「あら、帰るの?」
小悪魔に案内してもらい、レミリアに帰らせてもらう旨を伝えると、レミリアは笑みを浮かべながら言った。
「ああ。だが、ここは色々魅力的だし、ノーレッジに聞きたいこともある。また来させてもらってもいいかな?」
「構わないわよ。不老不死なんて、パチェに関わらず気になるものだし、ね」
「聞いていたのか?」
「いいえ?ただ、そういうことは分かるわ。親友だもの」
「道理だな。では、失礼する」
「また会いましょう。貴方には興味があるわ」
「光栄だな。また」
挨拶をし、屋敷から出る。そこまで案内してくれた小悪魔にも礼を告げ、門の外に佇む門番にも挨拶していこうと考え、ふと思う。
名前を聞いていない。
「あら、ルート様。お帰りに?」
「そうだ。だがその前に一つ」
「はい?」
「貴女の名前を聞いておきたいと思ってな」
「ああ、自己紹介してませんでしたね。私は紅美鈴(ほん めいりん)。紅く美しい鈴と書きます」
紅、美、鈴か。
「なるほど、中国語か」
「そうです」
「よし。では、失礼する。また来ると思うから、その時はよろしく頼む」
「ええ、貴女のようなお客様なら歓迎します」
紅とも別れを交わし、飛び立つ。
浮上して暫く進む。進んでいる途中で、体が揺らいだ。
「む。不調か?」
個人用力学制御装置。大層な名前だが、個人用だけあってせいぜい出来るのは人間一人二人を飛ばすくらいだ。実質は重力、慣性制御を応用して推力を発生させ、空力的形状を整えているに過ぎない。過去の知り合いの手で速度などをかなり出せるようにはなっているものの、精密装置で、メンテには手間がかかる。
「霊力、ねぇ」
俺の霊力は類い稀な量があるらしい。博麗にも、ノーレッジにも言われた。神社へ行ったときから霊力の扱いは色々試しているが、飛行は疲れる。霊力制御の飛行は力学制御のイメージ制御とは違う。ただ、霊力を形作るのも最初は疲れていたのだ。恐らく、慣れることができるだろう。
装置に頼らず、飛行できるようにしておきたいな。
そこまで考え、ふと思い付く。
装置の推力と霊力を合わせたら、どうなる?
例えば、ブースターのように推力を足したら?
試しに、装置制御はそのまま、霊力を意識する。後方へ推力を発生。
加速した。強くする。
さらに加速。
装置側まで強くしたら、どれだけ出るんだ?
「いや、ダメだな」
さっきの揺らぎが気になる。むしろ、装置なしの練習をすべきだろう。
ブレーキ、空中静止。
霊力制御に気を回し、逆に装置の方は弱めて行く。
滑らかに、霊力浮遊へ移行。
「…む」
やはり、制御に気を使う。
無駄が多いのか?
…推力による浮遊ではなく、浮遊のイメージでは、浮けるか?
「……浮いた」
推力ではなく、純粋な浮遊感のみ、という印象。先程より楽だ。
そうか、霊力は複雑に考えなくてもいいのか。
なら。
「加速」
呟きながら、前進をイメージ。その通りに加速する。
上昇、下降、左右旋回、平行移動。急反転、直角カーブ。
これはいい。装置と同等以上。以前は、ここまで扱えなかった。
何故、と考えるのは後だ。害もない。
身一つで飛べるのは便利だ。是非とも自在に使えるようにしたい。
そう考えながら、人里へ再び加速する。