これからは時間軸とか気にせずに、思いついたり感想ランなどでこれがみたいあれが見たいと言った者を出来るだけ形にしていきたいと思ってます。
ちなみに今回の話は卒業式のすぐ後の話で、前話との時間差はほとんどありません。
・
・
・
あれ?前書きってどうやって締めるんだ?
「それでね、ここは・・・・・・」
「ふむふむ、あー、じゃあこっちはこうですか?」
「そうそう!やればできるじゃない」
段々と来ている服も薄くなってくるこの時期。爽やかな風と共に、外では満開の桜が舞い散る。
「あなた素の頭は良いんだから、ちょっと勉強すれば平均点くらいは狙えるでしょ?」
「はは、すいません」
ツバサさんの部屋で勉強。それも二人きりというこの現状にいささか疑問を覚えてしまう。
この状況を説明するには、まず二日前にさかのぼる必要があった。
二日前。学校。授業中。
授業中という静かな空間に、突如としてバタバタと慌てたような足音が聞こえたのはお昼休みに入ろうかという十分前。
「――――――――――バン!・・・・・・はぁ、はぁ、はぁ。雪!!」
「え?つ、ツバサさん?」
「あんたちょっとこっちきて!」
「はい?いや、ちょっと今授業中・・・・・・・・」
「ちょっとツバサ君。今授業中だと分かっての所業かね?」
「そんなつまんないのどうでもいいから!!」
「な!・・・・・・・つ、つまんな」
「せんせーーーーー!」
なぜか項垂れてしまった先生を慰める暇なく。思いっきり手を引っ張られジャージ姿のツバサさんに連行される。
ガラガラと開き教室の扉を開くと、まるでゴミみたいにポイっと投げ捨てられた。
「痛っ。いったいなんなんですかツバサさん」
「なんなんですか?それはこっちのセリフよ」
なんだか知らないが、そうとうおこのようだ。仁王立ちの形相からすでにどす黒いオーラがまき散らされている。
「なんなのあなた。私という者がありながら、いいわよ別にあの子たちと仲良くすることは。だけどね。普通家に居候とかする?普通女の子の家に男が一人、一つ屋根の下生活を共にしたりする?なんなの?あなたのその神経はいったいなんなの?あ、だめだムカついてきた」
最後の一言がひどく恐ろしげだったが、つまりなんだどういうことだ?どうしてツバサさんは怒っているのか。どうしてわなわなとふるえて、今にも襲いかかってきそうなのか。
「あ、あの。つまりなにが?」
「は?・・・・・・いや、そうよね。あなたは一から十まで言わないと分かんないタイプの人間よね。特にこういうのは」
なんだかよくわからないが、小馬鹿にされたという事だけは痛いほどよくわかった。あ、鼻で笑われた。
「いい?つまりね。なーんでミューズの子たちの家に泊まったりしているのかってこと」
ああ、なんだそんなことか。
相変わらずなんで怒っているのかは分からないが、とりあえず聞きたい事はわかった。
「えっと、それはですね。大分前に家を追い出されてしまいまして、そんで次の家が見つかるまでみんなの家に順番に居候させてもらうという話になりまして」
「・・・・家を追い出された?」
「ええ」
にっこりと、努めて明るく話したつもりなのだがどうやらツバサさんは深刻に受け止めてしまったらしい。僕のお父さんの事も知っているし、あまり心配はかけたくなかったんだけど。
「・・・・・・・・・・そう、もっと早く話してくれれば良かったのに」
「すいません」
「まったく。減点よ。・・・・・分かったわ。そう言うことなら仕方ないわね。そう、仕方ないのよ」
ツバサさんはなにかぶつぶつと呟いたかと思うと、ずずいっと顔を近づけ。
「なら、次は私の番ね」
「え?」
「だって、ミューズの子たちばっかりずるいじゃない。私だって雪とお泊まりしたい!」
「いや別に僕お泊まりしたいから居候してるわけじゃないんですけど・・・・・」
「あなたの言い分は聞いてない!」
「ええ・・・・・」
めちゃくちゃだ。だけどこうなったツバサさんは僕がいくら言ったところで聞きいれてくれない。
まあ別にツバサさん家にお邪魔するのは良いんだが、その前に家を見つけるというそもそもの目的を失いつつあるんだよなぁ。
まいっか。
「という事で決定ね!明日からうちに泊まる事。異論は認めません」
「明日から!?」
「何か文句でもあるのかしら?」
「いや、僕はないですけど・・・・」
今現在居候させてもらっているのは花陽の家。予定ではこの一週間は花陽の家で過ごしつつ、ぼちぼち家を探そうかと思っていたのだが。まあ、花陽には説明すれば分かってくれそうな気がする。
「・・・・・・・・・・さて、解決したところで、それじゃあ雪。お仕置きの時間よ」
「もう。今度はなんですか?お仕置き?」
「そう、ミューズの子たちには相談してたのに、私にはなんの話もしてくれなかったからそのお仕置き。なんだと思う?」
ええ。それはまあ、悪かったかなとは思ってるけど、そんなお仕置きされるほどなの?そんな悪いことしたの僕?
