ソードボッチ・オンライン   作:ケロ助

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たとえばこんなストーリー、その後

ここで突然だが、このフルダイブ型VRMMORPG『ソードアート・オンライン』のパーティーシステムについておさらいしてみよう。

 

俺がこのシステムを初めて利用したのは、第一層ボス攻略会議でキリトに誘われた時だ。ウインドウから招待したい相手に送ることができ、送られた側が眼前に出現したメッセージウインドウで応じることで、パーティーを組むことができる。

 

パーティーを組めば、モンスターを倒した際の経験値やコルなどが、メンバー全員に分配される。

 

このパーティーの最大人数は六人。その上に更にレイドというシステムがあり、これは八パーティー、四十八人までとなる。中々の大所帯だ。

 

結局、俺が何を言いたいのかというと、俺が所属している『月夜の黒猫団』のメンバーは俺を入れて全部で七人。ケイタ・テツオ・ササマル・ダッカー・サチ・キリト、そして俺だ。パーティーを組むには一人多い。

 

ならば黒猫団の中で最もレベルが低く、プレイヤースキルも突出したもののない彼女に、最近購入したプレイヤーホームで大人しく待っていろ、と言うのは間違っているだろうか?

 

「いやだから、帯に短し襷に長しっつーか……二パーティーに分けると効率が悪いし、危険度も増す。ならお前が戦う必要もねぇだろ」

 

「でも……」

 

ようやく戦わなくてもよくなったというのに、表情の優れないサチ。自分の身体を抱き締めるサチに、ギルドリーダーのケイタがフォローを入れる。

 

「大丈夫だって、サチ。前衛はキリトとハチマンがいれば充分過ぎるくらいだし、お前は戦うのも嫌いだったろ?」

 

「つーか、サチは鈍臭いからあんまし戦力にならなかったしなー」

 

「もー、何それー?ひっどいなー」

 

ダッカーなんかに貶されたサチは、口に軽く手を当てて笑う。普段なら頬を膨らまして怒るところだが、今回ばかりはその軽口に少し気が楽になったのだろう。ダッカーも戦闘ではあまり役に立っていないが、今回はほんの少し役に立ったらしい。

 

「でもやっぱり、私だけ何もしないなんてできないよ。……み、みんなが命懸けで戦うなら、私も……」

 

「だからー、お前がいた方が危険なこともあんだって」

 

分かんないかなー、とダッカー。だからー、お前の方が危険なんだけどな。あの事件の後、ダッカーが泣いてもキリトが説教を止めなかったのは記憶に新しい。

 

「なら、サチにはホームの管理とか夕飯とか頼みたいんだけど、それじゃ駄目か?」

 

人差し指を立て、キリトが提案する。なるほど、それは妙案だな。

 

「確かに、今は金も無いしな。作ってくれるなら、外に食いに出るより安上がりだろ」

 

全員のコルを合わせてギルドホームを購入したが、そのお陰で俺たちは今素寒貧だ。ダンジョンに潜れば金は稼げるが、今この面子でいけるようなダンジョンではそこまで稼ぎは良くない。加えて武具のメンテ代も必要になる。このデスゲームで武具の出費をケチることは命取りになるからな。

 

ダンジョンから帰ってきた後に外出とか絶対にしたくないし。

 

「良いじゃん、なんなら弁当とかも作ってもらえたら嬉しいし」

 

なーと、ササマルに同調するテツオ。

 

「う、うん……」

 

それでもサチは納得がいかないらしく、歯切りの悪い返事をする。ここで援護射撃をしておくか。

 

「あれだ、安全っちゃ安全だが、家事清掃って結構大変だしな。現実で専業主婦の仕事を年収に換算したら、大体千二百万くらいになるらしいし」

 

ここで働くとなると、大半は命懸けになる。俺は外に出ず専業主夫として圏内でゆっくりしたいが、そういうわけにもいかないから、今現在パーティーを組んで戦っているわけだが。

 

「えっと……」

 

「ハチマン……」

 

「あ?」

 

呼ばれた方を向くと、何故か全員が困ったような、照れたような表情を並べている。サチに至ってはアワアワと顔を赤らめて、慌てふためいている。

 

もしかして、風邪でも引いたのか?それはないな、ゲームだし。

 

状況が掴めずにいると、ケイタがつかつかと歩いてきた。そして俺の両肩に手を置いて一言。

 

「お前に娘はやらん」

 

「なんの話だよ」

 

「一度やってみたかったんだよね」

 

いや、むしろお前はこれからそれを言いにいく世代だろ。カラカラと笑うケイタの背中を、サチがポコポコと叩いている。

 

「いやぁ、ハチマンも中々やるな。どさくさに紛れてプロポーズとは!」

 

「なー!」

 

おいおい、なんだよ俺。いつの間にプロポーズなんてしちゃったんだよやるなこいつー……ってなるか。

 

「してねぇだろ……。つーかどの言葉でそうなった?」

 

「専業主婦とか言ってたじゃん」

 

「曲解し過ぎだろ。あくまで喩えとして出しただけだ。お前らヤブ蚊かなんかなの?」

 

ササマルの言に即座に切り返す。あれをプロポーズとして捉えられては、俺は今後自分の夢を語ることができなくなる。何を発言しても叩かれてしまう。有名人の辛いところだ。

 

大体、そんなことを言ってしまえばキリトの方がよっぽどだ。以前鼠がケタケタ笑いながら、キリトとアスナの半同棲生活を話していた。それも黒猫団に入る少し前までは行動を共にしていたのだから、少なくとも半年近くは二人きりだったはずだ。

 

何故離れたのかまでは知らないが。

 

「とりあえず、ダンジョンに行かないと時間無くなるぞ」

 

キリトが空を指差す。無駄話をしている間に太陽が真上まで昇っていた。ウインドウなどで確認するまでもなく、結構時間が経っている。

 

「おー、じゃあ出発しようぜー。サチは今日は大人しく留守番してな。話は帰ってきてからだ」

 

「う、うん……」

 

テツオが言い残して歩き出すと、ケイタたちも動く。俺はその後に続いて歩き始める。

 

「……みんな、いってらっしゃい!」

 

あまり似合わないサチの大声に、俺たちは振り返る。そして顔を見合わせると、全員で声を揃えて返す。

 

「いってきます!」

 

「……ます」

 

俺が遅れたのは、慣れていないからとしか言いようがない。ぼっちの俺では鍛えようのないシステム外スキルだったのだから、仕方がない。忘れよう。

 

そして再び転移門に向かって歩き始めた俺の左腕を、何かが掴む。サチだ。

 

彼女は顔を耳元に寄せてくると、静かな声で囁いた。

 

「…………ッ!」

 

俺は思わず耳を押さえ、サチを見る。サチは薄く笑うと、ホームの方へ駆けていった。

 

一方俺は未だ動けずにいる。電脳世界のアバターであるはずなのに、18歳。〜ちっちゃなムネのドキドキ〜が激しい。

 

「ハチマンー?」

 

「お、おう……」

 

キリトに呼ばれ、ようやく歩き出す。

 

なんだよ、最近ちゃんと仕事してるじゃん、ラブコメの神様。

 




戦いの最中ですが、小休止として短めのを更新してみました。サチ派の人がいると嬉しい。

しかしラブコメ苦手だな……。主人公の性格のイメージの問題もあるけど。

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