外に出る。
博麗も来たのを見てから、言う。
「まずはこれだな」
右手を上げ、霊力を凝固させる。作り上げたのはコンバットナイフ。*1
「!……へぇ、やるじゃない」
「感心するほどなのか?」
「幻想郷に来るまで霊力を知らなかったっていうことは、扱い方も知らなかったはずよ。そんな人間がここまでできるなんて、なかなかないわ」
う、結構褒めるな。実際の所、この力のこと自体は知っていたし、ある程度使ってもいたのだが。
「そりゃどうも。他には、エネルギー弾も撃てるぞ」
「え、もうそんなことも出来るの?」
「ああ」
答えながら、意識を少し霊力コントロールに割く。武器を使う仕草を見せずに攻撃できるのは、大きな利点だったから、よく使っていた。
霊力を手に集め、小型の光弾を撃つ。
「へぇ、本当に撃てるのね。外来人とは思えないわ」
「まぁ、俺は外一般の常識からは微妙に外れているからな」
「微妙どころじゃないわよね?……まあいいわ。ところで」
「ん」
博麗の目付きが少しきつくなった。何だ?
「あんた、何でそんな容姿なの?」
む。それか。まだ引き摺っていたのか。
「なんでこんなに可愛くなるのよ、男が」
博麗が俺の両頬をつついてきた。
「あーもう、ぷにぷにじゃない。本当になんでよ」
「知らん。あとやめろ」
いい加減この容姿で驚かれるのも慣れすぎて、イラついてきた。
「そのすかした態度もまったく似合ってないわ。背伸びしているみたい」
「気取っているつもりはないんだがな」
「というかあんたいくつなのよ。やけに大人びてるけど」
「もう30だ」
「おっさんじゃない。老化を知らないの?」
「不老不死だからな」
「そうだったの?驚きね」
「……」
会ったときからの印象だが、博麗はどうにも巫女らしくないような気がする。服とか、態度とか。
巫女らしさは知らないので、気がするだけなのだが。というか脇出しってどういう趣味だ?
「お、見慣れない顔がいるね」
声がした方を見ると、角を生やした幼い少女がいた。
角が体に比して大きい。
「あー、萃香。こいつはルート・フォンク。来たばかりの外来人だって」
博麗がその少女に俺を紹介してくれた。
「そうなの?私は、鬼の伊吹萃香だよ」
「ルートだ。よろしく頼む」
「よろしく。にしても、随分可愛らしい男だね」
「わかるのか?」
始めて間違われなかった。少し、嬉しい。
「わかるよ。ところでさ」
伊吹がにやりとする。
「ちょいと力比べをしないか?」
「駄目よ」
博麗が横槍を入れてきた。
「えー、なんで」
「何でも何も、そもそも鬼のあんたとこいつじゃ力の差がありすぎるじゃない。こいつは人間なのよ?」
「そうなの?強そうなのに」
博麗の言うことに、俺は頷く。鬼がどれほどかはわからないが、妖怪と人ではスペックが違うだろう。
「むー、いい勝負できそうに見えるんだけどなー。霊力使えるんでしょ?」
「そうだが。でも力比べは勘弁してほしい」
「えー、どうしてもー?」
「そうだ」
そういうと、残念そうに伊吹は縁側へ歩いていき、腰かけた。見ている気か?
それにしても、霊力か。色々と応用できるらしいし、練習でもしてみるか?
