ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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EX 惚れ薬なんて使っても大抵ロクなことにならない その2

「んーっ!さすがに疲れたわねー」

 ツバサさんは一つ、大きく伸びをした。

 流石のツバサさんでも疲れるくらいの量だったらしい。

「ありがとうございます、ツバサさん。後は僕らだけでも処理できますから」

「そう?」

 途中、何か現実から目を背けるように仕事のスピードが格段にアップした書記さんと、相変わらず仕事が遅い僕でも片付くレベルまで仕事は終わっていた。

 本当に、ツバサさんには頭が上がらない。

「あ!じゃあ、息抜きに何か飲み物でも買ってきましょうそうしましょう」

「え、あ、ああ。すいません」

 ニコニコといつものような完璧なスマイルでツバサさんはそう言うと、スタスタと若干足早に生徒会室を後にした。

「・・・ねえ、書記さん。ツバサさんなんか変じゃなかった?」

 そんな完璧さが逆に不自然で、僕は思わず書記さんにそう問いかけていたのだが、対する書記さんといえば。

「抜け駆けしようとしてごめんなさい抜け駆けしようとしてごめんなさい抜け駆けしようとしてごめんなさい抜け駆けしようとしてごめんなさい抜け駆けしようとして」

 ブツブツとまるで幽鬼のようになにかを繰り返し呟くだけで、僕の言葉などまるっきり耳に届いていないようだった。

「・・・・ま、いっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渡り廊下の端っこ。自動販売機が横並ぶその一角にアライズのリーダー綺羅ツバサはこれからの自身の行いによって起こる現実にひどく高揚していた。

「計画、第一段階。まずはクリアね」

 高揚しているからだろうか、心の中で思えばいいことをわざわざ口に出してしまっている。

「ふふ。ようやく完成した”コレ”を使う時が来たのよ」

 ポケットから小瓶を取り出すと、うっとりとした目つきでそれを眺め大事そうに抱える。

 

「そう、この”惚れ薬”をね!!」

 

 誰に言うでもなく、ツバサは口にした。せざるを得なかった。自分は大発明、惚れ薬というファンタジー世界の代物を発明したにもかかわらず、彼を渦巻く状況的に誰にもそれを自慢できないのが少し不満だったのだ。

 だからせめて自分だけはこの成果を、奇跡を、その身にしっかりと刻んでおこうと思った。

「ふふ。今日まで待った甲斐があったわ。ようやくチャンスが訪れた。我ながら完璧よ。仕事がまさに今、ピークを迎えるその瞬間に手伝いに行きなんの違和感もなく飲み物を雪に差し出す。正に今が絶好のチャンス」

 惚れ薬が出来たのは今から約一週間ほど前。どうやら彼女はそれから着々とそのチャンスを待っていたらしい。

 適当に飲み物を選び、ボタンを押す。ガタンゴトンと出てきた飲み物を抱え、ツバサは雪に差し出す予定の飲み物に惚れ薬を仕込もうとする。

「問題は、どうやって仕込むかだけど。穴をあけるわけにはいかないし、飲みかけに入れるのは不安だわ」

 飲みかけに入れてその後すぐに雪がドリンクを飲む確証なんてない。むしろ飲まないほうが確率高い。だってあの雪だし。こちらの思った通りになど動いたことが今まであっただろうか、いやない。(反語)

 この一週間、どうしてもその方法だけがいい手が思いつかなかった。どんな方法も彼の前には通用しないようで。

 あの雪。その言葉が彼女をどうしようもなく不安にさせた。

 だからもう彼女はもどろっこしいものをうじうじ考えるのはやめにした。

 ではどうするのかというと。

「そんなの勿論。真正面から堂々と行くに決まってるわ」

 にやりと、真っ黒な笑みを浮かべて、ツバサはプシュッと何の躊躇いもなくペットボトルの蓋を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いざ、生徒会室前。

 ツバサは両手に飲み物を抱えて扉の前にたたずんでいた。

 

 震えながら。

 

 ダラダラと嫌な汗が頬を伝い、背中から寒気がする。気持ち悪い。

 いざ、目の前にしてしまうとどうしようもなく震えが止まらなかった。さっきの自信はどこへやら。完全に別人である。

 失敗したらどうしよう。もし私が惚れ薬を仕込んだとバレたらどうしよう。糾弾され、嫌われたらどうしよう。

 あり得ないと、自分の情報に漏れはないと自信はあるのに、その考えが拭えなかった。

(いけるやれる大丈夫頑張れ)

 似たような事を頭の中で念仏のように唱えるツバサ。ぎゅっとこぶしを握り締め頭を振る。

 そう、だってこれを成功させれば長かった戦争も終結するのだから。

 戦争、そうこれはもう戦争だった。恋愛とはいついかなる時も戦争なのだ。

「・・・・・・スーハースーハー」

 もう何度か目の深呼吸を繰り返し、ドアノブに手をかける。

(平常心・・・・平常心・・・慌てることなく・・・余裕をもって・・・あくまで、自然に、自然に。そうよ、ただ飲み物を買ってきたと伝えて渡すだけでいいんだから)