「なんだと思うって、分かるわけないじゃないですかー。ていうか嫌ですよー。痛いのはやめてくださいよー」
「大丈夫、痛くはないわ。身体的には。ちなみにヒントはなぜ私がジャージを着ているのかという点ね」
ツバサさんは胸を張るように指示すそのジャージはなんてことはない。学校指定の二年が着ている緑色のジャージにこれまた学校指定のハーフパンツ。何の変哲もないものだけど、ヒントって――――――――――。
「まさか・・・・・・」
「ふふん♪そう。そのまさかよ!」
得意げな顔をするツバサさん。つまりどういう事かというと、ツバサさんは今授業中(僕もだけど)ということはツバサさんのクラスは体育ということになる。そしてこの空き教室。もしかするとここは空き教室などではなく、女子の着替えるための更衣室になっているのではなかろうか。
そう思い、改めて周りを見回すと、予想した通り、女子のものとおぼしき着替えが散乱している。
しかも先ほどツバサさんが僕のクラスに来たのが授業終了十分前。今何分なのか、あれから何分たったのかわからないがそろそろ女子達が来るころなのでは?
そして大群を味方につけたツバサさんからのリンチ。
「ちょ!痛いの嫌だって言ったじゃないですか!」
「だーかーらー、身体的には痛くないわよ。ちょっと痛い目見てもらうだけよ」
「矛盾してる!そのセリフ矛盾してるよ!気付いて!」
ガチャガチャと二人でもめていると、不意に多人数の足音と共に話し声が。しかも女の子の声。
「ふふ、私の勝ちね」
「勝ち負けだったの!?」
なに?じゃあどうすれば僕の勝ち?どうすれば社会的に抹殺されずに済む?
そうそう簡単に閃くはずもなく。なぜかツバサさんに掃除ロッカーの中に入れられる。
「ふふ、そこでハラハラしてると良いわ。そして私になんの相談もしなかった事を後悔し反省すると良いわ」
悪い顔だ!類を見ないほど悪い顔してる!
「つ、ツバサさん―――――――――――――」「あーつかれたー」「おなか減ったー」
ロッカーの扉を押しあけようとした瞬間、ぞろぞろと体育終わりの女子達がなだれ込んでくる。
「あれ?そういえばなんで扉開いてんの?」
(ひいいっ!!)
ロッカーの中から薄っすらと見える目の前の光景に、ハラハラドキドキ。
その隙間から見えるツバサさんの嗜虐的な笑みが、僕の何かに火をつける。
そしてバン!と思いっきり音を立ててドアを開ける。着替えようと体操服に手をかけるものや、談笑していた女子はぴたりと作業を辞め皆一斉にこちらを凝視している。
そんななか、堂々と真顔でドアまで歩き、こちらも勢いよく開ける。
そして、静まる空気の中。最後は静かに後ろ手に扉を閉める。
「・・・・・・ふっ。勝った」
「ってなるわけねーだろぉ!!」
「あ、やっぱり?」
速攻でドアを開け放たれ、襟首を掴まれながら引き込まれる。そして瞬間的に手足を拘束された。
「ちょ、ちょっと待ってください!ツバサさん、そう!ツバサさんに嵌められたんです!」
「はぁ?ツバサって、いったいどこにいるのよ」
そう言われ、辺りをきょろきょろ見渡しても確かにツバサさんの姿はない。
「あのやろぉぉぉぉ!」
「ほぅ。ツバサの名を語って不埒ごとか。いい度胸してんじゃないあんた」「て言うかこの子生徒会長じゃない?」「あ、確かに」「ロリコンの?」「そうそう」「年上にも興味あったんだー」
わらわらとものの見事に陣形を固められてしまう。やばい。このままでは非常にまずい。ただでさえ不名誉なあだ名をつけられているのにこれ以上のイメージ悪化は何としても避けたい。
「うん?雪じゃないか、いったいどうしたんだそんな恰好で」「英玲奈先輩!」
どうやら英玲奈先輩のクラスだったようだ。良かった。助け船がいた。
「助けて!ツバサさんに嵌められたんです!決して覗こうとかそんなよこしまな気持ちは―――――――――――――って言うかその前に」
「ん?」
「あの、まえ、隠してもらって良いですか?」
なんで普通の顔していられるんだろうこの人。ふっつうに上半身下着姿なんですけど。恥ずかしくないのか。
「・・・・・・うん?」
「いや何言ってんのこの人みたいな顔しないでください。きょとんと小首をかしげないでください。あれ?俺がおかしいのか?俺がおかしいのか?」
「あはは、まま、気にすんなよ。それでツバサがなんだって」
