急いで書いたので、内容が薄い……いつものことか。
実の娘に国を盗られ、さらには自分に協力してくれた末娘も戦いの最中失った悲劇の老王リアは、こう言った。
『お前の光は、今、何処にある。』
ボスに剣を折られ、さらには自分が救った少女に裏切られサチに正座で説教されている俺は、こう言おう。
『お前の
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結局武器を買う時間はなく、いや正確には棒きれみたいな武器(しかもなぜか刺突剣)を買わされ、「買ったよね?じゃあ帰ってゆっくり楽しくお話できるね」と笑顔で連れて帰られ、自室で正座の真っ最中。
とりあえずサチの眼が怖い。まるでゴミを見る眼だが、恐らくこれはSAOの感情の過剰表現が理由だろう。本来なら彼女の眼はゴミ虫を見下す程度のものだったはずだ。いや変わらねぇな。
「ハチマンが気を失ってキリトに背負われて帰ってきたとき、私がどんな気持ちだったか分かりますか?」
床に正座をしている俺の前で、ベッドの上で正座するサチ。腕を組んで怒っているアピールなのだろうが、基本的に強く出ることが苦手なのだろう。どこかぎこちない。ベッドの上で正座の意味あんの?
「ハチマン?」
「いや、あれだろ。その……みっともない、みたいな」
自分で言って悲しくなってきた。というかキリトにおぶられたのかよ。まだクラインとかにおぶられた方がマシだったぞ。
「そんなこと思ってません。確かにあとでハチマンに取り巻きの小さい蟻にやられたって聞いたときは、だから行かなきゃよかったのにって思ったけど……」
「思ってんじゃねぇか……」
「うっ……」
サチは居心地が悪そうに体を捩る。よし、ここからは俺のターン!
「つかそもそもボス攻略に行った時点である程度の危険はつきものだったわけで、ボスにやられてようが取り巻きにやられてようが似たようなものだろ。つまりわざわざ詳細を仔細に詳らかに語る必要はない。話はここまでだ、俺は用があるから」
「誤魔化されないよ。それに最後の方同じ意味だから」
チャンスとばかりに攻勢に回り、そのまま逃げようとしたが無駄だった。肩を押さえられ立ち上がることすら叶わない。
「……ハチマン、君が優しいのはいいことだと思うけど……私、心配だよ」
「……優しいわけじゃねぇよ。ただ、あの場でそれができたのが俺だけだったから、俺がやっただけだ……」
「そうかも、しれないね……」
サチはそう言うと俯いてしまう。……また俺は彼女にそんな顔をさせてしまった。しかもその上、俺は彼女になにもしてやることができない。彼女が求めるものを、俺は持ち合わせていない。
この虚構の世界で、俺がなにより嫌ったはずの欺瞞だらけの世界で彼女が、そして俺が求めてやまないものは決して手に入ることはないのだろう。
そして、俺にはそれを求める資格もない。
・ ・ ・
サチの説教も終わり(あの後急に怒りが再燃したらしく結局めちゃくちゃ怒られた)、今は改めて武器を買いに三十層主街区にいる。
昼間には二軒ほどしか見れていないため、一軒一軒に大した時間はかけず、手早く武器を見て回る。
どこも性能が普通な上に、結構なお値段がする。これなら予備武器でモンスタードロップ粘ったほうがいいんじゃねぇの……。
レベル上げも兼ねて、三十層のフィールドを散策するという結論に至り、手に取っていた武器を置く。そのまま踵を返し店の入り口に向かって歩き出すと、NPCの店主がムッとした表情で「冷やかしかよ」とぼやく。
すいませんねと心の中で謝りながら入り口の扉を開け放つと、丁度店内に入ろうとしていた人物とぶつかりそうになる。
「おっと、すまん……って、あんさんかい」
