風呂場の場所は慧音に教えてもらった。
荷物から着替えと、借りたタオルを持って、脱衣場に入る。
服を脱ぎ、風呂場へ。
シャワーなんてものはやはりなかったので、まずは桶に湯を溜めて、かぶる。
石鹸はあったので、タオルで泡立ててから、体を洗う。
ちぐはぐな文化だという印象は拭えないな。
もう一度湯をかぶり、泡と汚れを落とす。
これでよし。
泡が体についていないことを確認してから、湯船につかる。
「ふぅ…………」
湯船に浸かったのは久しぶりだが、やはりいいものだ。
体が芯から暖まり、疲れが取れる。
しばらく浸かっていると眠気がしてきた。頃合いと思い、上がる。
体を乾いたタオルで吹き、替えの服を着た。
汚れ物は慧音が、一緒に洗ってしまうから、とりあえず脱衣場のかごのひとつに纏めておけと言っていたので、そうしておく。洗濯はあとで慧音に、俺がやると言ってみようか。
居間の慧音と妹紅に、上がったことを伝えて、借りた部屋へ足を向けた。
「ふぃー………」
座布団に腰を下ろし、後ろに体を倒す。
さっきの眠気が再び押し寄せてきた。
「あー、布団敷かなきゃー………」
そうは言うものの眠い。体が動かん。
頭にも霧がかかっているような感じが。今日はそこまで疲れることはしてないんだが、居心地がいいからか?風呂の後にも話をしたいと妹紅が言っていたのだが……。
あ、駄目だ。眠気が………。
「………すぅ」
ルートが布団も敷かずに寝てしまってから十分ほど。
慧音と一緒に風呂に入ってきた妹紅は、ルートの部屋に向かっていた。
「さーて、何してるかな」
呟きつつ、妹紅は襖を開ける。
「すぅ……すぅ……」
「あれ、寝てる」
襖を開けた妹紅が見たのは、布団も敷かずに眠っているルートの姿だった。畳に直寝では体が痛くなるだろう、と妹紅は思い、ルートを起こそうとしたのだが。
「……起こしづらいな」
穏やかで、正直可愛らしいと思える寝顔に、起こさずにそっとしておきたいと考えてしまい、手が止まった。
「………」
数秒考えるうち、妹紅にちょっとした悪戯心が。そして妹紅の手は、寝ているルートの頬を、指で突いた。
ぷに、とした感触。なかなかいい指ざわりだ。もう一度。
「ん、ぅ……」
頬を突いていた妹紅は、ルートの寝言にハッとなる。起こさなければ。
「ルート、起きろ」
「ぅ、むぅ………もこー?」
ゆるい。さっきより口調がゆるい。
「寝るなら布団を敷いたほうがいいよ」
「ぁー、わかった、起きる……」
むくりとルートが上体を起こす。
「ありがとー、妹紅」
まだ眠そうだ。
「ああ。というかルート、疲れてるの?」
「ふあぁ……。ああ、いや、な。ここは居心地が良くて、ついつい眠くなる」
欠伸をし、そう答えるルート。
「ああ、しょっちゅう野宿してたって言ってたもんな」
「そういうことだ」
ルートは投げ出していた足を戻し、胡座をかく。
「そういえばさっき気になったことがあるんだが」
気になること?と妹紅は思う。何だろうか。
「慧音の帽子。あれ、どうやって乗せているのか知らないか?」
「え?」
そう言われ、慧音の帽子を想像する妹紅。たしかにあれはかぶっていると言うより、乗っていると言うほうが的確だ。
しかし帽子か。今まで気にしたことはなかったが、と思いつつ、妹紅は口を開く。
「それは私も知らない。というか今不思議に気づいた」
「そうか……」
ルートは若干落胆したように言った。
「ホント、考えてみると謎だよ、あれ。ひもは使ってもないし、それなのに激しく動いても滅多に落ちないし……」
「やはり激しく動いても落ちないのか……」
「むむむむむ」
「むむむむむ」
考え込む二人。
たっぷり数十秒思考して、二人は結論を出した。それは、
「うん、気にしたら負けだな」
「そうだな、負けだな」
問題放棄であった。見事なまでの。
「この問題を考えるのはやめよう」
とルート。同感だ、と考えた妹紅は他の話題を探す。
「………あ。なぁルート。ルートは何か能力あるのか?」
「……能力?」
頭の上にハテナマークが浮かんでいそうな疑問顔のルートに、ああ、そこからか。説明しなければ、と考える妹紅であった。
能力というものについて妹紅に聞いたところ、何ができるかは人によって違うが、例えば火を出したりできる、とか。
そもそもない人もいるらしい。
「ふむ………どうだろうな、わからん」
「そう。あ、能力知らないってことは、スペルカードルールも知らないよな?」
「知らん」
「やっぱり。なら、明日博麗神社に行ってみたらどう?」
「博麗神社?どこだ……いや、待て、確か」
そこらへんに昨日買った地図があるはず。
「あった。……ここか」
地図の博麗神社と書かれた場所を指差す。……ふむ、歩いても行けるか。
「そうそう、ここ」
「何故ここに?」
「そこに、巫女の博麗霊夢ってのがいるんだけど、スペルカードルールは霊夢が考案したんだ。スペルカードルールはいずれ必要になるから、知っておいたほうがいい」
「ふむ、なるほど。わかった、明日はそこへ行くことにする」
「うん、わかった。慧音にも言っておこうか?」
「頼む」
「了解」
さて。また眠気が押し寄せてきた。
「……もう寝る」
「あ、もう?」
「ああ」
「じゃぁ、おやすみ」
「おやすみ」
妹紅は部屋から出ていった。
寝るか。
押入れから布団を出して、敷く。
布団に入る。
「あー……至福……」
寝袋とは雲泥の差だ。
本当に、慧音には感謝しなければ……。
そう思いながら、眠りについた。