「ああいやだから――――――――――――――――」
そこで丁度チャイムが鳴って、その音が鳴りやまぬうちから足音と共に勢いよく扉があけ放たれる。
「雪君!」
「あんじゅ!」
そこにいたのは間違いなくあんじゅだ。
「良かった、無事だったんだね」
僕の姿を見るや否や、飛びついてくるあんじゅ。柔らかい体や、シャンプーの良い匂いなんかが一緒に飛びついてきてくすぐったい。
「つーか無事じゃない!どこら辺!?どこら辺を見て無事だと思ったの!?」
「ツバサに連れて行かれたって書記さんから聞いて」
なるほど、それでチャイムが鳴った瞬間にここまで来てくれたのか。
「あー、良かった無事で」「ああうん。そんでね。一緒に誤解を解いてほしんだけど」
ようやく体を離してくれたあんじゅはいつもの笑顔で。
「え?ダメだよ。覗いたんならお仕置きは受けないと」
「あれえ!?」
いつもの笑顔でとんでもない事を言い出した。
「いやだから覗こうと思って覗いていたわけでは――――――――」
「でも覗いたんだよね?」
「・・・・・・・・・」
有無を言わさぬ圧迫感に、ついに何も言えなくなってしまう。
確かに不可抗力とは言え覗いてしまった事実は事実だ。
「みんな。ヤっちゃって?」
「その手の動き恐ろしいんでやめてもらえません!?」
あんじゅの手の動きが恐ろしい。完全にヤるきだ。
「よーし、じゃあヤっちゃうね?」「大丈夫!お姉さんたちにまっかせなさい!」「とりあえず目、つぶって?」
「じゃあね雪君」
「あ、ホントに助けてくれないんだ」
待って!ホントにヤられる!なんかじりじりと迫られてる!!
「ぎゃああああああああ!!!!」
「あ、ゆ、雪君」
「花陽?」
時間は放課後になり、下校する生徒に交じって一人、制服の違う女の子が目立っている。まあ僕の制服も目を引くという点では似たようなものだ。ところどころボタンは千切れはだけているのだから。
「あ、えっと、一緒に帰らない?」
「いいけど、わざわざ待っててくれたの?」
「うん」
歩幅を合わせながら、花陽は笑顔でそう言う。
「で?なんで雪君はぼろぼろなの?」
「・・・・・・なんでもないよ」
「?」
花陽の不思議そうな顔と一緒に歩きながらそう言えばと思い出し、ツバサさんの家に行くことになったと報告。
「誰の家って?」
「だから、ツバサさんの家だよ」
「――――――っ!」
なんか衝撃を受けている。今にもズガーンといった効果音がバックに映し出されそうだ。
「だ、ダメだよ!」
「え?」
手をぎゅっと握りしめ、反対を食らってしまった。どうしようまさか反対されるとは思ってなかったので、あたふたしてしまう。
「い、いやでも。もう約束しちゃったし・・・・・・」
「約束なら私の方が先にしてたもん」
「そ、それはそうなんですけど・・・・・・・・」
それを言われるとつらい。ていうかなんでぼくがこんな気まずい思いをしなければならんのだ。
「雪君は、先にしてた約束を破ってまでツバサさんの家に行きたいんだ・・・・・・・」
「いや、そう言うわけでもないんですけど」
いつのまにか敬語になってしまった言葉を戻せずに、タジタジになる。
でも、きっと花陽なら分かってくれる。
「ごめんね。約束してたのに、でもツバサさんも僕の事を心配してくれてるんだ。僕としてはみんな大事だし、花陽も大事だよ。だから、ね?」
「むー、・・・・・・・・私だって心配してるよ」
膨れた面で、拗ねた瞳で、呟くようにそう言う花陽に僕はたまらなく申し訳なくなると同時に、たまらなく嬉しくなって。
「――――――――うん。知ってる」
「私はもう知らない!」
そう言うと同時に膨れた面のまま、ずんずんと先に行ってしまう。
怒らせてしまっただろうか。
呆れさせてしまっただろうか。
ちゃんと謝らなきゃな。
「雪ちゃん・・・・・?」
「雪、あなた・・・・・・」
「あれ?」
声がしたほう、後ろを振り向くとなぜかそこには凛と真姫ちゃんが。
「雪ちゃん何したんだにゃ!かよちんがあんな風に怒るなんてお米以外で見たことないよ!」
「あ、あれやっぱり怒ってたんだ」
「・・・・・・・・・・」
「真姫ちゃんやめて!そのゴミを見る様な眼やめて!なんか死にたくなってくるから!」
確かに僕が悪いですが!全面的に僕が悪かったですが!
