昨日と同じように、目を覚ます。
昨日は結局、里を歩き回り、暑さにうんざりするだけで終わってしまった。
今日も慧音は寺子屋だ。
とはいえ、まだ時間はある。
身だしなみを終え、慧音と朝食の準備をし、食卓につく。
もう慣れてきた流れだ。
「ところで、慧音」
「ん?」
「一人で住める場所を探そうと思っているのだが」
「住める場所?」
「ああ。ここにこのまま居候しているのは、どうもな」
「そうか…。それなら、ちょうど良さそうな空き家があるよ」
空き家か。
「今日、そこを見ておきたいな」
「場所を言えば、わかるか?」
「ああ。昨日のうちに里の中は大体把握している」
「そうか。なら教えよう。場所は………」
そこまでの道程を聞いた。
「里の端の方だな」
「ああ」
「わかった。今日行ってくる。あ、食器は洗っておくよ」
慧音にそう言い、話しているうちに食べ終わっていた慧音と俺の食器を持つ。
「ありがとう」
「ああ」
台所へ行き、食器を洗う。
それを終えたあと、寺子屋の玄関へ向かう。
「ああ、ルート」
「なんだ?」
「これを買ってきてくれるか?」
その言葉と共に渡されたのは、紙だった。買い物メモか。
「わかった。行ってくる」
「行ってらっしゃい、ルート」
慧音は笑顔でそう言う。
………行ってらっしゃい、か。
寺子屋を出発して、空き家へ向かう。
慧音の話によると、空き家に住んでいたのは、天涯孤独の身の男だったらしい。
それでも、近所の人間などとは親しくしており、孤独とはとても思えなかった。が、ある日、山菜狩りに森へ入っていき、妖怪に襲われ、命を落としたのだそうだ。
聞けばその男の両親も、同じような死にかただったという。
……ま、俺には関係のない話か。何せ、その男の死からすでに十年は経っている。
空き家に着いた。
……ふむ。やはり鍵はないのか。治安がいいのだろうな。
「おい、そこの」
「……はい?」
「あんた、何者だ?」
男性が話しかけてきた。近所に住んでいる人だろう。
「私は、ルート・フォンクといいます」
訝しげな様子だったので、丁寧に言葉を返す。
すると、男性は途端に相好を崩した。
「ああ、寺子屋の生徒を助けたって女の子か」
………女の子って。
「俺は男ですよ」
「嘘つけ」
あっさり否定された。もういい。
「失礼します」
話すこともないので、そう言って空き家に入る。
和室、台所、倉庫と見てまわる。
一人で住むなら十二分な広さだ。
とくに傷んでいたりもしない。
………それにしても、ここまですんなり行くと不安になってくるな。
ま、とりあえずは頼まれた物を買って帰るとするか。
「………」
買ってくるものの中に豆腐があったので、豆腐屋にきたのだが。
「(わくわく)」
あの女性、狐の尻尾が生えている。しかも9本。
「(まだかな)」
狐の妖怪か?
「はい、頼まれた油揚げ」
「!」
店主がそう言って袋を渡す。ってか尻尾が反応したな、今。
代金を支払って、女性がこちらを向く。
袋を大事そうに抱えている。顔はすごく笑顔だ。
「………」
「………」
何故かこちらを見て固まった。
微妙な空気。
「……ルート・フォンク、だな?」
「そうだが。あんたは何者だ?」
「ああ、し、失礼した。私は八雲藍。八雲紫様の式だ」
「八雲紫……ああ、いつかの」
あの時は、少し会話して、名前を聞いたんだったな。
「……ところでフォンクさん」
「ルートでいい。何だ?」
「さっきの……」
「ああ……。油揚げ、好きなのか?」
「ああ……」
顔が赤い。あれはあまり見られたくなかったのか。まぁ、あからさまにそわそわしてたからな。
「誰にも言わないから安心しろ」
「……ありがとう」
「いいさ」
八雲藍にはそう答えてから、豆腐屋の店主に豆腐を頼む。
すぐに頼んだ分が出てきた。
代金を支払う。
「………では」
「ああ」
八雲藍と別れる。
他は何かな………。
「ただいま帰った」
と言いつつ、慧音の家へ入る。
慧音はまだ帰っていないか。
台所の食料庫へ買ってきた食材を置き、部屋へ行く。
畳に座り、一息つく。
「………」
そういえば、俺は何故幻想郷で住居を確保しようとしているのだろう。
もともと、幻想郷には、空間跳躍のトラブルか何かで迷い混んできたのに。
それを少し考え。
「………ま、目的も行き先もなかったしな」
と独りごちた。