 自己を鼓舞しながら勢いをつけてガチャリとドアを開けた。

 

「あああの!ここれ!のののの飲んでくれない?????」

 

 グルグルと視界は巡って、口の中は上手く呂律が回らない。

 一言で言って、不自然そのものだった。 

 突き出された飲み物を雪はキョトンと呆けた顔で見る。

「あ、はい」

 まあ、そういう反応になるのは当然だった。ツバサさんが飲み物を買ってくると言って出て行ったのだから。

 雪は不自然なツバサさんに首をかしげながらも飲み物を受け取って。

「・・・・・・・えっと」

 困惑していた。

 なぜなら、真っ赤に充血した瞳で真っすぐに、痛いほど真っすぐにツバサがこちらを見てくるのだから。 

「なにか?」

「いえ、ベツニ」

 そういうツバサは明らかに何かを待っていた。その何かを雪は知りえないのものの、ただごとではないのだろうとその視線から受け取る。

 だが、何を待っているかてんで心当たりのない雪はとりあえず仕事を終わらせようと、机に向かうと。

「飲まないの?」

「ええ?いや、まあ」

 グリンと、それ首痛めないの?というような角度に首を曲げるツバサに恐れおののきながら飲めというならと、雪はペットボトルを手に取る。

 その間も相変わらずこちらを仰視してくるツバサ。明らかに冷静さを失っていた。

「・・・あの、飲みづらいです」

「あ!そ、そうよね!」

 そう指摘するとギュンと後ろを向くツバサだったがそれでも気になるようでちらちらと後ろを盗み見ている。

 そんな視線に気づきながら、雪は書記さんに助けを求めようと視線を寄越すが書記さんは何かに怯えるように必死に顔を隠していた。

 うーんと唸る雪。なにをどう考えてもツバサさんはおかしい。

 がいくら考えても雪の頭では答えにはたどり着きそうもないので、彼は即座に諦めた。

 そして頭を使って少々疲れた、というか元々の疲れも相まって彼は特に何も考えずにツバサの持ってきた飲み物に口をつけてしまった。

 なぜ既に空いているかなど気にも留めずに。

 

 ごくごくと飲む雪。どうやら喉が渇いていたらしい、半分ほど飲んで口を離す。

 ・

 ・

 ・

「・・ど、どう?」

 ツバサはドキドキとした自分の鼓動を両手で押さえながら、おずおずと訪ねる。

「どうって、何がですか?」

 薬を盛られているなど微塵も考えていない雪は、キョトンとした顔で聞き返した。

(あ、あれ?・・・・失敗?)

 マウス実験では成功した。確かに人体実験はやっていないものの、ほぼ、惚れ薬は完成していたはずだ。いや、そう思っていただけで実際は目の前の現実が事実。

「な、なんか体が熱くなるとか。胸がドキドキするとか、そういうの、ない?」

「・・・・・いえ、別に」

 少し考える仕草をしたものの、雪はそう返答する。

 端的に言って、失敗だった。

 失敗したという事実。ツバサのショックはでかい。

 目の前の雪は、相変わらずなんの疑いも持っていないような顔でこちらを見つめている。

「か、海田君。そろそろ、仕事してもらっていいかな」

 どんよりとしたオーラを身に纏った書記さんにそう言われ、ああごめんと謝りながら雪はそのまま書面に向かってしまう。

 ツバサの居場所がなくなったこともあり、気落ちしたまま彼女はそのまま部屋を後にしてしまった。

 パタリと、後ろ手に扉を閉め、彼女はひとつほふっと気を吐き。

「失敗?いや、でも、計算上はあれで良かったはず。・・・・やっぱり、薬なんかに頼ってちゃダメってことなのかなぁ」

 何もない白い天井を見つめ、小さな独り言が思わず口をつく。その表情は切ないような、悲しいような。そんな顔だった。

「うん!そうよね、薬じゃなくてちゃんと雪を落とせってことね!いいわ!やってやろうじゃない」

 しかし、そこで諦めないのがツバサという人間である。メラメラと瞳に闘志を燃やし、これからの戦略を計算していく。

 こうして、ひっそりと終るかに見えた惚れ薬仕込み事件だが、事態はまだ終息を迎えてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事態が動いたのは、次の日の朝のこと。

