ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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始まりが終わり

「在校生、送辞。在校生代表海田雪」

「はい」

 既にちらほらと桜が開花し始めた春の中。僕らは卒業式を迎えていた。

 ラブライブも無事に終わり、幕を閉じた三月。僕ら生徒会も年度末最後の大イベント。

「校舎に吹く風が少しずつ温もりを増したように感じられる今日この佳き日に卒業を迎えられました先輩方、ご卒業おめでとうございます」

 壇上に上がり、やや緊張した面持ちで手に持っていた紙を広げその内容を声に出す。

「僕個人はまだ、先輩たちと過ごし始めて一年もたっておりません。ですが、生徒会長として先輩達がこの学校をどういう風にしていきたかったのか、どういう風にしていったのか。僅かではありますが感じられる事がありました」

 マイクを通す声は、自分でもよくわかるほど不思議と通っていて。

「僕は、生徒会長などという器ではありません。ですが、それでも、守れるものがあるのなら。先輩たちが受け継いできたものを、築き上げてきたものを。守りたいと思うのです。だから、学校の事は心配せずに、後ろ髪惹かれることなく一歩踏み出して行ってください。始まりがあれば終わりがあるのと同様。終わりがあれば始まるものもある。そこで始まる出会いというのもまたあるのでしょう。こんな僕にだってそう言う出会いがあったのです。ですからその出会いを大切に。――――――――この出会いを大切に。」

 以上、在校生代表、生徒会長海田雪。

 そう最後に締めくくって。拍手を浴びながら壇上を下りた。

 卒業生とはまた別の、来賓席などがならぶ一角に僕は腰を下ろす。

「――――――――上出来じゃない」

「――――――――はい」

 隣に腰かけているツバサさんからお褒めの言葉を預かる。

 そういえば、こんなに積極的にかかわる学校行事は初めてだった。だからだろうか、こんなにも想いというのが募って行くのは。

 会場設営一つにしても、段取り一つとっても、思い出というものが鮮明に蘇る。

「・・・・・・もっと、こういうのに出ておけば良かった」

「何言ってるの。これからでしょ」

「そう、ですね」

 そうだ。僕にとってはまだ、これからなんだ。

 ―――――――――――――僕にとっては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 卒業式も無事終わり、各々が思い思いに最後の時を過ごしている。