軽く手を上げ、謝罪をしてきた人物を見て、俺は一瞬固まる。この特徴的な髪型、関西訛り。昨日の攻略にも姿を見せていた攻略ギルド《アインクラッド解放軍》、通称《軍》のリーダー、キバオウだ。
とにかくこの場を立ち去るため、俺はうすと軽く会釈してキバオウの横を通り過ぎるが、やはりというか、呼び止められてしまった。
「おい、
……その渾名まだ使ってる人いたんだな。呼ばれることないからもう廃れたのかと思ってた。
「ふん、黙りかい。ならワイは好きに喋らせてもらうで」
「……なんだよ」
「ワイはあんさんのことなんて恨んでへん。ついでに全く気にも止めてへん」
「…………」
「あの場におったプレイヤーがまだあんさんのことを恨んどるなんて、自意識過剰やで。……ただ、ワイは個人的にあんさんが嫌いやけどな」
言うだけいうとキバオウはふんと鼻を鳴らし、店の奥へ消えていった。自意識過剰という言葉だけが、なぜか胸の奥につっかえた気がした。
・ ・ ・
「メテオ・フォール」
決められたポーズを取り、スキルを発動させる。ソードスキル《メテオ・フォール》。右切り上げ左切り上げときて、最後に唐竹で止めを刺す三連撃。
一応範囲攻撃ではあるが、どちらかといえばHPの多いモンスを確実に倒す技だ。
俺が今メテオ・フォールで倒したのは、《デス・ハウンド》。よくいる犬型のモンスターだ。ただ、群体動物なだけあって昨日の蟻ほどではないにしろ、かなりの数が集まってくる。
しかも、俺の苦手なスピードタイプで、結構本気で苦戦している。武器も予備なため範囲攻撃では削りきれないし、アバランシュのような範囲の狭い攻撃はほとんど当たらない。まずいな、逃げるか……。
俺はドッグデイズからダブルダッシュで逃げるため武器をしまう。隙の小さい体術スキルで道を開けさせ、そこから逃げ出す。そう計画立てて、今から実行に移そうと構えを取ったとき、目の前のデス・ハウンドが真っ二つに叩き斬られる。
ぽかんと呆気にとられていると、次々にハウンドたちが倒されていく。
「これはこれは、珍しい。大事ないかね?」
赤い鎧の騎士団長、ヒースクリフの姿がそこにあった。珍しいとかこっちの台詞だっての。今日は知り合いに会いすぎだろ、厄日か?というか、団長も副団長も単独行動しすぎじゃない?
待機していた体術スキルを解除して、息を吐く。
「ども。じゃあ俺はもう帰るんで……」
「君の話は少し聞かせてもらった」
「……はぁ」
圏外だというのに、ゆったりと会話を始めるヒースクリフ。聞いたというのは、恐らくアスナから第一層の話をだろう。彼女があの件をどう考えているかは知らないが。
そもそも、あれは俺が俺のためにやったことであって、鼠やキリトが曲解している節がある。アスナは二十九層で再会するまで怒っていたが。むしろあそこで怒らせたまである。
「君のやり方は実に興味深い。実際、今日までβテスターとビギナーがここまでうまく連携を取れているのは、君の功績と言っていいだろう」
「…………」
「だが君は思いの外脆いようだ。そのような手段を選ぶわりには、ね。それとも、今まではそのか弱さを補う心の支えがあったのか……」
ヒースクリフは微笑を浮かべる。
「ただ、君のやり方はこの世界に向いていないな、この世界で必要なのは力だ。今の君のやり方では、いつか本当に救いたい人間を救うことはできないだろう」
いつかの平塚先生と同じことを言ったヒースクリフは、軽く手を振りながら去っていく。
「……うるせぇよ」
広野で独り言ちる。
本当に救いたい人間どころか、俺は結局誰も救ってなどいない。誰も、救えない。
本当に、救えない。
はい、今回のヒロインはキバオウさんでしたね。キバオウさんは25層で軍が大打撃を受けてから、前線には出張ってないそうですが、見逃してくださいマジで。