「おはよう」

「おはよー」

 道行く生徒に朝の挨拶を交わしながら、ツバサは何の気もなしに登校していた。

 そこに特別性はなんらなく、いつもと同じようにいつもと同じ日常だった。

「?」

 その日常の中に、いつもとは違う、明らかに異常な人だかりが。

 校門に差し迫ったその場所に、ツバサと同じ制服の人間。どうやら全員女子のようだが、歩道を圧迫するくらいには大人数の人間がその人だかりを形成している。

 ツバサはそんな非日常に、不思議に思いながらピョコピョコとその人だかりの原因を探ろうとする。

 が、あまりに人が多すぎて全く見えない。

「ねえ、これ、どうしたの?」

 ので、ツバサは聞いた。一番近くにいた生徒に。

「え?あ、つ、ツバサさん!?」

 その生徒は、見ると一年生のようでアライズであるツバサの姿に一瞬ぎょっとした。

「え、えっと。それが・・・・・・・私にもよくわからなくて」

 顔を赤らめ、緊張した面持ちで答えた一年生にツバサは笑顔でありがとうと告げる。

 感謝を伝えられたその生徒はフワーっと天にも昇るような嬉しさを抱え、そんな生徒を尻目に見知った声がする。

「あれー?これ何の騒ぎー?」

「あんじゅ」

 今登校してきたであろうあんじゅも、もの珍しげに首をかしげていた。

「それが、私にもわからないのよ」

 二人して、再度人の塊を見る。ときおりキャーっといった黄色い悲鳴も聞こえ、ますます訳が分からない。誰か有名人でも来ているのならまだしも、そんな情報二人のもとには入ってきていなかった。

 こくりと二人は頷いて、その騒ぎの元凶を務めることを決意する。 

「すいませーん。通してくださーい」

「ごめんねー、ちょっと通るねー」

 人混みをかき分けながら二人は進む。

 段々とその中心に近づきつつ、ツバサは。

(なに、なんか嫌な予感がする!)

 その己の予感の正体を探るべく、より一層人をかき分ける。

 と、ある一点でようやくその人混みから解放された。

 プハっと、息を吸い込みながらツバサはその人混みの中心となっている人物を見た。

 そして、目が点になった。

 

 

「僕は今日君に会えて良かったよ。こんなに美しい華があるって、知れたから」

 

「や、やだ。もう!()()()()()()

 

「はは。照れた顔もかわいいね」

 

「やめて、皆見てる///」

 

 

 名も知らぬ女生徒が、名前も素性も知っている生徒に詰まるところ口説かれていた。

 つまり、海田雪に口説かれていた。

 どうやらこの人だかりは、そんな非日常に思わず足を止めてできてしまっていた人だかりらしい。

「なにを、やっとんじゃああああ!!!」

 見た瞬間、あまりの光景に呆けてしまったツバサだったが一瞬で温度が沸点を超しドロップキックを繰り出す。

 ズシャアアと滑っていく雪を本当に軽蔑したような顔で睨むツバサ。

「こんな朝から往来で何をやっているのかしらあなたは」

「あ、ツバサさんおはようございます」

「あ、おはよう。今日は冷えるわねー。ってバカか!状況を考えなさいよ!状況を!なに呑気に挨拶してるのよ!」

 あまりにも自然なあいさつに一瞬怒りを忘れてしまう。雪の人たらしの才に戦々恐々としながら、それでもツバサの心は怒りを忘れていない。

「この状況は何?一体全体どういうことなのか一から十までじっくりと説明してもらおうじゃないの」

 仁王立ちでそう問い詰めるツバサに雪は蹴られた頭をさすりながら立ち上がる。

「やだなあ。ツバサさん嫉妬ですか?」

「は、はあ!?」

 急な一言、不意打ちにツバサは思わず顔が赤くなる。

 

「大丈夫ですよ。僕の中でツバサさんはいつも一番ですから」

 

 優しくツバサの手を握り、まるで背景にバラが咲いているかのような錯覚に陥りながら雪はそう言う。

 ツバサの表情はというと、なんというかこの世の不思議を見たような。世界七不思議のひとつを見たような、そんな表情をしていた。

(なにこれ!ていうか誰これ!?)

 ツバサの頭の中はパニックである。そんなツバサをよそにもう一人、普段の雪をよく知る人物。

 つまりはあんじゅが。

「ぎゃあ!」

 雪をカバンで殴って昏倒させていた。

「ちょ、何やってんのよあんじゅ!」

「ごめんなさい。思わず、腹が立って」

 目から完全に色彩が消えた瞳を見て、ツバサはそれ以上何も言えない。加えて、あんじゅに共感してしまった自分がいたことも否めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とにかく、あんじゅとツバサは一旦、この色欲魔。もとい雪を生徒会室に隔離及び拘束していた。椅子に座らせ、手足を縄で縛っている。

「で、えーっとこれがその今朝の犯人というか、元凶の海田君ですか?」

「ええ、今朝のことは話した通りよ。書記さん」

 朝、仕事のために早く登校していた書記さん。昨日危機は脱したとはいえまだまだ余裕を持てるスケジュールではないのだ。それは雪も同じで、だからいつまでたってもこない雪に若干のイラつきをため込んでいたころ、突然あんじゅとツバサが気絶していた雪を連れ込んできたのだ。

 そのときは書記さんが、「ああ、ついにヤっちゃんたんだ。いや、いつかヤるとは思ってたけど」というような犯罪を覚悟した瞳をしていたので、ツバサとあんじゅで、生徒会室からは位置的に校門は見えないため朝のことを知らない書記さんに説明していたのだ。