「ロリコン生徒会長」

「そのあだ名やめてください!」

 なぜか、亜里沙ちゃんや雪穂と一緒に校門で話し込んでいるのを噂されてからこのあだ名が定着してしまっていた。

「一緒に写真撮ろうよ」

「ええ、いいですよ」

 名も知らぬ先輩と一緒に講堂をバックにツーショット写真をとる。

「・・・・・・なーんでツバサちゃんも一緒に写ってるのかな?」

「ええ?いいじゃないですか。私との思い出も残しておきたいでしょ?」

「それはそうだけど、それとは別に二人の写真が欲しかったんだけど・・・・」

「第二ボタン頂戴!」

「いや、それ逆ですよね?」

 感慨に浸る間もなく、あっという間に講堂の前で大勢に囲まれてしまう。

「うーん。心配だなー。ちゃんと学校守っていけんのー?」

「いけますよ。頑張りますよ」

「でもロリコンだからねー」

「いや関係ないでしょ。つーかロリコンじゃないし」

 わちゃわちゃともみくちゃにされながら今さらながら、生徒会長になってよかったとそう思えた。

 こんなにたくさんの人を笑顔に出来た。勿論僕だけの力じゃないけど、でもその一旦を担えてよかった。

 まるでみんなみたいだ。

 みんなみたいに、誰かを笑顔にして、誰かを元気づけて、誰かに勇気を与える様な。そんな存在に。ちょっとだけ近づけた気がした様で。

 ほんのちょっぴり。誇らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?いかなくていいの?」

 卒業生は皆、二次会へと移動して僕らは講堂の後片付けをやっていた。

「・・・・・・・・何がです?」

「何がって、やってるんでしょ。あっちも」

「・・・・・・いいんですよ。大体僕は部外者ですよ。入れてもらえるわけないじゃないですか」

「そんなの行ってみなければ分からないでしょ」

「でも、僕がいても無粋なだけでしょ」

「ああもう!じれったいわね」

 痺れを切らしたのか、ツバサさんは持っていたパイプ椅子を他の役員に手渡し、強引に僕を引っ張っていく。

「ちょ!まだ片付け終わってませんよ」

「あんじゅ!後は任せたわよ!」

「はーい。任されたー」

 あんじゅも間延びした声で軽く返事をする。

「周りとか無粋だとかどうでもいいのよ。大事なのはあなたが行きたいか、そうじゃないのか。でしょ?」

 手を引っ張って行きながら、そう問いかけるツバサさんに。僕は――――――――――――――――。

「・・・・・・行きたい、です」

 そう答えていた。僕の本音は、本能の声はそう言っている。確かに、僕は音ノ木坂の生徒でもなければ、あそこで共に過ごした時間だって比べるまでもない。

 だけど、それでもないわけじゃない。僕だって、あそこで積み重ねた時間がある。確かにあそこで共有していたものがある。

 ことりの言葉を思い出して、僕は一歩踏み出す。前へと進む一歩を。明日への一歩を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

 

「がるるるるるる」

「うわー、犬だー」

「いや犬だーじゃないわよ!」

 音ノ木坂へと向かう道すがら、道の真ん中になぜか野犬が。それもそうとう興奮しているようで鬼のような形相でうなっている。

「あはは、ほら、怖くないよー。こっちおいでー」

「いや言ってる場合?早く行かないと卒業式終わっちゃうわよ」  

 ツバサさんは犬が怖いのか、いつのまにやら安全地帯まで後ずさりていた。

「がうがう」

 なおも犬はこれ見よがしに歯を剥き出し今にも襲いかかってきそうである。

「ほーらよしよしお手!」

「バカなの!?あなたバカなの!?」

 犬に近づき右手を差し出し、お手を要求する。 

 すると、トコトコと犬はこちらに近寄り。

「ガブッ」

「おー、よしよしかわいいねー」

「いや思いっきり噛まれてるわよ。思いっきり噛みつかれてるわよ?大丈夫?」

「あはは、大丈夫ですよー。じゃれてるだけだよねー?」

「いや絶対大丈夫じゃないわ。だってすごい形相だもの。まるで親の敵みたいな顔してるもの」

 ブンブンと犬は頭を振り、僕の右手はそれにしたがって振り回される。 

「ていうか!血!血が出てるじゃない!」

「あはは大丈夫ですよ。僕今日血圧高いんです」

「いや意味わからないから!」

 ツバサさんは慌てたように眼光だけで犬を追い払う。

「きゃうん」

「あーあ、逃げちゃった」

「まったく、時間稼ぎしようったってそうはいかないんだからね」

「あはは・・・、そんなつもりないですよ」

 少し皮がめくれてしまい、血がにじむ掌を、ツバサさんは優しく包むようにハンカチで手当てしてくれる。

「はい!これでもうOK。・・・・・卒業式は一回しかないんだからあなただって後悔しないようにね」

「わかってます」

 始まりはいつだったのだろう。いつだってその時は曖昧で、気づいた時にはもう遅い。もう終わってしまう事ばかり。

 何度も何度も願って、この一瞬が永遠に、この時を永遠にって。それでも世界は待ってはくれずに、終わりは来てしまう。

 変えられないから、だから納得できるように。最善を尽くそう。せめてものこの世界の反抗に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急いで急いで急いだ結果。音ノ木坂の卒業式はもう既に始まっていた。

「もう!だから言ったじゃない!あなたが犬と戯れてる間に始まちゃってるわよ!?」

 肩で息をしながらツバサさんは抗議する。そんなツバサさんを尻目に、僕は校内へと踏み出して。

「まったく、いくら生徒会長権限でもここから入るのは厳しいわよ」

「元、生徒会長でしょ?」

 卒業式が行われている体育館までたどり着いて少しだけ開いている扉から中を覗いた。

 暗い体育館の中でひと際明るいその場所に、もう一人の生徒会長、高坂穂乃果は立っていて。

「・・・・・入らなくて良いの?」

「いいんですよ。ここで聞く。僕らしくていいじゃないですか。それこそ、生徒会長権限ですよ」

 今の僕は生徒会長。これくらいのわがままは許されてしかるべきだ。

「ふふっ。やっぱりあなたを生徒会長にして良かったわ」

 そう言って、ツバサさんは静かに、誰にも気づかれないように少しだけ開いていた扉を全開にした。 

「これくらいは元、生徒会長権限でも許されるでしょ?」

「ツバサさん」

「―――――――実は昨日までここで何を話そうかずっと悩んでいました。どうしても今思ってる気持ちや届けたい感謝の気持ちが言葉にならなくて。何度書き直してもうまく書けなくて。それで思い出しました。私こういうのが苦手だったんだって」

