ニュース番組の一幕。
『今日未明、十六歳の少年が年齢を偽り、違法なバイトに手を出していたことが発覚し、逮捕されるに至りました。少年は「仕方なかった。お金の為にやった」などと供述しており背景には家族との確執や父親の家庭暴力などがあった模様です。これによりPTAや教育委員会などは青少年の事件の多さを今一度再確認し、再発防止に努めると共に―――――――――――――』
十年後―――――――――。
「やっと、やっと釈放だ・・・・」
釈放の喜びに打ちひしがれていると、目の前にミューズのみんなが変わらない姿でいてくれる。
「みんな!僕、僕やったよ!やっとシャバに出られたよ!」
しかし、僕の言葉は彼女らには届かない。みんな背中を向けてぐんぐんと遠ざかっていく。
「ちょ、待ってよ!待ってってば!!」
ガバッと布団から勢いよく目覚める。どうやら夢だったようだ。目覚め悪い。
そりゃそうだよね。逮捕されるなんて、そんな重い展開絶対夢オチだよね。
「おい、朝食の時間だぞ。早く起きろ」
「はーい」
ちょっと野太い声だけど、希かな?確か今日は希のお宅にお邪魔させていただく手はずだったはず。
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―――――――――――――――当然そんなはずはなく。
囚人服を着た囚人たちが集まる中、朝食をとるために給仕係の前に列が形成されている。
夢じゃなかった。
ユメジャナカッタ。
ユメガヨカッタ。
「な、なんで。なんでこんなことに」
おかしい。つい昨日まできゃっきゃうふふと、日常を過ごしていたはずなのに、なんでいきなりプリズンブレイク?なんでいきなりラブもくそもないこんな男しかいない空間に放り込まれなきゃいけないんだ。
「いやだよー。ここに住みたいって言ったことあるけど、あれは言葉の綾というか半ばやけくそだったからで実際現実になるとなるとやっぱりジーザス!」
神様助けて。マジもんの一生のお願いここで使うから。俺まだ使ってないから!
「おい、新入り。お前何してここに入ってきたんだ」
「はい?」
隣に腰かけた明らかに強面の、額に十字傷なんか作っちゃってるオジサンが話しかけてくる。
「あー、えっと。なんだっけ。年齢詐称とその他もろもろ」
飲酒と喫煙なんてのもあった気がする。その二つに関してはなんでばれたのか未だにわからない。飲酒に関しては班長しかいなかったし、喫煙に関してもツバサさんにしか知られていないはずだ。それ以降は姐さんに誓ってやっていない。
「はっ。しょべえな。そんなんでパクられてんじゃねえよ」
「じゃああなたは何で捕まったんですか?」
鼻で笑われた。別に張り合うつもりもないし、そんなんで勝ち誇られても困るのだが一応聞く。
「俺か?俺は駄菓子屋で万引きしたんだ」
「しょぼいな!!」
嘘だろ。その顔で?愚地独歩並の強面なのに?つーか駄菓子屋で万引きって小学生か!
「ふん。甘いな。俺なんかコンビニで止めてあったチャリパクってやったぜ」
「だから低いんだよ犯罪のレベルがよ!」
せめて盗んだバイクで走りだすくらいしろよてめーら。それでも犯罪者か。
つーか何。こいつらこんなヤクザみたいな顔してそんなしょぼい事でここに居んの?しょぼい奴専用の刑務所か何かなの?
「若いのー。そんなことで張り合うだなんて」
「ああん?じゃあジジイは何やってここに入って来たんだよ」
明らかに一人だけ年が離れた老人が口を出してくる。
「わしはなーあれはなー仕方がなかったんじゃ。だれだってあの状況下ではおんなじことになっていただろうなー。もう何十年も前の事じゃ」
口ぶりから察するに相当重い事件なのかもしれない。何十年もここにいるということからも事件の重さが匂わされる。
ごくりと、三人で生唾を飲み込む。
「プリン」
「は?」
「プリンがのー、食べられておったのじゃ。わしが大事に大事に取っておいた農協が作ったあの昔ながらの固いプリン。あれ探すの苦労したのにクソ親父の野郎。それを一言の詫びもなく食いやがったんじゃ・・・・・・あれ?誰もいない」
開始三秒ほどでみんないなくなっていった。確定だ。ここはくだらない奴が入ってくるとこなんだ。
「おい、お前に面会だぞ」
なんとか一日が終わり、これからどうしようかと模索していたところ、看守に声をかけられ面会室へと通る。
「雪ちゃん!」
そこにいたのは穂乃果達ミューズだった。捕まる直前になんとかして僕を釈放してもらえるように頼んでいた。
「聞いて!なんとか方々に駆けずり回って減刑を取り付けたんだにゃ!」「一年だって!それまで刑務所でおとなしくしててね?」
「いや違ううううううううううううう!!!」
凛と花陽の報告に思いっきりシャウトする。
「チゲーだろ!何減刑で喜んでんの?一年もあったらこの物語終わっちゃうだろーが!」
「仕方ないでしょ。どれもこれも一応は事実なんだから」
「確かに!これは抗えない・・・・・ジーザス!」
ってバカ!本格的に終わる!最終回になる!