「でも、にわかには信じられないですね。海田君は確かに女の子と、複数の女の子と仲が良いですけど。それはもうえ?付き合ってんの?っていうくらい仲が良いですけど。でもそんな渋谷にいるチャラいナンパ師みたいな真似するとは思えませんけど・・・・」

 むしろ、チャラいナンパ師よりも質が悪い気がします。と書記さんは自分の考えを述べる。

「確かにねー。あんな雪君初めて見たもの」

「・・・・・でも、事実よ」

 今朝のことは複数の人間がしっかりと目に焼き付けている。ツバサも会話までしたのだ、人違いなどありえない。

「・・・・・・んん」

 そんな会話で目が覚めたのか、雪は意識を取り戻した。

 人知れず、このまま目覚めなかったらどうしようと不安になっていたあんじゅはとりあえずホッとする。

「あれ?ツバサさん?と、あんじゅに書記さんも。どうしたんですか?そんなに僕を見つめて」

 そこまで言ってようやく雪は自身が拘束されていることに気付く。

「・・・・・・えーっと、これは?」

 中々スリリングな状況にも関わらず、雪の表情は実に落ち着き払っている。慌てふためく様子など一切受け取れない。

「雪。一つ、あなたに尋ねるわ「ああ、大丈夫ですよ」」

 ツバサが口を開くと、被せるように雪は言葉を重ねる。

「つまりあれですよね。普段攻められてばかりのツバサさんが偶には攻めたいという意思表示ですねこれは。大丈夫です。僕は女の子を攻めるのも好きですが、攻められるのはもっと好きなので」

「全然違うわ。ていうか攻められてないし」

 爽やかな笑顔で、なにかとてつもないようなことを言っている気がする。

 ていうか本当にこれは雪なのか。自分たちが知っているその人物像と繋がるようで繋がらない。

 ツバサは心の中で訝しんだ。

 ニコニコとした目の前の男はどう考えたって海田雪であるが、なぜか確信を持ってそうだと言えない。隣を見ると、どうやらあんじゅも書記さんも同じことを思っているような顔だった。

「大丈夫ですよ。ツバサさん。たとえツバサさんがどんなアブノーマルな性癖を持っていたって僕は受け止めますから」

 言った瞬間再度あんじゅからのカバンアタック。雪は気絶してしまう。

「・・・・ごめん、我慢できなくて」

「いや、いいのよ」

 なんとなく、お通夜のような空気。

「そ、それよりも!どうしてこうなったんですか?流石にここまで海田君はひどくなかったですよ」

「そうね。原因、があるはずよね」

 違う人間、でないとするならば何か変わった原因があるはずだ。

「何か、変わったことはなかったの?」

「昨日、帰るまでは普通でしたよ?ね、ツバサさん」

「ええ、そうね。昨日までは、昨日———————」

 そこでツバサは心当たりを発見する。発見してしまう。

 昨日、普段はない、一人の人格が変わるほどの出来事。

 そう、惚れ薬だ。

(あれだ。絶対あれだ!)

 もう逆に、それ以外にありえない。どういう原理かはわからないが惚れ薬が雪を女ったらしへと変貌させてしまったのだ。

 ・・・いや、まあ元からそうだと言われればツバサも強くは否定できないがあの薬がそれを悪化させてしまった可能性はある。

 さて、原因はたぶん分かった。が、それをあんじゅと書記さんに言うわけにはいかない。知られてはいけない。

 仮にも自分はアライズのリーダーなのだ。その自分が薬に頼って雪を手に入れようなどと知れたらどんなバッシングを受けるか。想像しただけで身震いする。

 だから絶対に知られるわけにはいかない。

「どうしたの?ツバサ?」

「へ?な、なにが?」

「いえ、ものすごい汗ですけど」

「え?あ、ああ!暑っつい!暑っついわねここ!暖房効きすぎじゃないかしら!?」

「いや、節電対策に朝は暖房はつけてないですけど・・・」

「え?そ、そうなの!?」

 ダラダラと冷や汗をたらし、しどろもどになるツバサに二人は訝しんだような視線を送る。

「ツバサ、あなた・・・・」

「ちが、あんじゅ!違うの!何にもしてないの!ちょっと魔が刺しただけなの!ちょっと薬の力で幸せを掴もうとしただけなの!改心したの!いけないなって思ったの!思ったのよ!」

 もう全部自分から喋ってしまっていた。

 

「薬って、なあに?」

 

「・・・・あ」

 ツバサは珍しい凡ミスに気づき、顔を真っ青にする。

「えーっと・・・・なんの話ー?ツバサー、わかんなーい」

 きゃはっと開いた手を口元にもっていき、キャラじゃない自分で必死にごまかそうと頑張るツバサだったが。

「———————とりあえず、正座」

 聞いたことないような低い声と怖い顔のあんじゅに。

「はい」

 そう答えるしかなかった。

 