「博麗」
「何?」
「今からちょっと霊力を使ってみるから、思うことがあったら言ってくれ」
「え?ああ、成る程ね、わかったわ」
「よし」
先程と同じように、手に霊力を集める。
集まったら、薄く広げる。
前面を覆う霊力の盾。とりあえず形は作れたが、どれ程のものか。
「博麗、俺に弾幕を撃ってみてくれ」
「わかったわ」
博麗の手から赤い札が連射される。
飛んできた札は、すべて盾で消滅した。
「やっぱり盾ね。強度もなかなか。カード無しでは破れそうにない」
「そうか。上手くいったようでなによりだ」
「限界も知りたい?」
「出来るなら把握しておきたいな」
博麗の顔に、笑みが浮かぶ。
「じゃあ、これからスペルカードを撃つから、防いでみなさい」
「わかった。手加減してくれよ」
「ええ」
霊夢の返答を聞きつつ装置を準備。
「霊符『夢想封印』」
来た。
でかくてカラフルな光弾が八ほど。とりあえず後ろへ飛ぶ。
破られるのを見越して前面シールドは五メートルほど前で張った。
案の定、二発で破られた。残り六発。
もう一度霊力シールド。こんどは直径三十センチほどのものを両手に纏わせる。
飛んでくる光弾を、右手のシールドで相殺。
密度を高めるほど防御力は上がるようで、再展開はしなくて済みそうだ。
次は左手。二発を振り払うように掻き消す。
右手で正面からくる一発を防ぎ、最後に左右の二発を両手で。
「……手加減したか?」
「手加減したわよ」
「嘘だろう?手加減したように見えなかったぞ」
「まったく応えていなさそうじゃないの。というか飛べたのね」
「……そうだが」
たしかに先程のは応えるものではなかったが。
「それにしても、あんたの霊力はどうなってるの?」
「は?」
「身体強化と防壁張り。それもかなり強い物。さらに飛行。そんなの人間の貴方が同時にやってたらモリモリ減るはずなのに、ぜんぜん減ってる様子がないのよ」
「激しく使うと減るのだが、これくらいなら回復量の方が上回るようだ。あと、飛行は機械を使っている」
「すごい回復力ね。本当に人間?」
「それは間違いない。不老不死だが」
「やっぱりそこなのかしらね」
「そうだろうな」
博麗の言い草からして、霊力というのは生命力が絡んでくるのだろう。
そして、生命力なら、俺を上回るやつはそうはいないに違いない。何せ、頭が蒸発しても、記憶障害も何も無しに、元通りになる体だ。いや、これは生きているとは言えないか。生物として越えられないラインを越えている。
「まぁ、練習し続けてみるさ」
「そう」
色々と活用出来そうだからな、霊力は。
そこまで考え、ふと縁側に目を向けると、さっきの鬼、伊吹萃香とやらが、こちらへ駆けてきていた。
「ルート!やっぱりやろうよ力比べ!」
自然に呼び捨てされた。というか、またかよ。
さっきのあれを見て、やはり面白そうだとでも思ったのだろうが。
「悪いがやりたくないんだ、伊吹」
「なら弾幕ごっこは?」
「なおさら駄目だ。こっちは勝手も知らないんだぞ」
「手加減するからさ」
……しつこい。おまけにさっきは気づかなかったが、酒の臭いがするぞ、こいつ。酔ってて手加減ができるのか?
「というかさ、伊吹ってのもまどろっこしいから萃香って呼んでよ」
ここの住人は知り合いでも名前呼びが普通なのだろうか。名前で呼ぶように言ってくるやつが多い。
「なら、萃香。せめてこっち流の戦い方とかに慣れてからにさせてほしい」
「慣れてからならいいんだね?」
しまった、迂闊。
「………慣れたらだぞ」
「よし!その時が楽しみだ」
満面の笑みを浮かべて言う萃香に、思う。こいつは俺の苦手な部類のやつだ。
そういえば、と先程から蚊帳の外の博麗を見やると、こちらはさもありなんという顔でこっちを見返してきた。こうなることをわかっていやがったな、あいつ。
「………少し、休んでくる」
と、萃香と博麗に言い、縁側へ歩く。
縁側に腰掛け、溜め息をひとつ。
博麗たちは、二人で何か話をしているようだ。
「お兄さん」
ルーミアの声だ。見ると、まだ眠そうな様子のルーミアが、俺の横に来ていた。
「ああ、ルーミア。起きたか」
「うん。よく寝た」
それにしても。
ルーミアは、見た目には単なる幼女なのだが、人喰いだという。
実際俺を襲ってきたし、それは事実なのだろう。
ここでは、人を見た目で判断はできないな。
さてと。
「そろそろ帰ろうと思うんだが、お前はどうする?」
「あ、じゃあ私も行く」
ついてくるらしい。
「なら、行くか」
「ん、あんた帰るの?」
「ああ」
「そう。お饅頭、ありがとね」
「ああ」
表へ歩き、鳥居をくぐる。
目の前に見えるのは、幻想郷。ここはかなり高いところにあるらしく、見晴らしがいい。
「………いいところだな」
自然が多いし、空気もうまい。
その景色を暫く堪能したあと、俺は人里へ飛び立った。
ちなみに霊夢は、夢想封印を防ぎきったルートを見て、力比べくらいならやらせてもいいのでは、と思ったそうな。