幻想郷の森は、深い。その中には、現実の世に存在しないものもある。
そんな森の中を、1つの「闇」が飛んでいた。
まるで風景を丸く切り取ったかのように見える、闇。昼間にも関わらず、それは闇夜だった。
その正体は、宵闇の妖怪、ルーミア。
そんな彼女が、森の中に人を見つけた。
男物の服を身につけた女性、いや、少女というべき人間。
人食い妖怪と名乗るルーミアが、それを見逃す筈はない。
すぐに近寄り、姿を現してから、その人間に話しかけた。
「あなたは、食べてもいい人類?」
と。
博麗神社へ向かって森の中の獣道を歩いていたら、妖怪に遭遇した。
見た目には幼い少女だが、雰囲気はまるで違う。
気配で察知していたから、驚きはなかったが。
そいつは、俺の前で腕を広げて浮きながら、こうほざいた。
「あなたは、食べてもいい人類?」
当然のことながら食べられる訳には行かない。
不老不死かつ再生力の高い体ゆえ、腕の一本くらいくれてやってもすぐ再生するのだが、そんなのは当然の如くいい気分ではない。
そこで、こう答えた。
「食えたものではないぞ」
と。
ルーミアは、帰ってきた答えに、いつも通りと思った。
大抵の人間は、食べられたい筈もないので、このような答えを返してくるのだ。冷静すぎるのをすこし気にしたが、そこはルーミア。なめられているのだろうとすぐに結論を出した。
そして、襲いかかった。
しかし、そこでルーミアは、唐突に意識を手放した。
妖怪少女に言い返したら、少しの間のあと、襲いかかろうとする仕草を見せた。
即座に抜き撃ち。非殺傷。
スタン効果をもつレーザーを喰らった妖怪少女はそのまま気を失い、墜落した。
妖怪なので、放置しても問題ないだろうと判断し、反撃を警戒しつつ、立ち去ろうとする。しかし、
「う……」
低出力の非殺傷で撃ったからか、目を覚まされた。
「うう、痛い。今の、お姉さんが?」
妖怪少女が立ち上がる。
「そうだが」
「すごいね、何をしたのかわからなかったよ」
ただ抜いて撃っただけなのだが。
というか、またか。
「とりあえずお姉さんじゃなくてお兄さんだ」
「え、そーなのかー?」
怪訝そうな、それでいてとぼけた感じで返された。
「そうだ」
「そーなのかー」
納得はしていなさそうに見えるが、もう面倒だ。
『そーなのかー』は口癖か何かだろうか?
「お兄さん、人間だよね」
「そうだが」
「ついて行ってもいい?」
「待て、何故そうなる」
妖怪がついてくる理由などないはずだ。
「お兄さんが面白そうだったから」
「………隙をついて俺を食う気か?」
「もうお兄さんは食べないよ。またやられそう」
「………」
ま、いいか。
「勝手にしろ」
そう言って、再び歩き出した。
それからしばらく歩いていたのだが、妖怪少女はついてきているようだ。
歩きながら後ろを見ると、さっきのように腕を広げた姿勢で、ふよふよと浮きながらついてくる。
「おい」
「え?」
「あんた、名前は?」
「私?私はルーミアだよ」
ルーミア、か。
「お兄さんは、何て言うの?」
聞き返された。
「俺か?俺は、ルート・フォンクだ」
「ルートって言うんだー」
「ああ」
ルーミアが近寄ってきた。相も変わらずふよふよと浮いているが、見た目といい言動といい、かなり子供っぽい。
妖怪だから、俺より長く生きている可能性も高いのだが。
まぁ、そんなことはいいか。
博麗神社まではまだ掛かるだろうし、ルーミアと話しながら行くのもいいか。
そんなことを考えながらも、俺は歩き続ける。