絵里先輩の言葉に何とか反論する。
「いや考えても見てよ。どれも確かに僕に責任はあるけど捕まるようなことじゃないんだって。法律的には責任はお店側とか保護者とかに行くんだから」
僕はまだ未成年だ。刑の内容を見ても情状酌量の余地はある。
「真姫ちゃん!お金の力で何とかしてよー。こういうときの為のお金持ちキャラでしょ!?」
「違うわよ!!あんた本当に遠慮がなくなってきたわね!」
やだよー。この年で前科持ちになりたくないよー。確かに危ない橋渡ってたけど、確かにそうなるかもって考えたけど、でもまさかこんなちんけな子供本気で捜査して捕まえるなんて思わないじゃん。
「ていうか、怪しいとは思ってたけど、本当にそんな危ないバイトしてたのね」
「ぐっ」
にこちゃんから指摘され、顔をそむける。そう、どれも確かに自分の意思でやってしまっていることだ。それに後悔も反省もないけれど。
「これ、あの日雪君の家から持ってきてしもうてね。返すタイミングが見つからなかったんやけど」
そういって希が懐から取り出したのは、一冊のノート。そのノートの表紙には幼い字でにっきとだけ綴られている。
「それ・・・・・」
確かに、家を出るときになくしたものと思っていた日記。希が持っていたのか。
今はガラスが隔てているので返してもらうことすらできない。
「もしかして、読んだ?」
恐る恐る。本当に恐る恐る聞いた。
返事は頷きで帰ってきた。
「え?なになに?なにそれ?何の話してんの?」
穂乃果はきょとんと僕と希の間を視線が交差している。他のみんなも同じ反応だ。
「大丈夫や。中身は誰にも見してへんよ」
良かった。ほっと胸をなでおろす。
「いや良くねえな!少なからず希は読んだんでしょ?」
「うん。色々、書いてあったね」
ぎゃああああああ!!
おもいっきし頭を抱える。あの日記には小さいころから、溜まったストレスとかその他もろもろ本当に赤裸々に綴ってある。だって誰かに読まれるなんて想像もしてなかったんですもの!誰かが家に来ることすら想像してなかったんですもの!
そんな日記を知らないところで読まれるなんて、いや知ってるところで読まれるのもきついけど。
「まあとにかく、なんとか釈放扱いにならないか私達も頑張りますから、雪はくれぐれも問題を起こさないでくださいよ」
いや頑張るって何をどう頑張るんだろう。
そこはかとなく不安なのだが、結局のところ僕には何にもできないので頼み込む事しかできない。
「よう!お前もやらねえかバトスピ!」
「やんねえよ!」
なぜか囚人たちの間ではバトスピ大会が行われている。緊張感ねえなホント。大の、それもこぞっていかつい男たちが鉄格子に囲まれた部屋でカードを並べている姿は滑稽を通り越して恐怖ですらあった。
そんなバカ達は放っておいて、僕はある一つの計画を練っていた。
脱獄。
もうそれしかない。こうなったら自分で脱獄して無実を勝ち取るんだ。
そのためにはまず看守を手なずけて・・・・・・。
「はっはー、ここでドラゴン・オーバーレイだ!」
「看守もやってんじゃねーか!!」
なんで看守も囚人に交じってバトスピやってんの。いや僕も好きだけどね。
もうこれ正面から脱獄したほうがいいんじゃね。
そう思っていたのだが、次の日にやってきたツバサさんによって僕の計画は意味をなくす。
「さ、釈放よ」
「え?」
言っている意味が分からず思わず聞き返す。
「だから、釈放だと言っているの。なによ、ここから出たくないの?」
むーっとほっぺを膨らますツバサさんに、意味は分からずとりあえず釈放される。
後ろ手に閉まる出口から日の光が差し込む。
「おー、彼女か。ええなあええなあ」「じゃあな駄菓子屋のババアにあったらもう居眠りすんなよって伝えておいてくれ」「わしはプリン買ってきて!かっちかちに固まってるプリンじゃぞ」
鉄格子越しにバカでかい声でしゃべるバカ囚人はほおっておいて問題はないが、この釈放については問題、というか疑問しか残らない。
「なんで僕釈放されたんでしょう?」
「うん?それは、あなたがダシに使われたからよ」
「はい?」
ダシ?べつにおみそ汁に使ってもおいしくないと思うが。
「そう言う意味じゃないわよバカ。本当にあなたは想像の斜め上ね」
なんだか聞かれていたようで、若干恥ずかしくなるもその後のツバサさんの言葉に耳を傾ける。
「つまりね。欲しかったのはあなたじゃなくて、あなたを雇っていた法律ぎりぎり、むしろ片足突っ込んでる店側の方を摘発したかったのよ」
あー、なるほど。
ポンと一つ手をたたく。僕が逮捕された理由にそんな裏側があったなんて。確かに店の事について根掘り葉掘り聞かれて、全部しゃべったけど。あれはそういう意味だったのかと今さらながら合点がいく。今思い返してみればなんだかあの警官、ほくそ笑んでいた気がしないでもない。
「ん?でもそれじゃあ・・・・・」
「ふふふ、そうよ。あなたはもう危ないバイトは出来ないのよ!!」
なぜか嬉しそうに言うツバサさんの言葉にぴしゃーんと雷がうたれたように電撃が走る。
「バイト先が摘発されたということは必然的に俺もクビに・・・・・?」
「そういうこと」
これはやばいぞ、色々とやってきたバイトが全部一気になくなるということは生活がー!お金がー!
