ソードボッチ・オンライン   作:ケロ助

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多忙で全然書けない……。今回は番外編のifストーリーです。ただ書きたかっただけなので、本編には欠片も関係ありません。多分。


外伝編 ※一章を読んでから見てください
たとえばこんなストーリー


『ラプラスの悪魔』

 

理系を捨ててる俺でも耳にしたことがある、有名な学説だ。

 

「もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在すれば、この知性にとっては、不確実なことはなにもなくなり、その目には未来も過去同様に、全て見えているだろう」

 

つまりは、ある瞬間における全ての物質の力学的状態と力が未来を決めている。悪魔ではない人間にそれを見ることはできないが、未来は今この瞬間に決まっているということになる。

 

結局、未来は変わらない。やり直したとしても、変えることは叶わない。

 

けれど、願わずにはいられない。

 

あの日、彼女の手を取れていたらと。己の愚行を阻止したいと。

 

・ ・ ・

 

「サチ!」

 

「ハチマン!」

 

俺は立ち塞がるモンスターたちを薙ぎ払い、サチの手を掴む。その手を勢いよく引き彼女を胸元に抱き寄せると、押し寄せてくるモンスターたちの攻撃から、自分を盾にしてサチの身を守る。

 

ドカドカと繰り出される攻撃。しかしこの層のモンスターがいくら寄って集ろうと、俺のHPを削りきるには五分あっても足りないだろう。MMORPGの特徴として、適正レベルより高すぎると死ねなくなる。死にたいわけじゃないが、ダメージがほとんどダメージにならないのだ。

 

「ハチマン……」

 

「この程度なら問題ない、もう少し我慢してくれ」

 

腕の中で心配そうな声を出すサチ。俺のHPバーは、今やっと一割ほど削られたところだ。

 

俺のHPは問題ないが、貫通攻撃なんかがくると俺の体を越えてサチにダメージが入ってしまう。

 

攻撃の手がほんの少し収まったところを狙い、片手でサチの体を抱き寄せたまま立ち上がる。合図を出したわけではないが、彼女も合わせて立ち上がると、両手を背中に回してくる。

 

俺は残った片手で両手剣を振るう。ソードスキルは発動できないが、少しずつならモンスターを倒していける。しかし、このままではキリがない。

 

「キリト、先にアラームを壊せ!」

 

「このっ、簡単に言ってくれるなぁ……!」

 

頬を引きつらせたキリトから恨み言が溢れる。なんだよ簡単だろ。

 

「ハアァァァ!!」

 

叫びながらソードスキルを連発し、怒涛の勢いで突き進むキリト。突っ込めと言っておいてなんだが、勢いよすぎだろ。関西人なの?

 

バキン!と破砕音を響かせ、トラップアラームは砕け散る。そこからはキリトの独壇場だった。聖杯戦争かと誤解するほどのバーサーカーぶりを発揮したキリトによって、部屋中のモンスターは駆逐される。

 

「はぁ……」

 

ようやく一息ついて壁にもたれかかり、そのままずるずると腰を下ろす。なんとか乗り切ったか……。

 

「だ、だずがっだぁ……」

 

引くほど情けない顔をしたダッカーの言葉に不覚にもイラっとしたが、彼をぶん殴る元気もなければ、圏外で殴ってオレンジになるのも馬鹿らしい。

 

「ハチマン……」

 

「おう……」

 

まだ俺の胸に縋り付いて震えているサチ。彼女の頭を撫でようとした手を反射的に止め、ふと思う。

 

いや、今回くらいは構わないだろう。妹専用のアクションとはいえ、一回くらいなら小町への不義理にもならないはずだ。……浮気の前に自分に言い訳している男みたいだな。

 

なんだかんだと自分に言い訳をしながら、サチの頭をぽんぽんと頭を撫でる。安心したように、彼女の震えは少しだけ収まった気がした。

 

・ ・ ・

 

「重っ……」

 

「……ハチマン?」

 

凍えるような声が耳元でする。モンスターを殲滅してから五分ほど経ち、さっさと帰ろうということになったのだが、サチが立てないと抜かしたのだ。ゲームなのだから腰が抜けるもなにもないような気がするが、結局は脳からの電気信号によるものなので、あり得ない話ではないのかもしれない。

 

しかしそこからが良くなかった。誰がサチを背負うかという話題になった瞬間、キリト他三名は一斉に転移結晶を使って消えた。転移先が聞き取れないほど早口だったぞあいつら……。

 

結局サチを置いていくわけにもいかず、背負うことになったのだが、立ち上がる際に思わず口から溢れでた言葉によって、現在窮地に立たされている。

 

「いや待て待て違う待て。重いというのは悪い意味じゃない。軽い気持ちとか口が軽いとか頭が軽いとか、軽いって言葉にはマイナスイメージが付きがちだ。逆説的に重いというのはプラスになる。それにお前自体だけでなく装備品の重さを加味した上でだな、俺の筋力パラメータと照らし合わせると重いという結論が」

 

「うるさい」

 

「おう……いや、その、すいません」

 

謝ると、それ以上は話すことはないというようにサチは無言を貫く。

 

俺は転移結晶を二つ取り出し、首に回されているサチの手に握らせる。

 

「……帰るぞ」

 

「うん」

 

背中に確かな暖かさを感じながら、俺たちは帰る。

 

この温度だけはデータなどではなく、本物だと信じて。




短いですが、ifストーリーでした。

どっちがお好みですかな?変えませんけどね。

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