俺は今、紅魔館へと向かっている。
数日前に会ったメイド、十六夜咲夜が仕えているという、吸血鬼の住まう舘だ。
眼下には森。
前に買った地図には詳しい位置が記されていなかったので、慧音に方角と目印だけ聞いて、真っ直ぐ飛んできた。
「…お」
見えた。慧音が言っていた湖だ。
ここまでくれば、あとは周辺を探せば必ず見つかるだろう、と言っていたな。
高度を下げ、霧の濃い湖のほとりに着地する。
「………」
おかしい。直射日光が当たっていると言うのに、妙に涼しい。いや、寒いというべきレベルか。
近づいてくる気配も感じる。
「誰だ?」
「あんたこそ、誰よ?」
後ろから声。
振り向くとそこにいたのは、水色の髪と後ろに羽のように浮いている氷の塊が特徴的な少女。
見た目にはかなり幼い。
「俺はルートだ」
「ルート?へー。聞いたことない名前。あたいはチルノ」
チルノ、ねぇ。
「で、何か用でもあるのか?」
「そうね。なら、あたいと勝負しなさいよ」
「何でだ」
「強そうに見えるから、倒してやるわ」
「……」
なんだそりゃ。付き合う理由はないな。
「面倒だから嫌だね」
飛び立つ。すぐに左へ移動し、飛んできた氷塊を避ける。
チルノは不敵な顔で、
「逃げるの?強そうな人間だと思ったのに、拍子抜けね」
と言った。まぁ、言わせておけばいい。
「ああ。生憎と俺はそこまで強くないんでね」
「そう。なら、あたいにやられちゃうわね」
そういうと、チルノは氷塊や氷のつぶてを連射してきた。
「………」
素早く移動すれば避けられるが、連射は途切れそうもない。
ああ、これは相手してやったほうが楽そうだな。ほっといたら会うたびに襲われそうだ。
パターを抜く。いつもどおりの低出力スタンモード。
チルノから照準をはずして撃つ。
「ふふん、やる気になったわね」
「しょうがないから相手してやる」
どう来るかね。
「凍り漬けにしてあげるわ!」
氷のようなものが飛んでくる。
飛び上がり、着弾した所を見る。
氷結していた。本当に凍り漬けにする気か。
さらに攻撃。
数十もの数を群れにし、一気に飛ばしてくる。
大きく動いてかわしつつ、パターを連射する。
当たってはいるが、効果は薄いようだ。
出力を上げるか?いや、上げすぎて殺してしまった、では洒落にならないな。
「むー、この、ちょこまか避けないでよ」
「そりゃ無理な相談だ」
「ちくしょー、ならこうよ!氷符『アイシクルフォール』!」
攻撃パターンが変わった。
左右に発射した氷が分裂しつつこちらへ方向を変える。
「む」
多い。こりゃ、弾幕だな。それにしてはかわせとばかりに隙間があるが。
隙間をかいくぐる。
しばらくかわしていると、弾幕が途切れた。
「やるわね」
「どうも」
続いてチルノは、氷をばらまきつつ、レーザーを撃ち始めた。
こちらの動きを制限して、当てるつもりか?
まぁいい。かわし続ける。
「いい加減にやられろー!凍符『パーフェクトフリーズ』!」
チルノがそう言うと同時に、色とりどりの光弾が大量に撃ち出される。
直進する弾を掻い潜ってかわす。
「ん?」
弾が止まった。
チルノがこちらに向けて氷弾を放つ。
さらに掻い潜れというわけか?
かなり間が狭いが、かわす。
そしてすぐに、止まっていた弾がバラバラな方向へ動き出す。
が、難なくやりすごす。
「…や、やるじゃん」
「なんでもいいからもう決めさせてもらうぞ」
チルノに接近しつつ、連射。
「痛っ、やったわねー!」
頭にあたったからか、チルノが怒って氷を大量に射ってくる。
怒りで狙いが雑だ。こちらもそのまま撃ち続ける。
「痛いのよ、この、この、この、あぅっ!?」
…痛め付けてる感じだなこりゃ。
「悪いな」
それでも連射。
「きゅう…」
スタン弾のダメージが蓄積したのか、チルノはすぐに気絶した。
「…ふう」
そして気づく。
「さっきのが弾幕ごっこ、ってやつか」
なかなかにハードだな。
実力者の弾幕はもっと凄いのだろうか。
そもそも戦うことになりたくないが。
霧が晴れてきた。
周囲を見渡すと、湖の向こうに大きな赤い館が見えた。
あれか。
高度を少し上げ、館へ向かって飛ぶ。
吸血鬼とやらはどんなものかな。