ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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アイドルとは

「雪さん雪さん。背伸びたんですね?」

「まぁあれから三年はたってるしね。そういうこころちゃんも大人っぽくなったね」

 髪を片側に縛り、丁寧な口調でしゃべるのはにこちゃんの妹の一人であるこころちゃん。

「そ、そうですか?///」

「ロリコン」

「なにが!?」

 にこちゃんの家。リビング。そこでお茶を貰いながら懐かしい空間に浸っていた。

「そっか、もう三年になるんですね」

 小学6年生の時、年齢を偽ってやっていたバイトの一つにベビーシッターというのがあった。お客は大抵小さい子供だったし、親には合わないことがしょっちゅうなので都合がよかったのだ。

 そんなバイトの受け持ちの一つが、にこちゃんのお家だった。

 当時は、まだこころちゃんも、もう一人の妹ここあちゃんと弟の虎太郎も小さかったし、にこちゃんだけでは大変だろうと判断したにこちゃんのお母さんが、ベビーシッターを頼んだのが出会いだった。

「あ、にいたん!!」

「ここあちゃん」

 遊びから帰ってきたのか、顔に汚れを付けて帰ってきたのはここあちゃん。こころちゃんとは反対方向に髪を縛っている。

 俺を見つけるや否や、猛スピードで抱きつかれる。かわってないなー。ここあちゃん。

「ねー、なんでにいたんうちにいるのー?」

「あっと、それは。帰ってきたからだよ」

「私の事完全に忘れてたけどね」

 ぐふっ。痛いところを突かれる。

「いや、あれはしょうがないじゃん?流石にグラサンとマスクしてたらわかんないって。それに、背だってこんなに、こんなに・・・」

 あれ、あんまりかわんない。

 すると、そんな心の声を聞かれたのか、頭に置いていた手を、絶対に曲がらない方向に曲げてくる。

「いたたたたた!痛い痛い痛い痛い痛い。ごめんてごめん」

「はぁ。まぁいいわ。家まで来て忘れたままだったらどうしようかと思ったけど」

 すっと手を離してくれるにこちゃん。思い出せなかったらどんな仕打ちを受けていたのか。考えるのはやめよう。

「それより、さっさと用をすませましょ。早くアライズのDVD見たいし」

「そ、そうだね」

「あ、雪さん。晩御飯食べていきますよね。わたし、あれからお料理のレパートリー増えたんです!」

「えーっと、お邪魔にならなければ」

「ええ!腕によりをかけて作ります!」

「ちょっと、こころ」

「いいじゃん。お姉ちゃん。にいたんに会ったってあんなに嬉しそうに―――――モゴッ」

「ちょ、ここあ何言ってんの!」

 にこちゃんがものすごい速さでここあちゃんの口をふさいでいた。

「?」

「早く、早く行くわよ」

「ああ、うん」

 なぜかにやにやしたこころちゃんに見送られ、にこちゃんの部屋へ連れてかれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わー、相変わらずすごい部屋だね。あれからまた増えた?」

 にこちゃんの部屋は、アイドルのポスターやグッズで埋め尽くされている。

「そんなことはどうでもいいのよ。あの子たちの話でしょ」

「うん」

 なぜ、ミューズに解散しろなんて言ったのか。ミューズの悪いところを教えてもらう。そういう話だった。

「彼女たちは、本気だよ。本気でアイドル目指してる。遊びじゃない」

「知ってるわよ」

「え?」

「ファーストライブ、あたしもあそこにいたから」

「そうだったの?」

 なら、なぜ?

「だからこそよ、キャラづけとか、アイドルの心構えとか、あの子たちは分かってないのよ。だからダメなの」

 にこちゃんはアイドルが物凄く好きで、だからこそ見えるものも、許せないものもあるんだろう。

 でも、ここではいそうですかと、引き下がるわけにはいかない。

「じゃあ、教えてやってよ。彼女たちにアイドルの道を」

 そこまで見えているのなら、少なからず彼女たちに、ミューズに興味があるってことだ。じゃなきゃこんな的確な指摘できるわけない。

「はぁ!?なんで私がそんなこと。いやよ」

「そっか。いやかー」

 あっさりと断られた。

「そういえば、あんた一緒に練習してたってことはあの子たちと親しいってことよね?」

「え?あーうんまぁ」

「じゃあ、あんたからも言ってよ。あの子たち私の部室に来て色々面倒なのよ」

「部室?」

 ああ。確か穂乃果達がそんなこと言ってたな。

「じゃあ、にこちゃんがアイドル研究部の部長さんなんだ」

「そうよ、悪い?」

「いやいや、にこちゃんでよかった」

「・・あ、そう///」

「お姉さま。雪さん。ご飯できました」

「今行くわ」

 結局この日は、それ以上何もいうことはできなくて。腕によりをかけて作ったというこころちゃんのご飯をお腹一杯に食べ、家に帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうすればいいと思います?」