「はぁ、何したか知らないけど、しっかり謝るのよ」
「――――――――――――うん」
「ていう事があって大変だったんですよ」
そして時は冒頭に戻り、ツバサさん宅へ。
「ふーん」
「いや、ふーんて・・・・・」
あのあとご機嫌がナナメってしまった花陽になんとかご機嫌を直してもらうまで大変だっというエピソードも語ってやろうかこのやろう。
吹き抜ける風の爽やかさと、己の心の吹き荒れる風が対比的で。思わず笑ってしまう。
ペンを放り投げ、一つ伸びをしてあくびが出るくらいには、穏やかな気候だ。
「寝不足?」
「ん?まあ、ここんとこ卒業式のあれこれで忙しかったからですかね」
いいながら自然とまぶたが落ちてくる。どうやら眠気というのは抗えば抗うほど激しさを増すようだ。
「ふふ、良いわよ寝ても。勉強はあらかた落ち着いたし。あ!なんなら一緒に寝る?」
「バカ言わないでください」
とはいえ、眠気が最高潮を迎えようとしているのまた事実。お言葉に甘えさせてもらうことにした。
「あ!待って、今ブランケット取ってくるから」
「・・・・・・・・・」
心の中では返事出来るのに、言葉になって口から出て行かない。
・
・
・
「ごめんなさい。ちょっと良い感じのブランケット探すのに手間どってって―――――――――――――――――――ふふ」
「すー、すー」
「良い寝顔」
揺れるカーテンと同調するように動く雪の前髪がなんだか愛おしい。
じーっと寝顔を見つめているとあっという間に時間が過ぎて行きそうな気がする。
あまりにも無防備なその顔に、なんだかちょっとばかしのいたずら心が芽生えてきてしまうくらいにはいつ見てもそそられる寝顔だった。
今は二人きり。親にも無理行って二、三日家を開けてもらった。邪魔するものは何もない。
(いかんいかん)
思考がアブナイ方向へと傾きそうになって、己の克己心に活を入れる。
(でも、ちょっとだけ――――――――ちょっとだけなら)
私の克己心が迷子になったその瞬間に私は雪の背中から体重を預ける。
そう、これはちょっと体重を預けているだけ。決して抱きついているわけではない。
心中で言い訳しながら、雪の背中の鼓動を。ゆっくりと上下するお腹を。暖かい体温を。雪の匂いを感じて。まわした腕に、力がこもる。
ああ、好きだなぁ。
好きで好きでたまらない。日を追うごとに今までよりも何倍も大きくなっていくその感情に、ついて行くのが精いっぱい。
いつか許容を超えて爆発しないか心配になっても、その感情が小さくなる事なんてなくて。
なくなる事なんてなくて。
「好きよ。雪」
溢れて溢れて漏れ出てしまったその言葉は。
今は寝ている時にしか言えない。小さな勇気。
――――――――――――――――――――何分経っただろう。
ゆっくりと背中から頬を離す。時計を見ると実際には十分も経ってないのだが、何時間にも永遠にも感じられた。
小さな勇気は、寝ている時だけの、期間限定。聞こえていないと知って、聞こえていないと分かって、その時だけ言える。そんなちっちゃな勇気。
だから、寝ている今は、勇気が出る。ちっちゃなちっちゃな勇気だけど。でも、そんな勇気で、何でもできる気がする。
小さな勇気で何でもできる気がする。
「――――――――――んっ」
触れた唇と唇が、あったかくてとろけそうになる。鼓動が早鐘のようにバクバク鳴り響いて耳が痛い。
熱いのは今日の気温の所為か、先ほどまで肌寒かったはずなのに、今はもう全身が暑くて、口から火を噴きそうだ。
離した唇から、息が漏れ出る。
「さてと、お昼ご飯の準備しなくちゃ」
「――――――――――――」
