「ふふ・・・・ふふふ・・・・・ついに、ついに完成したわ」
真っ暗な部屋の中で、そこだけ怪しく光る一角。
まるでどこぞにでもいるようなマッドサイエンティストのような笑みを浮かべる少女は、試験管やフラスコが乱雑するその机から一つの小瓶を手にしていた。
「ようやく。ようやくこの時が来たのね」
傍には失敗した名残だろうか。黒焦げになった器具の残骸が見るも無残に並べられている。
「これで・・・これで」
どうやらその小瓶は少女にとって待望のものだったらしい。プルプルと握りしめながらそれでも壊さないように慎重に愛おしそうに胸に抱く。
「これで、雪は私のものよ」
フフ、アハハ。アーハッハッハ。
薄暗い部屋で少女の笑い声が響く。
ヒーッヒッヒッヒ。フフフ、アハハ、ハーッハッハッハ、ヒャーッハッハッハッ。アハハハ、はーっはーっ。クフフ、プッククク。アーックク。
・・・・・いや、笑いすぎじゃね?
時は十二月。年の暮れ。
何時になってもどんな世界でも年の暮れは忙しいというのは共通見解だろうな。
「ちょっと!海田君!ボサッとしてないで書類の整理の一つや二つできないの!?このボサ男!」
慌ただしく動いている生徒会室で、一際慌ただしいのが目の前の少女。
「ごめんよ。書記さん。でもボサ男はないんじゃない?ボサ男は」
元々長い黒髪が今では腰まで届き、その長さに今は後ろで一つにポニテいる。
ちなみに”ポニテいる”というのは誤植ではない。ポニーテイルにしている女の子という意味の造語だ。僕が今作った。
ザク。
「うぎゃあ!目が!目がぁ!」
「余計なことしてないでその紙にハンコ押して」
多分僕の考えが顔に出てしまっていたのだろう。しょうもないことを考えていたということが。
だからって、重要な書類を正確無比なコントロールで僕の顔面に手裏剣のように投げつけないでほしい。おかげで目の前が真っ暗だ。
生徒会は現在、溜まりに溜まった書類の整理、及び諸々の雑務に追われている。
それもこれも、生徒会長である僕が私生活での問題から職務を放棄していたのが原因である。
生徒会長とは文字通り、生徒会の長なので僕がいなければ仕事は終わらないし、始まらない。
なので、こんな締め切りギリギリに追われる漫画家みたいな殺伐とした雰囲気が生徒会室を支配しているのだ。
「漫画家さんって大変だなあ」
「」(スッ)
「すいません。やります」
また余計な一言を発したせいで、書記さんが音もなく書類を構えたので僕は大人しく目の前の書類と向き合った。
書記さんはなんなの?忍者の末裔か何かなの?
今現在、生徒会室には僕と書記さんの二人しかいない。ので、この殺伐とした空気を変えてくれる人はいない。
あんじゅは大事な書類を職員室にもっていっているし、他の生徒会役員も各々にできることをやってくれている。
つまり、ここは僕と書記さんで頑張るしかないわけだ。
・
・
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しばらくカリカリとした音や、ハンコを押し紙の擦れる音が響く中。
「ねえ、書記さん」
「・・・・・・・なに?」
随分と不機嫌なのはこの溜まりに溜まった仕事のせいだよね?僕に話しかけられたからとかじゃないよね?