 ぐぐもって聞こえなかった穂乃果の声は、開け放たれた扉から、はっきりと、くっきりと伝わる。

「子供のころから言葉より先に行動しちゃう方で、時々周りに迷惑もかけたりして。自分を上手く表現したりすることが本当に苦手で、不器用で。でもそんな時、私は歌と出会いました」

 始まりはいつだっただろう。いつだって始まりは曖昧で、感じさせられる事なんてないくせに。

「歌は気持ちを素直に伝えられます。歌うことでみんなと同じ気持ちになります。歌うことで心が通じ合えます。私はそんな歌が大好きです。歌う事が、大好きです」

 いろんな事が思い出されては消えて行く。まるで気砲のように。

 開け放たれた扉から爽やかな風が吹いてきて。髪がなびくのを抑える。春を感じさせた。

「先輩。皆さま方への感謝とこれからのご活躍を心からお祈りし、これを送ります」

 真姫ちゃんの軽快なピアノと共に、数人の歌声。

 やがてその歌声は大きさを増し、この体育館全体に響き渡っていた。

 始まりはいつだって曖昧で、感じさせられる事なんてないくせに。

 ―――――――――――――――終わりはこんなにも、強く、色濃くのこるんだ。

 きっと当たり前で、そんなこと、この世の誰もが知っているんだろうけど。でも僕は、それを今初めて知ったんだ。

 初めて――――――――――――――――。

「い、やだなぁ。っくるしいなぁ・・・・・もう・・・・・っひっく・・・・」

 泣き崩れる僕を、ツバサさんは何も言わずただ抱きしめてくれた。 

 あったかくて、優しくて、いろんなものがこぼれ落ちそうになる。きっと今、僕の顔はぐちゃぐちゃだ。

 ぐちゃぐちゃでとてもじゃないけどきれいとは言えないけど。でもやっと僕は終わったんだ。終わりを知ったんだ。

「ああほんとうに。やだなあもう・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!雪ちゃん!?」

「やあ穂乃果。良い演説だったね」  

「聞いてたの!?」

「雪、あなた自分の卒業式はどうしたんですか?」

「終わらせてきたに決まっているだろう」

 卒業式が終わって、みんなが体育館から出てくるところを待ち伏せした。

「どうしたんだにゃ?目が赤いけど」

 凛にそう指摘され、思わず顔を手で隠す。さっき思いっきりこすったからだろうか。

「そ、そう?気のせいじゃないかな」

「あ、つ、ツバサさんも来たんですか?」

 そんな不審がる凛と僕をよそに花陽は当然の疑問を口にする。

「ええ、ここまで彼を引っ張ってきたの。彼ったら、最初はいかないなんて言い出してね。大変だったわ。そのくせ来たらきたで泣くんだから」

「ちょ!その話はいいでしょ!」

「へー、泣いたのかにゃ?それで目が赤いのかー」

「う、うるさいなー。もう」 

 凛にからかわれ、ツバサさんがなぜか自慢げに話そうとするのを咎めていると、どこからともなく甘い声が。

「ねーえママー。いいでしょー。一緒に写真撮ろうよー」

「はいはい。あら、雪君じゃない久しぶりね」 

「あ、お久しぶりです」

 そこにいたのはにこちゃんとそのお母さん。

「ママ?」

「に、にこちゃん」

 真姫ちゃんと凛は普段とのあまりのギャップにどうやら引いているようだ。体をのけぞるようににこちゃんの事を見ている。

「ち!ちが!これは、間違い。そう間違えて!」

「ええ?嘘つけ。にこちゃん昔からママだったじゃん」

「あんたは黙ってなさいよ!」

「あらあら、仲良しなのねー」

「昔、から?」

「ちょ、ツバサさん?痛い痛い痛い!つねらないで!さっきの優しく抱きしめてくれたツバサさんはどこ行ったの!?」

「は?抱きしめた?だってにゃ?」

「どういうことか説明してくれるかな♪雪君♪」

「あれ?ドツボにはまってる!?あがけばあがくほど状況が悪化してる気がする!」

 みんなにもみくちゃにされながら、二人の姿が見えない事に気づく。

「そういえば絵里先輩と希は?」

「うん?そういえばいないね」

「じゃあ僕探してくるよ」

「あ、逃げたにゃ」

  