 

  

 

 

 

 

 

「ていうことはなに?昨日、ツバサは雪君にその自分で作った惚れ薬を飲ませたってこと?」

「・・・・はい」

「それで、海田君はこうなってしまった可能性が高い、と」

「・・・・はい」

「「・・・・・・・」」

 一通りの話を聞いた書記さんとあんじゅは思わず二人、目を合わせる。

 目の前で正座をして、目に見えて落ち込んでいるツバサに、いやいやと二人は首を振る。

「惚れ薬ってたって、そんな、ねえ?非現実的ですよ」

「そうだよー。そんなのネットのデマだよ、だからネットは一日、一時間って言ったでしょ」

 どうやら二人とも、信じていないらしい。それもそうだろう、いきなり惚れ薬を使ったなんて言われても真実味に欠ける。

「それに、飲んだ直後はなんともなかったんでしょう?」

「そうですよ。どうせ海田君のことだから他の女に病気でもうつされたんですってきっと」

 もはや性病扱いだった。

「・・・・・・」

 だが、ツバサの表情は晴れない。

「い、一応。どんな材料で作ったの?」 

 そんな顔に、若干焦りつつあんじゅは尋ねた。どうせその辺の雑草とかを魔女みたいにグルグルかき混ぜて作ったのだろうと推測を立てつつ。

「まずヒルガオの花を乾燥させたものと、ナンテンの葉か実の粉末、そしてシャクナゲの花を乾燥させたものに、カマキリの黒焼きの粉末を用意してその材料のすべてを4・3・2・1の割合で調合し、それを二つにわけるの。そしたら片方をチャンスをつくってお茶などに投入し目指す相手、つまり雪にのませる。残りの半分に月桂樹の葉の粉末を混ぜ合わせ、相手に飲ませたのと同じ日に自分で飲む。そうすれば雪は私のものになるはずだった」

「・・・・・結構、本格的だったのね」

 あんじゅはなんとも言えない表情でそう呟く。話を聞いて、真実味が増してしまった。

「とにかく。元に戻す方法はないんですか?このままじゃ大変なことになっちゃいますよ」

「そうよね、なんか、ないの?ツバサ?」

 二人は完全に意気消沈しているツバサに尋ねてみるものの、ツバサは首を振って返答する。

「・・・だって、惚れ薬よ?それを解除する方法なんて知りたくないわ」

 まあ、一理はあるだろう。惚れ薬の逆、それすなわち嫌われるための薬ということだ。そんなもん誰が好き好んで調べたりするだろうか。

「でもじゃあどうするのよ!雪君があんなバカみたいな男になっちゃったのはツバサの所為なんだからね!」

「あー!それ言う!?そんな身も蓋もないこと言っちゃう!?」

「ええ言うわ!言っちゃうわよ!ツバサが薬なんて卑怯な手を使って雪君を我が物にしようとしてたってね!」

「アーアーアー!聞こえない聞こえない!聞きたくない!」

 ぎゃーすかと喧嘩しだす二人に書記さんがオロオロしながらどうしようかと思案していると。

「きゃ!」

 書記さんが一歩後退したその瞬間、足を滑らせ転倒してしまう。

「おっと。大丈夫?」

「・・・か、海田君」

 が、幸い、と言っていいのか悪いのかたまたまそこにいた雪に後ろから抱きかかえられる形で助けられる。なんか背景に薔薇とか浮かんでいるくらいその笑みは爽やかな笑みだった。

「ダメだよ。気を付けないと」

「ご、ごめんなさい。・・・いや、そうじゃなくて!海田君縄は?いつ抜け出したの!?」

 後ろには衝撃で倒れた椅子と縄を抜け出した跡がある。

 その事を書記さんは問い詰め、ずいっと顔を近づけていたのだが雪はまるで話を聞いていないように書記さんの顔を見つめる。

「な、なによ///」

 たじろぐ書記さんはそれでも眼だけは逸らすまいと雪を睨み返した。

 すると、雪はすっと首元に自らの手を持っていきなんだか良い雰囲気。

「ななな、なにを///」

 グルグルと焦ったように目が回る書記さん。雪は、そんな書記さんを尻目にパッと手を放した。

「ほら、花、付いてたよ」

「へ?あ、ああ。花、花ね」

「この花は、アイビーだね」

「アイビー?」

「そう。花言葉は、永遠の愛。もしかしたら、書記さんのことが好きになっちゃってついてきちゃったのかな」

「————————っ///」

「・・・はい。これあげる」

「そ、それって・・・どういう・・・」

 どうやらこういうところは変わらないらしい。書記さんは言葉の意味を考え真っ赤になった顔を隠すように俯いてしまう。

(い、今の見た?あんじゅ)

(う、うん)

 その一連の行動を客観的に捉えていた二人はある事実に気付く。

(書記さんの足元に、落ちてたプリントを滑らせてたわ)

(それだけじゃないよ。書記さんの頭に花なんてついてたらいくら何でも私たちが気づいてるよ。つまり雪君が自分で付けて、自分で取ったんだ!)