「いや、ほら、気を紛らわせるためにおしゃべりしようかなって」
「・・・・・そうね。ずっと黙っているのも、気が滅入るし」
おお。珍しく書記さんが僕の提案をすっと受け入れてくれた。珍しいのが悲しいところだが。
んーっと一つ伸びをして、書記さんは続きを促す。
「で?なんの話する?アライズのことはやめてよね。手が止まっちゃうから」
なぜかちょっと嬉しそうな書記さんに苦笑いしながら、僕は最近気になっていることを率直に質問してみた。
「書記さんって、最近髪伸ばしてるよね。なんで?」
「っ!」
僕が聞いた瞬間、ようやく来たかというような期待の空気と、なにか隠していたものが見つかったかのような焦燥感が同時に書記さんから漂う。
「・・・・・べ、別に。・・・・願掛け」
「願掛け?」
最後のほうは声が小さくて、辛うじて聞き取れたのだが願掛け?僕の聞き間違いだろうか。それとも、女子の間ではそういうおまじないというかそんな感じのものが流行ったりしているのだろうか。
「なんの?」
「それ聞く?」
願掛けとか書記さんはあんまりしないタイプだと、僕は勝手に思ってた。
それを書記さんもわかっていたのか、それとも単純にこういう話をするのが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしながら声を荒げた。
「え?聞いちゃダメだった?」
誰かに知られたら効果が無くなる。なんてよくある話ではあるが。
「・・・・別に、そういうわけでも、ないけど」
どうにも、先ほどから書記さんは、書記さんに似合わず歯切れが悪い。
「・・・・・知りたい?」
上目遣いで、ともすれば泣きそうにも見える顔で書記さんは聞いてきた。
「いや、まあ、別に無理にとは」
ぶっちゃけ、暇つぶしくらいの軽い会話のつもりだったのだが、事態は思わぬ急展開。
もはや、仕事の手もいつの間にか止まっていた。ていうか止めていた。
書記さんは僕に向き直り、ギュッと握った握りこぶしを自らの膝の上に乗せ、尚も表情は変わらない。
「知りたい?」
あれれ?なんだか会話がループしている気が。これはあれかなハイって答えないと終わらないRPG仕様なのかな?
なんだか異様な緊張感に包まれ、僕も迂闊に言葉が出せない。
これに答えると否応なしに何かが変わってしまうような。
「は、はい」
だけど、僕はそう答えた。答えるしかなかった。
「!あ、えっと、その・・・」
僕がそう答えるとは思ってなかったのか、あたふたしだす書記さんに僕は、なんとなく見ていられなくて目を逸らした。
そんな書記さんの後ろに禍々しいオーラを放つ物体があることなど露知らず、書記さんは何か、意を決したように口を開いた。
「髪を伸ばしているのは、髪を切らないのは、海田君に—————————」「書記さん」
一言。たった一言。
その一言で完全に場を支配していた。
「ツバサ、さん」
真っ青になった書記さんの顔は恐怖という二文字が張り付けられている。
なんだろう、なんだか僕だけ置いてけぼりな気分。
外は快晴なのに、ここだけどんよりと重苦しい。
「ちょっと、話があるのだけれど」
「ひっ」
書記さんが怯えるのも無理はない。ツバサさんは表面上笑顔だが、後ろには般若がまるでスタンドのように圧倒的オーラを放っていた。
十分後。
何事もなかったようにニコニコと笑顔のツバサさんと、ブツブツと何かをつぶやいている書記さんが戻ってきた。
僕は。
「・・・し、仕事しなきゃー」
心の中で書記さんごめんと謝りつつ、見なかったフリをした。だって怖いんだもんツバサさん。
「あら、まだ仕事こんなに残ってたの」
やっぱりツバサさんはいつも通りの声色で意外だというように口を開いた。
「ええ、まあ」
なんとなく、罰が悪くて僕は顔をそらす。前任であるツバサさんはそれはそれは仕事もカリスマ性も注目度も信頼度も僕なんかとは違って完璧だったからどうしても比べてしまうのだ。
「いつまで?」
「冬休みに入るまでには・・・・」
そう僕が白状すると、ツバサさんはふんすっと立ち上がるとブレザーを脱いで腕まくりをする。寒くないのだろうか。
「じゃ、手伝うわ。ちゃちゃっと終わらせましょう」
「え?・・・・いいんですか?」
正直、有り難い。元生徒会長なだけあってまだ任期三か月ほどの僕より全然仕事ができる。ていうか、元のスペックが違う。
「ええ。だから頑張りましょ?」
「・・・・はい!」
この時の僕は、まだ知らなかった。このツバサさんのにこやかな笑顔の裏に潜む、とんでもない狂気を。
どうも約一か月ぶりの高宮です。高宮のことは嫌いになっても那珂ちゃんのことは嫌いにならないで上げてください!
最近あったことといえば、藍井エイルさんのライブに行ったり、GWを例年通りグダグダと過ごしたりしてました。ずっとパワプロしてました。パワフェス難しくね?
・・・・野球の話していいですか?
ホークス強いね。願望だけど百勝行ってほしい、去年惜しかったから。それに今季は東浜に期待してます。千賀、武田、東浜。この三人は将来ホークスを背負って立つピッチャーになってほしいです。
バッターはやっぱ柳田かな。ちょっと躓いたけど。
ということで、今回短かったけど次回もよろしくお願いします。