こういうのって、一人一人お礼を言って回った方が良いのだろうか……?
ともあれ、コメントやお気に入りありがとうございます^_^
意識が現実を離れ、仮想世界へと連れ込まれる。
まず行うのは、アカウント登録。名前と容姿を自分で決め、仮想世界での俺となる、アバターを作成するのだ。
とにかく早くSAOの世界に入りたい俺は、名前を『hachiman』と捻りもなにもないものにし、顔や髪型も軽くいじると、決定ボタンを押す。
これでアバターが完成し、ようやくSAOへと足を踏み入れる。
視界がホワイトアウトしたかと思うと、そこは石造りの広場だった。おお、小町よ。ついにお兄ちゃんは、異世界へやって来たぞ。
「おおー、すげー!」
俺のすぐ後に、この広場に現れた少年が素直な感想を述べる。いやはや、全く俺も同意見だ。壮大というか、細かいところまで作り込まれていて、よく処理落ちしないな。そんな感想しか出ないのかよ。
あれだ、一番立派な建物に雪ノ下とか住んでそうな感じだ。パンが無ければお菓子を食べれば良いのに、とか言ってそう。実際、あの時代はパンに使う小麦粉より、お菓子に使う小麦粉の方が安かったらしい。これ、豆知識な。
おっと、いかんいかん。このままでは、この世界に来ただけで満足してしまう。折角だから、できるだけ満喫しよう。
試しにフィールドで、mobを狩ってみても良いが、SAOには《ソードスキル》なるシステムがあるらしい。どうせなら、ソードスキルを使ってmobを快適かつ効率的に狩りたい。
となれば、必要なのは情報だ。このゲームにはチュートリアルらしいチュートリアルが存在しないようで、初心者にはあまり優しくないゲームだ。始まってすぐにフィールドに出て、まともに狩りができるのは千人のβテスターくらいのものだろう。
俺のようなニューピーは、そのβテスターに教えを請うか、地道にNPCから情報を貰うかの二択だ。そして、プロのボッチである俺に、ネット上とはいえ見ず知らずの人間に、話しかけるようなコミュ力は無い。
それから二時間ほど、だだっ広い《はじまりの街》を走り回った。成果はそこそこだな。クエストの受け方や、アイテムの説明など様々な情報が手に入った。
ただ、ソードスキルに関しては、イマイチだった。やはり自分で体を動かしてみるしかない、ということだろう。
・ ・ ・
「ふんっ」
フィールドに出て、どれくらい経ったか。未だ、ソードスキルを完璧に身に付けたとは言い難い。たまになら発動するが、百パーセントではない。
やっぱり、独力には限界があるかと考え始めた頃、俺のいる丘の下に二人のプレイヤーを発見した。赤髪と黒髪の男達は、青いイノシシ型のmob《フレンジーボア》を狩っていた。
というより、黒髪の男が赤髪の男にレクチャーをしている。よし、百八のボッチアーツの一つ、気配を完全に消した上での盗み見を使わせてもらおう。
それから、数分彼らの行動を観察し、ソードスキルのノウハウを得た。なるほど、溜めが必要だったのか。こういう技術面は、サービス開始前にネット検索をした時には無かった情報だからな。
ふと時計を見ると、時間は十七時二十五分。おお、四時間以上もゲームに熱中していたのか。そろそろログアウトしないと、小町がうるさいかもしれない。
そう思ってメニューを開き、ログアウトボタンを探す。しかし、いくら探そうと、見つかることはなかった。
……どういうことだ?バグか?いや、もしバグなら、俺よりも早く気付いた人間がいるはずだ。VRMMOは、完全にゲーム世界に入り込むため、フルダイブ酔いという症状が、個人差はあれど発症する。
俺は比較的軽い方だったから、四時間もぶっ続けでプレイできたが、そうじゃない人もいる。確実にその人達がGMに連絡を入れているだろう。
これだけのバグだ、全プレイヤーにメッセージが飛んでくる自体になるだろう。俺だけ忘れられてるとかじゃないよね?
他の可能性を考えていると、いきなり視界が変わる。ここは……、はじまりの街の中央広場?訳が分からず周りを見ると、俺と同じように混乱しているプレイヤーが山ほどいる。これ、全プレイヤーが集まってるんじゃないのか?
混乱の中、空が赤く染まっていく。そこから、このSAOの正式サービスの《チュートリアル》が始まった。
そこからは、あまり覚えていない。現実を受け入れきれずに、脳がパンクしたようだ。いきなり、「この世界での死は、現実での死ということだ」なんて言われても、ついていけるわけがない。
死ぬと言われて、頭に浮かんできたのは、小町・母ちゃん・親父・カマクラ。それに、戸塚や平塚先生。そして、雪ノ下と由比ヶ浜。
俺は、帰らなければならない。小町、お兄ちゃん働きたくないとか言ってる場合じゃなくなったよ。正直、俺一人ががんばったところで、ゲームのクリアが早まるわけじゃないだろう。
けれど、じっとしていることなんてできない。一刻も早く、百層のダンジョンをクリアして、現実に戻らなければならない。周りのプレイヤーは、顔や性別がリアルのものになったと騒いでいたが、顔見知りのいない俺には関係無い。
必ず戻る。お前らを悲しませはしない。そう決意して、俺は広場から走り出す。