 二人にしか聞こえないほど小さい声で、事実を確認しあう二人。

(こ、これは・・・とんでもない化け物を生み出してしまったようね)

 たらりと冷や汗を拭いながら、改めてツバサは自らの過ちを悔いる。

「じゃ!もう授業に遅れちゃうんで行きますね!」

 雪は何の気なしにそういうと、本当にこの部屋を出ていこうとしてしまう。

「ど、どうしようツバサ!」

「おおおお、落ち着いて!落ち着いてタイムマシンを探すのよ!」

「いやツバサが落ち着いて!」

「しょ、書記さん!アイツを捕まえて!」

「え、永遠の愛。永遠の———————」

 花を大事そうに握り締める書記さんは、どうやらこちらの言葉が耳に届いていないらしい。うわごとのようにブツブツと呟いては時折にやけている。

「・・・・あれはもう駄目ね」

「うん。かわいそうに。雪君の被害を最小限に抑えるためにも、私たちで食い止めなきゃ」

 見るも無残になった書記さんの姿に、二人は雪を体を張ってでも止めることを決意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 とはいえ、流石に勤勉な学生であるところのツバサとあんじゅは授業をさぼってまで雪を監視するわけにはいかない。

 一番頼りになるはずだった同じクラスの書記さんはもう使い物にならない。

 なにか策を練る時間もなく、仕方なくお昼までは様子を見るということで落ち着いた。雪が今どういう状態になっているのかという詳細な情報を集めるという名目で。

 

 で、そのお昼。

 

 あんじゅとツバサは早速、自らの行いを悔いることになった。

「海田君、お弁当忘れちゃったの?」

「じゃあ私のお弁当あげる!」「私も!」「あちきも!」「僕も!」「おいどんも!」

「はは、みんな。流石にこんなに食べきれないよ。みんなで分け合おう?」

 雪の周りには女生徒だけでなく、男も教師も校長もみんなB級青春映画さながらに笑顔がはじけ飛んでいた。

「いや何があったの———————!?」

 ツバサは思わずそう叫ぶ。

「女の子まではわかるけど、まさか男子も落としていたなんてね。流石雪君」

「言ってる場合!?なんでちょっとしたり顔なの!?なんでちょっと感心してるの!?」

 

「ちょっとみんな!いい加減にしてよ!」

 

 ツバサとあんじゅが廊下から教室を覗き見ていると、一際大きな声を上げる女生徒が。

 よくよく見てみると、その女生徒は書記さんだった。もしかしたら雪の呪縛が解けて、この空間が異様なものだと気付いたのかもしれない。

「海田君にあーんってするのは私の役目なんだから!!」

 ・・・違った。全然違った。めちゃめちゃ毒されてた。

「違うわ!私よ!」「あちきよ!」「僕だ!」「おいどんだ!」

「ていうかさっきからどんな人間がいんのよこのクラス!教師から校長まで雪の魔の手にかかってるじゃない!コンプリートしてるじゃない!」

「しょうがないよツバサ。だって雪君だもん」

「アンタは止める気あるのないのどっち!?」

 うんうん頷いているあんじゅにツッコむツバサはぜえはあと息が荒い。

「なによ!今まで海田君なんか見向きもしてなかったくせに!」「うるさい!この泥棒猫!」「なにをー!」「ばーかばーか!」

 いつの間にか、教室内は阿鼻叫喚のキャットファイトと化していた。

「・・・このままじゃやばいわ。戦争よ、戦争が起こるわよ」

 ツバサの脳内では雪による雪パンデミックが巻き起こっている。帝王のようにふんぞり返っている雪の周りにはいろどりみどり、よりどりみどりの女の子たちが。

 このままではツバサの妄想も現実に。

 二人は、目の前の現実と妄想がそう離れてはいないことを感じ、ごくり、と生唾を飲み込む。

「———————あれ?ていうか、雪は?」

 混乱に紛れ、よくよく見てみると確かに雪はいない。

 二人は顔を見合わせ、サーっと顔色が悪くなる。

 言葉を交わすことなく互いにうなずき、雪を探しに行くことになった。

 

 

 

 

 

 が、探す、などというひと手間は今の雪には必要なかった。

 なぜなら。

 

「・・・・ひどいわね」

 