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 みんなが校庭にいるのを絵里先輩は窓から覗いていた。

「やっぱりここだったんですね」

「雪?」

 生徒会室のプレートがかかるこの部屋で、絵里先輩と希はいた。

「来たんやね」

「ええ」

 絵里先輩は生徒会長の机をさする。

「なんだかここでずっと仕事していたのが、ずいぶん前のようにも思えるし、昨日のようにも思えるの。・・・・不思議よね」

「そういえば、雪君もてつだってくれたやんな?」

「そうですね。僕は、ずっと昔の事のように思えます」 

 過ごしてきた時間が、想いが、積もり積もって、今までの何倍も濃い一年だった。

 二人は生徒会室をゆっくり歩き、そのまま廊下に出る。

 暖かい日差しが、廊下に差し込み、空気を照らす。

 慣れしたんだ扉。いつものようにいつものごとく、その扉は開く。

 アイドル研究部の部室。

 両隣りにあった棚はアイドルグッズで埋め尽くされていたのに。

 今ではすっきりと撤去されていた。あれはにこちゃんの私物だったはずだから、きっと片付けたんだろう。

「あ、この扇風機」

 希が手に持っているのは、首が折れた扇風機。夏の日に、みんなが折ってしまって、真姫ちゃんの別荘に合宿という名の涼行にいったんだった。

「ふふ、いろんな事があったわね。・・・・・・本当に、いろんな事が」

 そう言う絵里先輩は窓から風景を見ていて。その表情は推し量ることができない。

「ねえ雪」

「はい?」

 

「        好きよ         」

 

「・・・・・はい?」

 ざーっと風が運んでくる花びらが、絵里先輩の綺麗な金髪と共に部室に舞う。

「私と、付き合ってみたりとか、しない?」

「いやいやえりち。うちの告白はまだ終わってないで?」

「うんん?」

 なんだか二人だけが共通の認識で物事を進めている。僕は置き去りにされているみたいだ。

「ちょっと!抜け駆けはずるいよ絵里ちゃん!!」

「穂乃果?」

 バタンという大きな音と共に扉からは勢いよくみんなが押しよせてくる。

「協定はどこに行ったんですか!?」

「ええ?いいじゃない私たちもう卒業したんだから関係ないもん♪」

「絵里ちゃん、もしかしてこの時をずっと・・・・」 

 花陽の問いかけに絵里先輩は下を出して答える。

「なにそれ!私聞いてないんだけど!」

「言ってないもん」

「のぞみぃぃぃ!!」

「へー、絵里ちゃんがその気なら。ねえ、雪君。ずっと。ずーっとことりと一緒にいよ?」

 いつの間にかぴたりと右腕に絡みついたことりが僕の顔色を覗くように言う。

「ことりちゃんずるいにゃ!り、凛だって!」 

 なぜか対抗するように凛も左腕に絡みつく。

 胸の差が顕著に――――――――――――――。

「がぶり」

「いったい!なにするのさ!」

「雪ちゃんが悪いんだにゃ!ムードもへったくれもありゃしないにゃ!」

「もう!みんななにしてるのよ!バカみたい!」 

「真姫ちゃんも告白するん?」

「す、するわけないでしょこのバカ!」

「そうなん?まあウチはもうプローポーズまでした仲やもんな?」

「「「「「「ええええええええええええ!!!」」」」」

 うわー、なんか色々めんどくさいことになってきた。

「ちょっと雪!!どういうことか説明しなさいよ!」

「うわーもう真姫ちゃんちょっと落ち着いてよ」

「ほらこの通り!」

 ドヤ顔で差し出すのは偽造した婚姻届。うっ。胃が痛い。

「どういうことなの雪?」

「あれ?ツバサさんまで?」

「―――――――――――――ゆ、雪。好きです付き合ってください!」

「いや海未!?今そう言う空気じゃない!」

「えええ?!」

「うわー!もう!みんなずるいよ!ちっちゃい頃からずっと見てきた穂乃果が一番雪ちゃんの事好きなのに!最初に好きになったのは穂乃果なのに!」

「わ、私も、好き、です」

「かよちん!いくらかよちんでもこのポジションは譲れないにゃ!」

「いやその前に婚姻届の事を訂正させて!お願いだから!」

「わ、私と結婚したら毎日おいしいおみそ汁作ってあげる!ど、どう!?」

「にこちゃん・・・・・・・・おみそ汁はいいです」

「なんでよ!」

「わ、私は告白なんかしないから!雪が好きなんて、言わないんだから!」

「真姫ちゃん、それもう言ってるのと同義やで?」

「ふふ、みんな焦ってるわね。まあ私的にはみなさんよりも雪と一緒にいる時間ははるかに多いわけですし?ここで焦って告白しなくても、これからゆっくりイエスと言わせて見せるわ」

