「………朝か」
日の光で目が覚める。
起き上がり、布団を畳む。着替えも済ませる。
「さてと」
昨日、今日は朝から外出するので、食事も自分でとる、と慧音には伝えた。
今日は一声かけていかなくてもいいか。
考えつつ、財布などを入れた鞄と武器を身につける。
準備できた、よな?
確かめながら、寺子屋の外まで出る。
とりあえず、適当に通りを歩く。朝早いため、人はほとんどいない。
早く出すぎたな。
「………」
慧音は居候すればいい、と言っていた。その言葉に俺は甘えることにしたのだが、それは住む場所が見つかるまでだ。
そう考えていたので、こうして住む場所を探すためにでてきたわけだが。
「………むぅ………」
よく考えてみると、この里唯一の寺子屋の教師である慧音なら、人脈は広いだろう。慧音にも、少しは相談してみるべきだったかもしれない。
「………はぁ」
判断力が鈍っている。案外と、俺は混乱しているのだろうか?
「どうするか…」
とりあえず、昼くらいまで暇を潰さなければ。
歩きまわっているうち、通りに人が出て来はじめた。
店も次々に開いていく。
それを見ながら歩いていると、変わった格好の奴を見つけた。
あれは、俗に言うメイド服というやつか。
それを来ているのは、銀髪の少女だ。
趣味で着ているのか、それともどこかの従者が買い出しか。
少し観察したところ、どうも後者らしい。
にしても、和服が多いのであの格好は目立つ。ま、それは俺も同じことか。
考えていると、メイド服の少女がこちらの方向へ歩いてきた。
「さっきから私を見ていたようだけど」
と思いきや話しかけてきた。
「格好が珍しいからな」
「その言葉、そのまま返すわ」
ああ、言われてしまったよ。
「そうだろうな。俺はルート・フォンクと言う。いわゆる外来人というやつだ」
「成る程ね。私は十六夜咲夜。紅魔館に住まう吸血鬼、レミリア・スカーレットに仕えるものよ」
「へぇ」
幻想郷には吸血鬼もいたのか。
「貴方、外来人なのよね」
「ああ」
「腰のそれは?」
パターか。
「俺の武器だ」
「すぐ取り出せるようにしてあるのね」
「そういうことだ。要らん警戒かもしれんが」
「ここではそうかもしれないけれど、他のところではね」
「知ってるさ」
「でしょうね」
腹でも探ろうと言うのか?
「そろそろ行くわ」
「ああ」
「では」
しかし驚いたな。俺と話しているあいだのやつ、十六夜咲夜の動きには、隙が無かった。
おそらく、あのメイドは、主人の護衛もしているのだろう。
初対面で、得体の知れない俺の危険性でも探ったか。
あいつの主人、レミリア・スカーレットにも興味が湧いてきたことだし、そのうち訪ねてでもみるかな。紅魔館を。
昼になるにつれ、暑くなってきた。
自然が多いこともあってか、今まであまり暑さは感じなかったのだが、今日は暑い。
かくいう俺は、鈴奈庵と書かれた看板をつけた店に入ってみたのだが。
「うぁー…」
店番と思わしき少女が、店の奥の机でへたっていた。周りには本棚。
「……大丈夫か?」
声をかける。
「あ、お客さん……」
少女が立ち上がろうとする。が、どうにもふらついている。
「いいから、座っていてくれ」
「は、はい…すみません…」
「気にするな」
それにしても、店内はそこまで暑くないのだな。
多分こいつは、外で作業していたのだろう。
本棚に近寄り、本を抜き出す。装丁が古風、というか、なんというか。
「ふぅ、大分楽になってきました…」
「そうか」
本を本棚に戻す。
「はい。ええと、貴女は?」
「ああ。ルート・フォンクという。外来人だ。今は慧音の家で世話になっている」
「初めて見るひとだなーって思っていたんですけど、外来人だったんですか。あ、私は本居小鈴です」
「本居小鈴、だな。ああ、ついでに言っておくと、俺は男だぞ」
「男の方?意外です」
「まぁ、昔から色々なやつに性別を間違われていてな」
幻想郷で最初から男だとわかってくれたのは………。
「うぐぅ」
「え!?」
おっと、変な声が出てしまった。
「気にするな。ところでここは、本を売っているのか?」
「いいえ、本を売ったりもしていますが、基本的には貸本屋なんですよ。他にも、印刷や製本をやっているんです」
「ほう」
本関係を手広くやっているのか。
本棚から適当な本を抜き出して、開く。大判で厚くはない。
「……ん?」
その本は、雑誌だった。いわゆるホビー雑誌。プラモデルの作例などが載っている。幻想郷の雑誌とは思えない。
「ああ、それ、外来本ですよ」
「外来本?」
「外から幻想郷にきた人が持ち込んだりしてきた、幻想郷の外の本です。ここでは、そういう本も扱っているんですよ」
「そういうことか」
暇な時はここに来れば、いい暇潰しになりそうだ。
幻想郷の外の世界の文化もわかるかもしれない。
雑誌を棚に戻す。
「また来る」
そう本居に言い、店を出る。
「……暑い」
日差しを直に浴び、瞬く間に汗をかく。
入ってからそれほど時間は経っていない。
どこかで帽子でも買いたいな。