 雪が通った後には女という女、後輩から先輩から同級生から教師から果ては学食のおばちゃんまで、一様に頬を染めて恋する乙女となっていた。

 だから、それを辿っていけば自然。雪に追いつくというわけだ。

「くっ!見てられないよ・・・」

「目を逸らしちゃダメよあんじゅ。この”悲劇”を、二度と繰り返さないためにも」

「・・・・うん!」

 気分はさながら、荒廃した国を救う勇者である。ていうか悲劇呼ばわりだった。どうやら今の雪は完全に悪しきものと定義されたようだ。

「あ!いた!」

 そうして、女の子達の残骸を辿っていくとやはり雪にたどり着いた。

「ちょっと!どこ行くのよ!」

「待って!ツバサ!」

 今まさに、校門を出ていこうとする雪を捕らえようするツバサに、あんじゅは腕をつかんで引き留める。

「なに!?」

「あれ見て」

 すごい形相で振り返るツバサにあんじゅは冷静に指をさして答える。

「・・・・え、英玲奈じゃない」

 そう、そこにいたのはあくびを噛み殺し、遅すぎる登校中の英玲奈であった。

「あれ?雪じゃないか。どうしたんだ、まだ昼休みだろ?」

「英玲奈先輩こそ。それに今日授業はお昼までですよ」

「ありゃ、・・・いやー、寝坊しちゃってさ」

 英玲奈は、ごく普通にいつものように雪と喋っている。今のところ。

「英玲奈なら、雪君の魔の手にかからないかもしれない」

「・・・確かに。そういうの、関心ないものね」

 あんじゅの言葉にツバサは納得したらしく、大人しく見守ることにした。ここで出て行って雪に変に感づかれたらお終いだ。それよりは英玲奈に任せて雪を懐柔させてしまったほうが早い。

 二人はアイコンタクトだけでその考えを共有し、すぐさま英玲奈とコンタクトがとれるように大げさにアクションをとる。

 幸い、雪は背中を向いているため、サインは送り放題だ。

 もちろん、後ろを振り向かれた瞬間ゲームオーバーなのでそこは英玲奈次第ではある。

(気づいて!!英玲奈!)

 手を振ったり変な踊りをどったり、とにかく雪に気づかれないように目立とうとする二人。

「・・・・あれ?なにして——————」

(しー!しー!)

 英玲奈が気付いたのはいいものの、あっさりとこちらの存在をバラそうとするので必死に口元に指をあてて喋るなのポーズ。

「・・・・・・」

 どうやら、とりあえずは伝わってくれたらしい。流石はスクールアイドル一のグループを組んでるだけはある。正に以心伝心である。

 さて、ここからどうやって現状の雪を伝えて、なおかつ雪を懐柔させることができるかが問題なわけだが。

「ど、どうしようツバサ・・・」

「やるしかないでしょ」

 ツバサは、ザッと一歩前にでるとジェスチャーでなんとか現状を伝えようとする。

 まず雪を指さし、狼のように舌なめずり。

 次に、かよわい女の子のようにおいおいと崩れ、そこにあんじゅがやってきて狼をやっつける。

 まるでお遊戯のように、できるだけわかりやすく。

 現状出来る最善。これが二人には今できる表現の限界だった。

 はーっはーっ。と顎に伝う汗をぬぐうツバサ。どう?と、英玲奈の顔を伺う。

「—————————————(^_-)-☆」

 どうやら、伝わったらしい。ウインクを決め、自信に満ちた顔をしている。

 ぱぁっとツバサとあんじゅの顔は明るくなる。正直、英玲奈の勘の鈍さでは厳しいかとも思っていたが通じてくれたようだ。これが今まで苦楽を共にしてきた絆だ。絆の勝利だ。

 

「よし!雪、今からホテル行こうか!」

 

「全然違ううううううう!!!」

 

 あまりの違いに、もはや身を隠すことも忘れツバサのドロップキックが決まった。喜んでいたのも束の間。絆はあっさり幻と消える。

「なにがどうなったらそうなるのよ!ちゃんと見てた!?何が詰まってるのよその脳みそには!」 

 馬乗りになってガクガクと頭を揺さぶるツバサ。

「い、いや。私が狼になって雪を襲えってそう言ってるのかと」

「ちっがうわ!逆!全然真逆よ!雪が襲ってるの!狼のごとく!かよわい女の子を!大体、なんで私がアナタにそんなことジェスチャーで伝えなきゃいけないのよ!襲うなら自分で襲うわよ!」