と、一瞬思ったもののよくよく考えてみればもう父親に生活費を払うことはないのだし、家賃も残念ながら払わなくていい。一応居候させてもらっている穂乃果の家には食費を入れているくらいで、お金は前ほどかからなくなった。
と、いうことは。
「別に支障ないな」
「そうね。雪もわかってくれたようで良かったわ」
先ほどから終始顔が満足げなツバサさん。いやそれよりもどうやって僕を釈放したのか気になる。権力的な何かか。権力的な何じゃないだろうな。
「権力的な何かよ」
権力的な何かだった!やっぱり権力的な何かだった!
「いやほらアライズのリーダーやってると色々顔が利くのよ」
「やめてやめてそういう田舎特有の権力者のつながりとか聞きたくないから」
別にここ田舎じゃないけど。でも想像したくない!
「まあとにかく釈放おめでとう。警察に利用された気分はどう?」
「そういうの聞きます?」
ひやっとしたけど、でもまあ無事だったんだ。良しとしよう。
「ただいま」
とりあえずみんなに釈放されたことを伝え、穂乃果の家に荷物を取りに来たところ。
「あ!雪さん!」
「亜里沙ちゃん」
穂乃果の家には制服姿の亜里沙ちゃんの姿が。雪穂と遊んでいたのだろう、お邪魔しないうちにとっとと希の家にいこうと挨拶もそこそこに荷物を取りに行く。
すると後ろに亜里沙ちゃんがついてきて。
「雪さん!ウチにはいつ来るんですか?お姉ちゃんが家を掃除したり、新しい寝間着を買ったり、そわそわしてるんですよ?」
「あー、でも行くのは来週以降だからちょっと待っててって言っといてくれる?」
「そうなんですか。うちはいつ来ても良いですからね!?そうだ雪さんも見てください!」
荷物を取り終わり、ん?と振り返ると、亜里沙ちゃんはやや緊張した面持ちで「ミューズ、ミュージックスタート!!」と、ミューズの掛け声をまねた。
「ど、どうですか?練習したんですよ?」
「どうですかって言われても・・・・・・」
良いんじゃないとしか言いようがない。そもそも練習するほどのものか、すぐできるだろ。大体なんでそんなことをやっているのか。
「さっき穂乃果さんにも見てもらったんです」
「そうなんだ」
「亜里沙。説明しないと何が何だかいきなりじゃわかんないでしょ」「あ、そっか」
雪穂の言葉にようやく分かってくれたようで、亜里沙ちゃんが説明してくれる。
「私達音ノ木坂に受かったんですよ!」
「え?そうなの!?」
前々から音ノ木を受けるんだとは聞いていたが、まさか服役中にそんな大事なイベントがあっていたなんて。神様のバカ。
「そっか、それはめでたいね。ごめんね、合格発表時にいなくて」
「別に良いでしょ。そんなん当日にいなくたって」
雪穂は照れているのか拗ねているのか、そっぽを向いて顔を合わせてはくれない。
「そうだ、お祝いしなくちゃだね。僕にできる事があればやるよ。なにがいい?」
「本当ですか!?」
亜里沙ちゃんが目をキラキラと輝かせながら前のめりになっている。なんだろ、僕何お願いされちゃうんだろ。
「それじゃ、それじゃ、えーっと何してもらおうかなー。一緒に買い物とか、一緒に遊園地とか、一緒に映画とか」
「別にいいけど、それでお祝いになるの?それくらいならいつでもできるじゃん」
「いいんです!私にとってはご褒美なんです!それとは関係なしにいつでもって何ですか!誘っても良いってことですか!?」
「いやむしろ、誘っちゃいけない理由なんかないでしょ」
それとも何、僕ってそんな誘いづらい雰囲気出してる?そんな固いオーラ出てた?
