ソードボッチ・オンライン   作:ケロ助

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インターバル回?になります。息抜き息抜き。


第13話

つい昨日、攻略組は第二十九層のフロアボスを撃破し、とうとう第三十層へと到達した。

 

俺は今、三十層主街区《ワインガ》を歩いている。三十番代到達ということで、街中はかなりの賑わいを見せている。和気あいあいとする人々を見ていると、ここがデスゲームだということを忘れそうだ。

 

あふれ返る人波の中、ゆっくりとしか動けないが目的地へと向かう。それにしても多いな……。ふはは、人がゴミのようだー!と高いところで叫びたくなるくらい多い。

 

俺がこんなバーゲン中のスーパーの一角みたいな場所にいるのには、もちろん理由がある。昨日のボス攻略中に折れてしまった両手剣《カタフラクト》の代わりを見繕いにきたのだ。

 

予備がないわけではないのだが、あれはモンスタードロップで他の物より数段性能が高かった。だからこそ愛用していたのだが、折れてしまったものはしょうがない。

 

諦めて予備を使おうとしたところ、キリトの「開放された最前線の武器屋を回るとたまに掘り出し物がある」という助言で、掘り出し物を探してみることにした。

 

「あ、ハチマン。あっちのあのお店じゃない?」

 

「ん?あ、ああ」

 

くいくいと袖を引っ張られ、その方向を見る。引いたのは半歩後ろを歩いていたサチだ。確かに武器屋のようだ。このままでは流されてしまうので、強引に店の方角へ歩いていく。

 

「ちょっ、置いていかないでよ?私道とか分かんないよ……」

 

不安そうに俺の腕を掴むサチ。確かにこの人ごみじゃ、道もなにもあったもんじゃないが。

 

「なら先に戻ってていいぞ。多分この層でお前が装備できるものはないだろ。まだ要求値を満たせないんじゃないか?」

 

サチのレベルを考えると、この階層で買ったとしても、装備できるほどステータスが高くないだろう。元々俺が武器を買いに行くということで、ついでにサチの武器を見繕ってやれとキリトたちに言われたから一緒にいるが、この層では意味はない。

 

後からこっそり「看病してもらったんだから、そのお礼とかしとけ」とケイタに耳打ちされた。つまり、俺のポケットマネーで武器を買ってやれってことらしい。別にいいけどさ。

 

「ううん。ハチマンと一緒に歩くの楽しいし」

 

「……そ、そうか」

 

ふわりと笑うサチに、不覚にもドキッとしてしまった。くっそ、勘違いしちゃうだろうが。こいつ俺のこと好きなんじゃないの……。

 

まぁ、実際はそんなことないんだろうけど。これだから過敏症は困る。多分、本人には自覚はないだろうし、実際なにも無いのだ。けれど、そこに意味を見つけようとする。過剰に反応してしまう。

 

きっとアレルギー反応みたいなものだ。なんともないことを、異常だと誤診して過敏に反応する。アレグラでどうにかなんないかしら……。

 

「おう、ポチ」

 

武器屋の前には、頰におヒゲを描いた少女が佇んでいた。というか鼠だった。俺はおうと軽く手を上げ、挨拶を返す。

 

「サッチーも久しぶりだナ」

 

「こんにちは、アルゴさん」

 

意外なことに、彼女らには面識があったらしい。そんな俺の視線に気付いたのか、鼠はニヤリと笑うと掌を差し出してくる。知りたければ金を寄越せという意味だろう。こいつは誰がどんな情報を買ったか、という情報も売るからな。

 

「だ、駄目だよ!ハチマンには教えちゃ駄目!」

 

慌てて鼠の口を押さえるサチ。いや、別にお金払って聞いたりしませんよ?というか鼠が窒息……いや、圏内だから大丈夫か。

 

「分かっタ!分かったからやめロ!……ごほん!今日はキー坊に頼まれて、ポチの新しい武器探しに協力しにきただけだからナ。ほれ、これが武器屋のリストダ」

 

鼠から一枚の羊皮紙を受け取る。よくもまぁ、開放から一日でこれだけ調べ上げたもんだな。リストの店は二十件ほど。その全てがNPC店だ。流石に一日で最前線に店を構えるやつはいないか。

 

「情報料はキリトにツケといてくれ。というか、その紙もキリトに渡しておいてくれればよかったのに。むしろなんで直接来ちゃったの?」

 

「オレっちのことどんだけ嫌いなんだよ……」

 

「ハチマン……」

 

サッチーがドン引きしていた。いや、そうは言いますけどね?半年もぼったくられ続け、弱みを探られ続けたらこうなるよ。こいつ誘導尋問半端ねぇから。

 

「まぁいイ。せっかくサッチーがデートを楽しんでるみたいだしナ。オレっちも野暮じゃなイ。じゃあナ」

 

「いや、デートとかじゃないから……」

 