「ツバサ、ツバサ。ちょっと落ち着いて」

 遅れて駆け付けたあんじゅに宥められ、ようやく一呼吸置く。

「えっと、つまりどういうことだ?」

 ツバサの叫びではイマイチピンとこなかったらしく英玲奈は小首をかしげる。

「あーもう!めんどくさいわねえ!つまり—————————」

「ツバサさん」

 説明しようとしたその時、今まで沈黙していた雪が唐突に口を開く。

「な、なによ」

 身構え、緊張した面持ちでツバサは答えた。今までの経験上気を抜いているとすぐ雪の魔力に取りつかれてしまうからだ。

「よっと」

「きゃ!」

 そんなツバサをひょいと抱きかかえ、雪はすぐそばに優しく降ろす。

「駄目ですよ、女の子が馬乗りなんてしちゃ」

「あ・・・、ご、ごめんなさい」

 笑顔の雪に、思わずツバサは自らの行動を反省する。確かに淑女のすることではなかった。

「大丈夫ですか?英玲奈先輩」

「え?あ、ああ。あれくらいどうってことない」

 振り向き、英玲奈を気遣う雪になんだかバツが悪いツバサである。

「そうは言っても、英玲奈先輩も女の子なんだからもうちょっと自覚したほうがいいですよ」

「そ、そうか?」

「あ、そうだ。英玲奈先輩に似合うと思ってこれ。ちょっと、目つぶっててください」

「な、なんだ?」

「いいから」

 完全にツバサとあんじゅが蚊帳の外となっているが、本人たちはそんなこと微塵も気にせずに。

 英玲奈は言われた通り、素直に目を閉じる。こうして黙っていると、顔だけは本当に整っているのだと気づく。

「——————————ほら、やっぱり似合う」

 目を開けると、英玲奈の頭には花飾りが。

「——————————こ、こういうの私には」

「綺麗ですよ。英玲奈先輩」

「そ、そうかなあ///」

「て、照れてる。あの英玲奈が。どんな少女漫画を見せても「ふーん」って言われたのに」

「て、照れてなどいない!・・・ちが!違うからな!」

 二人のふーん、って表情に英玲奈は焦る。

「そういうんじゃない!ちょっと不意打ちだったというか、とにかく私は照れてない!私を照れさせたら大したもんですよ」

「なんで長州力?」

「雪、やはりあなたは生かしては置けないわ」

 覚醒した雪の力を改めて感じたツバサ。地鳴りでもするみたいに、オーラが漂っている。

「・・・・・・・」(ダッ)

「あ、逃げた!」「追うのよ!」

「ちょっと待て!私の弁解を聞いてくれ!ツバサーーーー!」

 恐怖を感じたのか、それとも別に目的があるのか雪はものすごい速度で歩道を駆けていく。

 書記さん同様、使い物にならなくなった英玲奈を置いていき、二人は雪を追った。

「————————————————くそ!見失ったわ!」

「あっちにまだいるかも」

「手分けして探しましょう。見つけたら連絡すること。・・・・・死ぬんじゃないわよ」

「・・・・ツバサもね」

 まるで今から戦地に赴く歴戦の戦士のように熱くこぶしを交わす二人。ただ雪を探しに行くだけでよくもまあこんなにシリアスにできるものだ。

 二人は背を向けると一度も振り返ることもなく、自らの道を走り出していった———————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃雪は。

「お姉さん、これ、落としましたよ」

「・・・え?羽、ですか?いえ、私のじゃありませんけど」

「あれ?おかしいな、お姉さんから落ちたと思ったんですけど。”天使の羽”」

「——————や、やだもう天使だなんて///」

「そうですよね。お姉さんは天使じゃないですよね」

「え?」

「天使なんかよりもっと身近で親しみやすい。ただの綺麗なお姉さんだ」

「—————————///」

「もし良かったらここに連絡くれませんか!?・・・・って、すいません。欲張っちゃいました・・・。すごく、お話ししやすかったから・・・今のは忘れてください。それじゃ」

「————————あ、あの!待って!・・・・ちょっとだけなら、またお話ししましょ?」

「え?良いんですか!?」

「ええ、むしろ、その。こちらからというかなんというか」

「良かった!じゃあ僕の連絡先教えますね。えっと——————」

 完全にナンパをしていた。それもお茶を一杯、今夜だけなどという甘っちょろいもんじゃない。完全に人一人オトしていた、完全に攻略していた。完全にCGフルコンプする勢いであった。

 かと思いきや、その女性と別れた数分後。

「あれ?もしかして、黒木メ○サさんですか?」

「へ?・・・い、いや。違いますよー」

 雪の標的とされたその女性は、まんざらでもないさそうに笑顔で断る。(ちなみに黒木○イサとは間違っても似てない。ただロングヘアででかいサングラスをかけてるだけだ)

「そうですか?すごい似てるんだけどなー。僕、黒木メイ○さん好きなんですよ。だから絶対そうだと思ったんだけどなー」

「そ、そんな///でも!私も黒木メイサさん好きなんです!」

「そうなんですか?じゃあ良かったら黒木メイサさんについて語り合いましょう」

「ええ、ぜひ!」

 なんか、手口がリアルだった。完全にプロのやり方だった。

 嫌悪感も警戒心も、彼の前では無意味だというのか。

 彼はもうだれにも止められないのか。

 いや、いた。一人、確実に彼を止められる者が。

 鎖でガッチガチに縛り上げることができる者が。

 

「・・・・・雪君?なにしてるの?」

 

「———————ことり」

 

 雪の受難は続く。




 どうもダイヤモンドは砕けない。高宮です。
 その2で終わるつもりだったんですが、思いのほか伸びたので次回も続きます。
 あ、あとUA数二十万突破です!ありがとうございます!二十万がどれくらい凄いのか、それとも全然凄くないのか。未だによくわかってません。
 そんなこんなで次回もよろしくお願いします。みもりんのCD買ったよ!はやみんのアルバムも買うよ!超いいよ!ライブ行きたいよ!
 ・・・・では、まだ次回。
  

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