「ふああ!!でも、でもでも!お姉ちゃんの事を考えると亜里沙は自嘲しないと行けなくて・・・・あーもどかしい!」
「良いから話を戻そうよ」
若干冷めた目つきでみていた雪穂が逸れた話題を本題に戻してくれる。
「そうだった。つまり、音ノ木に受かったから私達もミューズに入りたいんです!」
「ミューズに?」
ああ、それで掛け声の練習ね。なるほどようやくつながった。
「そうなんです!踊りとかも雪穂と二人で練習してて・・・・・私達ミューズに入れると思いますか?」
不安そうに瞳が揺れる。でも、その不安を解消してやることは僕にはできない。頑張れば絶対入れるよ。なんて無責任なこと言えないし、そんな権限、僕は持ち合わせていない。勿論君たちには無理だ。なんと言うことも同様に出来ない。
「雪穂も、ミューズに入りたいの?」
「うん?・・・・まあ、どうかな」
歯切れの悪い雪穂に亜里沙は抱きつく。
「ちょっと!一緒にやろうっていったじゃん!」
「いや、スクールアイドルはやるつもりだよ。お姉ちゃんを見てたらなんだかやってみたくなっちゃったし。でも、ミューズは―――――――――」
「?」
亜里沙と雪穂。二人がもし仮に、ミューズに入ったら。そしたら僕は、また以前のように、全力で応援できるのだろうか。二人が入ったミューズは、ミューズと呼べるのだろうか。
誰かが欠けたミューズは果たして―――――――――――――――。
「あら、雪君。もう行っちゃうの?」
「あ、叔母さん」
気づくと店番から戻ったのか、叔母さんが僕の後ろで寂しそうに笑う。
「ええ、一週間お世話になりました」
「いいのよ。楽しかったわ。また何かあったら。何かなくてもいつでもうちに来ていいからね、ここがあなたのお家だと思ってくれていいから。なんならうちの子になっちゃう?」
最後の言葉は、本当に僕の心の奥底を揺さぶってくる。正直今すぐにでもよろしくされたい。
でも、それはきっとダメだと思う。
もしその提案に乗ったら、幸せで楽しい毎日が送れるんだろう。笑って泣いて怒られて叱られて。そんな普通の、僕の理想としている毎日が送れるんだろう。
でもその毎日は確実に僕の過去を蝕む。きっとその毎日は、過去の毎日を食いつぶしてしまう。塗りつぶしてしまう。きっと、過去をなかったことにしてしまう。
僕は僕自身がそういうやつだと知っている。だからその提案を受け入れることは出来ない。たとえひどい過去でも、忘れてしまいたい過去でも。僕の一部なんだ。忘れるなんて、なかったことになんてしちゃいけない。
「あ、それとも本当に息子になっちゃう?義理のだけど」
「ちょっとそれお母さんどういう意味!?」
「あら?誰も雪穂の事なんて言ってないけど?」
「この・・・・・!」
親子喧嘩の火ぶたが落とされた瞬間を見届けて、僕はほむらを後にした。
「雪ちゃん。もう行っちゃうの?」
ガラガラと扉を閉めると、練習終わりの穂乃果の姿。走っていたのか、額にはうっすらと汗がにじんでいる。
「うん」
「そっか、またいつでも来てね?昔みたいに用事がなくてもさ」
「そうだね、金欠になった時なんかはお言葉に甘えるとしよう」
「用事がなくてもって言ったじゃん」
「そうだった」
二人でひとしきり笑って、服役していたことなんてきれいさっぱり忘れた。やっぱり穂乃果は凄い。ミューズはすごい。
穂乃果と別れて、希の家へと向かう。前に、一つだけよるところがあった。
いくら前よりお金が必要なくなったとはいえ何もしなくていいほど残念ながら僕の人生は生き易く設定されていない。ある程度の生活保護があるとはいえ、やっぱりバイトは必要だ。
「ということで、働かせてください」
「何がどういうことでなのかさっぱりだが、まあ人手が足らん。猫の手よりは役立てよ」
「はい!」
社長、もとい班長に頭を下げて、相変わらずあっさりしていたけど現場復帰。ということかな。
どうも普通の女の子じゃ満足できない高宮です。
5thライブのブルーレイがついに発売、そして試聴動画も解禁いうことで上がってきた!一万八千円だ!また財布が軽くなるぜ!ひゃっはー!
次回も頑張ります。