言うだけ言って、鼠はとっとと立ち去る。本当に紙だけ渡しにきたのかよ……。実はいい奴なの?そういえば、この前のアスナとの鉢合わせの件聞くの忘れてたな。

 

「じゃあ、行こっか」

 

「おう」

 

・ ・ ・

 

二店舗ほど周り、武器の品定めをしていると、同じように武器を品定めしていたサチが思い出したように聞いてきた。

 

「ねぇ、ハチマンって職人になろうとは思わなかったの?」

 

「あ?なんだよ急に」

 

「だって、ハチマン戦うの嫌がるじゃない。ボスもできるだけ参加しないようにしてたって聞いたし……」

 

二十八層でばっくれたことや、二十九層で帰ろうとしたことを聞いたらしい。

 

「いや、なんつーか先立つものがなくてだな」

 

主に鼠女のせいで。俺が生産系スキルの存在を知った時には、すでにオレンジで鼠のカモだったからな……。

 

「そ、そうなんだ。じゃあ、アルゴさんと同じ情報屋になろうとか思わなかったの?それなら特別なスキルとかも必要ないし……」

 

「いや、ある意味システム外スキルが必要になってくる。むしろ、俺に一番足りないスキルが必要だ」

 

コミュニケーションスキルとか。実際、一層の頃に少し考えたが、大勢の見知らぬプレイヤーに話を聞いて回ったり、NPCを探して回ったりとか、そっちの方が無理だ。そもそも、鼠がいる時点でシェアを奪える自信がない。

 

サチは苦笑を浮かべながら「そ、そうだね……」と言葉を漏らしていた。

 

「あ」

 

「ん?」

 

背後から聞こえてきた声に、俺とサチは同時に振り向く。そこには赤と白の団服に身を包んだ副団長殿。

 

「お、おう……」

 

「…………」

 

え、なにその目。それとなんかサチがものすごい力で肩を掴んでる。アンチクリミナルコード発動してるもん。それ攻撃判定出てるじゃねぇか。

 

二人の少女に睨まれるという状況が暫く続いたが、その膠着状態はアスナのため息によって終わりを迎える。

 

「……はぁ、こんにちは。昨日はお疲れ様でした。……そちらの方は?」

 

「あぁ、こいつは黒猫団のサチだ。んで、こっちが血盟騎士団の副団長」

 

「アスナです」

 

アスナにサチを、サチにアスナを紹介する。二人は笑顔で握手を交わす。 お互い、SAOでは希少な女性プレイヤーだ。気が合うのではないだろうか。

 

「アスナさん、凄いね。攻略組なんて……」

 

「サチさんも……」

 

そこからガールズトークが始まる。あの店はどうだのあの服がどうのと、ここだけSAOから現実に戻ったのかと錯覚してしまいそうだ。というか、アスナも服とか興味あったんだな。攻略にしか興味がないのかと思ってた。剣が恋人とか言いだしそうだ。

 

しかし、それは俺の勝手なイメージの押し付けだったようで、彼女もまた年相応の乙女なのだ。

 

「今日はサチさんの装備を買いに?」

 

「あ、ううん。私はまだこの層の装備は扱えないから……。今日はハチマンが昨日のボス攻略で武器を折っちゃったみたいだから、それの代わりを探しにきたの」

 

ふと、話題の矛先が俺に向かう。アスナの表情が暗くなる。

 

「そ、その……昨日はごめんなさい。新しい武器の代金はわたしが……」

 

「いや、いらん。そろそろ買い替えるつもりだったし。それに俺は養われることはあっても、施しは受けないことにしてる」

 

「ふふっ、なにそれ?」

 

丁重に断ると、アスナはなにがおかしかったのかくすりと笑う。

 

「どういうこと?」

 

一人、昨日の事実を知らないサチが疎外感を感じたのか、ふくれっ面をする。あざといなその怒り方……。しかし一色と違って可愛いのが問題だ。

 

それは置いておくとして、サチには昨日の攻略の全貌は話していない。調子に乗って武器を壊し、その隙に軽く攻撃を受けて気絶したとだけ伝えている。だから、ここでアスナが全て喋ってしまうとまずい。

 

「……へぇ」

 

時すでに遅し。チャンスの神様は前髪しかない。美容院でどんな注文したらそんな髪型になるんだよ。

 

どう誤魔化すか考え込んでいるうちに、全てをアスナが語ってしまったらしい。サチさんの声に温度を感じない。

 

「じゃあ、適当に武器選んでさっさと帰ろっか?つもる話もあるし」

 

「え、いやあの、適当は困るっていうか……その、まだ時間がかかるかなって……」

 

怖い、サッチー怖いよ!あと怖い。

 

これから起こるであろう惨劇を思い、恨みの篭った腐った目をアスナに向けると、申し訳なさそうに胸の前で小さく手を合わせていた。


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