「なにが?」

 次の日、音ノ木坂の生徒会室で、もはや日常と化しつつある仕事というか雑用をやっている最中。

 東條先輩に相談事をしていた。

「にこちゃん、ああえとアイドル部の部長の事なんですけど」

「知ってるよ。にこっちのことやろ?」

「ええ」

 なんだ、知り合いだったのか。

 降りしきる雨が窓を打つ。天気予報では梅雨入りしたと告げていた。天気予報は絶対だ。

「彼女が入ってくれれば、今よりもっとミューズが良くなると思うんですが」

 現実、そううまくはいかない。

「・・・にこっちね、昔、ミューズみたいにスクールアイドルやってたんよ」

「え?」

 そうだったんだ。知らなかった。

「まぁ、もうやめちゃったけど。にこっち以外の子が」

「そうだったんだ」

 まぁ、なんとなく想像はつく。にこちゃんは自分にも他人にも厳しいから。きっとにこちゃんが見てる景色とその人たちが見てる景色は違うものだったんだろう。

 だからなのかな。ミューズに対してまだ不信感があるのは。

「そういえば、穂乃果ちゃんたちにもこの話したよ」

「何の話してるの?」

「会長」

「なーんでもないよー」

 とりあえず今は仕事に戻ろう。

「手伝います」

「あら、ありがと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねー、なんで雨やまないの?」

「いや、俺に聞かれても」

 放課後、穂乃果達の練習を見ようとしたところ。雨で今日はできないというのでみんなでファストフード店に入っていた。

「天気予報では、今日は一日中雨ということです」

「天気予報士の言うことは信じなきゃだめだよ、穂乃果。ほんとに」

「むー、雪ちゃんがそういうなら」

「雪君。はい、あーん」

「ことり、なにをしてるのですか!」

「なにって、このポテトおいしいから雪君にも食べてもらおうと思って」

「そのポテトなら、雪にもあります。どれも一緒です!」

「いっしょじゃないよ。ことりの愛情が入ってるもん」

「そんなもの入ってません。入っているとするならばそれはマックの店員の愛情です」

「海未ちゃんひどーい」

「わー。雪ちゃんモテモテだにゃー。凛もいーれて」

「ちょ、ちょっと凛ちゃん。どんな所から顔出してるの」

 机の下にもぐって顔を出してくる凛を必死で止めようとする花陽。

「それで、話を元に戻しましょうよ」

 さすが真姫ちゃん。場の空気を戻してくれた。

「にこちゃんを説得する方法ならもう思いついたも―ん」

「へー、どんな」

「私が思うに、にこちゃんはもうすでにミューズの一員なのです」

「はい?」

 真姫ちゃんが素っ頓狂な声を上げる。

「だって、あんなに細かく私たちの事見てくれてるんだよ。入ってもらわなきゃ損だよ」

「確かに、にこ先輩のアイドルにかける思いは、私たちも見習いたいところです」

「賛成だにゃー」

「私も」

「まぁ、いいんじゃない」

 どうやら、解決へと進んでいるらしい。結局、俺の出る幕はないかな。いつもの事だけど。

「海未ちゃんのときみたいだね」

「ことり、そんなことありましたっけ?」

「ああ、あったあった」

 確か昔いつも木陰に隠れて穂乃果達を見ていた海未を、穂乃果が遊び仲間に入れたというか、引き込んだというか。昔から穂乃果にはそんな力があった。

「雪まで」

「とにかく、そういうことだから!」

 そういうことなので、解散となる。作戦の決行日は明日の放課後ということになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして作戦決行日。朝、登校中にいつもの不審な格好ではなく、普通に制服姿のにこちゃんがいた。逆に新鮮。

「にこちゃん」

 見るとアライズのPVが流れているのを見ている

「やっぱり凄いわね。アライズって」

 その言葉には、単なるファンとしての称賛の言葉だけではない気がした。

 気のせいかもしれないけど、わずかな可能性だけど、でも、今聞いとかないと多分一生言えない。

「にこちゃんは、アイドルにもう憧れてないの?」

「・・・憧れてないわけないじゃない」

「なりたいとは思わない?」

「思うわよ!!」

「そっか、安心した」

「なによ、それ」

 にこちゃんは、まだ諦めてない。それが知りたくて、知ったからってどうこうできる力は俺にはない。その力の持ち主は俺じゃない。

「あ、今日の放課後、部室に行って。大事なことがあるから」

 俺に出来るのはこれくらい。せいぜいが道のりの補強だけ。

 だから、あとは幼馴染に任せよう。

 

 

 

 

 

 とはいったものの、やっぱり気になるものは気になる。

 生徒会の手伝いをして、音ノ木坂に来てしまった。

 部室の前。少し耳を傾ける。音はしない。まだ来ていないのだろうか。でも結構時間たってるし。

 意を決して扉を開く。中には誰もいなかった。

「ふー」

「あひゃあ」

 耳に息を吹きかけられて変な声がでる。何事かと振り返ると東條先輩が。

「みんななら、もう屋上に行ったで」

「そう、なんですか。というか、もうちょっと普通に呼んでくださいよ」

「いやー、良い耳しとったからつい」

 良い耳ってどんな耳よ。

 いや、そんなことより屋上ってことは。

 自然、足が傾く。後ろには東條先輩もついてきて。

 屋上の扉、その向こうには「にっこにこにー」と、大合唱が聞こえる。

 聞こえるにこちゃんの声は楽しそうで。やっぱり穂乃果は凄い。

「どうやら、うまくいったみたいやね」

「ええ」

 扉を背に、何とも言えないここちよい空気を二人で噛みしめるように。




どうも、明日が誕生日!高宮です。
そして海未ちゃんの誕生日ももうすぐですね。誕生日が近いって勝手に喜んでます。
その海未ちゃんの誕生日なんですが、なんかやりたい。一応、案は何個かあるけど、どれも手垢いっぱいついてるしな。てことでなんか案とか、そんな大それたものじゃなくても、思い付きでいいので感想でも、活動報告でもまた改めて言うので、そこでも送っていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

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