話を一つ入れ忘れているのに気づきました。
「………起きていないか」
起床して、台所を見に行ったりしたが、慧音はいなかった。
残るは慧音の部屋だ。
襖を開ける。
「案の定、寝落ちか」
慧音は、机に伏せて寝ていた。
「慧音、朝だぞ」
肩を揺する。
「う、うーん……」
よく見たら、角が戻りきっていない。小さな角が髪から突き出ている。
「うー……ルートか……」
「ああ。朝だぞ」
「わかった……」
「朝食、作っておくが、何がいい」
「適当でいい……」
眠くて考えるのも億劫らしい。
動き始めてはいるので、俺はとりあえず台所へ。さて、何を作るか。
「そういえば、ルートに食事の用意を任せたのは初めてだな」
「ああ。味はどうだ?」
「美味しいよ」
「良かった」
朝食を作り終え、居間へ様子を見に行った時、慧音は居間のちゃぶ台でこっくりこっくりしていた。
朝食を食べて、もうすっかり目が覚めたようだ。
「ルートは、幻想郷で何をしようとか、考えているのか?」
慧音がそう訊いてきた。
「まぁ、な。とりあえずは、幻想郷の色々な所へ行こうと考えている」
実際のところ、未だに俺は何をやろうとは決めていない。
暫定的な目的、といったところか。
「そうか。なら、ルートの家は留守も多くなるかな?」
「さぁな。どのくらいの頻度で出掛けるかもわからんしな」
「まあ、それもそうか」
「ああ」
慧音が食べ終えた。俺は少し前に食べ終えている。
「ご馳走さま」
「お粗末様でした。片付けも任せておいてくれ」
「ありがとう」
食器を持って、立ち上がる。
………ありがとう、か。むしろ俺が言うべきことだな。
「世話になった」
「ああ。またなにか困ったことがあったら、相談してくれ」
「そのときは頼らせてもらうよ。その代わりと言ってはなんだが、手が足りなかったりするときは、俺に是非手伝わせてくれ」
恩を返しきっていないからな。
「わかった。それじゃあ」
「ああ。また」
本当に束の間の別れだがな、と思いつつ、歩き始める。
空き家に荷物を運び込む。
そこまで量のないそれを置いてから、ふとストレイドのことを思い出す。
あれのなかの荷物も、運び込むか。
上空に呼び出し、そこへ向かって飛ぶ。
今では飛行する倉庫と化してしまっているストレイド。どうするべきか。
今はその気はないが、また旅立つとなるとあれがないと話にならない。
………ううむ。
この家のまわりは広い。
しかし、ストレイドを着陸させておくには色々と問題があるだろう。
「むぅ」
考えても、現状よりいい方法は思いつかない。
少し腹が減った。表に出てみると、昼を過ぎている。
食事の用意をするか。
昼と夜、それから明日の朝の分の食材は買ってある。
これから何をするにも、まずは腹ごしらえだな。
夕食の下ごしらえをしてから、昼食として野菜でサラダを作った。
味付けは、醤油と酢を混ぜた簡単なものだ。
縁側に腰掛け、箸で一口。
やはり、美味い。
幻想郷の野菜は、どれも美味しい。
農薬なんてものは使わず、自然の中で育てられているからか。
さらに一口。
適当に混ぜた醤油と酢だが、いい感じだ。
ゆっくりと味わい、食べ終えた。
「さて、と」
皿、片付けるか。