かけられたブランケットがずり落ちながら目が覚める。
「・・・・・・・・」
少しだけ濡れた唇に触れながらまどろみの中の事を思い出す。
(・・・・・キス、されたのかな)
腕を枕にしていたせいで腕がピリピリする。ノートは皺くちゃになってせっかく勉強したところが見づらい。
でも、そんなことどうでもよくなるくらい今の僕の頭は沸騰していて。
「・・・・・・・あー、もう///」
口元を隠す手も、自らの血液も、触れる頬も、なにもかもが熱くて。熱い。
そんな感情に浸っているとザック、ザック、ザック。とどこからともなく不自然な音がする。
「ゆーきーくーん。あーそーぼー」
その音の正体を探るべく、声がする窓の方を見やると、そこにはまるでロッククライミングのように登ってきたあんじゅの姿が。
「なにしてんの?普通に玄関から入りなよ」
「ぜぇ、はぁ、え?なに?」
「いや、なんでもない」
肩で息をしてるあんじゅを見ていると、なぜか安易に玄関から入ればと言えなくなってしまった。
「ふふ、そうだぞあんじゅ。普通、げ、っんかんから入る物だろう。人の家というの、っは!まったく、常識がなってないなっと」
「おーい、英玲奈先輩あんた今の自分の姿見てみ。思いっきり常識ないから。思いっきり窓から入ってきてるから」
外から見たら通報者だぞ。
「うわ!あんたらどっから入ってきたの!?」
エプロン姿のツバサさんが部屋に入ってきて驚きの声を上げる。その声にちょっとドキっとしたのは声の大きさか、はたまた先ほどの光景か――――――。
「あー、き、「「ドキッ」」つかった――――――――――」
き、に以上に反応してしまいあんじゅが不審げにこちらを見る。
「「な、なに!?」」
「いや、何も言ってないって言うか、こっちのセリフなんだけど・・・・・」
二人ともオーバーなリアクションと赤くなった顔を隠すように各々早口に言い訳してる。その姿がさらに不信感に拍車をかけたのか、今度は英玲奈先輩が。
「き!「あ痛っ!」「ぎゃう」僕は足を机にぶつけてしまい、ツバサさんはエプロンの裾を踏んで転んでしまう。明らかに動揺していた。
「・・・・・・まずい空気だな、と言おうとしたんだが」
だらだらと冷や汗を垂れ流す。いくらなんでも動揺しすぎ。
「えー?なんだなんだ。私らがいない間に二人で何してたんだー?」
「べっつに!何もしてないし!なんにもしてないし!」
「怪しいなー。今さら隠し通せないよ雪君」
「ちょっと二人とも。そんなに責めちゃかわいそうでしょ?」
「いやいや、ツバサは意外と大胆だからな。キス!ぐらいしたんじゃないか?」「ぶふっ!!」「な!///」
「「え?」」
「ちょ!ツバサ!!どういうこと!?」
「な!なんにもしてないわよ!」
「あっはっは!雪、それは邪魔しちゃったな」
「邪魔とかないですから!全然ですから!全然来てくれてよかったですから!」
「雪君!おかしいよ!付き合ってないのにキスするなんて!」
「あれ!?キスした事確定なんだ!」
「ていうかちょっとまって雪!あなたまさかさっき起きてたの!?」
「い!やいやいや!起きてない!何も見てないし!何も聞いてないし!何もされてないし!」
ぎゃいぎゃいと騒がしい毎日に、ほんのちょっとの変化と、ほんのちょっとの刺激をスパイスに。
僕らの日常はまだまだ回る。ぐるぐると回る。
そうやってまた僕らは一つずつ歳をとって。階段を上って大人になっていくんだ。
「綺麗に終わらせると思わないでね!キスしたのかしてないのか、したなら私ともキスするのか、はっきりしてもらいますからね雪君!」
「なんか一個増えてる!勘弁してください!」