けていたことも全てわかっていたとのことだ。
そしてなぜそうなったのかは不明だが、私を悪意から守ってあげなくてはいけない存在だと思ったらしい。
実際、氷から溶かされてまず彼女がしたことは、私にキアリクをかけることだった。
「ねぇ、クーラちゃん?…この後どうしたいか、決まった?」
それは昨日からずっと、レオナ姫を始め、多くの人間に言われていることだった。
私は処刑などによって罪を償うため連れてこられたと思ったが、罪を償うのは人間で、私は被害者だという。
そして人間が魔王軍との戦いを終えて、罪を償うことができるようになるまで、自分から人間を傷つけるようなことをしない限り、自由に生きて構わないと言われた。
その際「先立つ物が必要だろう」とこの世界のお金をもらい、使い方と物の値段を教えてもらった。
旅立とうと思えばいつでも出発できるが、今でも人間は恐怖でしかなく、フレイザード様がいない世界なんか正直どうでもいい。
だけど…
「…フレイザード様と作った特技を、後世に残すために生きます」
ここで私がいなくなれば、フレイザード様が作った物は本当にこの世界から消えてしまう。
だからこそマリンに協力してもらいながら、アバンの使徒や他の人間にダーマの書を読んでもらえるよう、頼み込んだ。
その結果ヒュンケルやクロコダインなど、多くの人物が興味を持ってくれたため、すぐ複製してもらえることが決まり、即座に廃れるということだけは免れそうだった。
特にヒュンケルやマァムは道すがら読むということで、それぞれ「戦士の章」「武闘家の章」を受け取ってくれた。
「そっか。…そういえばフレイザードさんが作った特技って、戦闘以外で使える物はあるの?」
マリン曰く、日常で使えるホイミのような物があれば普及しやすいらしい。
そういった物も、あることはある。『インパス』や『タカの目』、後は…『レミラーマ』。
フレイザード様と初めて、研究成果として披露した呪文。
----レオナSide----
胸糞悪い。
今の私の心境はその一言だった。
「レ、レオナ…。何だか怖いよ?」
ダイ君はそう言うが、それぐらいでこの気分は晴れなかった。
改めて旅人など多くの人からクーラが人間から受けた仕打ちを聞いたが、曰く「食事は見物客が檻に投げ込む野菜や果物だけだった」、曰く「むしり取った羽は神からの加護として売られていた」など、碌でもないことばかりだった。
挙句の果てにクーラ受け入れに反対する人間が、オーザム王国産の「天使の羽帽子」をかぶっていたときは、人前にも関わらずぶん殴るところだった。
なんとか我慢して大声で罵倒するだけに留めたが、それでもイライラは収まらない。
そうしていると、マリンとその後ろに隠れるようにしているクーラが近づいてきた。
「姫様、今お時間よろしいでしょうか?」
問題ないことを伝えると、クーラがおずおずとパプニカ周辺の地図を取り出し、行きたい場所があると言ってきた。
「私の『レミラーマ』は、本人が探している物の場所を教える呪文なんです。先ほどフレイザード様を思い浮かべてその呪文を唱えたところ、私が行ったことのない、この場所が光ったんです」
そう言って、地図を指差す。
「は?そこって…」
その場所に、ポップ君は心当たりがあるようだった。
----ポップSide----
「まさか、またここに来るとは思わなかったぜ。…そういえばフレイザードの奴に会ったのは、ここが初めてだったな」
クーラが示した場所は、不死騎団元アジトの地底魔城だった。
さすがにクーラ一人で行かせるのは危ないということで、俺とダイと自称クーラの親友のマリン、そしてストレスで限界だというレオナ姫が同行することとなった。
「思えば初めて会ったときから、フレイザードは俺達と敵対する様子がなかったなぁ…」
ダイも思い出すように呟く。
ちなみに地底魔城にはモンスターは存在せず、クーラが言うにはフレイザードと同じで、魔力の提供が断たれたのではないかとのことだ。
「レミラーマ。…次はこちらのようです」
クーラが曲がり角の度に呪文を唱え、道案内をする。
「それにしても便利な呪文だな…。師匠に聞いたら、教えてくれっかな?」
俺の呟きにクーラは袋からダーマの書を取り出し、ページをめくる。
「…ありました。これは『盗賊の章』に書かれている呪文ですね。魔法使いでは知らないかもしれません」
開いたページをこちらに見せてくれる。
その態度は冷静を装っているが、目は泳いでいて、どこか怯えが含まれていた。
怯えるクール系美女。…新しい何かに目覚めてしまいそうだ。
余計なことを考えていると、思いっきりマリンに足を踏まれる。
「ポップ君?私の親友に、変なこと考えてない?」
痛みに耐えながら、「滅相もございません」と答える。
やがて突きあたりの扉に着くと、念のため再度レミラーマを唱える。
「ここが目的地で間違いないようですね。…開けますよ?」
言っているクーラ自身が誰よりも緊張した様子で、扉を開く。
そこにあったのは大きな水槽と、机一つに本があるだけの書室だった。
その水槽にクーラは見覚えがあったらしい。
「これは、なぜここに?…そもそも蘇生液に漬けていた中身はどこに?」
頭に大きな「?」を浮かべながら、クーラは水槽の周囲を見回す。
調べている間、手持無沙汰だった俺は机の本を手に取ってみると、あることに気づく。
「あれ?これ、ダーマの書じゃねぇ?」
表装はクーラが持っている物と違うが、特技の説明や習得の手順は類似していた。
その本をクーラが奪い取る。
「これは…『遊び人の章』!?私も持っていない章が何で!?」
急に大声を出したせいだろう。
今まで気にしていなかった部屋の隅で、「ガタッ」という物音が聞こえた。
とっさにダイが剣を抜き、マリンが呪文を放つ姿勢を取る。
「誰だ!?」
威嚇する雰囲気を感じたのか、渋々部屋の死角となっていた場所から、両手をあげて魔族の男が出てきた。
「怪しい者じゃないよ。ただ急に人が来たから、隠れていただけさ」
そう話す人物に向かって、突然クーラが飛びかかった。
シリアスはようやく次回で終わり。
書き溜めすると言ったのは、シリアス路線に変更したと勘違いされないためと、このオチが安易に予想できるので一気に放出したかったためです。