「くっ。いくらツバサさんでも雪ちゃんはそう簡単には落ちないよ!私達がこんなに頑張ってもダメなんだから!」

「ツバサさん―――――――――――――――――――」

「あれぇ?なんかいい雰囲気なんだけど!?」

「雪君?うちの時と反応が違うんやけど?」

「あわわ、嘘嘘冗談です」

「冗談だったの?私期待したんだけどな」

「ツバサ!やっと片付け終わったよ!ってなにこれ!」

「丁度いいタイミングできた!あんじゅこの状況何とかして!」

「ふふふ、やっぱり雪は面白いな」

「言ってる場合?英玲奈先輩もなんとかしてよ!」

「えー、じゃああれだ。いっそのことみんなで住んじゃえば?」

「「「「「「「「「「!?!?!?」」」」」」」」」」

「それいいかも」

「ことり!?」

「そうやね。それなら寂しくないし」

「希まで!?」

「じゃあ家は真姫ちゃんもちにゃ!」

「なんでよ!」

 そろそろ収拾がつかなくなりそうで、この人数に紛れてこっそり逃げようと画策する。

「なにしてるのかしら?」

「げ、・・・・・ツバサさん」

「さて、そろそろ雪君にはもう十分時間を与えたよね?答えを聞かせて?」

「こ、ことり。それは」

「誰か一人、選びなさいよ」

 にこちゃんはこれまで見たことないような真剣な表情で僕を追い詰める。よくよく見るとみんな同じ表情だった。

「・・・・あ、やっぱりみんなで住むって言うのがいちばん丸く収まるし僕も働かなくて良いしハッピーエンドじゃないかな?」

 ・

 ・

 ・

 しばしの沈黙の後、全員顔を見合わせて。

「なにが丸く収まるだ!非現実的すぎるにゃ!」

「結局働きたくないだけだよね♪雪ちゃんは」

「この国は一夫多妻制は認められていないんですよ!」

「バカ!大体いくら私でもこの人数が一度に泊まれる家なんて用意できるわけないでしょ!バカバカバカ!」

「このヘタレ!」

「天然フラグ製造機!」

「鈍感!」

「ヒモ!」

「ダメ男!」

「バカ!」

「アホ!」

「ドジ!」

「マヌケ!」

「小学生か!!あと一つの回答に対しての罵詈雑言がすごい!!」

 そんな罵詈雑言の嵐と共にストンピングの嵐も吹き荒れている。ほっぺから伝わる床の冷たさが染みる。

「バカ。でも好き!」

「天然。でもそういうところが愛おしい!」

「いや緩和されねーから!そんな取ってつけたような褒め言葉で緩和されねーから!つーかいつまで蹴られなきゃいけないの僕は!?」

「好き好き好き大好き!」

「愛してる!」

「セリフと行動が一致してない!」

 その言葉を最後にやっと蹴りの嵐が止む。みんなある子は泣きながら、ある子は笑顔で、ある子は照れながら。思い思いに部室を去って行った。最早心も体もぼろぼろだ。

「なんでこーなるの?」

「ふふ、丸く収まる、ねえ」

 残ったのは絵里先輩だけだった。

「絵里先輩、こうなるって分かってたんでしょう」

「さて、どうかしらね?」

 にっこりと笑って、絵里先輩もまた行ってしまった。

「はー」

 ごろりと仰向けに転がり、眩しく光る天井を見上げる。

 依然その眩しさに目を細める事は変わらないけど、もうその光から目をそむけることはない。

 最後くらいもっと静かにやりたかったものだが、これもまたらしい終わりだということだろう。

 終わる物があって、だけど続くものもある。アイドル研究部などその最たる例だろう。

 ここはまだ終わらない。

 始まりがあった。気付かないほど些細な始まりだった。だけど終わりだけは色濃くて。後悔しそうになる。 

 僕らは終わった。けれど、始まりが終わっただけだ。

 始まるがあるから終わりがあって、終わりがあるからまた始まりがある。

  

 僕らの始まりがここで終わった。

 




どうも高宮です。
というわけでついに終わりました。
この一話を分割しようかどうか悩んだんですけど結局一話にまとめた結果。最終話となりまして、今まで皆さんありがとうございました。
これからは話しのネタが思いついた時や、書きたくてしょうがなくなったときに不定期で、まあ今までも不定期でしたけど更新していきたいと思います。
劇場版の話もまだ残ってるしね♪
なにはともあれとりあえず完結ということで。 
改めて最後まで読んでくださってありがとうございました。 

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